シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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お待たせしました。


嗤う悪鬼の掌の上で、踊り巡るは欲に満ちた獣

二言三言会話を交わしあっさりと引き下がったサイガ-100に代わってAnimalia氏が話しかけてくる。

 

「サンラクさん、それにビャッコさん。まず最初にこちらが貴方達2人に提示する条件を伝えさせてもらうわ。端的に言うと、私達クラン「SF-Zoo」は可能な限り貴方達の要望を()()呑む用意があるわ」

 

「へ、あ、はい」

 

「全部?……具体的には、どの程度でしょうか」

 

会話の主導権が半分ほど向こうに渡った気がする。俺も外面こそ平静を取り繕っているものの内心としてはガッタガタだ、何せ実質的に自分達は何だってやりますよと言っているものなんだから。試合開始のゴングが鳴った瞬間ボディーにブローを叩き込まれた気分がするぜ。

 

「そうね……莫大量のマニー、呪いの解呪、モンスターの生息地や生態、装備や武器の援助……それと、()()()()()()()()()()とか?」

 

「新大陸行きの……」

 

おうおう、そこまでするのか「SF-Zoo」。確か新大陸行きの船への乗船切符は恐ろしく入手難易度が高いと聞いている、もし仮に俺達2人が承諾していた場合どれほど苦労するのか知っていて言ってるのか……?

少し「SF-Zoo」の本気を侮っていたかもしれない、まさかここまでガッツリとした手札揃えて決めにくるとは……

 

「そしてもう分かっているとは思うけれど、私達からの打診はただ一つ……ヴォーパルバニーの国「ラビッツ」を複数回訪れる方法、それを教えて欲しいの」

 

うん、そうだよね知ってた。

 

まぁ個人的な予想としては「喋るヴォーパルバニーに関連するユニークシナリオ」についての開示を求められるかと思ったが……まぁ大した違いは無いだろう。

だがそれに関しては俺やサンラクの一存では絶対にどうにもならないし、そもそもラビッツに居候している身故にラビッツを訪れる開拓者(プレイヤー)絡みのことは一切無縁だからわからない。まぁ、返してもらって話を聞いてみるとするか。

 

「Animaliaさん、その件に関しては俺達だけでは何とも言えないと思います。ですのでオルトとエムルちゃんを1度返していただきたいのですが……宜しいですか?」

 

その数分後非常に名残惜しそうな顔をしたSF-Zooのクランメンバー一同の手によってバケツリレーの要領で運ばれ、こちら側に返還されたオルトとエムルちゃんは……め、目に生気がない、一体何をされたらこんなことになるって言うんだ……?

 

「おーい、大丈夫かオルト。おーい……?」

 

「ヒトって怖いですね……だぶるぴーすって、何ですか……人参構えてって、どういうことですか……エムルお姉ちゃんと一緒に女豹のポーズって……私達は兎です……」

 

思ったよりも重症だなこれは。うーーん、彼方へと打ち出された意識を取り戻すにはこの切り札を切るしかないか。

 

「ラビッツドーナッツ」

 

ぴくっ(僅かにみじろぎする)

 

「スペシャルラビッツケーキ」

 

ぴくぴくっ(耳が動き、みじろぎが大きくなる)

 

「もちろん食べ放題だ、代金も俺が持とう」

 

「……………私が甘いもので釣られると本気で思ってるのですか?」

 

…………ん、あれ?選択肢ミスった?基本キョウはこれで解決なんだが……やはりオルトは違うということなのだろうか。

 

「釣られるに決まってるじゃないですか、ところでいま私、欲しい魔導書が何冊かあるのですが……」

 

「あぁうん、買う買う」

 

うーむ、やはり血縁者か。どう見てもエルク(銭ゲバ兎)の妹でピーツ(ぼったくり兎)の姉だ。ゾンビ共のスクショモデルとして姉と2匹して揉みくちゃにされていたオルトが復活し首元へ素早く乗る。いつもよりも少し乗り方が荒かったところを見るに一刻も早く離れたかったんだろう……いやほんと何されたんだお前。

 

