空を駆るネクストになりたくて!   作:うろ底のトースター

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定期考査があって遅れました。
決してテイワットを旅していたわけではありませんし、新大陸に一狩り行ってたわけでもないです。


私は先輩よりも強いですよ

ルナ・オルレアは強く、そしてなお切り札を隠している。それが彼女の学園内での評価であり、そうあるようにとアンジェが印象操作を行った結果である。

 

対して、クレア・カゲノーは学生の身でありながらもかの王女アイリス・ミドガルに目を掛けられる程の実力者にして、剣術大会の優勝候補として注目馬となっている。

 

ルナ・オルレアVSクレア・カゲノー

 

大会で最も注目されるカードが揃っていた。

 

これが正史であるのなら、クレアがルナに勝つことはまず不可能である。それは純粋に技量の差であり、また魔力操作の精度の差が故だ。

 

そう、これが正史ならば。

 

ルナ・オルレアとシド・カゲノーの邂逅は、クレアに対して少なくない影響を及ばした。具体的に言えば、2人が訓練と評して行っていた模擬戦にて、シドがほんの少しだけ調子に乗り、ほんの少しだけ力を込めてしまったのである。

 

彼にとっての少しの本気は、常人にとっては確かな差となり、クレアにとって大きな学びを産む材料だった。

 

──故に、現在。クレア・カゲノーはアイリス・ミドガルに迫る、国内最強の一角としてその試合会場に立っていた。

 

外馬が言う、勝つのは猛者(クレア)新星(ルナ)か。

 

その一戦は意外にも、審判の振り下ろされた手とともに、緩やかに始まった。

 

お互いの剣がお互いの喉を貫く、その幻を見る。開戦と同時に2人は目を見開いて驚愕した。

 

ここまで強いのか、と。

 

双方にとって意外なほど拮抗した実力に、クレアは冷や汗を流し、ルナは誰にも見られないようにその端正な口元を醜く歪ませた。

 

(強い・・・!)

 

(これは楽しめる!)

 

違いはあれど、そのたった一瞬で、観客が気付かぬままに、2人はこの戦いに全力を傾ける選択をする。

 

これは、学園最強を賭けた、力と技のぶつけ合いの記録である。

 

 

 

先手はクレア。タイルが罅割れるほどの踏み込みによって放たれる、最速の突き。これをルナが半身になって交し、カウンターとして首を狙った一閃を返す。

 

完璧なタイミングのこのカウンターを首を僅かに傾けることで回避したクレアは、反撃のために剣を翻すが、悪寒と感じてその場から退避した。

 

「避けますか」

 

「野蛮ね、蹴りなんて」

 

鳩尾を狙った膝蹴り。得物に完全に気を取られていれば、今の一撃で終わっていた。

 

「いい直感を持っていますね」

 

「自分のほうが強いかのような物言いね」

 

「・・・?私は先輩よりも強いですよ」

 

「あっそ。寝言は私が寝かしつけてから言いなさい」

 

再度突貫の構え。対してルナは、半身になって剣から左腕を離し、クレアの死角に隠すようにだらりと脱力させる。

 

ここからは殴りも使うぞ、という確かな警告であった。

 

ルナ・オルレアの本気の戦型は、少々の語弊があるものの、片手で振るう我流の剣術と独自の体術を織り交ぜたオリジナルである。そのことを知っているのは、本人から直接聞いたアレクシアのみであり、実際に見た者は学園内では、シドを除いて誰もいない。

 

大会を見学している彼女は、目を見張り、少しだけ寂しそうに笑った。

 

未完の『凡人の剣』では、クレア・カゲノーには勝てないとルナが判断した。そのことが、どうにも物悲しく、けれどルナの本気が見れることか嬉しかった。

 

 

 

見たことのない構えに、クレアは警戒していた。

 

元来剣とは、両手で持つものである。例外として、突きの構えの際に、切っ先を対象に定めるために刀身に片手を添えることがあるが、それだけだ。

 

カウンターの構えだろうそれは、常識外れのまさに異質。先の蹴りを見ていなければ、無警戒に突っ込んでいただろう。

 

今なら分かる。あの左腕は、確かに自身の首に届きうるものだ。

 

どう動くのか分からない。だから先手は取られたくない。戦いの主導権は何としても握らなければならない。

 

だから突っ込む。

 

これに対し、ルナは刺突の構えを取る。所詮レイピアと呼ばれていたそれを用いるように構え、正確にクレアの───

 

「チッ!」

 

───脚を狙った。

 

