シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
1撃当てた方が勝ち、言うは易しだがそれを実際にやろうとするとどれほど難しいのか……今この戦闘を見てもらえればわかりやすいと思う。
「いい加減くたばれやァァァァァ!!!!」
『それは、こっちのセリフです……っ!』
俺が握りしめている手札は2枚、音刃による斬撃と
とはいってもあの鴉の方が遥かに手札も技量も上なのは事実、少なくとも数ヶ月のブランクは何があっても埋めることができない純粋な差となって俺の足枷になっている。
だからこそ、俺はこいつに勝ちたいんだ。上から降り注ぐ羽根の雨を回避しつつ音刃を展開し迎撃……駄目だ、やっぱり意表をつかないと確実に回避されてしまう。ならばお前が俺と今出会うまでに体験したことがないだろう
「空はお前だけのものじゃないってことを証明してやるよ……!!」
『やれるものなら!やってみてください!!!』
スラスター起動、跳躍し空中移動の体勢を整え……っ!
「うぉっ…………!ナイスだハクアレンコォ!!」
すぐ目の前を灰色の何か……灰鴉が通過していったのを俺が認識する前にハクアレンコが素早く回避してくれた、なんていい子なんだ……それにしても灰鴉め、空中移動に移る直前動きが鈍ることに勘づきやがったな?
だがその初撃を回避してしまえばこの空というフィールドに俺たちは立つことを許される……さぁ三次元戦闘の開始だ、ありとあらゆる角度から放たれる刃と一撃必殺の最強の咆哮に存分に怯えながら死んでくれ。
「覚悟はいいな鴉野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
『私は、女です………………っ!!!』
どうでもいいわそんなもん、中身がどうあれ乗り回してるのがあまりにもガチもんすぎて気にする余裕なんて一切ねぇわ。
空を蹴り灰鴉の上空を奪ってから音刃を叩き込む……うっそだろお前どこに目を付けてるんだ、どうやったらそんなギリギリのタイミングで体を縦にして回避出来るんだ。
そのままの勢いで不規則に加速し更に俺の後ろにつけ……あれ、これ不味くね?
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!?!!」
やばいまずい駄目だ死ねる!!!空中を気合で駆け抜けてる都合上ハクアレンコは空中での旋回難易度が洒落にならない位には高い、後方からの射撃は回避出来る気がしない……!!
やむを得ずスラスターを切って墜落姿勢を取る、自由落下に入る直前の無重力状態を利用して鴉と向かい合い俺に襲いかかる羽を音刃で迎撃しつつ地面に着弾する寸前でスラスターを一瞬噴かし着地、全力で駆け抜ける……よし、ちゃんと追っかけてきてるな?
「秘技!空中三角飛びィ!!!」
なお成功回数は控えめに言って10回も満たないです!そもそも今までにやった回数自体ほとんど無いんですけどね!
地面を踏み抜き跳躍、空中で体勢を変えて斜め方向にスラスターを起動しジャンプ……ッ!!
『は、ははっ……!嘘でしょ!?どうして平然と空中で切り返しができるの!?』
「ぐぅ……久々にやるとキッツイなこれ……!」
だが成功したので一切問題なしだ、俺を追いかけて低空飛行に移行していた鴉を飛び越えてハウリングブレット発動、おら喰らえそして死ね。…………何でそんなバレルロールで上空に上がれるんですかねぇ!!?
螺旋を描きながら舞い上がる鴉を追いかけ空を駆け抜け上空へ向かいながら音刃展開、隙を与えるな、息を吐く暇を与えるな、コンマ数秒を迫る判断と展開を叩きつけ続けろ。それが俺の勝機に繋がる……!!
バラバラのタイミングで音刃を振り抜く、まぁわかっていたことではあるが当然回避してくるわな。だが近接戦に移行できる距離までは近づかせてもらうぞ……!
