シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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沼に沈むは牙、雲に沈むは爪

「ふぅ…………さて、それじゃあビィラックのとこに行くかオルト」

 

「わかりましたビャッコさん」

 

罪悪感を払拭するべくログアウトし、怒っているのか不機嫌なのかよく分からないキョウの御機嫌取りをして割と罪悪感も薄れてきたのでログインした。

雲上流編の雲海地を攻略した理由は先の街に進むのが目的……というよりもそこで取れる素材が目当てだったりする、何せビィラックからこれが良いと指示されたので。鍛治師の意見には従った方がいいと判断して必要な分の素材は全て用意したが……1つ何やら()()()()()()()もあったのでこれも持って行くとしよう。さてそれでは強化用の素材を持っていざや行かんビィラックの元へ!!

 

◇◇◇◇

「…………で、来てみたはいいものの……ビィラックもしかして取り込み中?」

 

「うへ、うへへへへ……」

 

取り込み中って言うか恍惚としてる?

オルトに確認を取ってみれば何でも「水晶巣崖」なるエリアに出現する「水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)」とやらの素材らしい、聞けば一度捕捉されたら最後ねずみ算式でモンスターが増えていくらしい……何だそりゃ、難易度調整の「な」の字もないじゃねぇか。

どうやらサンラクが取ってきたらしく、今やビィラックは何やら光沢を放つ素材に頬擦りしながら両手に黒光りする六角形の鉱石と瑠璃色の光を放つブロックが重なり合ったような奇妙な見た目の鉱石を持っている……正直見た目が死ぬほどシュールなんでもう少し見てみたい気持ちもするが我に帰られてぶん殴られたりするのも困る、ここは正気に戻っていただくしかないか……せーの。

 

「びぃぃぃぃぃらっくさぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!!ちょっと戻ってきてもらっていいですかァァァァァ!!」

 

「ほびゃぁぁぉぁぁぁ!?!?!!」

 

よっし正気に戻ったな。さてじゃあ要件を……

 

「おどりゃ何驚かせとんじゃあ!!!!」

 

「グッヒュッ!!?!」

 

8割削れたぞ!?

 

 

 

「まったく……大声上げんでも聞こえちょるちゅうに……」

 

「でもお前頬擦りしてたじゃん、うへへへへとか言ってたじゃん」

 

「やかましい!!…………んで、武器の強化けぇ?」

 

「おう、頼まれてた素材持ってきたからな。…………それと……()()、どう思う?」

 

「………………こりゃあ、また珍しいモン持ってきおってからに」

 

俺がビィラックに手渡したものというのは()だ。

雲海地で採集中に偶々雲海に沈んでいたものを引っこ抜いた訳だが……どうもただならぬアイテムの予感がしたのでビィラックに渡すことに決めていた。

 

「こりゃあ雲穿(くもうがち)氷爪(ひょうそう)ちゅうてな、大昔に死に絶えたモンスターの素材じゃ」

 

 

・雲穿の氷爪

悠久の過去に姿を消したモンスターの爪。

硬く鋭い程長い時を生きた証であり、強さの証明にもなる。この爪を用いた武器は容易にモンスターの堅牢な身体を裂き、命を裂き、雲をも穿ち裂き切る。

持ち主が生き絶え、肉が腐り、骨以外が消え失せても爪に宿る凍てつく冷気が無くなることはない。

 

「…………つまり超レアな素材だったり?」

 

「オヤジですらこの素材を扱ってるところを見たことはないけぇ、凄まじく貴重じゃ」

 

「これ使って武器とかって……」

 

「作れるな、どんな武器がええ?」

 

「…………沼潜の短刀1本じゃやっぱり厳しくてな、そもそもジョブの関係上俺は二刀流の方が都合がいいし……短刀を頼む」

 

「任せぇ、ついでにこの刀(沼潜の短刀)も強化しとくけぇの」

 

「助かる」

 

うーん、なんかもう暫く時間かかりそうだしまたログアウト……いや、金策の方が良いかな?って、ん?オイカッツォとペンシルゴンからメール?

 

 

 

 

件名:ちょっと聞きたいことが

差出人:カッツォノボリ

宛先:ビャッコ

本文:今どこ?ちょっと早急に合流したい案件があるんだけどさー

 

 

件名:ビャッコ君にも質問

差出人:鉛筆戦士

宛先:ビャッコ

本文:ビャッコ君今どこにいるの? シクセンベルト?ファイヴァル?今晩ちょっと会いたいんだけど大丈夫?

