空を駆るネクストになりたくて!   作:うろ底のトースター

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誤字報告ありがとうございます。




違う、断じて違う

昼間、珍しくアルファが家を訪れた。シドの姉が教団に攫われたらしい。

 

「なんのために?」

 

「血よ」

 

「英雄の子と思ったわけだ」

 

「そうなるわね」

 

あんなブラコン暴力女が英雄の血統?まさかな。

 

思い出すのは、奴の口から出てくる暴行の数々。本当に血の繋がった家族かと怪しんだほどだが、ベータやアルファの話では、これまた異常な愛情を持ち合わせているらしい。

 

ドSでブラコン。救いようがなくないか?

 

いや、しかし教団が目を付けたとなれば悪魔憑きの可能性が・・・。後でシドに聞いてみるか。

 

「場所は?」

 

「判明してるわ。シャドウが見つけた」

 

絶対適当だ。

 

「しかし、あのクレア・カゲノーが捕えられるか。相当の腕利きが居そうだな」

 

「幹部クラスが確認されている。人質の安全も考えれば、総力で当たるのが確実よ」

 

「だから私を呼んだのか。了解した」

 

「決行は夜よ。頼むわね」

 

そう言うと、アルファは姿を消した。

 

「さて、楽しめるといいが」

 

月光は、久しぶりに使えるかな。

 

 

 

夜。影の時間。敵の隠し拠点にて。

 

シャドウガーデンの他のメンバーと共にアルファに率いられ、作戦開始を待っていた。情報によれば、拠点内にいる敵は騎士団に潜り込んだ教団員が大半を占めているらしく、件の幹部のみならず個々の戦力も侮れないとのこと。

 

「教団共め、騎士団気取りも今日までだな」

 

人質がいる以上時間をかけることはできない。そこで、シャドウガーデン総力で一気に襲撃し、人質に危害を加える間もなく殲滅するという作戦になっている。

 

「で、シャドウはどこだ?」

 

「単独行動よ」

 

本当に話を聞かん奴だな。帰ったら1発殴ってやろう。喜べ、月光付きだ。

 

何より厄介なのは、奴の行動が全ていいように解釈されることだ。これも彼女達のシャドウへの狂信とも言える信頼の賜物なのだが。

 

深読みが過ぎる、修正が必要だ。

 

まぁいい。いや良くないがまぁいい。

 

「さて、いけるな?お前たち」

 

「ええ、そのつもりよ」

 

「フン、それはよかった──じゃ、いこうか」

 

「ええ、作戦開始よ」

 

 

 

「で、感想は?」

 

「つまらん」

 

騎士ってもっと強いものじゃないのか。こんな盗賊に毛が生えた程度でも騎士になれるのか。つくづくレベルの低い世界だ。

 

「最後の奴は多少面白そうだったんだがな」

 

周りがそうなら幹部クラスもたかが知れているな、と思ったのだが、何やら赤い錠剤を食らってから様子が激変した。

 

肉体が強化され、魔力量も増大した。私が楽しめるくらいの存在にはなったんだがな。

 

「まさか逃げ出すとはね」

 

「というか、追わんのか?」

 

「不要よ、下には彼がいる」

 

「・・・ああ」

 

またか貴様。

 

「ということは、これで終わりか。なんと呆気もない」

 

期待が大きかっただけに余計に残念だ。月光も出る幕がなかったしな。

 

やはりシャドウ殴るしかないか。月光付きで。

 

 


 

 

クレア・カゲノー誘拐事件からまた2年の月日が過ぎた。あの後しっかり奴に殴りかかり、山一つ消し飛ばしたところで負けた。悔しいが、楽しかったので良しとする。

 

閑話休題。

 

今年でシドも私も15歳。晴れて魔剣士学園に通えることとなる。

 

魔剣士学園・・・期待は、しないでおこう。所詮は学生。そこまでの強者はいないだろう。精々かのアイリス王女の妹様くらいか。戦闘までいかなくともいずれ剣を交えることくらいはあるだろう。数少ない楽しみの一つに数えておこう。

 

シャドウガーデンだが、現在も発展は続いていて、私含め9人しかいなかった構成員が今では600を超えている。たった2年で600、悪魔憑きがどれだけ多いかが理解させられた。

