最強の落ちこぼれ王女イザベラ   作:ソロモンは燃えている

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2 王宮に棲む魔物

 

 

 

 ガリアの騎士カステルモールが王宮グラントロワを足早に進んでいる。

 目指すはイザベラ王女のために建てられた離宮プチトロワ。

 今日は、トリスティンに留学しているシャルロット王女が北花壇騎士として任務を請け負うためにプチトロワを訪れる事になっている。

 

 おのれ簒奪王ジョゼフと無能王女イザベラめ!

 シャルロット様に汚れ仕事をさせるなど。

 

 カステルモールは、魔法の腕に優れ、人格も申し分なかったオルレアン公シャルルを敬愛していた。

 シャルルこそが次代の王になるべきだと考えているカステルモールにとって、現ガリア王のジョゼフは簒奪者でしかなかった。

 シャルルが死んだのは、ジョゼフが前王から後継者に指名された後のことだと言う事実は意味をなさない。

 ジョゼフを排除し、シャルルを王位につけようとしていたオルレアン公派こそ簒奪者と呼ばれるべき存在なのだが。

 

 今はまだその時ではない。

 もう少しだけご辛抱ください、シャルロット様。

 

 ガリア王国の騎士団は、王宮の四方にある花壇の名が付けられている。

 グラントロワの北は日陰になっていて唯一花壇が存在しない。

 そのため、北花壇騎士団は表向き存在しないことになっている。

 北花壇騎士団とは、王国として表向きに出来ない汚れ仕事をさせる日陰者なのだ。

 カステルモールは、シャルルの忘形見であるシャルロットがそのような扱いを受けていることに忸怩たる思いを抱いていた。

 だが、迂闊に動くことも出来ない。

 シャルル亡き後、ジョゼフによるオルレアン公派への弾圧は熾烈を極め、その勢力を大幅に弱体化させられているからか?

 確かにそれもある。

 カステルモール自身、表向きはジョゼフ派を装うことで弾圧を逃れた隠れオルレアン公派なのだから。

 しかし、それだけが理由ではない。

 

 グラントロワには魔物が棲んでいる。

 

 真しやかに囁かれている噂。

 その魔物の影がオルレアン公派の動きを縛っているのだ。

 

 シャルルが死んだ後、ジョゼフ王による弾圧が進められる中、幾度となく打倒ジョゼフの動きがあった。

 その多くが未然に潰されてしまったが、妨害を掻い潜り、ジョゼフ王に杖を振り上げるところまで迫ったことがある。

 

「簒奪王ジョゼフ、覚悟!」

 

 部下として控えていた者達の中から飛び出したある貴族が懐に隠していた杖を取り出し、ジョゼフ王に向けて振り上げた。

 もし、魔法が放たれていれば、魔法の使えないジョゼフ王の命を奪えていたかもしれない。

 しかし、その杖から魔法が放たれる事はなかった。

 

 その貴族は杖を振り上げた姿勢で動きを止め、次の瞬間にはサイコロステーキのようにバラバラになり、崩れ落ちていった。

 

 この事件は派閥を問わず、全ての貴族に強い衝撃と恐怖を与えた。

 ジョゼフの命を狙って杖を振り上げた瞬間、バラバラにされたのだ。

 その傷跡は滑らかでとんでもなく鋭利な刃で切り裂かれたことを伺わせる。

 まず、強力なウインドカッターの多重行使が思い浮かぶがすぐに否定された。

 そんな強烈な空気の流れが出来ていれば気付かないはずがないのだ。

 何の痕跡もなく、一瞬で人体をバラバラにしてしまう。

 そんな事は系統魔法では不可能だ。

 次に浮かぶのは先住魔法。

 それも人間を遥かに超えるとされるエルフの存在だ。

 だが、文献に記されたエルフの先住魔法の記録にもそんな事が可能だと思われる記述はない。

 結局、何も分からないまま調査は暗礁に乗り上げた。

 分かっていることは、ジョゼフの命を奪うことは不可能であることのみ。

 未知の脅威的な力を持つ正体不明の魔物をジョゼフが飼い慣らしていると噂されるようになった。

 

 

 

「我々、東花壇騎士団の忠誠はシャルロット様に捧げております。

 王位を正統なる者の手に取り戻すために立たれる時には、必ず馳せ参じる者達がいることを覚えておいてください」

 

 北花壇騎士団の団長であるイザベラから任務を言い渡された後の帰り道でイザベラの後ろに控えていた騎士に声を掛けられた。

 警戒しながら話を聞けば、いつかジョゼフを倒す時に助けになると言う。

 正直、あまり興味は湧かなかった。

 私が望むのは個人的な復讐。

 父の仇であるジョゼフはいずれ討つと誓っているが、イザベラに含むところはない。

 ジョゼフを討てば父の仇として彼女に恨まれることになるだろうがそれは甘んじて受けなければならない。

 幼い頃は仲良く過ごした記憶がある。

 魔法を習い始めてから疎遠になってしまったが嫌いなわけではなかった。

 今も、事務的に任務を言い渡してくるだけで嫌がらせなどを受けてはいない。

 

 政治的な争いになれば、この人達のためにイザベラまで殺さなければいけなくなる。

 それは嫌だった。

 ジョゼフを討って、イザベラに裁かれる。

 それで終わりにしようと思っていた。

 

 

 

「お姉さま、早く帰りましょう。

 ここはイヤ!

 なんだか怖い気配に包まれているのね」

 

 カステルモールと別れた後、使い魔のシルフィードが愚図り始めた。

 一刻も早く、ここを離れたいらしい。

 この子がこんなに怯えるなんて。

 そう言えば、ジョゼフを守護する強力な魔物が王宮に潜んでいると言う噂を聞いた。

 ジョゼフの使い魔の話を聞いたことがない。

 もしかしたら強力な使い魔を召喚したのかもしれない。

 ジョゼフの首を取るまでの道のりは思っていたよりもさらに遠いのかもしれない。

 それでも、出来ればカステルモール達の助けは借りたくない。

 本名を封印し、タバサと名乗っている少女は、不安を感じながらも王宮を後にした。

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