スラスターを蒸かして空気を蹴り抜き空を駆ける、ここで
一気に地面ギリギリまで急降下していく灰鴉を追いかけて全速力で駆け抜け追撃、次の瞬間目の前からフッと灰の大鴉が消えた……消えた!?どこに行きやがった、あれだけの巨体が一瞬で消えるだと?それもあの急降下運動の中どうやって――――
『
「――――――――――――ッ!!!」
声がした、死の気配が一気に迫ってきた。だから咄嗟に音刃を展開して受け止めた。そしてそれが俺達の生死を分けた。
「下手に回避してたら、間違いなく死んでた………っ!」
今のは回避しちゃダメなやつだ。多分感触的に……蹴り、かな?一撃回避してもそのままジリ貧に追い込まれて死んでた、あれはたとえダメージを喰らっても何とか受け止めて相手の起点も潰さないといけないやつだった…………!!
その攻撃をほとんど擦り傷レベルまで押さえ込むことができたのはほとんど奇跡に近かった。多分急降下運動をしていた灰鴉は俺の動きを読んで……
だが今の攻撃を殆どノーダメージで捌けたのはかなりデカい、もう次はこの手は喰らわないし相手は必殺となっていただろう動きを初見対処されたという動揺もあるはずだ。勝ちは確実に俺の方へ近づいてきている。
だからこそ俺は失念していた…………最低最悪の悪足掻きを。
『これでも駄目ですか……』
「はっ……!何だ負け惜しみかぁ!?このままだと俺が勝っちまうぞ……!!」
『えぇ……そうですね。だから
大空に舞い上がる灰色の鴉が、その翼を大きく広げた。
その姿はまるで灰色の太陽のようで……そして、その各部から炎が吹き上がり始める。
眼からは黒いオーラが迸り、全身に紫電が走る。
そして灰色の鴉を駆る女は宣言した、己の悪足掻きの名を。
『――――――――
「GUKOKOKOKOKOKOKOKokKKkKKKKKOOOOO!!」
「おうおうおうおう…………思いの外、マジで追い詰められてたりする?」
『追い詰めてる本人がそれを言うんですか……それはそれとして、
灰の太陽と化した鴉が猛り鳴く。
「ただでは負けない」、そう宣言するかのように。乗り手の意思を十分過ぎるほどに反映したその高らかな宣戦布告を持って俺達の最終ラウンドは始まった。
◇◇◇◇
「は…………っや!!!?」
羽の着弾音が背後から響き渡る、一瞬でも減速すれば弾幕の雨に曝されて俺達は死ぬ。
一瞬の
(いやまぁ1つだけ抵抗手段ないことにはないけど……っさぁ!!)
見越し射撃による正確な頭部への一撃を回避しつつ最後に俺に残された抵抗手段……そう、
正直あれはじゃじゃ馬の一言に尽きる。何せ全行動にノーツ判定がかかるのだ、今までオートマでやってた操作を何から何まで手動でやるとなるとノーツ数とDPNが尋常じゃなくなる。それへの対処に手一杯になってなんてことないことで死ぬのが1番笑えないしお互い萎える……が、今の出し惜しみ状態でも似たり寄ったりの萎え度なんだよなぁあぁぁぁぁやめてその足元へ的確に撃ってくる射撃マジで勘弁して!仮に掠ったら最後機動力が死んで蜂の巣にされちゃう!マジで勘弁してお願いします女神様ァァァァァ!?
「ぶっつけ本番しくじれば死!!秘技見切りジャンプッ!!」
その正体はマジでただの何でもないジャンプだ!ただし相手の攻撃を見切りながら飛んでるから音刃である程度は捌けるぞ!その代償として次の行動が何も決めれてない、マジでどうしよう。
「うぉぉヤケクソの呼吸ぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
『…………!!!』
無理矢理体勢を整え音刃抜刀術、振り抜いた刃を回避することなく灰鴉は受け止め……受け止め?
今まで回避してきたのに?あの鬼機動力の持ち主が?避けなかった??
