「五河士道。なぜあんなところに」
先ほどまでの敵との戦闘。その最中で会った相手の事を思い出していた。
現在、折紙は陸上自衛隊・天宮駐屯地にいた。
「ちょっとどいて!担架通るよ!」
彼女の右後ろから怒鳴る様な声が響く。
「…くそっ、くそっ!あの女…っ!絶対ぶっ殺してやるっ…!」
乗せられていた男が目を血走らせながらも呻きながらそう言った。
彼女はそれを見て、毒づく元気があるなら大丈夫だろうと結論付ける。特定の相手を除いて他者に興味がない。それが同じ部隊の隊員だとしても。
彼女は少し視線を上にあげて思い出す。人類の敵、精霊との戦いの事を。
「…ッ!」
思い出すだけで口元が歪む、冷静に努めようと思って歪んでしまう。
戦果だけを見れば死人を出すことなく相手を追っ払った。だが彼女は知っている、一定時間が経てば敵はどこかに消えてしまう事を。倒せなかったのだ。
相手の目を見て理解できている。相手からしたら自分たちなど路肩の石のようにしか思われていない事を。
「折紙、ご苦労さん」
彼女は自分をねぎらう声を耳にして気だるげにその方へと首を向けた。
決して相手の事を煩わしいと思っているのではなく、戦闘後の疲労によって体のだるさがまだ抜けないのだ。
顕現装置と呼ばれるイメージをそのまま戦闘力に変換する機械によって強大な敵と戦っている。その力で普通では出せない力や衝撃などを自在に引き出しコントロール出来る。
その代償に休めば元に戻るとはいえ、体の感覚が麻痺してしまい上手く動けなくなる。
彼女に声をかけたのは折紙の所属する隊の隊長にあたる、日下部遼子。
「よく精霊を撃退してくれたわね。ありがとう」
今の折紙にはその労いは嫌味のように聞こえてしまうのだ。
「撃退なんかしていない」
そう、倒したのではなく一定時間までやり過ごしただけ。
相手はそう返されても肩をすくめるだけ。
「上にはそう報告しなきゃいけないの、そうしないと予算が降りないのよ」
彼女自身不甲斐なさというのは感じてはいる。出来るのは時間制限いっぱいまで引きつけて帰ってもらうのを待つ。
だがそれだけでも命懸けなのだ、倒そうだなんて夢物語だ。
折紙はその事実に顔が少し歪む。
「そう怖い顔しないの、これでも褒めてんのよ。エース不在の中でよく頑張ってるわ。あなたがいなかったら死んでた人もいた」
これ以上ない褒め言葉だが、それが彼女を苛立たせるのだ。
倒せない事を当たり前と捉えて周りは変わろうとしない、その事実が許せない。
日下部は折紙の気持ちを理解しながらも説こうとする。
「いい?出来るだけ被害を最小限に抑えて、早く消失させる。それが私たちの役目」
「違う、精霊を倒すのがASTの役目」
―自分たちは精霊を倒す事は出来ない
その事実を噛み締めた上で彼女は伝える。
「そう、個人の主義主張は自由。でも現場で命令に逆らったら部隊から外すから」
「了解」
折紙とて分かってはいる。
目の前の隊長は自分よりも多くの人の命を背負って前線に立っている。
個人の復讐心で行動方針が揺らいでなどいけない。
部隊全員の命を守る責務がある、そしてその中には折紙の命も間違いなく入っている。
◎
―久しぶり。
―やっと会えたね、✕✕✕。
―嬉しいよ。でも、もう少し、もう少し待って。
―もう、絶対離さない。もう、絶対間違わない。だから、
士織はある場所で治療を受けていた。
背中を強く強打していたため薬を塗ってもらったり、患部を氷で冷やしてもらっていたのだ。
「い、いたっ…!」
「我慢してくれ、幸いにも骨に異常はないんだ。儲けものというやつだ」
「婿入り前の大事な体なんだからもっと大切にしなよ…」
軍服を着た女性が湿布を背中に貼る。
彼女が治療を受けているともう一人の意識の覚醒を感じる。
「あ、士道が起きた。じゃあええっと…令音、戻るね」
「ああ、分かった。後は私が説明をするよ」
「うん、お願い」
そう言って士道の体、精神の士織はくたりと体を脱力させる。
