空を駆るネクストになりたくて!   作:うろ底のトースター

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誤字報告ありがとうございます。

友人の作ったWオーロラWハンドパルミサにボコられすぎてAC引退しかけました。




お前はそこそこ強いと私が認めてやる

奴が開放されたのは、拘束されてから5日後。ほぼ全裸で放り出され、服と剣を捨てるように投げつけられていた。正直面白かった。

 

が、ここからは面白くない話だ。このままでは奴はまず間違いなく犯人として処刑される。それはダメだ。奴を倒すのは私でなければならないのだ。

 

「動くなら、今夜だな」

 

そろそろ報告がありそうなものだが。ん?ああ、そうか。今日はデルタか。

 

私は、部屋に窓を開けた。

 

「アンジェ〜〜〜〜〜〜!!」

 

瞬間、黒い何かが私の名を呼びながら突っ込んでくる。どうにかそれを抱きとめると、それは嬉しそうに頭を私の胸に擦り付けてきた。

 

「デルタ、こんばんは」

 

「こんばんはなのです!」

 

デルタは、こう、頭が少々よろしくない。いや、言おう。頭が悪い。ただその戦闘能力は確かで、単純なパワーでいえば七陰トップクラス。最大出力の私にも迫る勢いだ。しかし戦術というものを知らないため、こいつを出すには相応のお膳立てを要する。

 

「デルタは何をしにここへ?」

 

「デルタは狩りをしに来たの!」

 

「何を狩る?」

 

「えーっと、でぃあぶろすがくだん?」

 

「ディアボロス教団?」

 

「あ、それなのです!」

 

なるほど、お膳立てはもう終わっているらしい。おそらく、教団拠点の同時襲撃。手始めにデルタに暴れさせ、騎士団の目を釘付けにした後に他の拠点も順々に、といった手筈だろう。

 

「デルタ、アルファの言うことをしっかり聞くのだぞ」

 

「アンジェは来ないの?」

 

「ああ、私にはやることがある」

 

下水道内部の様子は大まかに把握した。拠点と思われる場所も分かっている。囚われの姫を助けるか。まさにファンタジーだな。

 

「始まりは、どうせ奴だろうな」

 

今夜は月が綺麗に見える。地下では見られないのが残念だ。

 

さて、動くか。

 

 


 

 

攫われて5日経ったことをアレクシアは知らない。ただ長い時間ここにいる、それだけは分かっていた。寝ても起きても同じ光景、少しずつ弱っていく身体。それでも心が折れなかったのは、脳裏に浮かぶ唯一の友人が原因だろう。

 

もう一度会いたい、それだけが彼女の心を生かしていた。

 

血を抜かれ、疲れた身体が眠りを求める。次に目覚めたときは、地上で。そんな儚い願いを抱きながら、彼女は目を閉じた。

 

そして、決して小さくない揺れが、彼女を襲った。彼女には、それが何なのか予想がついていた。

 

彼女は隣にいる存在に目を向けた。それは、揺れと騒音が気になるのか天井を見上げていた。歪に膨らんだ黒い身体に、明らかに変色を経たであろう黒い体色。

 

それは悪魔憑きだった。

 

「うるさくて寝てられないわよね」

 

悪魔憑きが彼女のほうを見た。

 

「けど起きていたほうがいいわ」

 

彼女は、この揺れが騎士団によるものだと思っていた。おそらくは、自身の救出のために動いてくれているのだと。

 

「きっと楽しいことが」

 

「畜生、畜生、畜生!」

 

不意に監禁されていた部屋の扉が開き、不愉快な音が響く。入ってきたのは、アレクシアから血を抜き続けた男だった。大きな箱を両手で持ち、中には明らかに人に刺す用途で使われることがないだろう巨大な注射器が入っていた。

 

「奴らが、奴らが来やがった!お終いだ!み、皆殺し、皆殺しだぁ!」

 

彼女は男の焦りように違和感を覚えた。

 

