奇跡を日常に   作:ユイトアクエリア

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2話目
このペースで行ったら完結しない気がしてきた


ゴラクヲサガシテ -再会-

「...楽しいこと、ないかな」

 

教室の窓際席、頬杖をつきながら外を眺める。

全部色なしに見えて、全部同じに見える。

もっと楽しいことが、したい。

 

でも、今日は。

 

「若葉、ここ分かるか」

「C₂H₆O」

 

エタノールの化学式なんて今後一切使わないのに、なんで答えさせるのか。

なんとなく、この問題を出す教師の頭を覗きたいと思った。

 

「...楽しいだろうな」

 

思わずこぼれてしまう笑みを右袖で隠す。

何笑ってるんだって怒られてしまう。

 

でも今日だけは、許してほしい。

 

「よし、じゃあ今日はここまで。課題は次回迄終わらせておくように」

 

予鈴が鳴って教師が終わりを告げると同時に、私は教室を飛びだした。

出席より、単位より、それよりもっとわくわくして、楽しいこと。

 

「お姉ちゃんに、会えるんだから」

 

学校を飛び出し、出せる限りのスピードで駅前に向かう。

 

「はぁ、はぁ...」

 

集合時間10分前、帰りのHRを受けてもぎりぎり間に合ったけど、私がそうしなかったのは。

 

「睦、早いね」

「...お(・)姉(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)が早めに来るの、私が一番知ってるから」

 

姉である豊(・)川(・)祥子は、集合時間よりも早く来るからだ。

 

「というか、走ってきたの?」

「...待ちきれなかった。授業中もずっとそわそわしてた」

「...睦が成績良いのは知ってるけど、ちゃんと授業は受けないとだめだよ?」

「はーい...」

 

いつぶりだろう。

こうして、何の抵抗もなく姉と話しているのは。

 

「しばらくこっちにいるの?」

「2週間ちょっとぐらい。睦の部屋、借りてもいい?」

「もちろん、お姉ちゃんなら大歓迎だよ」

 

いつぶりだろう。

こんなに心が昂るのは。

 

「今日はパーティだね」

「そんな大げさでもないでしょうに。ただの帰省だよ」

「だからパーティ。帰ってくることそうそうないんだから」

 

いつぶりだろう。

家に帰るのがこんなに待ち遠しいのは。

 

でもきっと。

しばらく感じてない感情が、動いたんだと思う。

 


 

「そういえばお姉ちゃん、バンドはどう?」

「あー...まだメンバーがね。ボーカルは兼任できるけど、さすがにギターは...」

 

妹に問われ、言葉を濁す。

帰ってきたこの家には、「デカいバンドを作る!」って言って出た。

里帰りぐらいならしてもいいだろうって、勝手に思ってる。

 

「ただいまー!お姉ちゃん帰ってきたよ!」

 

豊川の家の敷居をまたぐのに、緊張するのは今日が初めてだった。

 

「た、だいま、帰りましたわ」

 

思わず昔の口調に戻る。

 

「お姉ちゃん、緊張しすぎだよ」

「ですが...」

 

大きい口を叩いて強引に出てきたのだから、緊張するのは当然。

それでいてあまり成功していないとなれば、どんなことを言われるか分かったものではない。

 

「祥子!おかえり!」

「ただいま、ですわ」

 

目はおろか、顔まで見れない。

恥ずかしい。

情けない。

 

「ところで、バンドとやらはどうなってるんだ?」

「...あ、の。それ、は」

 

息が詰まる。

苦しい。

 

「お父さん、とりあえずそれは後ででもいいんじゃない?」

「まぁ、そうか。遠い所からお疲れみたいだからな」

「さ、お姉ちゃん、こっちだよ」

「あ、ありがとうございます...」

 

情けない。

妹に助けてもらってしまった。

 

「さ、入ってお姉ちゃん!」

「お邪魔します...あら?」

「どうしたの?」

「...少し、殺風景すぎませんこと?」

 

この家を出て行くまでの彼女の部屋は、少なくとも煌びやか、そうでなくても彩りはあったはずなのに。

 

「...お姉ちゃんが出て行った時、何も楽しくなくなっちゃって。断捨離しようって始めたら、こんなになっちゃった」

「...ごめんなさい、睦」

「ううん、お姉ちゃんが悪いわけじゃないよ」

 

そう言われたって、この有様は私が招いたものであって、原因は自分にしかない。

 

「...睦、このケースは」

「あ、それ...」

 

気まずさに目を逸らした先で見つけた、埃を被ったケース。

それは昔からずっと彼女が持ってたもの。

中身は知ってる。

 

「睦、まだギターを持ってたのね」

「...もったいなくて」

 

そう言って目を逸らす睦の顔には、見覚えがあった。

昔からの癖だ。

嘘をつくときは左に目を逸らす。

 

「睦、左側には何もありませんわよ?」

「...思い出、残したくて」

 

昔はよく睦のギターでメロディを浮かべて、歌詞を当てはめた。

 

「なら、睦。まだギターは弾けますか?」

「...多分。運指は覚えてる」

「それなら、私に協力してくださらない?」

「きょう、りょく...?もしかして」

「えぇ。私のバンドに!」




アニメが25年1月に決まったので
何とも言えない
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