奇跡を日常に   作:ユイトアクエリア

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キオクトホシボシ -幻想-

ーー星を眺める。

 

隣の少女は、あまり興味がなさそうに眺めている。

だけど、心なしか楽しそうにも見えて。

 

「祥子ちゃん、あの星はなんて言うの?」

「え?」

 

少女が指を指す方向は、夏の大三角の内、90度に一番近い角の星。

 

「あれは...ベガだね。わし座の一部だよ」

「ふーん...星なんて詳しくなっても、どうしようもないよね」

「そうでもない...んじゃないかな、多分。なにかの役には立つよ。世間話ぐらいには...」

 

曖昧に答える私を、彼女は少し見つめてから「そっか」と呟いた。

 

「ねぇ祥子ちゃん。来年も来る?」

 

彼女は上体を起こして私に問う。

 

「うーん...ちょっとわからないかな。たまに来る旅行だから」

 

苦笑いしか返せない。

それでも彼女は「じゃあ来年、会えたらね」と手を握る。

 

「...うん。わかった」

 

ーーそれっきり、私は彼女の住む島には行かなくなった。

 


 

「お疲れ様でしたー!」

 

楽屋に戻って、ギターを立てかけてからメイクを落とす。

 

「疲れた~...ラジオに収録2本ってタイトだよ~」

 

隣に座るデュオ相手、純田(すみだ)まながメイクを取りながらぼやく。

今日のアイドルとしての仕事は、ラジオのゲストが1本に曲の収録を2本。

新曲とデビュー曲をシングルに入れるための新規収録。

ラジオと収録の間に時間はあったものの、ラジオも疲れない訳じゃないし、何なら収録より全然疲れる。

 

「初華ー、後でご飯行こうよー」

「あー...ボクはこの後予定あるから...」

 

何もないけれど。

ビジネスパートナーってやつだから、表じゃ仲良くしておかなきゃいけないけど。

別に裏じゃ仲良くなくたっていい。

付き合いは大切だけど。

 

「そっかー。じゃあまた今度だね。初華は明日もあるんだっけ?」

「あー...明日はないかな」

 

メイクを落とし終わって、ギターをケースに入れる。

 

「じゃあまたね、まなちゃん」

「またね、初華」

 

笑顔で控室を出たけど、出た後は真顔、と言うか疲れ切った顔。

きっとまなちゃんも同じだと思う。

 

「はぁ...」

 

予定なんかないけど、一刻も早く家に帰りたかった。

デビューしたことを条件に一人暮らしを始めた、何もない部屋に。

 

「祥子...」

 

メジャーデビューが決まってすぐに連絡もしたけど、返信はこない。

きっと、学校が忙しいんだと思って、1か月ぐらいは耐えたけど、もうそろそろ限界だ。

 

「ただいま...」

 

誰もいない家に帰ってきて、バッグとギターケースを放り出してベッドに顔を埋める。

 

「こんなところ、祥子には見せられないな」

 

ありとあらゆる祥子の写真を、所狭しと貼ってある部屋。

誰も入れない、ボクだけの部屋。

きっとぞっとするだろうから、誰にも言えない。

 

「...寝よう」

 

明日もきっと、つまらない。

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