無理矢理の軌道修正で突撃の勢いが殺され、ほぼ対等な状態でインファイトが始まった。

 

この距離での戦闘は、振りのコンパクトさが勝負を決める。その点では、体術とのコンビネーションを前提としたルナの剣術が有利。

 

だが、それが原因で負けるほどクレアは弱くはない。

 

「ハァッ!」

 

殴打、刺突、蹴撃、あまりにも多すぎる手数の全てを、躱し、逸らし、防ぎあまつさえ反撃を行ってくる。

 

思わず、ルナが悪魔のような笑みを零した。

 

「あら楽しそうな笑顔。それが本性?」

 

「もう少しだけ良い子のフリをしたかったのですが」

 

「安心しなさい。私は最初から気づいてたから」

 

「そうですか。なら、()()()()()

 

「ッ!!」

 

ルナが剣を逆手に持つ。

 

逆手に持つことのメリットとデメリットは明確だ。力が込めやすい反面、手首の可動域の多くを失うため、必然的に振りは大きくなりやすい。

 

が、ここからは体術がメイン。剣はサブウェポンに成り下がる。

 

要するに、右ストレートからの追撃や、右フックのリーチ延長など、殴打の副次効果にのみその殺傷能力を発揮するだけになるのだ。

 

結果、振りは寧ろコンパクトに、手数は更に増え、ルナは加速し続ける。

 

クレアの脳裏に、捌ききれなくなるという未来がよぎった。そうでなくとも、攻撃の隙がない今のままでは押し切られる。

 

だからこそ待つ。あるかも分からない隙を。ただ一度、剣を振れる隙を。

 

その一撃に、全てを賭ける。

 

ルナの連撃はもはや全てを見ることはできず、魔力を感知してから反射で対応するという機械的な対策に移行。

 

そして、耐え凌いだ。

 

たった一瞬、魔力が感知できなかった一瞬が、ついに訪れる。

 

理由は分からない。ルナの集中力が切れたか、体力の限界を迎えたか。

 

それでも、勝つにはこの一瞬をものにするしかなかった。

 

「これで───」

 

上段の構え。残る全ての魔力を集約し、振り下ろす。

 

「───おわ、り?」

 

顎に小さな衝撃。少しだけ視界が揺れる。手から剣がこぼれ落ち、膝から崩れる。視界の揺れは大きくなり、自分が立っているか倒れているかも分からない。

 

そこで、クレア・カゲノーの意識は暗転した。

 

 

 

「しょ、勝者!ルナ・オルレア!」

 

一拍遅れて、審判が結果を叫ぶ。しかし歓声はなかった。誰もが、最後の一手を認識できなかったからだ。

 

より正確に言うなら、認識していたが何が起こったか分からなかった。

 

(顎に魔力ゼロの蹴り。それで脳震盪を引き起こす、か)

 

正しく理解していたのは、その場ではアレクシアのみ。

 

魔力の感知と反射を見抜いたルナが、あえて魔力を込めずに顎を狙った。顛末としてはたったそれだけだった。尤も、何も知らない者からすれば、アーティファクトの使用を疑われるような試合結果だ。

 

大変そうだと、友人の後を憂いながら、彼女は迎えに行くのだった。

 

 


 

 

剣術大会、少しだけ楽しかった。というより、クレアとの戦いが楽しかった。その他は、まあ、敢えて言わずとも分かるだろう。

 

本当ならローズ・オリアナとも戦ってみたかったが、まさか2回戦目でクレアと当たっているとは、私も運のない。

 

結果としては私が優勝だった。これでブシン祭の出場は決定だ。ゆくゆくはあのアイリス・ミドガルとも戦うことになるだろう。まだ先のことだが、楽しみである。

 

ところで、だ。

 

「あの、何度も言いますが、私はアーティファクトなんて使ってません」

 

「う、うむ。しかしだな、魔力の込められていないただの蹴りであのクレア・カゲノーを倒したとなると、な」

 

この事情聴取はいつ終わるのだ。

 

脳震盪という現象がこの世界でも知られていることは確認済み。だからあれも無理ではないことをいい加減に理解しろこの脳筋共。

 

「申し訳ないが、アーティファクトを所有していないか捜査を行わせてもらいたい」

 

「それはつまり、私の部屋を調べると?」

 

「そうなるな」

 

面倒だが、それで疑いが晴れるなら別にいいか。特に見られて困るもの、具体的に言うならシャドウガーデン関連のものは置いてないしな。

 

なんせアレクシアが頻繁に遊びに来るんだ。今や私の部屋は奴の第2の部屋といった有様である。

 

「差し当って、君には少しの間別の場所で生活してもらうことになる」

 

・・・・・・・・・ん?

