五河士織は嘘をつかない   作:高町廻ル

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五河琴里は驚愕する

 次の日、あれだけの災害があったというのに日常は当たり前のように続いていた。

 士道は自分にあてがわれた教室の机に腰掛けている。

 

「え?」

「来て」

 

 彼は突然手を掴まれて教室の外に引っ張り出される。

 相手は折紙だった。彼女は有無を言わせずに相手をグイグイ引っ張って行った。

 クラスメイトたちがそれを見て驚いたが、何も言えずに眺めているだけの者も、キャーキャー騒いでいるなどリアクションはさまざま。

 

 正直士道は疲労でしんどかった。

 あの後、色々とレクチャーと説明を追加で受けて帰ったら夜遅かった為、風呂に入って即布団にダイブしたのだ。やっと帰れると思ったらコレである。

 彼は女の子の柔らかな手を握ってしまい、照れる。

 

『ムッツリ』

(うるさいっ)

 

 彼は心のうちを当てられてつい言い返す。

 折紙は屋上に続く扉の前まで相手を連れてくる、耳を澄ませば遠くから話し声が聞こえる距離だが盗み聞きの心配はない。

 彼女は相手の手を離してから話し始める。

 

「どうして昨日はあんなところにいたの?」

「ああ、それは…」

 

 それは士道からしたらやはり来たかという質問だった。

 琴里から『ラタトスク』の事は決して口外するなと釘を押されている。

 彼は妹が爆心地にいるのではと思い立ち入ってしまったと、他人に話せる事実の部分だけを話した。

 折紙は「見つかったの?」と短く問いかける、相手が頷くと「良かった」と返す。

 

「昨日のことは誰にも話さないでほしい」

 

 彼女はそう言ってくる。

 彼が「分かった」と言う前に声が聞こえてくる。

 

『士道、ここは簡単に分かったって言っちゃダメ。どういう事か分からないみたいに返すの』

(どうしてだよ?)

『士道は相手からしたら精霊も顕現装置も知らない一般人だよ?物覚えが良すぎたら逆に怪しいよ』

「成程…」

 

 彼は士織からの指摘にさもありなんと思う。

 アドバイスの通りに話す事にする。

 

「あれ、何なんだ?」

「誰にも口外しないで、昨日見たもの全て忘れた方がいい」

 

 士道の問いかけに対して折紙は一点張りの返事をした。

 秘密組織の一員である彼女はそれ以外の言葉を持たない。精霊など一般人が知っていい情報では無い事は彼にも分かった。

 

「なぁ鳶一、あの子はさ…」

 

 彼は目の前の彼女がどのような思いで精霊と向き合っているのか知りたかった。ラタトスクとは違う目線を持つ人達を。

 折紙は少し悩んでいた。話せば危険に晒す事になる、可能なら一生のうちに知らないまま墓場に入るのが一番だ。

 

「あれは精霊」

「その精霊ってのは悪い奴らなのか…?」

 

 その問いかけに相手は短く答えた。

 

「私の両親は五年前、精霊のせいで死んだ」

「…っ」

 

 士道は絶句してしまう。胸に手をやるといやに鼓動が早い。

 彼女は真っ直ぐな視線でそう言った。

 

「私のような人間をもう増やしたくない」

 

 二人の間に沈黙が生まれる。

 それに先に耐えられなくなったのは士道。

 

「あ、そうだ。聞いて何だけど精霊とか話して良かったのか?」

「問題ない、貴方が話さなければ」

「もし話したら」

「困る」

「…分かった」

 

 相手はその返事を聞いてこくりと頷いて去って行った。

 彼女が去っていくとゴンと頭を壁にぶつけて深く息を吐く。

 

「なぁ士織…俺の考えって甘いのかな?」

 

 彼は最も信頼できる相手に相談する。

 仮に自分が琴里や両親を精霊の手によって奪われたら、話してみないと分からないという考えを持てるだろうかと。

 空間震の被害者に対して面と向かって自分の主義主張を言い張れるのだろうか。

 士織は少し悩むそぶりを見せたが話し始める。

 

『甘い…と思う。多くの人の失笑を買うのは間違いないね』

「そう、だよな…」

 

 彼女は敢えて一般論で話す。

 そのハッキリとした物言いは彼を少しだけ沈ませる。

 

『けど、私は笑わない』

 

 士織はそうハッキリとそう伝えた。

 その一言だけで彼は勇気が湧いてくるようだった。

 

「きゃあああぁぁっ!!」

 

 廊下の方から叫び声が聞こえてくる。

 

