多くの老若男女が無意味に死ぬまで働かされ、鉱山採掘場の活動資金だけが国から援助されるだけの組合。そこのボスと取り巻き3人を殺した。一人だけ女に逃げられたが、特に深追いする必要はない。別に恨みなど無いのだから。
だが、どうせあの様子では更生したとは決して言い難い。次にあいつが俺の前に現れた時は、遠慮なく死んでもらうとしよう。
さて、この組合の活動についてはこの司令塔に残る資料から読み取った情報だが……これからこの労働所の外へ出たとして、やりたいことが一つも思い浮かばない。
まだこの世界には上位者に似る者や、ヤーナムの獣に近い生物を見ていないから確信は得られないが、現状は平和すぎるのだ。
故になにも思いつかない。あの街にいた頃は常に生死の境を彷徨っていたからか、突然平和な世界に飛ばされても困るだけだ。
だから俺は決める。成り行きに事を進め、自分の判断でこの世界で生きる意味を見出そうと。あぁ、そうか。人生のどん底とは、生きる意味に迷うことだったのだろうか。
遅れて血の意志を獲得する。筋肉男と少年と修道士の3人の分だ。3つ合わせてもやはりそれほどでも無い。大体、濃厚な死血の塊を2つほど補給したぐらいか。
またしても敵の記憶が断片的に流入してくる。筋肉男はボスに忠誠を誓っていたこと、少年はボスに拾われたこと、修道士はボスと協力関係であったこと。
そして、俺の片手に獣狩りの斧が現像する。
これはかつての狩人が獣を弔いの意味で葬っていた時代に、それを好んで残虐さを見出した武器。"敵を殺す"ただそれだけの理由ならば、この刃から放たれる重い一撃で十分すぎるのだ。
さて、まず一つやれることと言えば……残った資料を元に、この“国”とやらに直談判してやろう。なにも、俺は正義感などで動くわけではない。メリットを選ぶならここの労働者を虐殺すれば良いことだ。だがそれで終わってしまう。
この世界で生きる意味を見出すために、出来る限り目の前で起こせる何かを終わらせないようにする。それが今からやる理由だ。
さて、確か方向はここから東だったか。良く目を凝らしてみれば濃霧のその先に微かに小さな門が見えた。あれが出口だろうか。扉はすでに開いているようだ。
歩いて30分程で着いた。道中は皆労働者ばかりか、敵対者は一人もいなかった。だが、門前にはいた。相手は二人。左右に立っている。
「おい、お前労働者だな? 誰の許可を持って此処を出ようとしている」
「許可はない。いや、もう取りようもないか。さっき一人女が出ていかなかったか? そいつから許可を取ったことにしよう」
「はぁ? 何を言っているんだお前は……? もしかしてローズさんのことを……まさか。とても慌てた様子だったか何か知っているのか?」
「本人から聞かなかったのか。俺は知らん」
ローズという女はおそらく逃げた。逃げる前までだいぶ慌てていたからな。悠長に門番と会話するのも難しかったか。
「労働者風情が……聞かれたら正直に答えろ!」
あぁ、本当に知らないのに嘘でも付けと言うのか。それにこの態度。どこまでも此処で働く労働者には慈悲の欠片も無いのだな。ならばこれ以上話す必要もない。始めからこうしておけば良かった。
「話の通じない馬鹿は嫌いだ……」
「は?……ごぇっ!?」
一歩踏み出せば片方の門番の首をノコギリで描き切る。
「うわあああ! ななな何してんだお前エェ!?」
「そっちのお前に恨みはないが、不安だから死んでもらおう」
「ちょ、ま、ごぉあっ!?」
もう片方はどんな人間だったかは知らない。だが、“目の前で人が死んだだけで、此処まで狼狽える"奴が周りに喋らないとは限らない。自分が不利になる状況を作られる可能性が少しでもあるならば、早めに摘み取った方がいい。
さて、これで労働所脱出か。このまま東へ行こう。本当に国とやらがあるか分からないが、当てもなく歩くことには慣れている。
この先は労働所とは打って変わって、緑豊かな広い平原が広がっていた。まさか此処まで環境が変わるとは。どこまで労働所は腐っていたのだろうか。
それから歩くこと1時間。まだ国と呼べるそれらしい影すら見えない。一瞬徒歩で行くのは間違っていたかと頭をよぎったが、何も目的を一つに絞る必要もない。
何かあれば殺す。それだけで更なる血は得られそうだ。
「ガルルルル……」
犬が1匹現れた。目は蕩けておらず、毛並みも良い。全くこの世界が地獄と言ったのは誰だ? 獣すらも健康体で現れるとは。どうやら俺を喰らいたいようだが……地下にいた糞犬には到底届かないな。
「ガアアアッ!」
俺は飛びかかって来た犬に向かって即座に短銃を撃ち、反動で吹き飛んだ犬に向かって変形斧を勢い良く振り下ろして両断する。
うむ。たかが1匹と思ったが、人間よりは半ば良い血を持っている。
犬からも血の遺志を得る。同じように犬の記憶が流入してくるが、直近の人を食った記憶しか流れて来なかった。
さて、道を戻ろう。確か東はあっちだろうか……。と、俺が見た方向には懐かしくも新鮮な記憶を蘇らせるような光景があった。
火炙りキャンプファイヤー直前の光景と言えようか。
木の杭に縛り付けられた半裸の女体と、それを囲む緑の異形の集団が、それを荷車にしてゆっくり押して歩いていた。
かつては狩人が既に丸焦げた状態で見つかり、無惨としか言いようが無かったが……、たとえあの女体が狩人でなくとも、記憶とは違う結果を見れるかもしれない。
俺はただそんな興味本位で、敵を断ち切らんと斧を構えながら近づくことにした。