 

「別な、場所」

 

「調査は、そうだな、1週間程度で終わる予定だ」

 

「1週間」

 

なぜだ、なぜそんなに掛かる?この世界の家宅捜索は時間が掛かるものなのか?

 

「近場のホテルの一室を借りるといい。宿泊代は騎士団持ちだ」

 

「あ、はい」

 

はぁ、まあいいか。

 

「学園の事務局から請求してくれ」

 

「分かりました」

 

取調室から退出する。しかしホテルか。ミツゴシで適当なホテルを紹介してもらおうか。あそこならサービスも確かだし、設備も整ってるはずだ。

 

・・・なんか最高級の部屋を用意しそうだな。やっぱりやめておこうか。

 

とすれば、自分で探すしかないか。

 

「あら容疑者さん、取り調べは終わり?」

 

「犯罪者みたいに言わないでください、アレクシア様」

 

どこから耳に入ったのか、待っていたかのように王女様が現れた。イタズラが成功したような顔がなんとも言えない。

 

彼女も本来なら剣術大会に出るはずだったが、先日の人斬り事件の被害に遭い、しばらく腕を安静にしなければならないらしく、残念ながら出場は見合わせとなった。

 

「聞いたわよ、家宅捜索だって?」

 

聞いたって、どうせ立ち聞きだろう。

 

「お陰で1週間は帰れません」

 

「へぇ〜」

 

おい、なんで嬉しそうなんだ。性悪だとは思っていたけどそこまで悪いのか。それとも私がなにかしたのか。仕返しなのかこれは。

 

「もし良ければだけど」

 

「はい」

 

「1週間、私の部屋でさ、過ごさない?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?

 

「あの、それは、1週間一緒に住もう、と?」

 

「うん、そう」

 

そう、ではない。何を言っているこのお転婆王女は。いくら友人といえ、2度襲撃されておきながら部屋に住まわせようなど。

 

「どう、かな」

 

もちろんダメだ。定期報告が聞けなくなるし、私が落ち着ける空間がなくなってしまう。

 

理屈だ、理屈で押して断るんだ。

 

「事件の報告とかもくるのでは?」

 

「貴女になら聞かれても問題ないわ」

 

馬鹿か、大問題だ。

 

「私は部外者です」

 

「大丈夫よ、すぐに部外者でなくなるから」

 

「はい?」

 

・・・おい、なんだその顔は。

 

 


 

 

あの後、ルナはアイリス姉様に呼び出された。私の推薦と今回の剣術大会の成績から、姉様が新たに設立した『紅の騎士団』にスカウトするためだ。

 

・・・それにしても。

 

「誘っちゃったぁ〜・・・!」

 

確かにいつか誘おうとは思ってた。そしてちょうどいい所にちょうどいい理由が転がってきた。けど緊張するものは緊張するので・・・ていうかあの子に許可取らないで推薦したけど大丈夫だよね?

 

なんか、断りそうな気がしてきた、自分はまだそんな資格はないって言って。あの子、そういうところは絶対に譲らないだろうし。

 

そ、そうなったら、お泊まりもなしになる、のかしら・・・?

 

せっかく勇気を出して誘ったのにやっぱりなしなんて、私絶対に嫌よ!?

 

でも彼女を巻き込むわけには、って紅の騎士団に入団した時点で巻き込むことになるか。

 

でも、うーん、くっ、うぅ・・・!

 

欲と良心がせめぎ合っているぅ・・・!

 

「戻りました」

 

「うぇ!?う、ううん。ええ、おかえりなさい」

 

早くない!?早いわよね!?やっぱり断ってきたんだわ!絶対そうよ!はぁ、これでお泊まり計画も白紙ね・・・。

 

「どう、だったかしら」

 

「はい、入団の件は断りました」

 

「・・・そう」

 

合法的にルナの寝顔を拝むチャンスだったのに。

 

「でも、仮入団という形で騎士団の訓練や一部活動の参加をさせてもらうことになりました」

 

「そう・・・え?」

 

「アレクシア様との短期の同棲も、護衛という建前で許可を頂いています」

 

「そ、そう、なの?」

 

「ですので、これから1週間お世話になります」

 

「ええ、よ、よろしくね?」

 

なんか、よく分からないけど、とりあえず。

 

全て私の計画通りね!




ルナ「なんか不機嫌っぽいしどうにか機嫌取りしないと」
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