人には、大なり小なり人生の転機が存在する。考え方が少し変わったり、もしかしたら将来の目標が定まったりするかもしれない。
転機をもたらすものはさまざまだ。好きなアニメだったり、ドラマだったり。有名人の言葉だったり偉人の行動だったり。
私にとっては、兄の遊んでいたゲームのキャラクターだった。
アーマード・コア4より、アンジェ。
彼女は強かった。キャラとしてもそうだったが、なによりその精神が強かったのだ。私にはそれが輝いて見えた、彼女の死に際でさえも。
私はいじめられていた。何かが癪に触ったのか、誰でも良かったのか。弱い私はいじめを受けるしかなかった。だから私は彼女を見習った。
開戦の合図は、いじめっ子どものニヤけ面にたたき込んだ私の蹴りだった。
『過程は関係ない、最後に立っていれば』
私は立っていた。放課後の教室、痛みに呻く雑魚どもを見下しながら、私は立っていたのだ。
楽しかったが物足りなかった。その感情が私の生来のものなのか、あるいは感化されすぎたのかは分からない。興味もない。
私はより強い者と戦うため、力を求めた。
小学5年生、夏休み直前のことである。
(私、は・・・)
気がつけば、私は誰かに抱かれていた。知らない天井、知らない顔、思い通りにならない体。これは、縮んでいる?何があった?
記憶はある。バールを双刀のように扱う覆面の男に負けてから、そうだ、疲れた体で山に登ったんだ。あそこはいい。いい修練場だった。それで、ああ、轢かれたのか。最後に見た強い光、あれはきっとヘッドライトだ。
とすればこれは、転生とやらか。
(フッ、面白い・・・!)
私は、まだ目指せるのだな。彼女を・・・アンジェを!
「この子、泣かないわね。心配だわ」
あ。
・・・なるほど。転生したらそんなこともあるか。
「おぎゃあぁぁぁぁ!おぎゃあぁぁぁぁ!」
私は、尊厳を捨てた。
「・・・弱い」
あれから10年が経った。10年の間に、この世界についていろいろと学んだ。
一つ、文明レベルの低さ。かつて私の生きた日本とは比べるまでもなく、せいぜい中世から少し先といった程度だ。
「・・・ああ、弱い」
二つ、未知のエネルギーである魔力が存在すること。私はこの魔力に恵まれているらしく、出力も並外れているらしい。それはいい。魔力があれば私はネクストになれる。彼女に近づける。
「弱すぎる!!」
三つ、盗賊のようなクズどもをいくら殺しても罪にならない。最高だ。邪魔だった殺人への忌避感も、おかげで排除することができた。
しかし弱い。幼い頃はまだ歯ごたえがあったんだがな。
「これでは試験運用にもならんではないか」
今回の戦闘ではいくつか試したいことがあった。無論ネクストに至るためのものだ。
本来なら放出した時点で霧散する魔力を、出力を極限まで引き上げることで体外での運用を可能にし、プライマルアーマー、ブースター、ブレードなどを再現する。おそらくは、私にしかできない私だけの戦型だ。
とはいえ、これらを展開したのは平常時。戦闘時に同様のパフォーマンスを発揮できるかを試したかったのだがな。
「どこかに手頃な強者はいないものか」
「近頃、盗賊の死体がよく転がってると思ったら、君か」
「何!?」
私が気配に気付けなかっただと?戦闘に集中しすぎたか?いや、この程度で周囲の警戒が綻ぶことはまずない。つまりこいつは、この黒フードの男は、私の魔力探知をかいくぐって来たわけだ。
私の求めていた、強者・・・!