そして士道の意識が覚醒する。
「……はっ!」
彼の目の前にあるのは知らない部屋だった。そしてパンツ一丁の自分。
「きゃあああぁぁぁっ!!」
咄嗟に腕で体を庇うようにして隠す。そしてセットで女性のような甲高い悲鳴。
「ダダダだれですか!?」
そして自分のことをじっと見ている女性を見て問いかける。
軍服を着た、目に深いクマをこさえた人だった。あと服の胸ポケットにクマのぬいぐるみが入っていた。
「取り敢えず服を着たまえ」
「俺…変な事とかしてないですよね?」
「変な事とは?」
「いや、えっとですね…」
そう言われても口にするわけにはいかない。初対面の人に下ネタはいけない。
「もう一人の君に聞いてみてはどうだろうか。先程まで彼女と話していたのだが」
「えっ」
そう言われて相手が士織の事を把握している事に驚いた。
基本的に五河士道が二重人格である事は基本的に明かさない方針になっている。
言えば当然だが心配されるからだ、士道は士織の存在を精神的な病とは思いたくない、もう居て当たり前の家族だと思っている。
『その人に治療してもらってたんだ。背中に湿布とか貼ってもらったの』
士織は士道に説明をした。その内容であれば服を脱いでいる理由は説明ができる。
「すみません早とちりして」
「何を早とちりしたんだい?」
「えっと…もう許してください…」
乱心した事を謝罪するのだが相手は追撃の手を緩めない。そしてこの間ずっとパンイチ。
『服を着ようよ』
士織は呆れながらそう言った。
彼が服を着て改めて自己紹介を始める。
「では改めて挨拶をさせてもらうよ…ここで解析官のやっている、村雨令音だ。免許こそ持っていないが簡単な手当てなら出来るよ」
彼の目には自分よりも令音の方が不健康そうに見えた。頭を先ほどからフラフラさせている。
「…ここ?」
彼はここがどこなのか知らない。
医務室なのは分かるのだが、天井には配管が剥き出しになっている。普通の医療施設ではないのは間違いない。
「ここは『フラクシナス』の医務室だ。先ほどの場所から避難する士織君を保護してここに来てもらった」
「士織が…?ってそうだ…」
その説明で自分が事件に巻き込まれていたのを思い出す。
あれが夢ではないのは現在進行形で彼の体を苛む痛みが教えてくれる。
「ちょっと質問いいですか?分からない事が多すぎて…」
目の前の相手は彼が抱いている疑問の答えを知っていると感じた。
「…付いてきたまえ、君に紹介したい人がいる。私は説明下手でね、その人にから詳しい話を聞くといい」
そう言って令音は立ち上がるのだが、立ちくらみを起こしてしまう。
「大丈夫ですか!?」
「むぅ…すまんね。最近少し寝不足気味なんだ」
相手の足取りが覚束ず、彼は心配になって体を支える。
「一体どれくらい…」
「…三十年かな?」
「ケタが違ぇ!」
『そ、そんなに長い間…』
令音の外見年齢は二十代なので明らかに超えている。
士道と士織はしっかりと引いていた。
「すまない、薬の時間だ」
彼女は薬をピルケースを取り出して白い錠剤を取り出して大量に煽った。
「ちょっと待った!」
「なんだい?」
相手はバリバリと白いブツを貪り食っている。
「そんなに飲んで大丈夫なんですか!?」
「これでも効き目が悪くてね…」
「どんな体してるんですか!」
「甘いんだけどね」
「ラムネじゃん」
この短時間で士道はかなり疲れていた。
彼は令音のふらついた足取りを気にしながらも廊下を歩く。
機械的と感じる壁と床だった。例えるなら宇宙戦艦の内部のような装いだった。
実は全部ドッキリですと言われた方が納得できそうになる。怪我をさせたのは許されないが。
「すげー…」
本物かどうかは別として彼は圧倒される。
『士道こういうの好きだよね?四年前くらいにやってた漫画の影響で自由帳にこんな宇宙戦艦に乗るパラレルワールドの自分の妄想を書き込んでたし』
「それ以上言うな…」