「なっ、なんだ…?」

 

 慌てて階段を降りて声のした方へと走っていくと、複数人が集まっていた。

 生徒たちが「どうしよう」「人を呼んだ方が」など慌てているようだった。

 

『あれ…令音さんじゃない?』

「えっ…」

 

 よく見ると身に覚えのある女性が倒れているのだ。

 倒れていた女性は起き上がると士道に視線を向けた。前と変わらないまま目に特大のクマを作っている。

 

「ん?君は…」

「何してるんですか…」

 

 しっかり顔見知りである事に気がつき、わずかながら頭痛が起きる。

間違いなくラタトスク解析官の村雨令音だった。

 

「見てわからないかい?」

 

 彼女は質問に対して質問で答える。

 令音が何故ここにいるのかと言われても分かるはずもない。

 

「不審者にしか見えない…」

「失礼な。教員としてしばらく厄介になる事にしたんだ。ちなみに教科は物理、二年四組の副担任を兼任している」

「いや、そんなの分かるわけないでしょう…」

 

 令音は立ち上がり心配そうにまわりにたむろしている人たちに心配ないと告げて立ち去らせる。

 

「取り敢えずついてきてくれ、昨日の続きだ」

「昨日?あー…」

 

 そう言われて彼は思い出す。昨日の続きを。

 

 

 

「精霊に恋をさせるの」

「……はい?」

 

 士道は困惑した、恋と言われても何を伝えたいのか。恋とは何かの隠語なのだろうかと。

 

「ん、ちょっと待てよ。何でこの組織が俺の事をサポートする流れになってるんだよ?」

 

 琴里の話し方はまるで最初からこの提案をするのが確定していたかのように淀みがなかった。

 誰でもこの話を提案すればいいという話ではないはずだ。

 

「前提が逆なのよ。そもそもラタトスクは士道の為に作られた組織なんだから」

「は、はぁっ!?」

 

 彼は当然驚く。

 琴里は相手をせずに説明を続ける。

 

「士道を交渉役に据えて、精霊問題を解決しようって組織と言ったら伝わるかしら」

「分かるけど分からん!ここにいる人達は俺の為に集まったって事になるだろ」

「士道は特別なのよ」

「説明になってねぇ!」

 

 彼女は大声で言い返す相手にうざったそうな表情を作る。

 

「いいじゃない、士道のやろうとしている事をここにいる全員がサポートしようってのよ?何の策もなく精霊とASTの戦場に乗り込むつもり?今度こそ死ぬわよ」

 

 冷淡な物言いだが事実だった。

 先ほどは運良く士織が逃げたからこそ助かっただけ、次も同じとは限らない。

 

「恋をさせるの意味が分からないだが」

「よく言うじゃない、恋をすると世界が変わるって。士道を好きになってもらって世界の素晴らしさを知ってもらい、破壊活動をやめてもらうのよ」

「いやその理屈はおかしい」

 

 士道は冷や汗を流す。

 話し合いたいとは思ったが、相手の主義主張を知った上での先までは考えていなかった。

 

「士織もなんか言ってやってくれよ」

 

 彼はもう一人の自分に説得をするようにお願いをする。

 彼の顔つきが変わる。

 

「ステキじゃない、愛が世界を救う。実現するならこの上ないと思う」

「よく分かってるじゃない、士織お姉ちゃん」

「何でだよ!?」

 

 思いがけぬ琴里への援護射撃に士道は驚く。

 

 

 

「はぁ…」

 

 士織があんな事を言うものだから士道は逃げられなくなったのだ。

 

「なにかあったのかね?」

「色々と荷が重いなと」

 

 令音は溜息をつく相手を心配そうに見る。

 彼は令音についてくるように言われて黙って後ろを追っていたのだが、いい加減ここに赴任して来た理由を知りたかった。

 

「えっと、村雨令音さん」

「令音で構わんよ」

「はい?」

「…私も君の事を名前で呼ばせてもらおう。信頼から得られる連携もある」

 

 彼女は立ち止まってじっと士道の顔を見る。

 

「ええと、君は…しんたろうだったかな?」

「し、しか合ってない!」

 

 ジョークなのか分かりにくいラインのボケだった。

 

「…さてシン早速だが」

「スルーされた!てか勝手に愛称が決まった!」

 

 令音は再び足を進めながら話しかけていく。

 

「君の強化訓練の準備が整った。このまま物理準備室に向かおう」

「訓練?一体どんなことをするんですか」

「シン、君は女性と交際したことが無いそうじゃないか」

「…………」

 