「はぁ…………かわい子ちゃん達……ほんと尊い……あ、お気になさらず」

 

「あぁ……うん……はい」

 

水晶の様なアイテムを構え何やら猛烈な勢いでオルトとエムルちゃんを撮影しまくるAnimalia氏はもうこの際放っておこう、さてそれじゃあ質問と行こうか。

 

「オルト、ちょっと質問があるんだけど」

 

「なんでしょうか?」

 

「ラビッツって確かさ、俺達みたいな開拓者呼んで蛇狩りさせてたよな?」

 

ラビッツを訪れる為のシナリオは()()公に知られている「兎の国ツアー」と、俺やサンラクが発生させたヴォーパル魂がフラグになる「兎の国からの招待」の2つだ。後者について明かすつもりはないが。

 

あれは結構頻繁にプレイヤー……開拓者を招いてはヴォーパルバニーを食べる「兎食の大蛇」を討伐させている。実際のところ俺は「兎の国ツアー」でラビッツの城下町を訪れるプレイヤー達を御殿の窓からとは言えちょくちょく見かけるしな。

サードレマやセカンディルの様な人間の街と殆ど変わらずに商売をしたり騒いだりしているヴォーパルバニーを見たプレイヤーがはしゃいだり、なーにをとち狂ったんだか兎に攻撃を仕掛け次の数秒後には周囲のヴォーパルバニーが何処からか取り出したる致命(ヴォーパル)的な殺意にコーティングされた武器を持って袋叩きにされて死んでいくプレイヤー、最近見た中だと子供のヴォーパルバニーをテイムしようとしていたプレイヤー(モンスターを連れていたところから見るに最近追加された職業、テイマーだと思われる)を母親ヴォーパルバニーがメイスで撲殺しているのが1番ヤバかった。視覚的な意味で。…上から見下ろすことが出来るが故にある種神の視点から見ているだけに中々面白い暇つぶしになっていたりする、そしてそんなことを繰り返していると何となく気づくのだ。「兎の国からの招待」以外で複数回ラビッツを訪れるプレイヤーがいないことに。

 

「じゃあまぁ……エムルちゃん、オルト、直球で聞くけどさ、あの「ツアー」で呼ばれたプレイヤーがもう1度ラビッツを訪れる方法ってあったりする?」

 

「………………何とも言えませんね」

 

「ラビッツのせーじにはアタシ達は関わってないからはっきりとは答えられないんですわ!でも、多分サンラクサンと狐面の人がお願いすれば何とかなるかもしれないですわ!エードワードおにーちゃんはじゅーなんな思考のインテリーなんですわ!」

 

エー(A)ドワード……ビィ(B)ラックの更に上、ヴァッシュを除いたAtoZの中で1番最初のアルファベット……要は長男か。以前聞いた話から察するに現ラビッツ国王に当たるNPC。

 

「んーー……なぁエムル、今からそのエードワードに話を聞きに行くことって可能か?」

 

「是非とも今すぐ迅速に! それでかつじっくりと慎重に丁寧にお話を聞いてくるですわ!」

 

「オルト、お前も行ってこい」

 

「良いんですか!!姉さん私も連れて行ってください!!」

 

「おう……」

 

サンラクと俺がそう言うとエムルちゃんとオルトは言うが早いか一瞬で転移していった。よっぽどしっちゃかめっちゃかにされたのがトラウマになったらしい。

 

さて、これで宜しいかペンシルゴン(黒幕)殿。

さっきから怪しげなゼスチャーしやがって、いやまぁ言えないからそうするしかないってのも理解は出来るが。…………エムルちゃんやオルトが居ると話が進まない、SF-Zooが話を聞かないから……そう言うことだろ?