 

「驚いたな……なんて見え見えの罠なんだか」

 

これを読み解けばまぁ、「面倒ごとに巻き込まれました、お前も道連れな?」って書いてある。というかビャッコ君に「も」質問……間違いない、もしかしなくてもサンラクもセットだなこれは。となると案件はラビッツ関連か……?

 

「うーむ、正直言ってお前らの面倒ごとに巻き込まれたくはないんだなこれが」

 

さて、どんな風に返してやるか……「お前らの面倒ごとに巻き込まれたくはないので武者修行に出ます探さないでください」……よし、こんなもんでいいかな。

おっ、オイカッツォとペンシルゴンから返信が来た。ぱっと見はブチギレの鰹1尾とちょっと焦ってそうな鉛筆1本ってとこか。

 

 

件名:マジでふざけんな

差出人:ノボリカッツォ

宛先:ビャッコ

本文:やべー目をした奴らに取り囲まれて延々と「兎を」「サンラク氏もしくはビャッコ氏にアポイントメントを……」って懇願され続ける俺の身にもなってみろよ!サンラクが姿を眩ましてるからお前しかいないの!お前らどっちか生贄にして俺は快適なゲームプレイを取り戻したいの!だから疾く速く居場所を教えやがれください。

 

 

件名:そうもいかないんだよ

差出人:鉛筆戦士

宛先:ビャッコ

本文:流石に「黒狼」の団長様が最大火力ちゃん同伴で直々に交渉持ち込んできたら断れる訳ないじゃん?サンラク君が駄目ならビャッコ君でも良いって言うし諦めてよ、クランリーダーの上司権限いくらでも濫用するからさっさと居場所を吐きなさい。

 

 

うん、見なかったことにしよっか!取り敢えずメールの通知は切っておくとしよう。さてと……ちょっと金策にでも行ってきますか。

 

◇◇◇◇

「あれ、サンラクじゃん。なんか呼ばれてそうだったけどほっといて良かったの?」

 

「お前わかってて聞いてんだろ……というか、お前も呼ばれてるんだろどーせ」

 

「あぁまぁねぇ……めんどくさそうだしブッチした。ビィラックに武器作ってもらっててそれ受け取りに行ってからまた雲隠れかな」

 

「へぇ……あ、じゃあちょっと後で着いてきてくれねぇか?」

 

「お前の誘いとか大体6割の確率で碌でもないじゃん……先に要件だけ聞かせてくれよ」

 

「それはだな…………「その件でサンラクサンにちょっと伝えたいことがあるんですわ」なんだよエム、ル……」

 

金策が終わってそこそこ懐があったまり、ビィラックの工房へ向かっている最中たまたまサンラクとエンカウントした。こいつもあの外道2人から呼び出しを受けてるだろうがまぁ、俺と同じく見なかったことにしたんだろうなぁ……さて、エムルちゃんが遠い目をしながら目をスッと逸らすという中々に器用なことをしつつそっと手で一点を……具体的にはビィラックの工房の方を指し示す。

ん?なんか声が聞こえるな……それもビィラックじゃない声が。

 

「嗚呼っ! 乙女のっ! 僕を踏みしめる足っ! 悪くない……っ! と言うか普通に痛い痛いいたたたたたぁぁぁぁ!?」

 

「頭ぁイカれちょおとは思っとったが、被虐嗜好まで拗らせとったとはのう……この際、こんまま踏み潰すんが世の為じゃけぇのう」

 

「おっほぉ背骨ぇぇぇぇぇぇえ!!」

 

何あれ。いや、何あれ……

何やら長靴を履いた猫がビィラックに踏み潰されている。何を言っているのか分からないと思うけど俺も全く分からない。そもそもあの猫何?誰?

 

「えぇと……サンラク、説明できる?」

 

「あーー……あれは何だったか、「長靴銃士団」の……吹き荒ぶ旋風(ワイルドウィンド)、アラミースだったかな」

 

何でも聞いてみれば例の蠍素材の他にも色々宝石なんかを掘り出したらしくそれを加工する為に猫妖精……ケットシーの国の宝石匠とやらに預けたらしい。その宝石を預けたのが今背骨を踏み潰されているアラミース、と……ん?その話の流れならアラミースもうとっくの昔に帰ってるんじゃねぇの?