 

無論それを見つけ出す七陰の面々も凄まじい。

 

七陰というのは、シドと私を除いたシャドウガーデン最初期メンバーを指す。要はアルファ達だ。

 

シャドウの元を発ち、世界へ散っていった彼女たちだが、たまに交代で私とシドに報告に来る。今日私の元を訪れたのはガンマだった。

 

ガンマは経営の天才。陰の英智と言って奴が授けた前世の知識を元に商会を立ち上げ、着実にその規模を広げている。最も奴はそれを知らんのだが。

 

「お久しぶりです。アンジェ様」

 

「様はいらん。むず痒い」

 

そんなガンマは、一つとてつもない弱点を抱えている。

 

「そうはいきません。アンジェ様は我々シャドウガーデンのぷぎゃっ!」

 

そう、運動神経が絶望的に終わっている。それこそ何もない所で転ぶほどだ。

 

「大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です・・・」

 

「鼻血が出ているぞ、全く」

 

いくら転んでもハイヒールを履くのをやめないのは、経営者としてのプライドなのだろうか。

 

「それで、本来なら今日はイプシロンが来るはずだっただろう。なぜお前が?」

 

「ええ、それなんですが、アンジェ様に急務がございまして」

 

「私に急務?」

 

シャドウやアルファならまだしも私にとは。こんなことは一度もなかったが、果たしてどんな任務が伝えられるんだ。

 

「もうすぐアンジェ様は魔剣士学園に御入学されます」

 

「そうだな」

 

「それまでに2つ、習得していただきたいことがあります」

 

「何だ」

 

「敬語とメイクです」

 

・・・ん?

 

「敬語とメイク」

 

「はい、敬語とメイクです」

 

ガンマが言うには、シャドウが王都へ行く以上シャドウガーデンも王都で活動することが多くなり、結果世に『シャドウガーデンのアンジェ』が知れる。そこで少しでもアンジェ=ルナ・オルレアと思われないようにしなければならない。

 

「人は言葉遣いとメイクと髪型で大きく印象が変わります」

 

要はクソデカイメチェン、というわけだ。

 

「髪型は結われたその髪を下ろす程度でいいと思うのですが、言葉遣いとメイクはそれなりの努力が必要です」

 

「だから、経営者としてそこら辺に詳しいガンマが来たわけだな」

 

「ええ、その通りです」

 

面倒だが理にかなっている。やるしかないか。

 

「では、よろしく頼むよ」

 

「はい、1週間で完璧に仕上げてみせましょう」

 

 

 

1週間後。学園に向けて家を発つ、前日。

 

「どう、でしょうか・・・」

 

「素晴らしいですアンジェ様!」

 

言葉遣いとメイクと髪型で大きく印象が変わる。なるほど確かにその通りだと思った。今までの私の面は、それこそ手練の女剣士のようだった。というかそう見えるように努めていた。

 

それが今はどうだ。

 

油断のない鋭い目は優しげに変わり、雑に結われていた髪は絹のように滑らかに、肩まで垂らされた。何より化粧、生気を感じさせないほど白い肌は、健康的な赤みを孕んで温かい印象を感じさせる。

 

極めつけの、お嬢様言葉(敬語)

 

「入学までに間に合って良かったです」

 

「ええ、最初はどうなるかと思いましたが、こうまでお美しく・・・」

 

感極まるといったように口元を抑えるガンマ。いや、そこまでか?確かに女を捨ててはいたが。

 

「これでシャドウ様にも喜んでいただけますね!」

 

「待て、なぜ奴が喜ぶ」

 

思わず素になった。

 

「え?」

 

「え?」

 

まさか、まさかガンマお前もなのか?