 

「わざわざ「時間を作れ」的なゼスチャーしてきたんだから、何か言いたいことがあるんだろ?」

 

「ほぼアイコンタクトで理解してくれて助かるよ」

 

「随分ご機嫌だが一体どれだけふっかけたんだ?」

 

「ふふふ、借金の20%」

 

「えげつねぇ……魔王としか呼べねぇよ」

 

どうなってんだこの野郎、あまりにも所業が魔王すぎる。借金の20%、言葉だけで言うと随分軽いものに思えるがこいつの額を知っている身からするとどれだけ莫大な額か想像がつく。まぁ双方が納得いく結果であるならば部外者が口を出すことでもないか。

 

「さて、エムルちゃんとオルトちゃんが戻ってくるまでにクラン「旅狼(ヴォルフガング)」として「黒狼」「ライブラリ」「SF-Zoo」としての皆様方の打診を聞いておこうかな?」

 

ペンシルゴンがそう3人へと問いかけると同時、3つのエンブレムが虚空に表示される。1つは剣を咥えた黒い狼のエンブレム、もう1つは栞が挟まれた本のエンブレム、最後の1つは肉球と羽のエンブレム。

 

 

3つのエンブレムを眺めるペンシルゴンの眼には愉悦と策謀の色、不敵に笑うその口からは相手を騙し、喰らう言の葉が。ペンシルゴンの顔は端的に言えば凄まじく悪い顔であり……「音響地獄」で他プレイヤーに大量の音獣を擦り付け、街にとてつもない被害を齎した時の顔に酷似していた。

 

 

◇◇◇◇

「まぁ、結論から言えばあの3クランは私達のことを()()()()訳よ」

 

あれから暫く、「黒狼」と「ライブラリ」と「SF-Zoo」の面々がそれぞれ帰った後に何と驚き、エイドルトにもご丁寧なことに配置されていたNPCカフェ「蛇の林檎 水晶街支店」に移動した俺達に向かってペンシルゴンはそう言ってきた。

 

「シャンフロにおけるトップクランの連中と、たった4人の弱小クラン……どっちが上かなんて分かりきってるしな、それ込みでの対応って感じはしたが」

 

「クラン「黒狼」は完全にサンラク君の足元を見ていた。まぁウチの愚弟とはまた別方面に拗らせた選民主義の奴が多いから、モモちゃんもそこら辺の調整に苦心してるのは分かるんだけどねぇ」

 

「別にリュカオーンの行動パターンくらいタダでもいいんだけどな」

 

「俺もだ、ある程度はいいと思ってるんだが」

 

「それは違うよサンラク、ビャッコ」

 

その答えはペンシルゴンではなくオイカッツォが返してきた。味覚制限が解除されるカフェという中々稀有な店のケーキを美味そうにパクつきつつ、フォークでこちらを指してくる。行儀が悪りぃなおい。

 

「まぁ俺もプロゲーマーだし言わせてもらうけど、昔ながらのディスプレイ式ならともかく今のフルダイブで相手の動きが分かる、ってのはサンラクとビャッコが思ってるより遥かにデカい意味を持ってるんだよ」

 

――――何せ対戦相手の最新情報が金になるくらいだからねぇ。そうオイカッツォは忌々しげに言った。その様子からするとお前、その辺でなんかあったんだな……?

 

「ストーリー上のボスならまだいい、それは最終的に全てのプレイヤーが関わるものだからね。でもユニークモンスターは違う、値千金なんて言うけどその通りだよ。頑張ればどうとでもなる状態異常解く程度じゃ釣り合わないでしょ」

 

「言われてみれば」

 

「まぁ実際問題今のところ大体どうにかなってるもんなぁ」

 

「そゆこと、次にライブラリ。あそこは他2つと比べたらまだマシだね、トップがあの人だから適正価格を見極めた上で2割引くらいのところを攻めてきてる」

 

考察を目的とするクランだもんな、前人未到やユニークを独占することは考えていないんだろう。言ってしまえば自分達は最前列だろうが最後尾だろうが何でも良い、先に辿り着いた者から話を聴くも良し、自分達が辿り着いたならば先駆者から零れ落ちた情報をかき集め世界観を解き明かす。それこそがあのキョージュ率いるクラン「図書館(ライブラリ)」が行なっていることだ。

 

「とはいえ売る側である私達が値段設定できないのはなんか癪なことに変わりはないわけでぇ」

 

「本1冊で億単位の借金の2割を返済したやつが何言ってるんだよ」

 

