さて、ようやく二人になったな。シオンが中々出ようとしないので大変だった。
ベッドに座り、隣にシンを座らせる。
「なぁ、前世では何してたんだ?俺はゼネコン勤務だった」
「……あの世界にゼネコンなんて職業は無かろう」
「は?」
シンはポカンと口を開けている。え?ゼネコンが無い?
「お前どこにいたんだ!?」
「日本だ。だがあそこも核の餌食よ」
「核?」
「あぁ。核戦争が起きただろう?」
「……はぁあぁあああぁぁ!?核戦争ォ!?」
「なんだ、まさか知らなかったとは言うまい。なんせ世界中に降り注いだのだからな」
「ふざけんなよ!核が落ちたのは日本だけだろ!」
「それはずっと昔の話だ」
「なぁ、話が食い違ってないか?」
「どういう事だ?」
俺は、頭の中で考えた事をシンに伝える。
「だからさ、俺は核が落ちなかった世界線の人間で、お前は核が落ちた世界線の人間って事!」
「……そんな事があり得るのか?」
「分からない。でもこうでも言わないと辻褄が合わないだろ?」
「それもそうだな。ではそういう事にしておこう」
「軽いな……」
にしても世界中で核戦争……俺の世界でもあり得ない事では無い。俺が今こうしている間にも、あっちでは未曾有の危機に直面しているかも知れない。まぁ今の俺にそれを確かめる方法は無いのだが。
「まー、一旦それは置いておこう。他にも聞きたい事が沢山あるしな」
「それは俺も同感だ。まずお前、人間では無いだろう」
「俺はスライムさ。今は人間態だけどね」
「スライムが主か……想像がつかん」
「いや、今お前の横にいるんだって。俺は素手でソウエイの粘鋼糸を切る方が想像つかないよ」
「そういうものなのだ」
「頼む、どうやったのか教えてくれ!」
「……」
シンは黙りこくる。だが、俺がしつこく頼み込んだのを聞いて、仕方なくという感じで教えてくれた。
シンは「南斗聖拳」という外部からの破壊を真髄とする暗殺拳の使い手で、流派は「南斗孤鷲拳」というらしい。他の流派とは違い、相手を切り裂くのでは無く貫く事に特化した流派という事。南斗聖拳は陽の拳で、他にも百八派程の流派があったらしい。結構派生してるんだな。
「ふ〜ん……そうだ、『六聖拳』ってのはなんだ?」
「そこも聞くか。六聖拳は俺の南斗孤鷲拳を含め、南斗聖拳の頂点に立つ五つの流派だ」
「五つ?」
「あぁ。内の一人は『慈母星』を持つ女性で、拳は使わん」
「なる程。じゃあ他の流派は?」
「本当に遠慮が無いなお前は。……『南斗孤鷲拳』、『南斗水鳥拳』、『南斗紅鶴拳』、『南斗白鷺拳』、そして最後に、南斗聖拳最強の『南斗鳳凰拳』。それぞれの伝承者はその拳に対応する宿星を持つ。俺は……愛に殉ずる星、『殉星』だ」
「……」
「貴様、なんだその『嘘だろ』と言わんばかりの目は!!」
「だって、ねぇ」
その口調と性格から愛に殉ずるとか言うキーワードが出てきても信じる気にはなれない。しかもちょっと間を開けて言ったのだから、自分でも恥ずかしかったんだろう。
「……ここは違う」
「?……何がだ?」
突然、シンが話し始めた。その顔には、どこか虚しさが感じられた。
「あの世界には、法や秩序は存在しなかった。力こそ全て。弱き者は生きる権利すらも奪われて死にゆく……そんな過酷な世界だった」
「……」
「……俺には想い人がいた……だが、彼女……ユリアは既に、俺の友との将来を誓っていた。今思えば馬鹿な話だ。俺は、あんな戯言にまんまと乗せられたのだからな。俺は奴からユリアを奪い取った。奴の体に傷を付け、ユリアに『自分を愛する』と誓わせた……」
「力こそ全て、だからか」
「あぁ。その後、俺は持ちうる全てをユリアに与え続けた。そうする事で、あいつが俺に心を開いてくれると思ったから……最後には多くの血を流し、『サザンクロス』という街をプレゼントした。それでも、それでもユリアは……俺に心を開く事は無かった。あいつの心にはいつでも奴がいた。そして何より、俺の贈り物の裏に流れた血を嫌ったからだ」
シンは立ち上がり、窓の外を見た。そこには、
「ユリアにあげた宝石も、ドレスも、そしてあのサザンクロスも……この豊かな景色に比べれば、全てはただ虚しい物に過ぎなかったのだ……」
「……なぁ、シン。それは、ユリアさんの為だけにやった事なのか?」
「そうだ。今更非難されても、何も文句は言えん」
「確かに、お前の行動は褒められた物じゃ無い。でも、ユリアさんへの愛は本物だったんだろう?」
「……」
「なら、これからやり直せばいいじゃないか。もっと良い愛し方を見つけるんだよ。それを見つけたかったから、お前はこの世界に転生してきたんじゃ無いのか?」
「……愛し方、か……少し、心が軽くなった気がする」
「それなら良かった。まぁ、ゆっくりと見つけて行けばいいさ」
こちらを見るシンの顔から、少しだけ陰りが取れた気がする。新たなる決意を胸に、一度墜ちた殉星がまた眩く輝く事を祈った。