シャルロットは、ガリアの王宮『グラントロワ』の中を進んでいた。
周りには、留学したトリスティン魔法学院で得た友人であるキュルケやルイズ…そして、最近気になり始めた異性であるサイトが共にいてくれる。
さらにその周りをカステルモールらオルレアン公派のガリア貴族が固め、シャルロットを先導していた。
現在、ガリアは、トリスティン、ロマリア、ゲルマニアの3国から宣戦布告されている。
その3カ国による連合軍がガリアの首都である、ここリュティスに迫っている状況だ。
軍の目は、防衛のために外へ向いている。
王宮の警備が手薄になるこのタイミングにカステルモールの手引きによって侵入した。
目指すは玉座の間、そこにいるガリア王ジョゼフの首のみ!
ガリア軍と連合軍の戦闘が本格的に始まってしまえば多くの犠牲が出てしまう。
父の仇であるジョゼフへの復讐を望んでいるが、そのために多くの犠牲を出すことは厭うていた。
だからこそ、少数精鋭での侵入によるジョゼフ暗殺を選んだ。
ジョゼフの暗殺が成功すれば、大した被害もなく、この戦争は終わる。
シャルロットは、そう思っていた。
当然だが、そんなわけがない。
古来から外国の軍隊を自国の権力争いのために国内に引き入れた国がどうなったのか?
悪ければ傀儡政権が誕生し、実質的な属国にされる。
良くても領土や利権などを切り売りしなければならない。
シャルロットは王女として、オルレアン公派は貴族として最も選んではいけない選択をしてしまっていた。
シャルロットたちは、妨害にあうことなく玉座の間に到達した。
玉座に座すジョゼフの前に二人の人物が立っている。
「あ、あいつは…」
「ビダーシャル!」
一人は人間ではなく、エルフだった。
ルイズ達の前に立ちはだかり、何度もその力を見せつけられてきた。
そして、もう一人は…
「ドラクロア伯爵…この成り上がり者が!」
カステルモールが忌々しげに睨む。
「カステルモールさん、あいつは?」
「粛清された我らオルレアン公派の後釜として貴族に任じられた者達。
新貴族などと呼ばれているが、我らのような伝統も誇りもなく、偽王などに忠誠を誓う愚か者達だ」
「不快だな。
お前達のような売国奴に、そのようなことを言われる筋合いはない」
「なっ、我らを愚弄する気か!」
「愚弄?事実を言ったまでだ。
外国の軍隊がこのリュティスに迫っている。
お前達が引き入れたのだろう?
ガリアは、奴らの風下に立つことになるのだぞ」
「正義を成すためだ!
それに、シャルロット様が王位に立ち、我らがお支えすれば、失った地位などすぐに取り戻せる」
「やはり愚かだ……お前達は何も見えていない」
「なんだと!?」
「ビダーシャル、見せてやれ。
奴らが頑なに目を背けてきた現実と言うものを…」
ドラクロア伯爵の言葉を受け、ビダーシャルが手を振りかざす。
すると、玉座の間の壁に巨大なスクリーンが出現した。
そこには、リュティスに迫る連合軍の艦隊の姿が映し出されていた。
イザベラ・サイド
「オルレアン公派の貴族がここまで救いようがなかつたとはね……」
権力争いに明け暮れてガリアの国力を落とすような真似をしている時点でイザベラの彼らへの評価は低かったが、外国勢力に介入させるに至って評価はマイナスに振り切れた。
「……イザベラ様?」
「なんでもない。
これから魔法に集中する。
お前達、その間の護衛は任せたよ」
「「「「はい!」」」」
4人の北花壇騎士が魔法を使うために無防備になるイザベラを守るために周囲を警戒する。
彼らが警戒するのは他国の軍だけではない。
ガリアは政争の国と呼ばれるほど権力争いが激しい。
オルレアン公派だけでなく、ジョゼフ派の中にも隙あらば牙を突き立てんと企んでいる者がいないとは言えないのだ。
イザベラが集中力を高めていく。
十分に集中が高まったところで、左手に持つインテリジェンス・ナイフ『地下水』にウォーターウィップを発動させた。
視認がほぼ不可能なまでに細く圧縮したそれを地面に突き立てる。
圧縮された水は、硬い岩盤さえも貫き、地下深くへと掘り進んでいく。
そして…地下1000メイルに到達した。
「よし、風石鉱脈と接続完了。
これで精神力の容量を気にする必要はなくなる」
相変わらずの規格外っぷりだな。
普通はこんな力技で精神力の補充なんて出来ないんだよ。
なんで、これでドットなのかねぇ?
