最強の落ちこぼれ王女イザベラ   作:ソロモンは燃えている

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5 ガリア解放戦2

 

 

 

 王宮に突入した部隊の間に重い空気が漂っている。

 この戦争に負けつつあると感じ取っているのだ。

 

 ガリアの両用艦隊に対抗すべく侵攻してきた連合軍の艦隊の大半は、イザベラに焼き払われてしまった。

 突然の大打撃に混乱しているであろう本隊は、ガリア軍の追撃に晒されている。

 もはや、どれだけの数が国へ帰れるかと言った状況だ。

 

 そして、国民も現王ジョゼフを明確に支持するようになってしまった。

 今も、リュティスの市民からジョゼフ王万歳、イザベラ王女万歳と喝采が上がっている。

 

 外国の軍隊を引き入れるなどと言う、国民に危険を感じさせるような真似をするべきではなかった。

 それでもせざるを得なかった。

 国内のオルレアン公派だけでは、どうにもできないほどジョゼフ王の支配は盤石になりつつあったからだ。

 

 オルレアン公派は楽観していた。

 平民達がジョゼフ王を無能王と楽しそうに罵っていたからだ。

 平民すら、自分達の味方なのだと思っていた。

 

 それが、そもそもの勘違いだ。

 平民が楽しそうに王を罵る。

 そんな国が他にあるだろうか?

 国の上層部への不満や悪口など、大抵は誰にも聞かれないようにこっそりと行われる。

 

 だが、リュティスでは違う。

 平民が大っぴらに王を罵っていながら、治安は前王の時代よりもむしろ良くなっている。

 王がこの程度で自分達を処罰することはないという信頼のようなものがあった。

 魔法を使えない無能王に平民は親近感すら抱いていた。

 

 他国の軍隊を引き入れたオルレアン公派とそれを打ち払ったイザベラを擁する現王ジョゼフ。

 平民がどちらを支持するかは明らかだろう。

 

 

 

「まだだ!まだ終わってなどいない!

 ここで偽王ジョゼフを倒せば、我らの勝ちだ!」

 

 そんな空気を打破しようと叫びを上げる。

 カステルモールを筆頭にオルレアン公派の貴族が杖を構え、玉座のジョゼフに向かってる駆けだした。

 

「私達も行きましょう。

 お母様のことだから無事だと思うけど、このままガリア軍に攻められたらどうなるか…」

 

「そうだな、こんな戦いは早く終わらせよう」

 

「…ジョゼフをここで討ち取る。

 そうすれば軍を止めることも出来るはず」

 

 母を心配するルイズの様子にシャルロットは申し訳なく思う。

 結局、多くの犠牲が出てしまった。

 これ以上の犠牲は出したくない。

 この争いを終わらせるためにジョゼフを討つ。

 

 シャルロット達もカステルモール達に続いてジョゼフへと向かっていく。

 

 

「お前達はエルフを抑えよ。

 倒せなくとも良い、なんとかその場に釘付けにするのだ。

 サイト殿、まずはドラクロア伯爵を討ち、そのままジョゼフの首を取りましょう」

 

 カステルモールが指揮を取り、戦力のほとんどをビダーシャルの抑えに振り分けた。

 

 ドラクロア伯爵がどれほど魔法を使えるのかは分からないが、東花壇騎士団の団長を務めていた自分に敵うはずがない。

 そこにシャルロットやその学友達、剣士として確かな腕を持っているサイトまでいるのだ。

 速やかに排除し、ジョゼフへと向かえるはずだった。

 

 

「ウインドカッター」

 

 カステルモールの魔法がドラクロア伯爵に放たれる。

 騎士団長にまで上り詰めた風のスクエアメイジの魔法を前にして、ドラクロア伯爵は泰然としていた。

 

「風よ」

 

 ドラクロア伯爵が手を翳し、そう呟くだけで強烈な風が発生し、カステルモールの魔法を弾き返してしまった。

 

「なに!先住魔法だと!」

 

「どうして貴族が先住魔法を使ってるのよ!?」

 

 あまりに予想外の事態に足を止めてしまう一行。

 だが、ぐつぐつしてはいられない。

 仲間達が今もエルフを相手に必死に戦い、時間を稼いでいる。

 

「なぜ、貴様が先住魔法を使えるのかは知らぬが時間がない。

 押し通らせてもらう!」

 

「タバサと約束したんだ。

 力になるって。

 ここは通らせてもらうぜ」

 

 動揺を抑え、精神を立て直したカステルモールに勇気付けられ、サイトも動く。

 母親の無事を心配するルイズのために早くこの戦いを終わらせたい。

 そんなサイトの心の震えが左手のルーン『ガンダールヴ』の力を増幅させる。

 

 鋭い踏み込みで間合いを詰め、デルフリンガーを鋭く振り下ろす。

 

 ガキィィィィィン!

 

 サイトの剣がドラクロア伯爵を捉えるかに見えた瞬間、別の人影が割り込み、その人物が持っていた剣で受け止められていた。

 受け止めただけではない。

 そのまま剣を振り抜き、サイトを吹き飛ばしてしまった。

 

「くっ、なんて力だ」

 

 割り込んできた人物は、若い女性だった。

 体も細く、サイトを吹き飛ばした怪力の持ち主にはとても見えない。

 

「ヴラド様を討つですって?

