チラシに書かれている地図と見比べながら目的の場所に向かっていた。
「えーっと、福引…あれか」
そこには赤いハッピを着たスタッフが抽選機を取り扱っている。また、テーブルの上には景品と思われる品々が並べられている。
そこには沢山の人だかりがいた。
『あれ、私あの人達に見覚えが…』
士織は一週間前の記憶を探る。戦艦、フラクシナスのスタッフ達の顔がチラホラ見えるのだ。
ぶっちゃけるとサクラだった。
ちょっと引いている士道に対して十香は物欲しそう。
「とりあえず並ぼう」
「む、出来ないのか?」
十香は何やらガラガラと先客が回しているのを見て自分もやりたそうにしている。
士道としては別にここで横入りした所で問題は無かった。真面目な性格からか
「順番は待たないとな、それがここのルールなんだよ」
「むぅ、そうなのか」
彼女は理解はできていないようだが、士道がそう言うならと素直に従って最後尾に並ぶ。
サクラ達が順々に抽選機を回し、十香の順番になる。
「これを回せばいいのだな?」
「そうだよ」
彼女は抽選機の取っ手を握って質問をする。
了解を得て、先程までの先客と同じように回し始める。そして出てきたのは赤色の球。
士道が張り出されている当たり一覧を見ると、赤い球は残念賞だった。
「っと、残念だったな。赤色はポケット−」
「大当たり!」
「ええ?」
士道の言葉を塗りつぶすようにスタッフがベルを鳴らしながらそう言った。
彼はもう一度確認をしようとするが、他のスタッフが一位の金色をマジックで赤色に塗りつぶしている所だった。
「…………」
彼は何も言わなかった。
「一位はなんと!ドリームランド完全無料ペアチケット!」
盛り上がるスタッフたち。
「おおっ!これはなんだシドー!」
彼女はチケットを受け取りながら嬉しそうにしている。
「…ドリームランド?聞いたことの無いテーマパークだな…」
彼の記憶の中に「ドリームランド」というアトラクション総合施設は存在しない。
最近出来たのならもっと話題になって、彼の耳に届いてもいいものだが。
『ドリーム…ランド…?』
士織は何かを察したのか訝しげな感じを出す。
(心当たりあるのか?)
『…いや、あると言うか無いと言うか…』
(どっちだよ)
士道は取りあえずラタトスクの作戦なので乗っかってみる事に。
「行ってみるか?」
「うむ!」
相手は二つ返事でそう答えた。相手が思っていた以上に乗り気なため向かう事にする。
場所は近かった、福引所から数百メートルで周りはビルで囲まれており、とてもテーマパークがあるとは思えない。
「おお!シドー!城があるぞ!まさかあそこに行くのか!?」
何かを見つけた十香が興奮しながらそう言った。
彼はそんなバカなと思う。この辺りにそんな施設など存在しないはずだった。
チラシから視線を外してその城とやらを見る。
「なっ…」
そこには確かに城があった。ただし男女の休憩用の。
それを見て動揺しているのは士道だけではなかった。
『だ、大丈夫だよ…?…私は天井のシミでも眺めてるから…』
士織が何故か気を遣い始める。どうやら彼女は覚悟を決めたようだった。
「と、十香!どうやらうっかり道を間違えてたみたいだ!」
だが士道は覚悟を決めていようはずもない。すぐさま引き返そうとする。
「ぬ?あそこではないのか?」
問題の相手は何処か残念そうにしている。まさかあの建物の持つ意味を知っているはずもないが。
「ああ、そうだ」
「だがあそこも入ってみたいぞ?」
「いやいや今日は止めておこう!」
「むぅ…そうか」
彼は無理矢理道を引き返した。
◎
「つくづくチキンね、我が兄ながら」
「…仕方ない。いきなりあれは酷だろう」
艦長席からモニタリングをしている琴里は溜息を吐きながらそう言った。
令音は返事をしながらもコンソールを操作する。そこには精霊の精神状態が数値化されている。
そこには安定して高い数値が出ており、士道の事を大切な友人程度に感じている。
だからこそ思い切った行動を取らせたのだが、士道にはまだハードルが高かった。
「キスまで行ってくれれば詰みだったんだけどねぇ…」