「いやサンラク、俺ら全員があれ持ってるからあんまり実感ないけどあの本はこのゲームにおいて4冊しか存在してないんだから割と妥当な値段かもしれないぞ」

 

「そういうことだよビャッコ君」

 

だからってあれ以上の高望みをするのはどうかと思うが。

 

「そして最後にSF-Zooだけど……「俺が思うに、あそこは絶対駄目だ」分かってるじゃんビャッコ君」

 

「正直言って、仮にオルト達がラビッツ再入国云々の話を俺達に持って帰ってきたとしてもあのクランにだけは渡すべきじゃないと思う。オルトやエムルちゃんへの対応見て思ったが……どう考えてもNPCとモンスター(動物)の区別ができていない。あんなやつらがラビッツに入るのは多分、拙い」

 

「まぁ、確かに」

 

もみくちゃにされているオルト達とそれを取り囲んでいるSF-Zooの奴等を見ていて思ったことがある。「あれ、ペットか何かの認識じゃないか?」と。妙に遠慮がないと言うか、馴れ馴れしいのだ。その辺を散歩中に同じく散歩中の犬を連れた人に向かって「撫でて良いですか?」からの遠慮なくワシャワシャしている感が強いというか。

こちらは危害(2人が嫌がること)を加えるな、と言っているのに向こうは危害のことを「傷付ける」という形で認識しているようだった。

 

「あそこは正直言って私もヤバいと思うよ。君ら知らないと思うから言っとくけどさ、あのクランシナリオガン無視でラビッツに居座ってたら強制退国食らってるんだよ」

 

「ギャグが何かで?」

 

「いやまぁまさか時間制限があったとはねぇ。後々のプレイヤー達に情報提供したって意味じゃファインプレーかもしれないけど、そんなSF-Zoo団体様に滞在権を与えたらどうなるかくらい分かってるでしょ?」

 

懸念と疑念が確信に変わった、駄目だそこかしこでスクショ音が響き渡りそこら中で兎が通り魔(SF-Zoo)にモフられている未来しか見えない。

 

「君らが何を隠し持ってるかは知らないけど、少なくともそれが私達以外に渡るようなヘマはしないで欲しいんだよねぇ」

 

「そんなことは無いだろうが断ったら断ったでまた粘着されそうだし、かといって俺達の紹介で訪れるやつらが()()なのは好感度に響くんだよなぁ……」

 

オルト達がまだ帰ってきてないのが救いか、少なくも回答の為の時間は引き伸ばせる。

 

「…………その点からすれば、ペンシルゴンが結んだ「クラン連盟」は凄まじい恩恵があるな、マジで」

 

俺達は現在他クランに対して切れるカードが5枚ある。

1枚目はユニークシナリオEXを攻略し、言及のあった「バハムート」という情報アドバンテージ。

2つ目、例の格納鍵インベントリアとその中に放り込まれた諸々の遺機装(レガシーウェポン)

3つ目、ビィラック……つまり「古匠」という現状唯一の職業の独占。

4つ目、俺とサンラクのラビッツへの訪れ方、そしてケット・シーの存在自体。

5つ目、それら全てを踏まえた上で「次」のユニークシナリオEXへの王手をかけているのは俺達である、ということ。

 

これら全てを匂わせるだけでトップクランはどいつもこいつも涎を流しながら食いついてくるわけだからな。

 

「んふふ、そうでしょー?…………切り札ってのは、その存在を匂わせるだけで力になる。情報で人は殺せる、たった4人だけで私達はこのゲームにおける最高峰のクランに()()()()。結成して1ヶ月も経ってない私達が廃人プレイヤー達の上に立った上で常に先を行く……それって最高に楽しいとは思わない?」

 

「最高に悪い顔してやがる……」

 

「ユナイト・ラウンズの時の鉛筆の顔だ……久々に見たかも」

 

「ユナイト・ラウンズじゃちょっと家畜に厳しくしすぎたからね、今度はもう少し上等な餌で生かさず殺さずを維持しつつ対外的視点のイメージ安定を……」

 

表現方法が家畜な時点でスリーアウトな気がする。

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