ソーラーレイで連合軍の艦隊を焼き払っているイザベラの周りを4人の北花壇騎士が固めている。
天から降りそそぐ光は、神々しい神聖さと触れるものを全て焼き尽くす苛烈さを併せ持つ凄絶なまでの美しさを有していた。
だが、その光景に見惚れているわけにはいかない。
魔法に集中し、無防備な今こそがイザベラ王女を殺すことが出来る唯一のタイミングなのだから。
イザベラ王女の存在こそが僕らの希望の光そのもの。
彼女を失うわけにはいかない。
4人のリーダーであるダミアンが周囲への警戒を続けながら過去へ思いを馳せる。
彼ら4人は、元素の兄弟と呼ばれ、北花壇騎士として様々な汚れ仕事を処理してきた凄腕だ。
しかし、その正体はアカデミーの実験で生まれた吸血鬼と人間のハーフ。
いつか、自由になったら自分達が大手を振って歩ける、人間と吸血鬼が共存する国を作ろうと語り合ってきた。
それが実現するはずのない妄想のようなものであると理解しながら…
現実は、鎖に繋がれ、自由などないまま汚れ仕事を押し付けられる日々。
そんな時、新たな団長としてイザベラ王女が就任した。
子供と言えるような歳、それも落ちこぼれと評判の王女だ。
どうせ箔付けのためのお飾り団長だろうと当時は思ったものだ。
それからは、自分達の常識が壊されていく日々が始まった。
彼女は規格外なほどに強かった。
だけど、それ以上に人間としての器も規格外だった。
ある日、任務から帰ってきたイザベラが吸血鬼の男を連れてきた。
正直、意味が分からなかった。
自分達のようなハーフですらない、純血の吸血鬼だ。
あろうことかイザベラは、その吸血鬼を北花壇騎士として招き入れたのだ。
グールにされて操られているのではないか?
吸血鬼が持つ不穏な空気から、そう噂された。
そんな噂も程なく消えていくことになる。
吸血鬼から不穏な雰囲気が消え、真摯に任務をこなし、イザベラも彼を信頼して厚く遇する。
それは、理想の主従の姿に見えた。
やがて、吸血鬼は伯爵の地位を得て、領地に吸血鬼と人間が共存する、自分達が夢想していた理想の地を作り上げた。
嫉妬したこともある。
どうして、自分達ではなかったのかと。
だが、イザベラ様の信頼に応えるべく、その男はバンパイア・ロードとして相応しい力を付けていた。
その努力を知っているからこそ、悔しいが認めざるを得ない。
今、自分達はかつてないほどに幸せだ。
大切だと思える故郷があり、そこでは自分達と同じ、吸血鬼と人間のハーフも生まれ始めている。
そして、そんな故郷をイザベラ様が庇護してくれている。
その力に恐怖を感じたことがないと言えば嘘になる。
だが、そんな力を持つ者が自分達の庇護者なのだと理解した時に感じた安らぎと安心感。
同時にこの方を失う恐怖を感じた。
だからこそ、決して気を抜かない。
連合軍に壊滅的打撃を与え、ガリア軍が追撃のため前進を開始した時、そいつらは現れた。
「風石鉱脈が減少していた原因は貴女でしたか、イザベラ王女」
神官と従者の二人組。
しかし、そのまとう雰囲気は只者ではない。
元素の兄弟達は、体を緊張させる。
イザベラが最強のメイジだと確信はしているが、戦いに絶対はない。
能力の相性次第では強者が不覚を取ることもあると知っていた。
軍への号令を終えたイザベラが二人組に向き直る。
「その法衣…まさか、教皇本人がお出ましするとはね。
聖エイジス32世猊下」
「ヴィットーリオとお呼びください」
にこやかに会話を始める二人。
しかし、その目だけは笑っていない。
「それで、聖戦を発動してガリアに攻め寄せてきたヴィットーリオ様が私に何の用かしら?」
「ずっと観測していたハルケギニアの地下に存在する風石鉱脈。
増大し続けてきたそれが、最近になり何度か減少したのです。
今まで観測されたことのない現象。
その原因を知りたかったのです」
「…なるほどね。
ロマリアは、地下の風石の存在を知っていたのかい。
なら、何度も起こしてきた聖戦の本当の目的は、大隆起から逃れるための土地を手に入れるためってところか?」
「ええ、それもあります。
おそらく、どこかの時点で風石鉱脈の増大に気付いたロマリア上層部がエルフから土地を奪還するという大義名分を掲げるようになったのでしょう」
今の腐敗したロマリアが、どれほど真実を認識しているかは疑問ですが。
そう続けるヴィットーリオ。
「で、私が風石を大量に消費していたのをしったあんたはどうするのかしら?」
「ますます、聖戦を完遂しなければならないと確信しましたよ」
「風石はかなり使ってしまったから、大隆起の危険はしばらくないのにかい?」
「風石の減少が貴女個人の技量によるものでしたので。
風石の増大が止まってない以上、危機は去っていないのです。
貴女が死ねば、風石を減らす手段も失われる。
貴女ほどのメイジが再び現れるのを期待するほど私達は無責任にはなれないのですよ」
「…そう、ロマリアには腐敗した生臭坊主しかいないと思ってたけど、ちゃんとハルケギニアの未来を考えて行動しているのもいたんだね」
「イザベラ王女、貴女が協力してくれればエルフから聖地を奪還することも可能でしょう。
共にハルケギニアの人々を救いましょう」
ヴィットーリオが微笑みを浮かべながらイザベラを勧誘する。
その顔は慈愛に満ちており、人々を救うという信念が本物であると示していた。
なるほど、腐敗したロマリアにあって、なおカリスマを発揮しているのは伊達ではないようだね。
イザベラも、ヴィットーリオの行動理念に共感する部分を感じてしまった。
ハルケギニアを救うための手段が聖戦しかないのなら、シャルロットを利用してガリアを聖戦のための駒にしようとした仕打ちを飲み込んででも協力していたかもしれない。
「あんたらに協力するつもりはない。
……その必要もね」
イザベラの性格を見抜いていたヴィットーリオは、断られたことに驚きの表情を浮かべる。
彼女なら現実を見て、協力せざるを得ないことは理解できるはずだ。
「猊下の誘いを断るとは、なんと無礼な!