士道は古傷を抉られて死にたくなる。
どうしても士織に対してだけは秘密を作れない為、あんな事からそんな事まで全部把握されている。彼女がその秘密を他言することは無いのだが。
士織もまた相手が見たものを強制的に見る事になる為、色々と男の醜い部分を見てしまうのだが。
「もしかして、士織君と話しているのかい?」
「あ、すみません」
側から見ればエア友達と話すおかしな奴だ。
だが令音は少し微笑んでいた。
「仲が良いんだね。普通は気味悪がりそうだと思うんだが」
「士織とは十年以上も一緒にいますし、家族みたいなもんです」
『え、士道そんな風に…めっちゃ照れる…』
士道のキリッとしたそのセリフに対して露骨に士織は照れだす。
廊下の突き当りに到着すると巨大な扉とその傍にある電子パネル。令音はそれを操作するとそれが開く。
「…さ、入りたまえ」
「…っ、こりゃあ…」
扉の中に入った士道の目の前に広がっていたのは、半楕円形が広がる船の艦橋のような空間だった。
左右両面に広がる階段、そしてそこから降りると複雑そうなコンソールを操作するクルーらしき人達がいる。
彼がその景色に圧倒されていると、令音が話始める。
「…連れて来たよ」
「ご苦労様です」
声をかけられた長身の男がそう返事をする。
そして彼は士道に視線を向ける。
「初めまして。私はここに副司令官の神無月恭平と申します。以後お見知りおきを」
「は、はぁ…」
『ちゃんと挨拶は返そうよ』
「よろしくお願いします」
士道は窘められ、改めて軽くお辞儀をして挨拶を返す。
「司令、村雨解析官が戻りました」
神無月はそう言った。
最初に令音が「連れて来た」と言っていたのは神無月に対してだと思っていた。だがそれは彼の勘違いだったのだ。
これまで士道に対して背を向けていた館長席がゆっくりと正面を彼に向ける。
「歓迎するわ。ようこそ『ラタトスク』へ」
その声を彼らが聞き間違えるはずもない。
「…琴里?」
士道は眉をひそめた。
何故が不釣り合いの軍服を着ている。目の前の相手を彼が見間違えるはずもない、格好や口調が違えど間違いなく五河琴里だ。
「何ぼーっとしてんのよ士道。まさか妹の顔を忘れちゃった?だとしたら老人ホームを予約した方が良さそうね」
少なくとも彼の知っている妹は自分の事を下の名前で呼び捨てにしないし、ふんぞり返って偉そうな態度を取らない。
「…………」
俯いて黙ったまま彼は妹の元へと歩いて行く。
彼女は何も発せずに間合いを詰めてくる相手に訝しげな顔を向ける。
「どうしたの?まさか恋しくなっちゃった?あら?なら老人ホームじゃなくて今日からあなたのあだ名はあかちゃ、にぎゃああああっっっ!!!!」
琴里はそれ以上の強い言葉を使うことが出来なかった。何故なら。
「琴里!琴里っ!!心配したんだよっ!!空間震に巻き込まれたんじゃないかって!そんなわけないって分かってるっ!!けど心配だったんだから!!!!」
士道に代わった士織が琴里を力強く抱きしめて頬擦りをしたからだ。
その力は万力のようで今の彼女の力では振りほどけない。当たり前だが心は女でも体はしっかり五河士道、つまり男性である。
「ちょっまっ…!待ってぇ!!」
抱き着かれた相手は目を白黒させる。
こんなにも情熱的なハグを士道の体から受けるとは思っておらず、冷静さを欠いてしまう。士道は当然こんな風に他人に抱き着いたりしない。
「琴里っ…本当に無事でよかったっ…!」
「ううぅっ…」
士織の心配する気持ちは本物だからこそ、彼女は拒否することが出来ないのだ。
その後、五分間に渡って琴里は揉みくちゃにされた。
◎
「じゃあ説明するわね…取り敢えず順を追って話すから…」
「お、おう…」
既にボロボロになった琴里。先ほどまで士織に熱烈な挨拶を受けていたからだ。
士道は色々と聞きたいことはあったが、もうそれどころではなくなっていた。
『は、は、はしたない所をっ…!』
(気持ちは伝わった…ぜ?)