 目の前の女性に女性歴ゼロである事がバレている、きっと琴里が口を滑らしたに違いない。

 

「別にバカにしているわけじゃない、身持ちが固いのは結構な事じゃないか。だが精霊を口説くとなるとそうも言ってられないんだ」

「それは確かに…」

 

 彼は口説くという単語にちょっと恥ずかしくなる、それくらいチェリーなのだ。

 

『情けない…』

 

 士織がポツリと呟く。それが彼のハートにヒビを入れる。

 歩いていると物理準備室の前に見覚えのあるツインテールを見つける。

 

「あ、おにーちゃん!」

「ぐはっ!」

 

 ツインテールが彼の腹に向かって飛び込んできた。

 五河琴里、士道の妹である。

 

「取りあえず部屋にはいろーよ!」

 

 彼女は相手の懐から離れ、そう言って扉を開けて先に入って行った。

 

「何だこれ…」

 

 士道も令音に続いて部屋の中に入るのだが、そこには異世界が展開されていた。

 いくつものコンピューターディスプレイと彼も名前を知らない謎の機械が所狭しと置かれているのだ。間違いなく物理準備室が持っている設備ではない。

 チラリとこの部屋の新たな主となったであろう令音に士道は視線を送る。

 

「…部屋の備品さ?」

「そんなわけあるかー」

 

 令音はそんな事を言うが、嘘というのがバレバレだった。

 そんなやり取りをする側で琴里はいつも使っている髪を結ぶ白いリボンから、黒いものに取り替えていた。

 そして付け替えが終わると口調を変える。

 

「いつまで突っ立ってるのよ士道、もしかしてカカシ希望なの?貴方の間抜け面じゃあカラスも追い返せないわよ?ああ、あまりの気持ち悪さに人は寄ってこないかもね?」

「…………」

 

 士道は相手の態度に額に手をやって頭痛を堪える仕草をした。

 昨日は敢えてツッコミを入れなかったが、妹のこの他人に対して礼節を欠いた態度は何なのかと。

 

(士織、どう思う?)

『二重人格だと思ってる?だとしたら違うよ』

 

 士織の迷いのない断言する口ぶりに彼は驚いた。

 

(そうなのか?)

『士道が思っているよりあの子は精神的に弱い。あれは瀕死の獣が必死に牙を見せて威嚇してるのと同じ。ああやって強い言葉を使って、自分は強いんだと心を補強しているんじゃないかな』

 

 もし士織の意見が正しいのだとしたら、琴里をそこまで追い立てる理由である精霊とは何なのだろうと思う。

 

『ラタトスクについて詳しくは聞いてないけど…あれだけ多くの大人たちに囲まれて担ぎ上げられてるんだからストレスも相当だと思う。私は今回少し様子を見ようかなって。度を過ぎるようならお灸は据えるから大丈夫』

(うーん…)

『というか士道だって薄々勘付いてるでしょ?琴里のお兄ちゃん何年やってるのって話だよ。流石に琴里の心の内を全く読めないほど鈍感じゃないでしょう?まぁあの態度はそれだけじゃないんだろうけど…』

 

 彼はその言い分を聞いて琴里を再び見つめる。相手のその瞳から何かを読み取ろうとする。

 

「な、何よ…」 

 

 見つめられた彼女は一瞬だが怯んだ。その揺らぎが彼女の本心のような気がした。

 士道はそれ以上は追求しない事にした。

 

「…具体的に訓練って何をするんだ?」

「じゃあ早速調き…ゲフンゲフン、訓練を始めるわよ」

「おい、今調教って言おうとしたろ」

 

 彼はそうツッコミながらも、先ほどまで琴里の瞳の中にあった揺らぎが少し和らいだのを感じた。

 令音はそんなやり取りをしている間にモニターの前の席に座って話しかけてくる。

 

「ではシン、ここにすわりたまえ」

 

 彼女はその隣席をポンポンと叩きながら言った。彼は頷いて指定された席に座る。

 

「…君の真意はどうであれ、私達の作戦に乗る以上は最低限クリアしなければいけない問題がある」

「何ですか?」

「うむ、女性への対応に慣れてもらわなければいけない」

「女性への対応ですか…」

「…ああ」

 

 令音はフラフラしながらとても気だるそうに言った。一瞬でも気を抜いたらそのまま眠ってしまいそうだった。

 

「対象の警戒を解くため、そして好意を持たれるためには会話が不可欠だ。こちらからある程度の指示は出せる、だがやはり本人が緊張していては話にならない」

 