点と点が結びつき像が浮かび上がってくる、なるほどなるほど……
「割れたぜ攻略法!見えたぜお前の粗!そうと決まれば出し惜しみなしだ、
勝ちの目を逃すほど情けないことはない、じゃじゃ馬だとかのリスクを一切無視して音源解放を切る!さっきまで不思議で不思議で仕方なかった……その連射量の癖してあまりにも俺を正確に狙ってくるのは何故か?と。間違いなく俺のことを照準に捉え続けた上でこの連射力はノーツに置き換えると幾らVRでも人間の処理能力を大幅に超過しているはずなのだ、だと言うのに見越し射撃や足元への射撃が精密すぎる。
ずっと疑問で仕方なかったが……まさかとは思うがその照準合わせ、
そもそも射撃に今全リソースを割いてるからこそのあの超高空からの制圧射撃なんだろう、本来は対集団想定か?いや、集団に対する制圧力はお世辞にも高いとは言えないし……マジでヤケクソでやってるとは思えないんだが。
だがまぁ動かない動けないならこっちのものだ、近づいて一撃咆哮をお見舞いしてやればそれで片がつく。生憎最初は面食らったがこれ以上の地獄や理不尽はそこそこ経験がある、つい最近だとそうだな……超速フレームの即死攻撃とか超広範囲の雲の腕による即死攻撃、分身して投げにかかってきたり最終的に移動強制禁止回避不能対処法がパリィくらいとかいうクソ攻撃を仕掛けてくるロボ武者野郎がいたな。あれに比べたら羽………なんだ楽なもんじゃないか。
「年貢の納め時ってやつだよクソ鴉……!」
『そう簡単に行くと本気で思っているのですか……!?』
思ってるから出し惜しみなしの全力ブッパ敢行してるんだよなぁ!
反転攻勢、被弾覚悟の反転決行!全力でブレーキをかけ減速、後ろ足のスラスターを全開で稼働させて無理矢理に姿勢を変えて跳躍準備に入る……ここっ!!
羽の弾幕が降り注ぐ直前で地面を蹴り抜き跳躍、おっし成功!さぁ覚悟の準備はできたか灰鴉!お前の喉元に牙突き立てて粉々のスクラップにしてやるよ……!
(チャンスは一度きり……2回目からは俺が操作をトチる可能性がある……!)
勿論1回で成功させるつもりではあるし自信も勿論あるのだがいかんせんもしもと言うものがある、そして2回目以降の操作をミスらない自信もあるのだがなんだかんだ
そんなのは極論事後に考えればいい?それはそうだな今は奴に叩き込む一撃だけを考えようか……!!
音刃を展開し未だ降り止まない羽の雨を切り刻んで強引に突破する、噛み砕き踏み越えてなお止まぬ灰色の太陽からの試練を真正面から打ち壊していく。
スラスターをフル稼働して加速しながら空を駆け抜け咆哮で音刃で取りこぼした障害を消し飛ばす――――そうして見えたるは、ゴールの首だ。
さぁ、いざ尋常に死に晒せ。
「寄越せやその首ィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!」
◇◇◇◇
ほんの短い間の戦闘、お互いの言葉を交わした回数も両手に収まる程のものである。
相手が普段どんなことをしているのか、相手がどういった人間なのか……ゲームの中だから、というのも勿論そうではあるのだがそれ以上に2人はお互いのことを知らない。
それでも唯一お互い理解している点は「お前を殺す」という感情のみである。
悪足掻きと呼んでも差し支えない、というか自分でもそう宣言したヤケクソの
地面を悍ましい速度で抉り取る羽の嵐を掻い潜り、あるいは切り刻み、あるいは吼え消し飛ばすことで対処していく白い虎を睨め付けながら容赦なく浴びせる弾幕はなお対処される……無論他にも手はいくらでもあった、しかしそのどれもが対処されると考えた上で「結局面制圧を単体相手にやるのが1番だ」という恐ろしく脳筋的手段に出たわけである、全くもって笑えない。
「――――――――――気づかれた」
不意にハクアレンコが急ブレーキと方向転換を同時にこなすという謎の曲芸を披露したのを認識した瞬間レインは己の今抱えている最大の弱点が気付かれたことを察した。
