血の遺志を獲得した。以前までは敵を狩ることでこれを手に入れ、夢でいつも俺のことを待っていた人形の神秘の力によって、身体能力を永続的に強化していた。
これは、血に宿る彼らの記憶をいくばか継承し、その力を自身の転移する秘技。そう勝手に解釈していた。
だがそんな解釈もここでは真実となり得るようだ。あまりにも細かく、小さな断片であるが、今殺した男の記憶が脳内で再生されると同時に、俺の前世の記憶もまた蘇る。
あぁ、特にどうでもいい記憶だ。男が周囲の者らに怒鳴り散らす記憶しか見えなかった。まぁ良い。それよりも転生前の力の方が気になる。
俺の記憶から手元に狩り道具が現像される。ノコギリ鉈だ。その名の通り、ノコギリと鉈が合体した仕掛け武器。全体的に軽くとても扱いやすい。
変形前は短いノコギリとして敵を切り裂き。変形後は長身の鉈となり、大雑把に敵を引き裂く。
刃を並べ、血を削るノコギリは獣狩りの象徴とされた馴染み深い武器だ。
「ひ、ひぃい! こいつ武器もってんぞ! 一体どこからそんなもの……!」
さて、コイツらは獣なのだろうか? まぁ見るからにただの人間だろう。俺の持つ得物に怯えているようだが……話を聞くことくらいはできるはずだ。
「おいそこのお前。ここは一体どこなんだ。済まないがどこかで記憶が飛んでしまってな。死んだこれ以外に話の分かる奴はいないのか?」
「は……? それならあそこに薄らと建物の影があるだろ! 分かったらさっさと消えてくれ! こんな死体の前で働いてたら殺される!」
「分かった」
男が指を指す先には荒れた地と濃霧で視界か非常に悪いが、微かに建物の影が見えた。あの建物にどんな意味があるのか知らないが、先ほど殺した男の記憶と、今の現状を見る限り、言うなれば司令塔とでも言えようか。
特に礼を言うことはない。ここが何処かは結局分からなかったが、除け者扱いされているならこれ以上に話は聞けないだろう。
俺は濃い霧の中を進んだ。道中では何度も疲れ果てた表情をした老若男女の姿が見た。誰もが服装は軽い布のズボンと、一枚の白い生地で作られた服だけという質素なものばかりで、自分の同じ服装をしているとはいえ、彼らが何者で、何をしているかまでは分からなかった。
それから三十分ほど歩いて漸く目的の建物の目の前まで来た。
建物は全て石レンガ造りで、頑丈そうに見えると同時に、まるで周囲の者らを下に見るような。威厳とは少し違う気味の悪さがあった。そして入り口には一つの看板。
文字は全く読めない記号のような並びだったが、啓蒙のおかげか。瞬時に完全理解する。
『鉱山採掘場総合組合』
……組合だったのか。まぁ、詳しいことは中で聞くとしよう。
俺が建物の中に入るとすぐさま筋骨隆々の大男に突き飛ばされた。
「おい……だれの許可で入ってきてやがる。殺されたくなけりゃ早く仕事に戻れ」
だが俺は無視して話を続ける。
「話を聞きたい」
「却下だ。消えろ」
「ならお前でも良い。此処はどこで、お前らは何をしているのだ。鉱山採掘とは言え、非常に非効率的に見えるな?」
「消えろという言葉が聞こえなかったのか? お前らは死ぬまで土掘っていりゃ良いんだよ……。分かったなら早く行け」
どれだけ短気なのだろう。ヤーナムにいた人喰いの獣ですら殺される前までは冷静だったというのに。
「全く言っている意味が分からない。何もない土を掘って何になるというのだ」
「……いちいち五月蝿えなぁ。本当にただの無知なのか。命知らずなのか知らねえが……前者なら教えてやる。テメェらは黙って従ってりゃ良いんだよッ!」
大男は首や拳の骨を鳴らすと、やはり何も答えずまま拳を振り上げて来た。
だが遅い。殺気を剥き出しに斧を振り下ろしてくる街の住人より、遥かに遅い。
俺は後ろへ軽くバックステップで拳を回避し、直後に一歩踏み変形鉈を勢いよく振り上げ、大男の顔面を掠り、右目を裂いた。
「あ゛あ゛ッ!? テメェ、やりやがったな。大人しく殴られていればよかったものを! どりゃあああッ!」
咄嗟に大男は右目を片手で抑えつつ、次は筋肉の塊による全身のタックルを仕掛けて来た。
あぁ、こんな時に銃もあればとふと頭によぎりながら、俺はサイドステップでギリギリタックルを回避し背後に回れば、鉈を大きく振りかぶり叩き付けるように、大男の背中に深い裂傷を与える。
「がああっ!? 畜生……こんなクソ野郎に……!」
その衝撃がとれだけ強かったのか。大男はがくりと膝から体勢を崩す。そこで終わるわけもなく、俺は背中へすぐに近づくと深い傷を抉るように片手を突っ込み、躊躇いも無く内臓若しくは、骨らしきものを掴んで外へぶち撒ける。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
大男はその場で白目を剥き、どすんと砂埃を舞わせながら地に伏した。
手が血みどろに汚れてしまった。この建物には水は通っているだろうかと、建物の方へ向き直したところで、これらの一部始終を見ていたのか。一人の女性がニヤケ面でこちらをみていた。
「とんでもない叫び声が聞こえて何かと思えば……貴方、なかなかやるのね? 来なさい? 入れてあげる。労働所にこんなに強い男がいるなんて初耳だわ。むしろこっちから話を聞きたいわ」
女性はこの場には似合わない、身体のラインを強調させる煌びやかな赤いドレスを着込んでおり、こちらに手招きする。