 

「宝石を預けて戻ってきたんですわ。なんでも……げほげほ、あー、あー。「成る程っ! 乙女が新たなる境地に至る為の冒険! であればこの僕が力を貸さぬわけにはいくまいっ! 安心したまえ、この「吹き荒ぶ旋風(ワイルドウィンド)」が手を貸すからには如何なる敵をも切り裂いて御覧入れようっっ!!」って」

 

「声真似上手いねエムルちゃん。それはそれとして……うーむ、おーいそこで夫婦(めおと)漫才やってる兎の方。武器どうなってるの?」

 

「おどりゃ誰が夫婦じゃあ!!」

 

「おっふ乙女肋骨ゥゥゥッ!!!」

 

うわエッグ、今黒猫……アラミースの肋骨メキョッて音鳴ったぞ。

 

「まったく……わりゃの武器は出来たけぇ、今持ってくるわ」

 

「頼むわ」

 

「むむっ!乙女の武器を!?この獣人(ビーストマン)は……?」

 

獣人(ビーストマン)?よくわからんが少なくとも種族は人間だから違うな。

 

「いや俺多分人間(ヒューマン)だと思うよ」

 

「確かに獣人に比べて毛深くはないが……本当に人間なのか?それにこの気配は……」

 

「そっちの人間も、そこの鳥の人と同じく天覇の龍王に認められ永劫の墓守を打倒した……()()()()()()じゃ」

 

あっこれやばい。その言葉を耳にした瞬間アラミースの目の色が変わった。次に纏う気配が一気に俺にのしかかって……

 

「…………それは少々、信じ難い」

 

アラミースの手に気付けば細身のレイピアが握られている。

その手がブレた。濃厚な死の気配が俺に向かって迫って来る。

 

――――――――狙いは首だ。

 

咄嗟にそう判断して首を死の気配から全力で遠ざけつつ咄嗟に黒染矛双を展開、抜刀の構えに移る。

大気が一振りのレイピアに押し除けられ()()()、アラミースが硬直し……今。

 

「攻撃してくるのは構わないが……反撃はありだったりするのか?」

 

「…………嘘ではないようで」

 

ニッコリと笑ってレイピアを手から離し両手を上げて降伏の意を示したアラミースを見て黒染矛双を納刀。…………こっっっっわ。今の避けられたの奇跡だったし武器もよく展開出来たと思う。

多分5回同じシチュエーションになったら4回は死んでる、偶々5分の1を引けたと考えればラッキーだったな。

 

「このバカ猫ォ!ワリャ神聖な鍛冶場で何しとるんじゃ!」

 

今の一撃をたった今ビィラックに踏み潰されてるこの黒猫が放った……とんでもない強さだな。

というか今の反応……「最強種」云々よりもどちらかといえば「ヴァッシュの舎弟」の方に反応してたような。まぁ良いか。

 

「全く……ほれ、これが頼まれてた武器じゃ。「沼潜の短刀【改四】」と…………「雲斬氷刀(うんざんひょうとう)」じゃ」

 

「雲斬氷刀……」

 

 

・雲斬氷刀

 遥か昔を生きた雲裂きの獣の爪を芯として打たれた短刀。未だ産声を上げたばかり、故にこそこの()はまだ短いのだ。

攻撃した箇所に「氷結」の状態異常を付与、複数回攻撃することで効果時間や威力が増加する。

 肉を裂き、命を裂き、雲をも斬る。即ち万物をも断つ。

 

………………んん?今何か記憶のどこかを掠めたような気がする。雲を断つ?雲を……駄目だ、あと少しなのに正解に手が届かない。こういう経験は何度かあるがそういう時は大体別のことをやってれば案外あっさりわかったりもする。今は放置でいいだろう。

あ、そういえば。

 

「サンラク、今更だけどさっき話してた着いてきてほしい要件って何?」

 

「あーー、それはだな」

 

ふむふむ、つまりはオイカッツォから預かっているあの「規格外エーテルリアクター」を修復するには神代の知識を識って、「マーリョクウンヨーンユニットー」……もとい「魔力運用ユニット」が必要と。そんな訳でサンラク達は今から去栄(きょえい)残骸遺道(ざんがいいどう)とやらに向かう、と……なるほどね?

 

「それ俺も着いていっていいやつ?ヌルゲーにならない?」

 

「俺が居る時点で今更だろ」

 

「それもそうか」

 

というわけでサンラク主催の「ビィラック古匠育成計画」に飛び入り参加することになった。俺だってあのインベントリアに収められた素敵装備の数々を使ってみたいんだよ…!




割とあっさり流しましたが雲斬氷刀はヤバいです。具体的には「雲」を斬れる点
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