放つ羽の嵐を刃で、咆哮で、その躯体で、極限まで無駄を削り取った上で手にした機動力を以って凄まじい勢いで接近するハクアレンコに対する回答をレインは、グレイは提示しない。
その喉元に食らいつこうとする瞬間までは。
『ぐ…………ガッ?!』
「羽にばかり意識を取られるからそうなるんですよ……!!」
灰の鴉は、近付く者に容赦無い制裁を下す。
3本の足が今まさに止めを刺さんとしていたハクアレンコの腹に突き刺さる。
そのまま思い切り引き抜こうとした瞬間既にチャージが終了していたのだろうハクアレンコの
お互い満身創痍である、ハクアレンコは腹を思い切り貫かれた上に先ほどの一撃の代償として左前脚の肘から先が欠損し、グレイは3本足のうち左が完全に消しとび残り2つが辛うじて胴体と接続されているだけのガラクタと化した。非人体フィードバックがいくらシャンフロ以下だとしてもレコンドに乗っている間はその挙動や感覚はレコンドのそれになる為現在ハクアレンコに乗るビャッコは左腕の肘先を、グレイに乗るレインは両足を喪失しているような感覚に陥っている。だがしかし戦意が衰えることはない、何があっても距離だけは離さない、無理矢理に空を蹴り抜き接近を試みるハクアレンコとその大翼を大きく羽ばたかせるグレイが激突しお互いを喰い合わんと攻撃の応酬を繰り返す。
『インファイトで俺に勝てるとでも――――――!?』
思っているのか、そう言おうとしたビャッコの駆るハクアレンコの脇腹にグレイの
『クソッタレがァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!』
思い切り横腹を突き刺す右翼の付け根に喰らいつきそのまま噛み千切る、バキッだとかベキッだとかおおよそ機械で構成された存在から聞こえてはいけない音が発せられた次の瞬間レインは左翼をハクアレンコの首に叩きつけ強引にその攻撃を解除した。しようとした。
「がぁぁぁあぁぁぁっ!!!!??」
離れない、噛みついたまま離れようとしない。このまま行けばハクアレンコの首か胴体は確実に両断される、あとはどちらが早いかの問題だけだ。それでもなお右翼に食い千切らんとする執念に戦慄した。だからその執念に敬意を払う為、己の勝利の為その首を落とさんとした時。
「…………え?」
首にかけた左翼が両断された。
元々左翼が繋がっていた部分に伸びるは音の刃、そしてその先には左前足を完全に失ったハクアレンコ。それを認識した瞬間凄まじい速度でレインの頭に答えが浮かび上がった。
(左足の音刃……まさか、
まさかそのレベルか、驚愕した次の瞬間強引に翼を引き抜いたハクアレンコが裂帛の咆哮を上げながら右腕でグレイの頭を掴み地面に着弾、
右脚で完全に押さえつけられたグレイは最早一切の抵抗もできず喰い千切られ、切り刻まれるだけか?否、そんな状況に置かれてもなお己の戦意に忠実に従って一瞬の隙が生まれるのを待ち続け――――果たしてそれは訪れた。
「ここ、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
抗い、勝つ為に。ほんの一瞬生まれた攻撃と攻撃の間の僅かな隙を一切見逃すことなくグレイは、レインは残っていた右翼をハクアレンコの首に向かって叩き込んだ。
その一撃は、喰らってはいけない。もう既に先程の首に叩き込まれた攻撃でハクアレンコは瀕死である、というか逆になぜまだ壊れていないか不思議なレベルで生存している。だがそれもあくまで今の話、次に首に一撃当てられようものなら間違いなく死ぬ――――――ビャッコは、ハクアレンコは、理解していた。だからこそ。
『間違いなく、首狙いだとは思ったよ……!!』
それを完璧に読み切り
口の中では既に
それを見たレインは、最早認めるしかないと悟った。
殺意以外で両者の意見はこの瞬間初めて一致を果たすこととなる、即ち。
――――――――――
振り下ろされた右腕は容赦無く頭蓋を粉砕した。