 士道はしれっと女の子と話せないと断定されたのを見て言い返す。

 

「女の子との会話って…さすがにそれくらいは…」

「…………」

『…………』

「…………」

「えっ何、この沈黙は…」

 

 士道の発言に女性陣全てが黙り込む。いつもなら味方である士織ですら擁護しない。

 琴里は士道の頭に手を添えると、それをぎゅっと押して令音のその豊満な谷間に押し付けた。

 

「……ッ!?」

「……ん?」

 

 慌てふためく士道と眠たそうな令音。

 彼の両頬には柔らかずぎる感触と鼻腔を襲う女性特有の香り。

 すぐさま自分が何をしてしまっているのか気がついて、妹の手を強引に振り払って顔を上げる。目の前には令音の顔がある。

 

「な、何をしやがる!」

「はん、ダメダメね。本番ではもっと危険な場所にいるのよ?これくらいで心拍を乱されてちゃね…」

「これは例外すぎるだろ!」

 

 流石にラッキースケベで精霊の胸にダイブすることは無いと信じたい。

 

「あーヤダヤダ、チェリーって可愛いと思ってるのかしら」

「まぁいいじゃないか、女性に慣れさせる為にここに来たのだから」

 

 琴里の暴言を令音は嗜める。

 士道は令音が腕を組んでおり、その上に胸がのっているのを見た。つい唾を呑んで視線を逸らしてしまう。

 

(女性に慣れる訓練…?)

 

 彼の脳内にエロティックな妄想が広がる。

 

『案外告白したら令音さんオーケーくれるかも?』

(ッ、そんなわけないだろ)

 

 士織がそう煽るが、士道は会ったばかりの相手が告白を受け入れるとは思えなかった。そもそも告白する気もない。

 

「とにかくシンにやって貰うのはこれだ」

 

 令音は変わらないトーンのままディスプレイの電源を入れる。

 画面にはカラフルな髪の色をした女の子たちがずらりと並び真ん中に『恋してマイ・リトル・シドー』のロゴが。

 

「これは…」

「…うむ、恋愛趣味レーションゲームというやつだ」

「ギャルゲーかよ」

 

 彼自身その手のゲームをしたことは無いが、彼の持つイメージとモニターに表示されている画面は一致している。

 

『てか士道って琴里からそんな評価だったんだ…ゲームから対人関係やり直せとか…』

「……」

 

 士織の発言に心を抉られながらも士道はゲームを始める。

 スタートすると早速、

 

「おはよう、お兄ちゃん!今日もいい天気だね!」

 

 妹キャラと思わしき女の子が主人公をベッドの上で相手を踏んづけていた。

 

「いやねぇよ!こんなシチュエーション!」

『昨日の朝』

「……」

 

 最近あった思い出が蘇る。琴里が全く同じ事をしていた。

 琴里と令音の二人は突然黙った相手に不審そうにしている。

 

「と、取り敢えず再開だ再開」

 

 テキストを流していくと突然画面の真ん中に文字が浮かんでくる。

 

「これは?」

「選択肢よ。この中から主人公の選択肢を選ぶの、それに寄って好感度が上下するから注意するのよ」

 

 琴里の説明を聞いて成程と頷く。この結果次第でヒロインとのエンディングが変わるのかと。

 彼は視線を選択肢へと向ける。

 

①「おはよう。愛しているよリリコ」愛を込めて妹を抱きしめる。

②「起きたよ。ていうか思わずおっきしちゃったよ」妹をベッドに引きずり込む。

③「かかったな、アホが!」踏んでいる妹の足を取り、アキレス腱固めをかける。

 

「ねぇよ!こんな選択肢は!」

 

 まともな択が一つもなかった。

 

「別にいいけど時間制限付きよ?」

「えっ!」

 

 彼は妹にそう言われて画面の端を確認すると、タイマーが減っているのを見つける。

 慌てて一を選択するとリリコが「キモい」と一言告げて好感度メーターがマイナス五十になる。

 

「リアルだった!」

「いくら妹でもそりゃ気持ち悪いわよ」

 

 琴里はやれやれと溜息を吐きながら画面を操作する。すると見覚えのある高校の昇降口だった。

 そこに一人の男性が写っている。高校の制服を着込んだおっさんの不審者が。

 

「誰だ?」

「士道が選択に失敗したわ、やりなさい」

 

 彼女は士道の疑問に答えずに言う。

 

「それは…」

 

 男が取り出した冊子に見覚えがあるのだ。

 

