魔法少女『シリアル☆キラー』   作:哀上

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5話 ファーストペンギン

『5話 ファーストペンギン』

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ファーストペンギンって言葉、何処かで見かけた事はあるだろうか?

天敵がいるかもしれない海に真っ先に飛び込む勇敢なペンギンを指す言葉で、そのペンギンは危険を犯す代わりに餌を多く獲ることが出来る。

転じて、リスクを犯してでも挑戦するべき的な意味で使われる言葉である。

 

ただ、これは嘘なのだ。

有名な話ではあるが、ファーストペンギンは別に勇敢だから飛び込んだのではなく単に生贄として突き落とされていただけ。

真に賢いのはその様子を見て安全に飛び込む、言わばセカンドペンギンである。

 

でも、これも違うらしい。

ペンギンの習性として、一匹飛び込むと群れ全体が一斉に飛び込むので、安全を確認してから飛び込むセカンドペンギンなんてのは存在しない。

そもそも、ファーストペンギンも突き落とされた訳では無くただミスって落ちただけだそうだ。

 

結局、ファーストペンギンなんてのは不幸にも最初の犠牲者になったと言うただそれだけの存在なのだ。

 

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「いらっしゃいませー」

 

「これと、あとこれください」

 

「袋ご利用ですか?」

 

「いえ」

 

「334円になります」

 

「はい」

 

「166円のお返しになります。ありがとうございましたー」

 

 コンビニで、カッターといくつか適当に文房具を買った。

 カッターは一本だけ。

 何本も買ったら不自然に思われてしまうかもしれないから。

 

 ちょっと、自意識過剰なのかもしれない。

 でも、それぐらいでちょうどいいんじゃないかなとも思う。

 どうせ大した手間でも無いし、ね?

 

 さて、次は何処に行こうか……

 木を隠すなら森の中。

 田舎よりは都会の方が目立たないかと思って移動してきたけど、何だかんだ5大都市は周りきってしまった。

 

 22キルで5大都市制覇、ちょっと効率が悪いかもしれない。

 でも、仕方ない。

 最初の方は私も手際が悪かったのだ。

 

 だから、すぐ移動していた。

 些細なミスは何度もしたし、運良く致命傷にこそならなかったが大きなやらかしもいくつかある。

 県を跨ぐと警察の管轄も変わるらしい、そんな薄い知識もそれを後押しした。

 

 初めての時なんて最悪だった。

 当時はナイフを使っていたのだが、刺したところを見られた上に相手を殺し損なう始末。

 今思い出しただけでも情けない、本当に黒歴史だ。

 

 私の人生が、あそこで終わっていてもおかしく無かった。

 ただの殺人未遂。

 未成年のそれは多少はセンセーショナルな出来事なのかもしれないが、きっと本名が報道されることすらなく数日で風化してしまう程度のものでしかない。

 

 私は塀の中に閉じ込められ、出てきた時には何年経つか。

 そこから何が出来るのか。

 そもそも、一度失敗した自分がそこから何かしたとして私はそれに満足できるのか。

 

 私最大のピンチだったと言っても過言ではない。

 事前に勉強はしていたのだが、やはり実践と練習は違うと言うべきか。

 ま、今となってはいい経験だったと言えるかもしれない。

 

 あの一件以来、そうやって殺し損ねるということも無くなった。

 百聞は一見にしかず、百見は一触にしかず。

 もう22触もしたし、220,000聞分は経験値を積んだ訳だ。

 

 100で1レベ上がるとして……

 レベル2200、だ。

 ゲームによってはだが、カンストと言ってもあながち間違いではない数字である。

 

 その失敗から、ナイフみたいな分かりやすい武器はずっと避けてきた。

 何処まで捜査されてるのかも不明だったし、そんなあからさまな凶器なんて補充もしづらかったから。

 だから、カッターにしたのだ。

 

 コンビニを見つけるたびに、こうやってカッターと文房具をいくつかセットで買う。

 怪しまれにくいだろうという、ただの勝手な想像だ。

 結局、指名手配みたいな分かりやすい事にはならなかったから、どの程度意味があったのかは不明なのだけど。

 

 まぁ、これで捕まる事なく来れたわけでそれほど的外れってわけでは無かったと思う。

 ナイフなんかと違って、購入履歴なんてのも漁り難いだろうし。

 カッターなんてどこにでも売ってる物だから、片っ端から洗っていく様なのもかなりの手間だ。

 

 頻繁に買い替えるモノでも無いが、二度と同じ店に行かなければ違和感も覚えられない。

 その結果として魔法少女にとどめを刺し損なった訳だが。

 ナイフからカッターに変えそこそこやって来れてたのが、今度はその影響で……と。

 

 ……なかなか上手くは行かないものだ。

 

 やっぱり一本ぐらいは持っておくべきだったのだろう。

 どうせ大きく移動するし、買うならここか。

 そもそも、ナイフなら本当に殺せたのかって疑問もあるけれど。

 

