シンの出発から数時間。突然シンから連絡が入った。
『聞こえるか?』
「あぁ。何か進展はあったか?」
『進展も何も、もう既に終わった。やはりリーダーは俺の元部下だ』
「え、もう終わったの?」
『そう言っているだろう。そいつを連れて帰って来る』
「おう。頼んだぞ」
やっぱり元部下だったのか。素直に従ってくれて何よりだ。俺はゆっくりと帰りを待つ事にした。どんな男か、少し気になるな。
◇ ◇ ◇ ◇
「皆さん、私はKINGの部下、ハートと申します。よろしくお願いしますよ」
「でっけ〜……」
帰って来たは良いが、このハートという男、デカい。ゲルドと同じかそれ以上の巨漢だ。上半身はサスペンダーのみで髭を生やしてニンマリと笑っているその姿は、まさに不審者。通報間違い無しだ。にしてもなんかトトラブルが起きそうな予感……。
「まるでゲルドさんみたいっすね……」
「ほう、人を豚扱いするとはいい度胸じゃないか!」
「……ほう」
はいトラブル勃発ゥ!後でゴブタ君は説教コース確定だね!お疲れ様!
「おいゲルド、ここではあんまり……」
「リムル様、安心してください。闘技場がほぼ完成していますので、そちらでやります」
「そういう意味じゃねー!」
「リムルよ、諦めろ。ハートは態度こそああだが俺と同じく世紀末の住人。道徳は基本的に無い」
「おい、ハート。貴様も男と言うなら、俺の挑戦を受け取るだろうな」
「えぇ。勿論」
勝手に話が進んでる……もういいや!この際ハートにはここの上下関係をしっかり教えてやろう。そうしよう。
「ゲルド、殺すなよ?」
「承知致しました。殺す寸前までにします」
「……」
ゲルドと小声で会話しながら、闘技場へと向かった。外装と試合会場は完成しており、後は観客席の整備だけだ。しばらくして現れたゲルドは……ガチだ。鎧を着込み、
対するハートは余裕の態度を崩さない。
「おぉ、そんな物騒な物を持って。怖いですねぇ」
「……」
「なぁ、シン。ハートって強いのか?」
「俺の部下の中では一番強い。だが、刃物相手だと相性が悪いな」
「だよなぁ……無防備すぎるもんな」
ハートは素肌のみ。ゲルドの肉切包丁が命中すれば一撃で致命傷になる。殺さないと約束しているが、不安だ。
「いくぞ」
「どこからでも、どうぞ」
ゲルドがゆっくりと近寄る。対してハートは未だに腕を組んだままだ。そして間合いに入った瞬間、肉切包丁が横薙ぎに振るわれる。そしてハートの肉を捕らえ、そのまま切り裂く……とはいかなかった。なんと、ハートの肉が肉切包丁を柔らかく包んでしまったのだ。
「何!?」
「フフフ……私は『
「くッ……」
ゲルドは肉切包丁を抜こうとするが、ハートの肉にガッチリ捕まえられて中々抜けない。
「あなたの自慢の包丁など、私には通用しないのですよ……フン!」
「グアッ!」
肉切包丁に意識が向いていたゲルドの頭部に、ハートの張り手が炸裂する。その力は凄まじく、あのゲルドを地面に叩きつけてしまった。
「では、この包丁は頂くとしましょう」
ハートが腹から肉切包丁を抜く。そして、地面に倒れているゲルドに向かい振り下ろした。だがゲルドはそれを片手で受け止める。
「何!」
「貴様よりはその武器を扱い慣れているからな」
ゲルドは肉切包丁を掴んだまま立ち上がり、空いてる右手でハートに殴りかかった。しかしハートはそれを掴み取る。
「私もある程度は経験がありましてね……力比べと行きましょう!」
「望む所だ……!」
互いに真っ向からの力比べ。しかし凄いな。人間がゲルドと互角の力を発揮するとは。
「やっぱお前ら人間じゃなくないか?」
「失礼な。俺も奴もれっきとした人間よ」
「人間……?」
俺の中で人間についての定義が揺らいで来た。かくいう俺も元人間だが、あれが同じ種の生物と言われると信じきれるか不安になってくる。
「ヌゥゥ……」
「どうした?立派なのはその腹だけか」
だんだんとハートが劣勢になり、体が後ろに仰け反っている。やはり人間と魔物じゃ分が悪いか?
「……バカめ!」
「なッ!?」
その瞬間。ハートはそのまま地面に倒れて行き、ゲルドの頭を自身の腹に沈めた。そして素早く胴体に手を回し、体に埋め込んでいくと同時にガッシリと固定する。
そして倒れ込んだ反動でハートの体が空高く跳ね上がった。
「そんなのアリかよ!?」
「あれもハートの体質ならではの技だ」
「えぇ……」
困惑しつつも試合に目を戻すと、空中でハートが半回転し、ゲルドが下になった。
「その鎧ごと、潰れてしまいなさい!!」
そして、二人分の体重を乗せて勢い良く落下していく。
ドゴォ!!
地面は衝撃でひび割れて、砂煙がもうもうと舞った。そして砂煙が晴れると同時に、地面に倒れるゲルドと、笑みを浮かべて立つハートの姿が見えてくる。
「フフフ、如何に魔物だろうと私には敵いません……グッ!?」
「危なかった……だが、俺を倒すには至らん!!」
「な、何故……」
「そうだな……貴様の主人の言葉を借りるなら、『執念』が足らんな」
ゲルドが起き上がり、ハートの首根っこを掴む。必死にもがくハートだが、最早こうなってしまっては打つ手は無い。右手が構えられ、ハートの顔面に拳が飛んだ。
「ゲルド!」
「シン?」
シンの声に、ゲルドが拳を止める。
「そこまでにしておいてやれ。そいつは厄介な性格でな。そうなってしまっては、そいつは所構わず暴れる!無礼なら俺が詫びよう」
「……今回は貴様の主人に免じて許そう。だがこれだけは言っておく。俺は豚ではない、猪だ!!!」
「そこかよ!」
ゲルドの密かなこだわりが発覚した瞬間だった。
ハートのユニークスキル。自身の腹の大きさを超えない物なら、あらゆる物を柔らかく包んでしまう。また、その状態で腹に力を入れる事で肉で敵を圧殺する事も可能。