琴里はそう呟いた。
◎
街並みは先程のラブホ街から普通の商店街に戻っていた。
「…はぁっ…」
士道は少し早めに走った為か息が若干上がっていた。
「気分でも悪いのかシドー?」
一方の十香は全く疲れた様子がなかった。
精霊のフィジカルは常識の物差しで測れるものではない。
「いや、そう言うわけじゃないんだけどな」
「ではどうしたのだ?」
彼はその問いかけに対して空高くに視線を送って呟く。
「…空にいる妹に想いを馳せてた」
五河琴里、あんなに可愛い妹だったのにどうしてああも拗れてしまったのか。
案外、士織が厳しく躾けてきた反動だろうか。
「…そうか」
彼女はその呟きを聞いてしんみりとした雰囲気になる。
今の言い方ではまるで死んでしまったようではないか。
「お願いしまーす」
二人の間に割って入る女性が一人。女はポケットティッシュを差し出してくる。
「どうも」
彼はそれを受け取る。
相手は頭を下げて去っていった。
「シドー、なんだこれは」
十香はポケットティッシュを興味深そうに見ている。
「ああ、これは…ん?」
彼は説明をしようとするのだが、そこでポケットティッシュに書かれているチラシに目がいく。
そこには男女が手を繋いでいるイラストと「幸せなら手を繋ごう」というキャッチフレーズがある。
『やっぱり初デートで手も握ってくれないような人は嫌ですよぉー』
近くの電気屋の展示されているテレビから流れくる番組。
彼はその音が耳に届き、画面を見ると昼間情報番組のようなセットで話しているコメンテーターたちがいた。フラクシナスで見た顔がちらほら見える。
「…………」
『だってさ』
黙り込む士道と何かを伝えてくる士織。
彼が黙っていると不自然に周りにカップルが増え始める。その全てが仲睦まじげで時折「手を繋ぐっていいよね」と不自然なアピールをする始末。
要はそうしろというアピールだ。
彼はポケットティッシュをしまってから話しかける。
「なあ十香…手…でも繋がないか?」
「手を?何故だ?」
彼女はその提案にもっともな返しをする。
手を繋ぐという分かりやすい親愛のシンボルについて疎いためかそんな事を言ってしまう。
『君の事が好きだから』
「…………そうだな、何でだろうな」
士織の入れ知恵を無視して、彼は目を泳がせながらヘタレた事を口にした。
「んっ」
だが彼女は少しだけ考えて自分の左手を差し出した。
「え?」
「どうした?言ったのはそっちだろう?」
そう言われても突然手を出されても困るというものだった。
『仕方ないなぁ…』
「んなっ」
何時までも手を取らない相手に業を煮やしたのか士織が無理矢理手を取った。
突然腕が動き出して手を取った事象に彼は驚いた。ここまで強引にされた事はこれまで一度もなかった。
「ん、悪くない…これも」
十香は一瞬驚いていたが、すぐに表情を笑みに変えてそう言った。
彼の手にかかる圧力が少しだけ高まる。
手に感じる柔らかく少しだけひんやりとした感覚、あの大剣を振り回しているとはとても思えない。
女性というのを感じるとつい彼の頬に赤が入ってしまう。
「うっ」
『むっつり』
前にも聞いたような指摘に黙り込む。これは悲しい性なのだ。
必死に無の境地を心掛けながら手を繋いで目的もなく歩いて行く。
「おおぉ~…」
街中を歩く十香はその全てが新鮮な体験で、目を輝かせながら楽しそうにしていた。
『ふふっ…可愛い』
士織は楽しそうにしている相手を見て微笑ましそうな声色を。
『士道もそう思うでしょ?』
「…まぁな」
彼女は同意を求めたのだが相手は歯切れが悪い。同意はしているが強く賛同はしないと言ったところか。
『男の子の可愛いはちょっと意味が違うか、ごめんごめん』
「くぅ…」
士織はカラカラと笑った。揶揄われているのを感じて士道は唸ってしまう。
男性が女性に対して可愛いはどうしても性愛的な意味として取られがちだ。その意図が無くても。
「どうしたシドー、先ほどから唸ってばかり。どこか悪いのか?」
十香からしたら士道が一人で唸っているようにしか見えないため、心配そうに話しかけてくる。