「そう、若かりし頃。漫画の影響を受けて作ったポエム集『腐食した世界に捧ぐエチュード』よ」

 

 それは彼が中学生の時に生み出した黒歴史だ。

 恥ずかしくなって捨てようとしたのだが、士織が面白いと言って捨てさせてくれなかったのだ。彼女曰く、これも士道がいた証だそうだ。

 

「それをどうするつもりだ!」

 

 押入れの奥底に封印していたそれが目の前にある、彼を揺さぶるには十分過ぎる。

 男はあろう事かそれを一ページ破って丁寧に折りたたんで下駄箱に入れた。

 

「わあっ!!」

「静かにしなさい、もし精霊相手に間違えたら貴方だけじゃなくて、わたしたちにも被害が及ぶのよ?緊張感を持って貰う為にもペナルティを設定したわ」

 

 琴里はそれはとても悪い顔をしていた。

 

「重過ぎるわ!…ったく続きするか…」

 

 士道は最初こそ苛立っていたが、諦めたのか大人しくなってゲームを再開する。

 

「やけに物分かりが良いわね…」

 

 彼女はもっと激しく抵抗をすると思っていたのか、肩透かしを喰らってしまう。

 

「なんだよ、じゃあどうして欲しいんだよ」

 

 ゲームを再開しながら彼は問いかけた。

 親切仕様なのかオートセーブとロード機能が付いており、すぐさま選択をやり直せる。

 

「い、いや、別に何も無いけど…」

 

 もっと動揺させて自分には逆らえないんだぞと上下関係を握ろうと思っていた。だが相手はあまり大きな反応を見せない。

 普通こんな爆弾じみた隠し事を晒されたらもっとリアクションをするべきでは無いのかと。

 何処かこの状況に慣れているような、相手の達観のようなものを彼女は感じた。

 

「まさかっ…!」

 

 彼女はある可能性に思い至った。まさに最悪の可能性に。

 

「士道今すぐ士織に代わりなさい!」

「は?何でだよ?」

 

 士道はこれから先ほどの選択肢に戻って選ぼうとしたのに、それの水を差されてちょっと機嫌が悪そうになる。

 だが琴里からすればそれどころではない。

 

「いいから!」

「まぁいいけどさ…」

 

 彼は頷いて体の力を抜く。するともう一人が現れる。

 

「どうしたの琴里?早くこのゲーム終わらせようよ」

 

 もう一人の五河が現れる。

 そもそも精霊と交渉するのは士道で基本的に士織は黙っている予定だった。

 

「ねえ…士織お姉ちゃん」

「はい、何でしょう?」

 

 琴里は可能な限り落ち着いて喋ろうとしていたが、どこか緊張しているようだった。

 

「確か士道が見たものや聞いたものは士織お姉ちゃんにも共有されるのよね?」

「基本的にはね。昨日みたいに士道が気絶したり寝てる時に、私の意識だけが起きているパターンもあるけど、基本的にはそうだよ」

「つまり士道の黒歴史の数々を見てきたのよね?」

「そうだね…」

 

 ここで士織は初めて言葉に詰まった。

 士道にあまり動揺が見られないのは、常に彼の傍に黒歴史見届け人がいるからか。

 

「それって…お互いのプライバシー的なものはどうやって区分けしていたのかしら…?」

「えっと、士道が中学生に上がるくらいから約束したのよ」

「約束?」

「うん、歳を取って行けば…その、男として異性や他人に見られたくない…その…あ、アレな事とかあるでしょう…?それに士道の男友達とそういう話題になる事もあるし…そういうのは私が見ていても我慢しないでって。無理に我慢すればするほど辛くなるから…」

 

 彼女は士道の顔で頬を真っ赤に染めた。

 だが今の琴里にはそんな表情は些細な事だった。

 

「あ、アレって何ィ!?」

 

 琴里の脳内には幼い事に一緒に士道とお風呂に入った思い出がよみがえる。

 だが成長した彼のアレはあの時のアレとは比べ物にならないだろう。

 

「あ、アレって…それは…アレだよ…」

 

「「…………」」

 

 二人の間に最悪過ぎる沈黙が埋め尽くす。

 そして士織が逃げて地獄に戻って来た士道。気まずいを通り越した何かがあった。

 

「きゃああああああっっっ!!!!」

 

 彼は一拍置いてただ叫んだ。明日から彼のあだ名は「露出狂」だ。

 

 因みにゲームは放置をしている内に時間切れになった結果、隠しルートが見つかりチャプターを乗り越えていた。

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