地下水は、主人であるイザベラの技量に恐怖すら覚える。
イザベラが右手の杖を空に掲げる。
「ガリアに土足で上がり込んだ愚か者達に報いをくれてやる」
連合軍の艦隊に天から光の筋が差し込んできた。
美しく、神秘的な光景で、まるで神に祝福されているかのようだ。
しかし、その実情は神の祝福とは程遠いものだった。
その光に照らされた艦隊は次々に燃え上がり、人も武器も、何もかもが蒸発していく。
その光は、数千度にも及ぶ熱を内包する死の光だった。
イザベラ・サイドアウト
「なっ、なんだあれは!?」
スクリーンに映る光景に突入部隊の者達は全員が驚愕していた。
天から降りそそぐ光に当たった艦隊が次々に燃え上がっていく。
まるで神の怒りを買い、天罰を下されたような光景。
「そんな!あそこには母様達が!」
ルイズの悲痛な叫びが響く。
今回の作戦にはルイズの母も従軍していたようだ。
「忠勇なるガリア軍将兵達よ…」
そんな中、拡声の魔法を用いてリュティス全域にイザベラの声が響く。
「愚かなオルレアン公派の貴族が引き入れたロマリア、トリスティン、ゲルマニアの3カ国からなる連合軍が、我らを殺し、壊し、奪わんと攻め寄せてきた。
しかし、恐れることはない。
すでに、その半数が私のソーラーレイによって消し炭となった。
諸君の目の前にいるのは、もはや敗残の兵である。
ガリアに杖を向けた愚か者達に鉄槌を下すのだ。
ガリア全軍、前進せよ!」
うおおおおおおおっっっっ!!!
ガリア軍から歓声が上がる。
いや、軍隊だけではない。
リュティスに住む市民からも上がっていた。
一般人にとって他国の軍隊など恐怖の対象でしかない。
戦争で負ければ虐殺や略奪など当たり前。
そんなものを招き寄せたオルレアン公派と、その災厄から自分達を守ってくれたジョゼフ派という構図が明白に示されたのだ。
「なっ、この声はイザベラ……様?」
「どういうことだ!なぜ黙っていた!
イザベラ様がこれ程の魔法を使えると知っていれば…」
「イザベラ様を使って、ジョゼフ王を殺そうとした……か?」
「ぬっ!」
ドラクロア伯爵は、心底呆れた様子でため息を吐く。
「魔法の力、メイジとしてのランクでしか人の器を測れない愚か者。
お前達のような者が貴族の地位にあること自体が我が国にとっての害悪だ」
「何だと!お前達は知っていたからそのような事が言えるのだ!
我らとて知ってさえいれば…」
「何も変わらんさ。
イザベラ様が水のドットメイジなのは事実なのだから」
「戯言を!ドットメイジにあのような大魔法が使えるものか!」
「くっくっくっ、あれは大魔法などではない。
使われた魔法は、ドット・スペルとコモン・マジックの2つのみ」
「馬鹿な!あれがドットやコモンだと!?」
「知ったところでお前達には使えない…いや、イザベラ様以外、誰にも使えないだろうさ」
ソーラーレイに必要な魔法は2つ。
ウォーター・クリエイトによって宇宙空間に水を創り、凍らせることで多数のミラーを設置する。
そして、念力によってミラーの角度を微調整することで太陽の反射光を一点に集める。
ただそれだけの魔法。
単純な魔法ではあるが、その使用難易度は途轍もなく高い。
はるか上空、重力の影響を受けないほどの高度にミラーを創る時点で狂気の沙汰だが、そのミラーの反射光を地上の一点に集中するように調整するのは、もはや人間業ではない。
ほんの僅かな誤差すら、地上では大きなズレになる。
そんな繊細な作業を数万枚のミラー全てで同時に行わなければならないのだ。
まさに神業。
「あれで砂漠をガラス化させたのを見て、我らネフテスは、イザベラ様に臣従を誓うと決めた」
最初、ビダーシャルの言葉を誰も理解できなかった。
こいつは何を言った?
イザベラに臣従?
誰が?
エルフが……人に?
系統魔法より数段強力な先住魔法を使うエルフはメイジにとって恐怖の象徴となっている。
そんなエルフをイザベラは屈服させたと言うのか?
「まったく、あれは無茶な任務でした。
陛下、少しは自重してください。
イザベラ様に嫌われますよ」
「ふっ、伯よ、余は娘を信頼している。
イザベラなら出来ると判断したからこそ任せたのだ」
「…困ったお人だ」
イザベラの想いを知っている伯爵は、目の前の壊れた国王がまともになる事を願っていた。