布製のマフラーやRPGキャラクターのような装備を身に付けている時点で、ある程度の知能を有していることは予想出来ていた。
そしてモノ作りが出来る程度の知能があるのなら、コミュニケーションを取ることが可能なのではないかということも考えていた。言語の壁を考慮した、ジェスチャーや絵などを使用する非言語のコミュニケーション。
しかし……
「……日本語でのコミュニケーションが可能だなんて、誰も予想出来ねぇよ」
筆箱の上で目を回しながら倒れている小人の頬を、右手の人差し指で軽く押しながら俺は静かにそう呟いた。
「ふにゃ……うぐぅ…………」
「てっきり、独自の言語的なものを使っているのかと……」
コビト語とか、コビット語とか、コンビット語とか。
まぁ、良い意味での予想裏切りだから別にいいか。日本語での意志疎通が出来るのなら、それに越したことはない。
一瞬、日本語に限りなく似た意味のない鳴き声や日本語に限りなく似た同音異義言語だとも考えたが、よくよく考え直してみればそれはなかった。
『ようやく見つけました!! カミサマ!!』
『あなた、カミサマですよね!?』
『私を……私を弟子にしてくださ──』
もしこれが意味を持たぬ鳴き声や同音異義言語だった場合、俺はこいつを問答無用でトイレに流す。
「おい、起きろ。お前には聞きたいことが幾つもある」
「あいたっ!!」
瞬間、俺は小人の小さな額に軽いデコピンをお見舞いした。可憐で大きな声が部屋中に響き渡る。
起きてすぐにあれだけの大声を出せる元気があるんだ。もう丁重な扱いは必要ないだろう。
「うぁっ……あれ? ここは……」
「既視感を感じられる台詞をどうも。ここは俺の家、お前が道端で倒れていたから連れてきた」
「っと……え?」
「内部的な痛みはあるか? 頭痛とか、鈍痛とか……何か体に違和感はないか?」
再び目を覚ました小人は、ゆっくりと己の上半身を起こす。
小人の体に付着していた泥や土。それらが擦りついてしまった筆箱を見て、俺は軽いため息をひとつ吐いた。
こんちきしょう……洗い物が増えやがった。
「……あっ!! カミサマ!!」
「はいストップ、騒ぐな騒ぐな。今はお前の治療が先決だ。言いたいこともあるだろうが、今は俺の質問に答えてくれ……話は治療の後で聞いてやる」
また大きな声で騒ぎ始めた小人を、俺はすぐさま言葉で制止した。それは小人の事情も、倒れていた理由も、怪我を治療した後でゆっくり聞けばいいと考えたからだ。
しかし、小人は止まらなかった。
「ごめんなさい!! 気絶してました!! まさかあんなところに崖があるなんて……本当にごめんなさい!!」
「崖じゃない、学習机だ。それより何か体に違和感は──」
「助けてくださりありがとうございます、カミサマ!! 私はロクア!! ロクア・ネクステージといいます!!」
「俺はカミサマじゃない、人間だ。それよりも体に──」
「カミサマの弟子になるために、こことは違う世界から来ました!!」
「俺の言葉を遮るな。から──」
「だからどうか、私を弟子にしてください!! お願いします!!」
「いやだから、俺の──」
「何でもしますから!! 何でもやりますから!! 何でも頑張りますからっ!!」
「ちょっと落ち着──」
「だからどうか!! 私を弟子にしてください!!」
「いや無理──」
「お願いします!!」
「何で──」
「お願いします!!」
う゛る゛せ゛ぇ゛な゛ぁ゛こ゛い゛つ゛!!
全っ然、俺の話を聞きやがらねぇし!! というか別の世界から来たってどういうことだよ!!
俺は静かに右手の親指と中指に力を込める。
「やっとここまで来アイタッ!!」
俺は小人の額に軽いデコピンをお見舞いする。
そこそこ痛かったのか、小人は声を上げながら額を両手で押さえた。
「ちょっと黙ろうか」
「……お願いします!! どうかアイタッ!!」
俺は小人の額にデコピンをお見舞いする。
小人の目に涙が溜まり始める。
「………………」
「……私を弟子にアイタァッ!!」
俺は小人の額にそこそこの力を込めたデコピンをお見舞いする。
小人の目から大粒の涙が流れだす。
「………………」
「……お願イッタァァアッ!! イッタァァァァァアア!!」
俺は小人の額に相当の力を込めたデコピンをお見舞いする。
小人は大声を上げながら、筆箱の上で両足をジタバタと暴れさせる。
「………………」
「……あ、あのぉ…………」
「……どうした?」
「……おでこが、痛いです」
「そうか、ならよかった」
やはり暴力、暴力は全てを解決する。
額を押さえ大粒の涙を流す小人を見ながら、俺は心の中で静かに暴力を褒め称えた。
〔1〕倒れていた小人
名前 [ロクア・ネクステージ]
この物語の主人公 2。
人の話を聞かないしうるさい。こことは違う世界からカミサマとやらの弟子になるために来たらしい。
汚れているせいかちょっと臭い。