大丈夫だとは分かっていても我を忘れてあんな熱烈なアプローチをしてしまい、彼女は恥ずかしくて引っ込んでしまう。
琴里は説明を始める。
士道が廃墟になった街で会った少女は『精霊』と呼ばれる生命体で、この世界とは別軸の場所から現れる。そしてその際出現した余波によって生まれるのが空間震と呼ばれる現象、それは自分の意志とは別に起きてしまう。
少なくとも精霊は空間震を故意に起こして害する意図は無い。
「悪い、ちょっと壮大すぎて分かんね…」
いきなり情報を叩きつけられて彼は理解が追いつかなかった。
(士織分かったか?)
『うん、大丈夫だよ』
(マジか…)
彼は軽くショックを受ける。
どうして同じ体をシェアしているのに理解度にここまで差があるのか。
「大体なんで外に出ていたの?バカなの死ぬの?」
琴里は気になっていた事を質問した。
どんなに頭が悪い奴でも警報が発令されれば流石に避難する。
「いやだって、これ…」
彼が見せたのは位置情報がファミレスになっている画面。
琴里はそれを見て成程と頷くとともに、自分の浅慮に気がついて苦い顔をする。
彼女は懐から携帯電話を取り出す。彼は当然それを見て驚く。
「それは…」
「ちょうど良いわ、一旦フィルターを切ってちょうだい」
少し薄暗かった館内が突然明るくなる。一帯が青空で染まった。
「な、なっ」
床もまた地面を写す。何千メートル下を写しているのだ。
「騒がないでちょうだい、外の景色をそのまま映しているだけよ。位置的にはちょうどファミレスの真下かしら」
「外の景色…?まさか」
「そう、ここは空中戦艦の中よ」
琴里はまるで自慢のオモチャを友達に見せびらかすかのように胸を張った。
「何でお前がそんなのに…」
「順を追って話すと言ったでしょう。しかし、位置情報サービスでバレるのは盲点だったわ。不可視迷彩と自動回避をかけてたから油断したわ。後で対策しないと…」
士道は一人であれこれ呟いている相手に置き去りにされてしまう。
「な、何だって?」
「ああ、気にしないで士道にそこまでの理解は期待してないから。グラムあたりで言ったら蟹味噌くらいの価値しか無いものね」
「司令。蟹味噌は脳では無く中腸腺です」
「…………」
琴里の罵詈に的確なツッコミを入れたのは神奈月だった。
彼女はちょいちょいと手招きをする。
「?」
彼は疑問符を浮かべながら、腰を折って相手の口元に顔を寄せた。
そして彼女は相手にぶすりと一閃、目潰しをする。
「ぎゃあああっっ!!」
目ん玉を貫かれた神奈月は顔を抑えて悶絶する。
「だっ、大丈夫ですか!?」
流石にシャレにならないと思い、士道は慌てて駆け寄る。
だが相手は肩を震わせてくぐもった笑いを漏らしている。
『ねぇ士道、この人…喜んでない?』
「マジ…?」
士織のドン引きした声を受けて、神奈月の顔を見る。よく見ると口の端がニヤけている。
相手はすぐさま立ち上がり、背筋を伸ばした。
「おっと、驚かせてしまいましたね。我々の業界ではこれがご褒美です!」
我々(神奈月のみ)と主語の大きさを最大にして喜ぶ変態。
「キモチワルイ…」
士織はうっかり士道の口でそう言ってしまった。
『バカっ!本音でも言ったらダメだろ!』
「あっ…」
士道に指摘されて慌てて口を手で塞ぐが言った事は消えない。
その言葉を受けて相手は訝しげな表情になりつつも体をくねらせる。
「私のセンサーが反応をしています…これが噂の士織さんですか?」
「神奈月、もう良いでしょう?早く話を進めたいの、いつまで貴方に貴重な私の時間を割かないといけないの?」
「すみません、司令」
琴里は少し苛立っているのか口調が先程よりも荒めになる。
彼女は「これを見て」とモニターの一つを指さす。そこには武器を装備して空を飛んでいる人たちの写真。士道が街中で目撃した人たち。
