3日に1度は投稿したい(儚い望み)。
それは甲高くうるさいセミ達の声が至るところから聞こえてくる、蒸し暑い夏の夕方のことだった。
自宅前の道路にある古びた電柱の下。そこに
「……んぁ?」
木の枝が絡まったボサボサの黒髪に、土と泥にまみれ汚れた体。痛々しい擦り傷や切り傷だらけの手足に、首に巻かれたボロボロの白いマフラー。
電柱の側に駆け寄った俺は、倒れていたそいつを
「……マジか」
自分でもにわかには信じ難いことなのだが、どうやら俺はその日──
「……ぐふっ…………か、かみしゃま……」
──1人の小人を拾ってしまったようだ。
学校帰りに自宅前の道端で小人を拾った……いや嘘とか冗談じゃなく、マジで。放置するわけにもいかない気がしたので、取り敢えず自宅に持ち帰った。
一瞬、[誘拐]の2文字が頭をよぎったがこいつは小人。捨て犬を拾ったみたいなアレで罪には問われない……はずだ。
「誰もいないけどただいまぁ~」
自宅の2階にある自室の扉を開けた俺は、右手に持っていた学生カバンを雑にベッドの上に放り投げた。ボフンボフンとベッドを何度か跳ねるカバン。カバンが無事にベッドの上へ落ちたことを見届けた俺は、次に左手の平の上に寝かせてあった小人に視線を向ける。
「小人にも雄雌があるかどうかは知らねぇけど、こいつ見た目的には雌だな」
俺はそう呟くように言いながら、小人の身なりを観察する。
肩まで伸ばされた黒髪に、女性らしい整った顔つき。膨らんだ胸部に、全体的に丸みを帯びた体。絹のような滑らかで白い肌に、すらりと伸びた両手足。
うん、泥や土で汚れていなければ美少女と言っても過言ではない容姿だ。汚れていなければ……だけどな。
「にしてもすげぇ格好してんなぁ、こいつ。RPG装備かよ」
その体長15センチメートル程の小人は、まるでファンタジーの創作物に出てくるキャラクターの様な格好をしていた。
鉄のような金属で作られた蝶を模した髪飾りに、同様の金属で作られた胸当て。何かの皮革で作られた服に、腰に装着された皮のベルトと皮のポーチ。首に巻かれたボロボロの白いマフラーに、背に携えられた2本の剣。
『いったいどこのファンタジー世界の冒険者だよ』と、俺は心の中でツッコミを入れる。
「っと、観察してる場合じゃねぇな。早く手当てをしてやらねぇと……」
素人目だが小人の怪我はそんなに深く無いように見える。見える範囲の怪我はどれも軽い擦り傷や切り傷だ。これなら俺でも簡単な処置程度ならしてやれる。
「体内の怪我は知らん。俺、内臓とかよく知らねぇし……」
そう言いながら部屋の隅にある学習机へと歩みを進めた俺は、空いている右手で机の上の片付け始める。
開きっぱなしの辞書に、シャーペンやボールペンが所狭しと詰め込まれた筆箱。くしゃくしゃにされた数学プリントに、角が大きく欠けた長方形の消しゴム。
俺はそれらを一纏めにすると、すぐ下の床に乱雑に置いた。ドンッと結構重めの音が部屋中に鳴り響く。
「あ~、後でちゃんと課題もしねぇとなぁ……マジ面倒くせぇ」
綺麗になった木製学習机の上に、小人を優しくゆっくりと置く。
小人は未だに目を覚まさない。さっきから割と独り言や物音なんかでうるさくしているのに、こいつは一向に目を覚ます気配が無い。
胸部も上下に動いているし、呼吸音も聞こえるから死んではいないと思うが……まぁ、そこら辺は気にしても仕方ないか。
「えっと……救急箱どこに置いてたっけなぁ」
部屋中の引き出しを開けながら、俺は救急箱を探し回る。
必要な物は除菌用の消毒液と包帯、絆創膏と傷薬……念のため骨折固定用の
相手は小人。俺に……いや、人類にとっては未知の生物だ。どんなことになるか分からないから、出来る限りの前準備をしておかないと。
「ラー油、アロエ、唐辛子、わさび……オレンジジュースはどうだろう」
どこぞの『ゆっくりしていってね』が決め台詞のお饅頭さん達は、確かオレンジジュースでの回復を可能としていたはずだ。流石はインターネット黎明期から活躍する人気ジャンルの2次創作。デフォルトでオレンジジュースで回復する程度の能力を保持しているとは……凄まじいな。
「いや待てよ……お饅頭さん達にそんな設定あったか?」
吸血鬼が血を飲んで回復するように、人間が水を飲んで回復するように、お饅頭さん達はオレンジジュースを飲んで回復する……本当にそうだったか?
「あ~、これアレだ。3次創作や4次創作の独自設定を公式設定だと勘違いしているやつだ……多分」
よし、オレンジジュースはやっぱり無しにしよう。やはりここは一寸法師の物語に倣って、打出の小槌という名のゴムハンマーを──
「あ、れ? ここは……っ」
瞬間、学習机の方から声が聞こえてきた。少女のような可憐な声。
つい反射的に、俺は声の発生地へと視線を向けてしまう。
「どこ……」
そこには──完全に目を覚まし、上半身を起こした状態で周囲を見渡している少女がいた。自身の後頭部を触りながら、今の状況を確認しようとしている小人がいた。
「…………日本語って……マジか」
小人の口から出てきた突然の日本語に唖然となる俺。不安そうな表情をその顔に浮かべながら、首に巻かれた白いマフラーをギュッと握り締める小人。
そんな2人の視線が今──重なった。
「……カミサマ!?」
「……はい?」
「大きな体、見たこと無い服装……やっぱり!!」
瞬間、部屋中に小人の大きな声が響き渡る。
「あなた、カミサマですよね!?」
そう叫ぶように言う小人の表情は、先程とは打って変わって輝いていた。宝くじを当ててしまった時のような、新たな希望を見つけてしまった時のような……そんなキラキラとした表情。
「ようやく見つけました!! カミサマ!!」
そう言いながら小人は四つん這いの姿勢でこちらに向かって来る。
あ、ちょっと待てその先は──
「私を……私を弟子にしてくださ──」
忠告の言葉を口から発しようとしたその瞬間だった。こちらばかりを見ていた小人が学習机の上から滑り落ちた。
「へっ?」
「あっ」
両者の口からほぼ同時に間抜けな声が発せられる。
「えっ、なにっ!?」
次の瞬間、今度はガチャンという音が部屋中に響き渡る。それはペン同士が強くぶつかり合う音だった。
俺は落ちた小人を見て、安心と困惑が入り交じったため息を吐く。
「ふっ……ぐぅ…………」
「……なんだこいつ」
床に置いてあった筆箱の上で目を回している小人を見ながら、俺は静かにそう呟いた。
〔0〕小人にカミサマと呼ばれた青年
この物語の主人公。
頭のネジが数本ぶっ飛んでいる。
この前、違法サイトで漫画を読んでいたらワンクリック詐欺にあった。アホだね。