 そんなこと、私が許さない!」

 

 女は激昂した表情となり、その口から牙が見える。

 

「なっ、吸血鬼!?

 なぜ王宮に吸血鬼が!」

 

 人類の敵、最悪の妖魔と呼ばれる存在が現れたことに驚愕するサイト達。

 だが、庇われた伯爵はむしろ愛おしげに声を掛ける。

 

「ビビアン、出てくるなと言っておいただろう」

 

「申し訳ありません、ヴラド様。

 でも、あの者達の言葉がどうしても許せなかったのです」

 

 その様子にキュルケがピンときた。

 

「あの伯爵と吸血鬼、そういう仲なのね。

 種族を超えた愛、素敵じゃない」

 

「ちょっと待って。

 伯爵は先住魔法を使ってたけど、あの女の人は使ってないわ。

 もしかして、伯爵の方こそが吸血鬼で、女の方はグールなんじゃ…」

 

 伯爵がルイズを鋭く睨む。

 

「口を慎みたまえ。

 もう、グールなどという名は使われていない。

 寿命の違う種族を愛した時に行われる神聖な儀式。

 彼女は、私の吸血鬼の番(バンパイア・ブライド)だ」

 

 そう言った伯爵の口からは牙が出ていた。

 

「ドラクロア伯爵が吸血鬼だと?

 嘘だ!そんなはずはない!

 私は、お前が日中に外を歩いているのを見た」

 

「…私は太陽を克服した真祖の吸血鬼(トゥルー・バンパイア)なのだよ」

 

「!!」

 

 絶句。

 太陽を克服した吸血鬼など、ある意味、エルフを超える脅威だ。

 砂漠に引きこもり、こちらから手を出さなければ争うことのないエルフとは違う。

 吸血鬼は古から人間の中に紛れ、その血を啜ってきた妖魔。

 その唯一の弱点である太陽を克服したのなら、もはや探し出すことなど不可能だ。

 

「イ…イザベラ様はご存じなのか?」

 

「無論だ。

 イザベラ様は、我らに安住の地を与えてくださった。

 ドラクロア伯爵領では、吸血鬼と人間が共存している。

 私が太陽を克服出来たのも、イザベラ様のおかげだ」

 

 彼、ヴラド・ドラクロア伯爵は、かつて北花壇騎士として討伐任務に訪れたイザベラに負けた。

 その力の前に命乞いをし、恭順を誓ったのだ。

 当時は、隙があれば寝首を掻こうと思っていた。

 

 だが、イザベラは彼に対して誠実であった。

 手柄を立てれば、人間と同じように評価し、褒美が与えられた。

 

 圧倒的な力を持つ者が自分を正当に評価してくれる。

 それは、不思議な感覚をもたらした。

 暖かい何かが胸を満たす。

 いつしか、イザベラを害そうなど思わなくなっていた。

 ただこの方に忠を尽くしたい。

 そう思って仕えるようになった。

 

 それでも、まさか伯爵の地位まで与えられるとは思っていなかった。

 自分は吸血鬼。

 北花壇騎士の一人として、影からお支えするのだと、それで満足だと思っていたのに。

 

 自身が吸血鬼であるが故に吸血鬼関連の任務を一手に引き受けていた。

 その中で人間との共存を望む者や人間に怯えることなく生きていきたい者達を引き入れていった。

 いつの間にか、私は彼らを率いる一族の長となっていた。

 

 この褒美は、イザベラ様が私の立場を慮って用意してくれたのだろう。

 これで、彼らに安住の地を用意してやれる。

 

 イザベラ様に捧げられる忠誠は、私個人のものではなくなっていた。

 一族の全ての者がイザベラ様に感謝と忠誠を捧げている。

 私は彼らを束ねる者。

 吸血鬼の王(バンパイア・ロード)である。

 ならば、それに相応しい力を持たなければならない。

 もっと、イザベラ様の役に立つために。

 

 

 そうやって研鑽を積んでいた時。

 イザベラ様が水が光を反射したり、屈折させたりする現象を発見した。

 後にソーラーレイに繋がる発見だ。

 その現象を研究する中で特定の光だけを反射する魔法が生まれた。

 

 私は、それを模倣し、改良することで吸血鬼の体を焼く光だけを反射する魔法を完成させた。

 これで、日の光の下でもイザベラ様に仕えることが出来る。

 

 私はイザベラ様の腹心の部下。

 イザベラ様の本質に気付きすら出来ない人間などにこの地位を譲る気などない。

 いや、たとえエルフにも譲らない。

 

「イザベラ様のために、陛下を弑させはしない!

 ビビアン、手伝ってくれるか?」

 

「もちろんです!

 お忘れですか?

 私もまた、イザベラ様に仕えている者の一人ですよ」

 

「…そうだったな」

 

 バンパイア・ロードとその番であるバンパイア・ブライドが並んで構える。

 

 イザベラ様の心を守るために、お前達の好きにはさせんぞ!

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