 

「だって、シャドウ様と恋仲、なのでしょう?」

 

「違う、断じて違う」

 

なんでだ、なんなんだその噂。どっから生えて出てきた。

 

「でも、ベータが・・・」

 

またか、またお前なのかベータ。私しっかりと訂正したよな?私はシャドウに恋愛感情を抱いてないと言ったよな?なんでまだ勘違いしたまんまなんだ。

 

「その噂、組織内でどこまで広がっている?」

 

「七陰のみです」

 

「ならいい。後で誤解を解きに行く」

 

「分かりました。でも、その〜・・・」

 

「どうした」

 

「お似合い、だと思います、よ?お二人」

 

私は膝から崩れ落ちた。

 

 


 

 

「やあ、入学式お疲れ様」

 

「貫いてやろうかお前」

 

「怖いなぁ月光しまってよ」

 

実は、魔剣士学園に入ってからの楽しみはもう一つあった。即ちこいつとの手合わせだ。こいつの魔力量と剣の腕なら特待生なれるだろうからな、本気でなくとも楽しめる程度に打ち合えるだろうと思っていた。

 

それをこいつは・・・!

 

「だってモブが特待生になるわけにはいかないじゃん?」

 

「何がモブだ!強さを隠し雑魚を演じて何の得がある!?」

 

「普段目立たないモブが、裏では陰の実力者・・・どう!かっこよくない!?」

 

「バカが!!」

 

「荒れてるなぁ」

 

それだけではない。今この現状も、私の憤りを加速させている。こいつのよく分からん美学曰く、「特待生の女の子と夜に会うなんてモブじゃない!」ということでバレないように奴の部屋に呼ばれたのだ。

 

そう、七陰から見ればまるで密会である。前々からこんなことが何度もあったが、噂の発生源はもしやここか?

 

手間をかけさせることになるが、七陰かナンバーズに伝達を頼むべきだろうか。いや、私用で遣うのは気が引けるな。

 

「それで、用とはなんだ」

 

「ん、もう終わったよ」

 

「は?」

 

こいつ、まさか。

 

「このシチュエーションを作り出すために呼んだな?」

 

「正っ解!」

 

「表へ出ろ、殺してやる」

 

「殺されたくないから出ないね」

 

「それならそれでいい。自分で出るか殴られて出るかの違いだけだ」

 

「まあまあそんなに怒らないで」

 

「お前なぁ・・・!」

 

どうしてこうもこいつは私の神経を何度も逆撫でするんだ。

 

「私は帰るぞ」

 

「あ、待って待って」

 

「なんだ、用は済んだのだろう?」

 

「うん、僕のはね」

 

・・・なるほど。そういうことか。

 

「2人とも、揃ってるわね」

 

そう言って窓から華麗に入り込んだ、居るだけで絵になる金髪の美女。そう、アルファだ。2年で随分と美しく育ったものだと感心する。

 

どこがとは言わないが一部分の成長もまた激しかった。どこがとは言わないが。

 

「早速だけど本題に入らせてもらうわ」

 

内容は、王都の騎士団内部の調査。教団が潜んでいないかと調べた結果の報告だ。

 

「それで、いたのか?」

 

「ええ、それも相当ね。アイリス王女に近しいからと調べてみて良かったわ」

 

教団はどういうわけか、悪魔憑きの血と王族の血を求めている。過去の英雄に関係していることは分かっているが、それがディアボロスとなんの関係があるのか。

 

「その分だと、学園も怪しいかもな。アレクシア王女も今年入学と聞いた」

 

「ちょうど、その話をしようとしていたの」

 

「学園内の調査を私に?」

 

「頼めるかしら」

 

「いいだろう」

 

特待生ともなれば、学園でも顔が広くなる。調査なら下手に人員を紛れ込ませるより確実だろう。

 

加えて、騎士団に体験で入団することもできるらしい。学園と騎士団双方の調査も可能になる。

 

「さて、私はそろそろ行くわね」

 

「忙しそうだな」

 

「こちらに仮拠点を作ろうと思ってるの」

 

「なるほど。ま、無理はするなよ」

 

「分かってるわ」

 

さて、私も帰ろうか。バカのせいでストレスが溜まっている。さっさとシャワーを浴びて寝たい。

 

「またね、2人とも───ああ、一つ忘れていたわ」

 

窓に足をかけたところで、アルファが振り返った。

 

「負けないわよ、アンジェ」

 

何がだとは、頭が痛くなりそうだったから聞かなかった。




唯一シドとの死別を経験している女、西村(違う)再登場に発狂です。

劇場版かぁ楽しみだなぁグヘヘ。
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