彼はここで自分が浮いているのを自覚する。
「ああ、いや。悪いとかじゃないんだ。何というか…自分との闘いみたいな?」
「よく分からんが…そうなのか?」
「そうそう、そうなんだ」
誤魔化しにもなっていない言い訳を重ねて相手の不安を払拭しようとする。
「っと、ここ行き止まりか」
彼らの視界には黄色のコーンとバーが道を塞いでおり、看板で工事により行き止まりという注意書きが書かれていた。
「はい?」
元来た道を戻ろうと後ろを振り返ると、そこも看板が置かれており行き止まりになっていた。
『どう見ても誘導されてるね』
士織の指摘を聞いたと同時に右に進む道も封鎖されている。残っているのは左に曲がる道のみだ。
『まさかラブホに誘導されてる…はないか…』
「…………」
彼女の恐ろしすぎる想像に彼は少しだけ震える。もしそうだとしたらと思うと冷や汗が止まらない。
道路を塞いでる作業員に対して目を凝らして見てみるとフラクシナスで見たスタッフに似ている気がする。どうみてもこちらへ進めと告げている。
「取りあえずこっちに向かうか」
相手の手を相変わらず握りながら左へと進む。
◎
オレンジ色の夕日が天宮市一帯を染め上げる。
その絶景を一望することが出来る高台のある公園に男女のカップルはいた。そして問題はそれをモニターしているのはラタトスク岳ではないという事。
「存在一致率九十八・五パーセント。流石に偶然とかで説明できるレベルじゃないか」
ASTの隊長である日下部はそう言った。
五河士道は何の問題もない、問題なのはその隣で歩いている精霊の方だった。
精霊、現れるだけで空間震を起こす厄災であり。個の戦闘力も人類のそれを大きく上回る生きる災害。
「…………」
だが今の日下部にはそれがただの可愛い女の子にしか見えない。
「狙撃許可は?」
その隣にいる折紙が冷静に、具体的に言い換えれば底冷えするような声音で投げかける。
「出てないわね。まだお偉いさんたちも協議中なんでしょ」
「そう」
上司からの返答に彼女はがっかりするわけでもなく頷いた。その内心は誰も計り知れない。
現在精霊がいる場所から半径一キロ以内にASTの隊員が潜んでいる。
折紙と日下部も隠れて精霊を見張っていた。二人がいるのは公園から離れた宅地開発中の台地の一つにいた。
昼間は作業用のトラックや重機がやかましく働いているが、夕方になれば静かなものだった。
数時間前に折紙から報告があって調査した結果、精霊が空間震を起こさずに現れたためてんやわんやなのだ。
問題は空間震の警報を流していないため住人が一人も避難していないため、下手に精霊を刺激してしまえば多くの犠牲者が出てしまうため手を出せないのだ。
「これは好機」
折紙はそう言った。その手に自分の背丈ほどの巨大なライフル銃を持ちながら。
今の精霊は霊装という無敵の防御を兼ね備えている。今の相手はそれをまとっていない、それならば攻撃が通る可能性は十分あった。
「攻撃許可が出るとは思えないけどね」
「出してもらわないと困る」
「現場としてはそうね。だけどやるなら一回きりで決められ無くて精霊が暴れたのと、知らない内に精霊が現れて暴れましたは責任問題の面で意味が違うのよ」
「そんな事で決めてもらっては困る」
「人命よりも自分の地位の方が大切な人なんていくらでもいるのよ」
「…………」
日下部のその愚痴に折紙は少しだけ不服そうな表情を作ったように感じた。
だがそれは相手も同じで、その表情にはくだらないと語っていた。
「ん…?」
ここで彼女のインカムに通信が入る。
「…驚いた。狙撃許可が下りたわ」
折紙に視線を向けて伝えられた内容そのままを伝える。
前に校舎へ攻撃を加える作戦を提示されるなど明らかに上の人間の方針が変わっている。前であれば保守的な方向でお茶を濁していたはずだった。
許可が出た以上は任務をこなすだけ、一番作戦の成功率が高い人間にライフル銃の引き金を任すことになる。
「折紙、あんたが撃ちなさい。今この場にいる面子の中ではあなたが一番適任よ。失敗は許されないわ。一撃で仕留めなさい」
「了解」
何の感慨もわかずにそう言った。