「ねえ君、もしいらないならこの金貨もらってもいい?」
「構わんさ」
金貨に興味はない。それよりも今は、この強者と戦いたい。
「私に勝てたらな!!」
開戦の合図はいつだって私からだ。
魔力ブースターを活かした直線最速の刺突。大概がこれで落ちるが、果たして、死んでくれるなよ。
「っ!速いね!」
「ははっ!初見で避けるか!できるな!」
見立て通りだ、こいつは強い。あるいは私以上に。
「面白い!」
「常識外れの魔力出力で無理矢理剣とブースターを再現、か。君も面白い魔力の使い方をするね」
2度目の突撃。直前で右方へブーストし軸をずらす。そのまますれ違いざまにブレードを振った。
「ブースターを知っている?お前、まさか私と同じ転生者?」
「そういう君も、転生者ってことだよね」
最低限の動きで回避され、カウンターの袈裟斬りに体勢を崩される。
返す刃の側面を蹴り上げ、距離を取った。
「強い。昔を思い出す」
「前世のこと?」
「ああ。負け無しの私に初めて黒星を付けた男がいた。お前の間合いはその男のそれと似ている」
こいつの間合いに入れば負ける。あのときと同じ確信だ。バール故に喰らえばそのまま敗北に直結する。今と違いがあるとすれば、それは二刀か一刀かだけ。
「あのバールは厄介だった」
「・・・ん?」
再度急接近。直前で急停止。反転。左右へのブースト。ブースターにしか再現不可の高速移動を織り交ぜ、掴まれた間合いを有耶無耶にする。
「奴もここに来ているのならリベンジを」
「君もしかして、暴走族に+ドライバー2本持って突撃してったあの子?」
「は?」
思わず体が止まった。明らかな隙だが、それは相手も同じだった。
「・・・お前、バール2本で殴り込みをしていたあの?」
「うんそう、それ、僕」
「そうか、そうか・・・」
それは、それはそれは、最高じゃないか。
「リベンジマッチだ!あの日の続きをするぞ!スタイリッシュ暴漢スレイヤー!」
「ははは、ならば僕も応えよう。だがその名は捨てた。今の僕はスタイリッシュ盗賊スレイヤーだ!」
弾かれたように私と奴は同時に駆け出した。
次の日の朝、ボロボロで帰ってきた私を迎えたのは、美しく笑う母の拳骨だった。
あの日、私はスタイリッシュ盗賊スレイヤーこと、シド・カゲノーと形だけの友人関係を得た。実際は奴が陰の実力者?とやらに成るための協力者なのだが。
敗者に選択の余地無し。私はシドに従うことにしたのだ。無論いつか奴は倒す。今は雌伏の時である。
しばらくして、また盗賊でも狩ろうかと外に出たとき、シドに呼ばれた。仲間を紹介したいらしい。着いて行くと、エルフの少女がいた。同性の私すら見惚れるほど美しかった。
「この人も今日からシャドウガーデンの仲間だよ」
こいつは何を言っている。思わず背後から斬りかかろうとしてしまった。
聞けば、咄嗟に出たでまかせなのだとか。悪魔憑きという病気を患い、ただ腐るだけだったこの少女を回収。紆余曲折を経て治療に成功。そのときに色々とないことないこと言ってしまったらしい。
私を巻き込むなと言いそうになったが、私はまだ敗者だ。勝者の言うことには従わなければ。
「アルファよ」
シドに目をやる。腹が立つほどいい笑顔をしていた。つまりこれは、こいつが名付けたのだろう。
フッ、いいセンスじゃないか。
「・・・ルナ・オルレアだ。ここではアンジェと呼べ」
私は目指した者の名を答えた。乗せられたが、悪い気はしなかった。
それから、シドから
奴はシャドウと名乗っており、シャドウガーデンなる組織を築き、魔人ディアボロスの復活を目論むディアボロス教団に対抗する、らしい。
咄嗟によくもまあそのようなでまかせを。
と、思ったのだが。
ディアボロス教団は、存在していた。その目的まで一致して。肝心の奴は全く信じていないようだが。無理もない。思いつきの組織が実際にありましたなんて信じられるか。偶然がすぎる。
まぁいい、私とアルファが知っていれば組織は回る。奴の組織であるシャドウガーデンに与するのは些か癪だが、まあやるからには本気でやらなければな。そのほうが楽しいだろう。
しかし、さすがに3人で大組織に抗うなど無理がある。戦力の増強は急務か。
「おい、シャドウ。悪魔憑きの治療法を教えろ」
「どうして?」
「アルファと似た境遇の子を集める。育てればいい戦力になるだろう」
おいなんだその目は。なんだかんだ付き合ってくれるなんて優しいな〜、じゃない。やめろ。斬るぞ。
「魔力暴走を抑えればいいんだよ」
「なるほど、そういうことか」
そこまで複雑ではないのだな、悪魔憑きとは。
「シャドウもそうだけど、貴方も器用ね」