「騎士団は無用な殺生はしないわ」

 

()()()()()()()()()()()()!奴らは皆殺し!皆殺しなんだぁ!」

 

騎士団以外の何かが動いているのだと、彼女は理解した。

 

「試作品は完成した、これなら出来損ないでも役に立つ」

 

出来損ない。それが誰を指しているのかを彼女は理解していた。この部屋に監禁されてからずっと隣にいた悪魔憑きだ。

 

男が赤い液体を注射器に装填し、針先を悪魔憑きに突き刺した。

 

「さあ、見せてみろ!」

 

「やめておけば。嫌な予感がするの」

 

男は聞く耳を持たなかった。

 

「ディアボロスの、片り───」

 

「そこまでだ」

 

冷たい女の声だった。似ても似つかないはずのその声は、何故か求めた記憶の少女のものと重なって聞こえた。

 

腕が2本飛んだ。男の腕だ。

 

「は?────あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ようやく、斬られたことに気が付いた男が叫び出す。

 

「すまなかった。本当はもっと早く救い出したかったのだが」

 

腕を落とした声の主は、悪魔憑きに近づき、声をかけていた。男に対して発した声とは違う、優しげな声だった。

 

金属質のマスクに口元を覆われ、フードを被っていたためにその顔の全容を知ることはできなかった。黒い外套で体格は隠され、その背には蝶の羽のような()が付いていた。

 

女がアレクシアに目を向けた。少しばかり優しさを帯びた瞳から、おそらくは自身を害する意思はないのだと理解した。

 

「こいつらの仲間は私の部下が殲滅している」

 

「痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「地上に戦力が集中している間に逃げ出すぞ」

 

「腕が、腕が腕が腕が、腕がぁぁぁぁぁ!!」

 

「その前に私はやることがある」

 

「僕の腕ぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「うるさいぞお前!腕を斬られた程度で喚くな!静かにしろ!」

 

それは無理な話だろうとアレクシアは思った。

 

「死ぬ、死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「さっさと死ね!」

 

女が男の首を刎ねた。なら最初に殺しておきなさいよとアレクシアは思った。冷酷冷徹冷静、しかしどうにも抜けているような印象を覚える、そんな女だ。

 

「さて」

 

あ、仕切り直すんだというツッコミは、幸いにも口から出ることはなかった。

 

「私にはまだやることがある。先に行っていろ。すぐに追いつく」

 

「いや、逃げ道分からないのだけど」

 

「あ」

 

さすがに声が出た。

 

 


 

 

今日は驚くことが多い。目の前を歩く女を見て、私はそう思った。

 

シャドウガーデンという組織に所属しているらしいこの女は、アンジェと名乗った。膨大な魔力を感じるその背に隙はなく、私の目で追えない速度を叩き出す。事実あの研究者かぶれの男を斬ったその動きが見えなかった。

 

それよりも驚いたのは、アンジェが悪魔憑きを治療したことだ。あの悪魔憑きが麗しい少女に変化したのを目にしたときは、しばらく唖然とせざるを得なかった。

 

裸の少女には、アンジェが不思議な黒い布を巻いた。どこか液体のような印象のそれは、触れてみると羽毛のような手触りで温かかった。これなら風邪をひく心配もなさそうだ。

 

少女はまだ気を失ったまま、私が抱えている。アンジェが戦えるようにするためだ。

 

戦う?剣も持たずに?というかさっきあの白衣の男を斬ったとき剣を使っていたはず、見えなかったけど。外套に隠している?もしくは、本当に持っていないのか?