「これがAST、精霊専門の部隊ね。顕現装置って兵器を使っているわ」
「専門?何をする人たちなんだよ」
その質問が来るのを察していたのか琴里はつるりとその言葉を発した。
「簡単よ、精霊をぶっ殺すの」
それを聞いて士道は一瞬頭の中が真っ白になってしまった。動機も五段階激しくなったような気がした。
『だっておまえも私を殺しに来たんだろう?』
あの瓦礫の中で少女が言った事が脳裏を駆け巡った。今にも泣きだしそうな表情をしていたのを、まるで先ほどの事のように思い出せる。
「まあ、普通に考えて死んでくれるのが一番でしょうから」
琴里はなんてことはないようにそう言った。
「何でだよ…」
「この世界に現れただけであれだけの破壊を撒き散らすのよ?一般論だと思うわ。害獣がたまたま人に似ているだけというのがASTの考えね」
「それは…ASTが攻撃しているってのもあるだろ」
「そうだけど、ASTが攻撃しなくても相手に害意を持って精霊が攻撃してくるかもしれないじゃない?」
琴里は全ての意見を封殺しようと言葉を被せてくる。
だが士道とてまじかで言葉を交わしたからこそ思う部分もある。
「それはねえよ、好き好んで人を傷つけるやつはあんな顔はしない」
根拠にもなっていない薄弱な理由だったが、彼には確信があった。
「それに空間震は本人の意思とは関係ないんだろ?」
「本人の意思があるかどうかは大した問題じゃないわ。例えば、核爆発を好き勝手に起こせる相手を放置はできない。いつ昔のようなユーラシア大陸レベルの災害が出るか分からないの」
「だからって殺すなんて…」
「殺されかけた相手に随分肩を持つじゃない?…もしかして惚れちゃった?」
琴里は話していくうちに少し挑発的になっていく。大好きなお兄ちゃんが肩を持つのがちょっと気に入らないのか。
「っ、違えよ」
士道がどんどんヒートアップしていくのを見て士織は仲裁に入る事にした。
「まぁまぁ落ち着きなよ。士道はASTが一方的に悪い人みたいに言わない、言い分が理解出来ないわけじゃないでしょう?琴里は大好きなお兄ちゃんが女の子を庇うからって、こんなところで嫉妬しない」
「し、嫉妬じゃない!士織ッ!勘違いしないでよね!」
だが彼女は呼び捨てにされたのが気に入らないのか少し凄んだ。
「ん?士織?」
「し、士織…お姉ちゃん…」
琴里は先ほどの強がりが消えて、ブルブル震えながら大人しく従う。しっかりと躾けられている。
司令である彼女が抑え込まれたのを見て、その場でやり取りを見ていた戦艦のクルーは驚いていた。
例えキャラ変して強がっても、士道相手と違って十年以上かけて作って来た上下関係を逆転できるほど彼女は甘くない。
「はい、よろしい。とにかく二人とも落ち着いて、琴里だって精霊はぶっ殺すべき~って思ってるわけでも、そう伝えたいわけじゃないんでしょ?」
そう言って彼女は引っ込んでいった。
士道は体が戻ってきて、先ほどのやり取りを客観的に見ることが出来た事でやっと頭を冷やせた。
「悪い琴里は。熱くなりすぎた。ただもっと違う方法があると思うんだ。そもそも害意があるかなんて話してみないと分かんないだろ…」
士道はあのまま精霊は死んでしまえばいいと、安易な方向で考えることは出来なかった。
あの時見た相手の表情はまるで昔の自分のようだとそう思ってしまった。思ってしまったからこそ、倒せばそれでいいと結論付けられなかった。
琴里はその一言を待っていたと言わんばかりに話始める。
「そう、なら手伝ってあげる」
「手伝う?」
士道はあんぐりとする。
琴里は周りを見渡す。そこには多数の人員と高性能の設備がある、ならそれは何を目的として集められ組織されているのだろうか。
「いい?精霊への対処方法は二つあるの、一つ目は武力をぶつけて殲滅、そしてもう一つは…精霊に恋をさせるの」
「……はい?」