「私以外はお前とシャドウしか知らんからな。器用かどうかは判断しかねる」
「盗賊の中には魔剣士崩れもいたと思うのだけど」
「大抵、私に気付く前に殺せるからな」
「加減を知らないのね」
「加減が必要な弱者が悪い」
いや、確かに加減はできんが。これでは器用かどうかは分からんな。
覚えようか、加減。
「じゃあ改めて、これからよろしくね。アンジェ」
「ああ、よろしく頼む。精々、私に狩られんようにしろよ、シャドウ」
人は、目標が具体的であればあるほど伸びやすいというのが私の持論だ。事実、シャドウという明確な超えるべき壁を得てからの私の成長は凄まじかった。手始めに加減を覚え、奴の作り上げたスライムスーツの扱いを習得し、素人同然だった剣の腕も、奴から稀に白星を奪える程度には上達した。
そして・・・。
「イプシロン、この世には努力でどうにかなるものとならないものがある。お前が目指しているそれは、努力ではどうにかならんものだ。だからイプシロン、私の胸を睨むのはやめろ」
齢13歳。私の胸は大きくなった。ベータと並ぶほどだ。
ベータとイプシロンは、アルファが連れてきた悪魔憑きの子たちだ。他にもあと4人いる。
どの子も癖が強い。
この子たちにはアルファと交代で戦闘訓練を施している。今日の私の担当はイプシロンとベータだ。
「よろしくお願いしますね」
なんだその目は。どんな感情が込められているんだ。
この子がベータ。慎重で確実な戦い方が特徴の弓使い。シャドウに対してお熱な少女だ。どうやら私とシャドウの関係を訝しんでいるらしく、何度誤解だと言っても疑いの目を向けてくる。
「今日こそ月光を見せてもらいます」
この子がイプシロン。魔力操作の能力が秀でている大鎌使い。ベータ同様シャドウにお熱だが、この子から疑いはかけられていない。あと、どこがとは言わないが薄い。そのせいでベータ共々嫉妬の対象になっている。胸があるのが、そんなに上等かね。
ああ、そう。月光というのは、私が使っていた魔力ブレードだ。本来はムーンライトと名付けたかったのだが、生憎この世界に英語はない。
さて、訓練とは言ったものの、私は教えるのが苦手だ。故に『見て盗め』が基本のスタンスになる。その点、この2人は優秀だ。日々私の剣から何かを得て、成長し続けている。あと数ヶ月もすれば、勝つのが難しくなるかもしれない。
残念ながら、それでも月光は使ってやれんが。
月光に対するシャドウの評価は、当たれば死ぬかも、らしい。魔力を全て防御に回してようやっと完全に防げる、とも言っていた。
そう、殺傷能力が高すぎて訓練では絶対に使えないのだ。月光の前では、スライムスーツでさえただの布同然になってしまう。
教団狩りには喜んで使うんだがな。スライムは使えるが好みではない。
狩り、狩りか・・・。教団を滅ぼし、陰の実力者になった奴を倒して、その後、私はどうなるのだろうな。
いっそアンジェの様に勇ましく散るのもいい。しかしシャドウを倒すとなるとそれはもうほぼ世界最強が決定してしまうわけで、そうすると私を倒せる者がいなくなってしまう。何より私を倒す相手にもこだわりたい。私より強いは大前提として、私との間に何かしら因縁があるのが最低条件だ。国家解体戦争で最も多くのレイヴンを狩った鴉狩りのアンジェ。彼女を倒す主人公は元は伝説のレイヴンであり、つまりレイヴンが鴉狩りを下すという作中屈指の激アツイベントなのだ。再現するならこちらも激アツにせねば無作法というもの。そもそも彼女はあのとき何を思って戦っていた。伝説のレイヴンと呼ばれた彼にどんな感情を抱いていた。それともただ強者と戦いたかっただけか?ダメだ、私はまだ彼女を知らない。そもそも彼女は─────
─────そして私は言うのだ、『誇ってくれ、それが手向けだ』と。完璧だ、素晴らしい!実現がほぼ不可能という点を除けばだが。
嘆かわしいが、この世界の戦闘力の水準が低すぎる。
ん?
「なんだもうへばったか」
「ハァ、ハァ、もう、って・・・!」
「かれこれ、3時間、やって、ますよ・・・!」
「そんなにか」
ふむ、物思いに耽りすぎたか。
「よし、ひとまず休憩。10分」
「「10分!?」」
「10分後に再開だ。今度はへばるなよ」
「「勘弁してください!?」」
この後、ハードすぎるとアルファに叱られた。
解せぬ。
アンジェ(ルナ・オルレア)
オルレア家の長女。青みがかった白髪が特徴。とこがとは言わないが大きい。大きい(重要)
本来のアンジェに感化されすぎて戦闘狂みたいになった。魔力出力によるゴリ押しでネクストの性能を再現しており、最高速度と平均的な破壊能力はシャドウを凌ぐと言われている。
ロールプレイングを極めすぎて敬語が使えなくなった。