目の前には凡そ6体の小人と1体の巨体で、杭に縛り付けられた女を警備している。だが数は関係ない。異形ならば殺すだけ。この斧があれば十分だろう。
俺は獣狩りの斧を変形させて両手に持ち替える。初手は突進。勢いよく助走を付けてから、彼らが気がつく直前の位置で足を止め、慣性と遠心力を利用した大回転斬りを繰り出す。
「ギ? ギギャアアアアッ!?」
3体ほど一度に巻き込めた。異形のくせに真っ赤な血を飛び散らせる。
そこに当然真っ先に気がつき臨戦態勢に入るのは1体の巨体だった。
「ウォォォオ!!!」
低い雄叫びが周囲の空気を震わせば、周りの小人の様子が変化する。
「ウギャギヤギャギャ!!」
激昂状態というのだろうか。リーダーの鼓舞によって部下の指揮が上がる。
しかし……戦闘において感情などこれほどまでに無意味なことはない。敵を殺すのに必要なのはそれなりの筋力と技術が物を言うのだから。
緑の醜い姿をする小人達は先ほどより打って変わって瞳の色を赤くするが、俺は構わず変形斧を大きく振りかぶり、また回転斬り。残りの3体を全て巻き込んだ。
「ゲ……? グギャアアアッ!?」
「ヴ……グオオオアアアアッ!」
最後に残るのは巨体。何かが切れたのか。額に青すじを走らせて叫ぶ。ほぼ等身大と言っても良い巨大な棍棒をがむしゃらに振り回す。巨体と言えどかなり動けはするようで、短銃を撃つタイミングが掴み辛い。
だから俺は最後も被弾覚悟の回転斬りで圧倒する。
斧自体が非常に重いからか、自前の筋力を活かした斧の大振りには良くお世話になったものだ。武器の見た目に反するこの重さは、敵の如何なるカウンターを凌駕する。
「ハァ? ブゴオオオオオッ!?」
どっぷりと太った腹の肉を深く断ったが、致命打には届かなかった。それならばこれで最後だ。
俺は勢いに退く巨体に空かず突進。斧の先端にある尖頭器で、さらに腹の傷を抉る。
「ゴッハァアッ……! グウゥオッ」
まだ抵抗するのか。巨体は突き刺された斧の柄をしっかりと両手で引き抜かれないように掴む。
「グッヒッヒッヒ……」
気持ち悪い。豚ような顔が笑みで歪むのは、こんなにも生理的に受け付けない物なのだな。相手は斧を抑えたことで俺の攻撃を止めたと思っているようだが、それは大きな勘違いである。こんなもの利用するまでだ。
俺は斧を一瞬手放すと、片足で柄の尻を踏み付け地面にくっ付ければ、それを一本の道として一気に巨体の頭上へ駆け跳び上がる。
「ハァッ!?」
そして巨体の脳天目掛けて素早く持ち替えたノコギリ鉈の短いノコギリ刃を、全体重掛けて押し付ける。
一度では断つことが出来ない頭蓋だが、ノコギリ刃は頭の皮膚から骨へ減り込み、ちょっとやそっとの力では外れなくなる。
巨体は苦しみもがき、どうにか俺の体を鷲掴むことで引き剥がそうとするが、俺もこのノコギリをそう簡単には手放さない。
巨体が俺のノコギリを無理に引き剥がそうする程、更に刃は深くめり込んで行く。
そろそろ頃合いだろうか。俺は勢いよくもう片方の手を頭蓋の中へ埋め、恐らく脳髄。これを鷲掴んで一気に引き抜いた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァッ!!!」
大量の血と潰れた脳髄が飛沫となって飛び散る。
終わった。異形の血が俺の全身を赤く染める。そこに獣臭さも相まって、喉の奥から酸っぱいものが上がってくるがすぐに飲み込む。
そして大量の血の遺志を獲得する。
緑の小人と巨体の記憶が流入してくる。小人はどこかで多くの女を攫い、巨体は大勢の小人を指揮していた記憶が流れて来た。
そこで一つだけ記憶の流入に一瞬だけ変化が見えた。
如何にも関係なさそうなのに、どこかで見覚えのある女が捕まる瞬間が頭の中で写った。
そう確か……。あぁ、ローズとかいう名前だったか。労働所から逃げてどこへ行ったかのかと思えばまさか異形の辱めに遭っていたとは、つくづく運がない女だ。
さて、それは今はどうでも良い。まずは杭に縛り付けられた女を解放するとしよう。
縛りつける縄を断ち、近くにあった布で女の裸体を隠す。あぁ、こんな人助けは一体いつぶりだろうか。
俺のことをいつでも唯一の友人だと慕っていた男がやっていた慈善活動を思い出す。あの頃の俺はどんな気持ちで人々を教会に誘っていたのか。今や全く思い出せない。
女は気絶しているのか、軽く頬を叩いて目を覚まさせる。
「ん……んぅ……あれ、私は……」
「何があった? 答えろ」
「あ、あ、あ! いやああああっ! もうやめて! お願いします、お願いします……!」
目を覚ました否やパニック状態か。これでは聞ける話も聞けない。落ち着くのを待つとしよう。そこで右手に新たな武器と全身に服が現像する。
仕込み杖。一見はただの老人がつく杖を鋭い刃物として扱えるようにされた武器だが、一度変形すれば杖は鞭のようにしなり、獣の皮を引き裂く狩り道具へ変化する。
しかし武器と言えど武器とは呼べない杖には獣を殺す残虐さは無く、むしろ美しい物だ。
歪な刃によるあからさまな暴力より、獣狩りに様式美を見出すこれに多くの狩人が魅了されていた。
まだこの世界については分からないが、全くヤーナムよりむしろ天国とも呼べるこの場では、十分な偽装になり得るだろう。
そしてさらに全身に狩人の装束が現像する。
多くの狩人が良く来ていた標準的な狩装束。異形に対して高い防御力を発揮し、最初から最期までこれを着ていた者もいる程だ。本来なら夜に紛れて密かに獣を狩る物であったが……今の世界なら普通の服としても扱えよう。
これからやることは女の答え次第だ。無論、メリットが無く大勢の人を助けることはしない。そんなものは“国”に任せれば良い。
もしあのローズとかいう女について聞き出すことができれば、或いは……。