「……どうした?」
シンが道端を歩いていた時、先程別れたアネスからの通信が入った。歩きを止め、水晶を見る。
『ハァ、ハァッ……!助けて……!』
「!?」
『今、追手を巻いた所です……西の門の近くに隠れてます』
「分かった。すぐに向かおう」
シンはそれだけ言うと水晶をしまい、走り出した。心臓の鼓動が高鳴るのが感じ取れる。
(あの時……ユリアが身を投げた時と似ている……)
それは、不安による高鳴り。一刻も早く彼女に出会う為に、シンは更に速く走った。
◇ ◇ ◇ ◇
やがて西門を出て、辺りを見回すシン。だが見えるのは往来する人々のみで、アネスの姿は全く見えなかった。だがしばらく探していると、草陰から彼女が出て来るのが見えた。急いで側に駆け寄る。
「何があったのだ?」
「ここじゃまた追手に見つかるかもしれません……何処かいい場所はありませんか?」
「……俺が宿泊している宿がある。そこに行こう」
シンはアネスを連れて、宿屋に向かい、自室に入った。椅子に座ったアネスが話し始める。
「……私は今、この森林の北西部にある、小さな古城に住んでいるんです」
「古城だと?」
「元々は遠くにある小さな農村で暮らしていました。でも、魔物の襲来で僅かな生き残りを残して私の故郷は壊滅しました。……今の古城を見つけてくれたのは、私の友です」
「……」
「でも、彼は魔物の事を憎んでて……各地で同じく魔物を恨む人々を集め、あの古城に住みついていた魔物や辺りの魔物を殺し尽くし、人間の住処を強引に創り出しました。……でも、あの人からは笑顔が消えました。今のあの人は、魔物への憎しみと、村を護れなかった自分への怒りだけなんです」
「……待て。では何故お前がこの国に来れたのだ?」
「それは私から言ったんです。魔物の国に潜入して、どんな国か探ってくる、と」
「そういう事だったのか」
「この国の魔物は私が知る魔物とは違います。それで、きっとここならあの人も笑顔を取り戻せると思って……」
「この国の事を言ったのか」
「はい。でもあの人は魔物と共存しようとする私を『裏切った』と見なし、追手を差し向けて来ました。それから逃げ続けて、今に至ります」
シンは考え込んだ。自分はこの世界へ転生したばかり。魔物への憎しみだとか怒りだとかは、自分には分からない。もしその男を自分が説得するとなっても、ただ怒りを買うだけだろう。
「……俺に考えがある。少し待っていてくれ」
そう言い残し、シンは部屋を後にした。外に出て、水晶を取り出す。
『どうした?』
「少し話したい事がある……悪いが、こちらへ来てくれないか。今宿屋の前にいる」
『分かった。丁度試合も終わったとこだしね。すぐ向かう』
「助かる……うおっ!?」
ふと後ろを向くと、そこには既にリムルが立っていた。シンにはその原理は分からなかったが、何かろくでも無い手を使って来たのだろうと納得しておく事にした。早速部屋にリムルを案内する。アネスは驚いていたが、すぐに落ち着いて事情を話し始めた。
「……なる程な」
「魔物であるお前なら、その男を説得出来るかも知れないと思ったのだ」
「……幹部とかに任せるのは?」
「アネス。その男は魔物の事をどう言っている?」
「多分暴言を吐いて問答無用で襲いかかります」
「だそうだ」
「うーむ、確かに部下達には無理な話だ……」
「……お願いします!あの人も、話が分からない人じゃ無いんです!」
「でも俺も魔物だし……」
するとアネスはリムルの手を握り、涙を流しながらリムルを見上げた。
「う〜〜〜〜〜む……良し、説得だけだからな!すぐに終わるだろうな!」
(この女……中々に侮れん……しかしこの魔王……)
リムルが露骨にニヤけている様子を、シンは少し冷ややかな目で見ていた。
「なんだその目!?」