 

疑問は尽きない。それでも一つ分かることがある。こいつは、強い。

 

「───なるほど」

 

「アンジェ?」

 

先導していたアンジェが止まった。

 

「主犯はお前だったか。納得だ」

 

「勝手に連れていかれては困るな」

 

再三、私は目を見開いた。ああ、そうか、やっぱりか。

 

「良かった。私貴方のこと頭おかしいんじゃないかってずっと思ってたの。やっぱりおかしかったのね」

 

金髪青目の、いけ好かない婚約者候補。王都ブシン流剣術指南。───ゼノン・グリフィ。

 

まずい。こいつは強い。いくらアンジェでも勝てるかどうか。

 

「漆黒の衣、金属製のマスク。近頃教団に噛み付いている野良犬は君たちだね」

 

「知っているのか。我々もなかなか有名になったものだな。そう思わないか?次期ラウンズ第十二席候補」

 

「っ!どこでそれを!?」

 

「楽しめそうな相手はおおよそ把握している。喜べ。お前はそこそこ強いと私が認めてやる」

 

「そこそこ・・・だと・・・?舐められたものだね」

 

「相応の評価だ」

 

「このっ!」

 

何、なんなの・・・?相手の強さは分かっているはず。アンジェは、ゼノンよりも強い・・・?

 

「腹が立ったか?ならさっさとかかって───」

 

コツッ、コツッ、コツッ、っと。また新しい足音が下水道に響く。足音は、ゼノンの背後から。

 

そいつは、アンジェとよく似た黒い外套を纏っていた。顔は同じくフードでよく見えず、けれどその目は赤く輝いていた。

 

「何をしに来たシャドウ。そいつは私の獲物だ」

 

「貴様は背後の2人を守れ」

 

「聞こえなかったか?そいつは、私の、獲物だ」

 

「貴様はその2人を庇いながら勝てると?」

 

「当たり前だ。私を舐めているのかシャドウ」

 

なんで仲間割れしてるのこの2人。いや、仲間?仲間で当っているのよね?もしかして敵対関係にあったりするの?

 

「私がやる。お前は黙って見ていろ」

 

「そうか。なら命令とする。お前は、そこの2人を守れ」

 

「譲れんな、それだけは・・・!」

 

「驕るなよ貴様らァ!たった2人!私一人でこと足りる!」

 

ああ、ゼノンがついにキレた。いや、気持ちはまあ分かる。内容からして、どうせ戦っても勝てるという前提がある。確実にこの2人にゼノンを舐めているんだ。

 

「一人で」

 

「こと足りるだと?」

 

なんで貴方たちがキレるのよ。先に彼を舐め腐ったのは貴方たちでしょうに。

 

「・・・シャドウ、お前に譲ってやる。興味が失せた。まさか彼我の力量差も分からんとはな。くだらん」

 

「そうだな。さっさと終わらせるとしよう」

 

「驕るなと、言っている!」

 

ゼノンが、近かったアンジェに剣を振る。対してアンジェは既にゼノンを見ておらず、それどころか背を向けていた。

 

危ないと声が出る前に、()()()()()()()()が消えた。

 

「は?」

 

瞬きの間にアンジェは私の目の前にいて、()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

「な!?」

 

「そら、お前の相手はそいつだ。ちゃんと向かい合えよ」

 

動かした、というの?だとしたらなんて速度。

 

「動かされたのか!?気付かないうちに!?」

 

「その程度の実力ということだ」

 

あのゼノンが、遊ばれてる。この2人は、私ともはや次元が違う。或いは姉様さえも・・・。

 

「ああそうだ、次元が違うなどと思うなよアレクシア」

 

「え?」

 

「シャドウの剣をよく見ておけ」

 

ゼノンが困惑しながらも剣を構え直し、シャドウと呼ばれた男と向き合った。そして、シャドウもまた、剣を構えた。

 

見覚えのある構えだった。

 

そうだ、この構えは、私のバカげた理想の剣。

 

凡人の剣。

 

「お前が目指したものが、その完成形が今目の前にあるんだ」

 

───いずれお前はあそこに立てる。

 

そう、言っているような気がした。






最近書籍版も少しずつ読んでるんですが、やっぱりアレクシアの努力の人っていう感じめちゃくちゃいいですよね。あと可愛い(重要)
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