未来の人々がどうなろうが構わないと言うのか!?」
主の誘いを断ったイザベラに従者が激昂する。
「待ちなさい、ジュリオ」
ヴィットーリオが従者ジュリオを手で抑える。
「何故です、イザベラ王女。
現実を見れない貴女ではないでしょう」
「そうだね。
確かに私が風石を消費しても一時凌ぎにしかならない。
このままなら、大隆起はいつか必ず起きるだろうさ」
「なら…」
「このままならね」
「!……まさか、他に解決策があるとでも言うのですか」
イザベラの言葉の真意を悟って驚愕の表情を浮かべるヴィットーリオ。
聖戦以外の手段を見出すことが出来なかった歴史を知るヴィットーリオには、にわかには信じ難いものだった。
「ガリア王家直轄地とドラクロア伯爵領で大規模な風石採掘場を建設している」
「馬鹿な!風石鉱脈があるのは1000メイル以下の深い地中。
そんな事は不可能です!」
「確かに不可能だね。
人間だけなら」
「ま、まさか…」
「その事業にはエルフや吸血鬼にも協力してもらっている。
彼らを教敵だと断じているあんたらには出来ないことだろう?」
この時点でヴィットーリオは負けを悟った。
イザベラの話しが事実なら、ガリアがこの先ハルケギニアの覇権を握ることが確定している。
そして、イザベラはデタラメを言うような性格ではない。
地下1000メイル以下にある風石を採掘して利用できるようになれば、圧倒的な国力を持つことになる。
他国が同じことを出来るようになるのにどれ程かかる?
当分はガリアだけの特権になるだろう。
この流れを覆すには、ガリア王ジョゼフとイザベラ王女を殺し、亜人との協力関係を壊すしかない。
たが、それはハルケギニアの未来を救うという自身の行動理念に反する。
「私の負けですね。
もう二度と聖戦が発動することはないでしょう」
「そうなれば良いけど…ロマリアの神官達は、そんなに物分かりが良くないでしょう?」
自国の腐敗っぷりを知っているヴィットーリオは、イザベラの言葉に苦笑する。
「私が教皇でいる間は抑えてみせますよ。
それに、聖戦なんて発動してもガリアに潰されるだけでしょう?」
そう言って、立ち去るヴィットーリオ達。
「ガリアは、亜人達との融和に舵を切った。
いつまでも人間至上主義ではやっていけないぞ。
時間は掛かるだろうが教義を変えていくことだ。
時代に取り残されたくなければな!」
その背中にイザベラが最後の言葉をかける。
それは、ハルケギニアの未来のために突き進んできた男への餞別。
その言葉にヴィットーリオは手を上げて応える。
「さて、最後の仕上げといこうか」
ヴィットーリオが去り、外国勢力の排除は完了した。
後は、裏切り者が引き入れた国王暗殺部隊を制圧すれば今回の戦は終わりだ。
「お前達、玉座の間に急ぐよ!」
元素の兄弟を引き連れて、王宮の中へと戻っていく。
護衛として残してきたヴラドのことは信頼している。
それでも、不安なのは王である父親が壊れているからだ。
自らの死を望んでいるジョゼフがシャルロットに殺されるのを良しとすれば、守りきれるものではない。
「大丈夫…お父様のターゲットは私になったはず。
今更、シャルロットに殺されようなんて思うはずがないんだから」
そう呟くイザベラを元素の兄弟達が心配そうに見守っていた。