 今度こそ、指名手配だろうしなぁ。

 動きにくくなる。

 流石に指名手配までされたら、いくら男の警戒心が低いと言ってもこれまでの様に適当に男を引っ掛けて……とは行かなくなるかもしれない。

 

 あ、そうだ。

 そうなる前に……

 

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??side

 

「あの気狂いはまだ見つからんのか!?」

 

「申し訳ございません。総力を持って探させているのですが……、我々の勢力の外に出ている可能性も高く」

 

「言い訳は結構!」

 

 胸に刻まれた傷が疼く。

 もう、一年以上も前だろうか。

 思い出しただけで、頭が沸騰しそうだ。

 

 平凡な少女。

 いや、容姿で言えばとても美しい少女だった。

 女に困ってない俺が目を奪われるぐらい。

 

 でも、それだけだ。

 別に特別な力は無かった。

 少なくとも、俺は感じなかった。

 

 初対面、と言っても街中ですれ違っただけだが。

 人通りこそほぼ無い様な通りではあったが、別に特別なことなんてない。

 ただの道だ。

 

 出歩けば毎日何人もの人間とすれ違う。

 俺に限らず、誰もがそうだ。

 その少女もその大勢の人間のうちの1人だった。

 

 すれ違いざま、わずかに違和感を感じた。

 嫌な予感。

 俺が裏社会で今の地位まで上り詰めて来れたのは、自身の能力もあるだろうが、その勘に素直に従ってきたからという面もある。

 

 その少女に何かあるとまでは思わなかった。

 ただ、何処かから狙撃されるとか……

 自分が狙われる心当たりは、十分すぎるほどにあった。

 

 だから、一応咄嗟に体を捻った。

 それで十分だと思った。

 その程度の予感しか感じなかったから。

 

 次の瞬間、俺の胸に穴が空いていた。

 

 自分の身に起きた現象に理解が追いつかなかった。

 少女の手にはナイフ。

 それが皮膚を切り裂き、肋骨によって止められている。

 

 体を捻らなかったら、おそらくは心臓にまで達していただろう。

 そんな予感がある。

 これはそのレベルの殺しの技だ。

 

 さっきまで大した警告もしなかった勘が、最大限に警鐘を鳴らす。

 どう考えても遅い。

 だが、自分に文句を言っても仕方がない。

 

 初めの不意打ちで殺されなかった時点で、俺の勝ちだ。

 おそらくは腕利きの殺し屋なのだろうが、正面戦闘で俺に敵う訳がない。

 能力を使おうとして、

 

 ……気がついたらベットの上だった。

 

 何をされたのかは不明。

 治療した部下の説明によれば、「ボスが能力を使おうとして流れたエネルギーが完璧なタイミングで塞き止められてしまい、結果それが行き場をなくしてショートしたのかと……」とのこと。

 

 部下としても、あくまでその可能性が高いというだけの話らしい。

 原理的には可能でも実際には滅多に起こらない。

 ましてやそれを狙って起こせる人物なんて居るとは思えない、と。

 

 説明を聞いた上で意味不明。

 理解出来た事といえば、俺がナイフ一本で負かされたと言う事実のみ。

 相手は、魔法少女でも無ければヴィランでも無いのだ。

 

 ただの人間。

 しかも、成人もしてない様な少女。

 確かに技は見事ではあったが、遅れをとっていい理由にはならない。

 

 彼女は部下を見るなり一目散に逃げていったらしい。

 やはり、正面戦闘するタイプじゃないのだろう。

 と言っても、別に俺を殺せなかった訳ではないはずだ。

 

 奴が安全策を取っただけ。

 俺が生きてるのは運が良かったから。

 それだけだ。

 

 胸の傷だけではない、俺のプライドは大きく傷つけられた。

 それに、組織の統治にも問題が出る。

 ヴィランは面子が命、舐められたらお終いなのだ。

 

 それが少女に刺された、ましてや殺されかけたなんて……

 

 情けないなんてレベルでは済まされない。

 なんとしても見つけ出し、この手で殺さなければ。

 示しもつかなければ、感情の行き場もない。

 

 少女だけではない、殺しの依頼をした相手にもしっかりお礼をしてやらないと。

 ここらのヴィラン組織か、土地の交渉が長引いていた狸親父か、まさか昔殺してやった魔法少女の遺族が依頼した何て事は無いだろうが。

 少なくとも、通り魔的犯行では無いだろう。

 

 心当たりを一通り調べる必要がある。

 どちらにしろあれほどの殺し屋ならすぐに見つかる、そう思っていた。

 今まで知らなかった自分が恥ずかしいぐらいの大物のはず、と。

 

 だが…… 

 

「クソが!!」

 

 机の上にあるのはとある少女の捜索願。

 先進国だ何だと言われてはいるが、この国の行方不明者は案外多い。

 これもその内の1人だ。

 

 俺があの時見たのと同じ、容姿の整った少女である。

 思い出したくもない記憶を辿り、必死に個人を特定した結果がこれ。

 分かったことといえば、行方が分からないって事だけ。

 

 依頼した人間も、

 彼女の居場所も、

 裏での名前も、

 

 ……如何ともし難い、な。

 

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