背伸びした奴が本物に分からされる話   作:パレード

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パルデア編
始まりと終わり


 

「はぁ……」

 

 考え事をしていたら、自然と溜め息が漏れた。

 

 実際ここには先程着いたばかりだが、頭の中では随分前からこの建物の前をウロウロとしている気がする。

 

「ダメだ。あと一歩が踏み出せない!」

 

 その場にしゃがみこんで両手で頭をわしゃわしゃする。

 

 イッシュ地方の頃から積み上げてきた虚飾を捨てて、元の自分に戻ろうと決心したのに、心のどこかでそれを失ってしまうのが怖いのだ。

 

 いい加減にしろ。変わるって決めたじゃないか。今までを全部捨てて、気楽に生きていたあの頃に戻るって決めたじゃないか。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 その場にしゃがみ込んでいたので誰かが心配した様子で声をかけてくれた。

 

 いけない。周りに迷惑をかけるのはダメだ。

 

「大丈夫です。ありがとうございます」

「それならいいのですが……」

 

 パンと両頬を叩き、気合いを入れ直す。

 

 心の中で、俺なら行ける。と何度も何度も言い聞かせる。

 

 落ち着いたらスマホを取り出し、ある人物に電話をかけた。

 

「アオイかい?大事な話があるんだ」

『…………!?』

「あぁ、2時間後にアカデミーの前で、ってそんな所じゃ恥ずかしいって?」

『…………!!』

「じゃああそこはどうだい?君がミライドンと出会った砂浜」

『…………!』

「くれぐれも遅れないでくれよ」

 

 通話が切れて、はっと我に返る。そうだ。もうこんなキザっぽい喋り方をしなくてもいいのか。ポケットからシワだらけの5000円札を取り出し、意を決して建物の中に入る。

 

「いらっしゃいませー。今日はどうしちゃいます?」

「えっと、髪の染料をおとしたくて」

「ふむふむ。お客様の髪の毛の具合だと、お代は6800円になりますね!」

「うぇ!?」

 

 待ち合わせの時間に間に合うかな……

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 あまり大きな物は望まない。物語の主人公になりたいとか大層な物じゃなくて、ただ俺は陽キャになれればそれで良かった。今はそうじゃなくなったが、その願いはつい最近まで続いていた。

 

 キッカケはなんだったのかは今はもう覚えていない。

 

 でもコレだけは覚えている。それが俺にとって譲れない物だった事だ。

 

 4歳辺りからだろうか。俺は必死に勉強して、研究して、ポケモンの事や陽キャになる為の振る舞いなどを追求した。

 

 初めこそ内気で根暗だった俺が豹変して心配していた両親や周りの人達だったが、俺が夢を本気で叶えようとしているのを察して協力してくれた。

 

 その過程で真っ黒な髪の毛を金色に染めた。それまでのお小遣いを全部使って、二度と色が変わらない様にしてもらった。これは今までの自分から変わり、本当の陽キャになる為の物だ。

 

 研究して編み出した陽キャ語録ノートに従って口調も変えて、表情を豊かにして、爽やかな好青年を作り上げた。

 

 完璧に陽キャの振る舞いをマスターした後、俺は旅に出た。その時は14歳。きっとこれから、仲間達と切磋琢磨しながら多くの旅のイベントをこなし成長してバッジ7個位まで行くのだろうと期待を抱いていた。

 

 最初に選んだのはポカブ。今に至るまでずっと俺の相棒のポケモンだ。

 

 旅が始まったばかりの俺は、割と弱かった。勝率も3割いってるかいってないか位だったと思う。自分が思い描いた妄想との差に心が折れかけた。

 

 ただただ自分が情けなかった。周りの奴らには才能がどうとか、散々言われた。正直ホームシックになっていた。

 

 だけど夢のため10年も努力して、親から貰った髪の色変えて、本当の自分を偽って、バトルに勝てないから諦めて帰ってきましたなんて、そんな事は到底出来なかった。

 

 周りを見返したくて、陽キャになるなんて願いも忘れて、必死に努力した。

 

 だからがむしゃらに戦って、泥臭くていいから頑張って、ポケモン進化させて、そうしたら自然と俺はポケモンバトルが強くなっていた。

 

 あれだけ連敗した周りのトレーナーどころか、ジムリーダーですら簡単に勝てる様になった。

 

 しかしまたすぐに周りのトレーナーが強くなり、ジムリーダーにも勝てなくなった。なので再度ポケモン達と努力をした。幻のポケモンだって捕まえた。

 

 それを繰り返して行く内に、気付けばポケモンリーグまで辿り着いていた。

 

 この辺りまで来たら流石の俺も目を覚ました。

 

 俺はチャンピオンになりたくて旅に出た訳じゃない。陽キャになりたくて旅に出たんだ。今一度、今までの自分の旅を振り返る。

 

 旅に出て、沢山負けてムキになって、泥塗れで頑張って、ジムリーダー負かした。そんな思い出の中に、自分が憧れていた仲間との旅やバトル。一緒のテントで寝て、バーベキューやって、星空を見上げ夢を語り合い、旅先でのちょっとしたトラブルを解決する。なんて出来事は一切無かった。

 

 ていうか友達すらいない。

 

 俺の旅は一体なんだったんだ。一時の感情に流されて、10年の準備を台無しにしてしまった。

 

 いやだって仕方ないもん。散々言ってきた癖に手のひら返した奴らが、またちょっと行き詰まった瞬間、まぁこの辺が限界よね。だとか所詮凡人よ。だとか言ってきたらムカつくんだもん。

 

 その時の俺は所謂賢者タイムの様な物で、折角ジムバッジを8つ集めたので記念感覚でポケモンリーグに挑んだ。

 

 そしたら俺はチャンピオンになっていた。

 

 何を言ってるのか分からないと思うが、俺にも何が起こったのか分からない。

 

 心のどこかでは期待していたとかは全く無くて、本当にあっさり負けるんだろうなと思っていたし俺もそれを望んだ。ここでボコボコにされて、自分にバトルを諦めさせて欲しかった。

 

 強いて言えば、バトルで手を抜かれる屈辱は知っているので全力で挑んだだけ。

 

 まぁここまで来てしまったのなら夢を諦め、ポケモンバトルに本腰を入れてチャンピオンとして働こう。

 

 なんて考えると思ったら大間違いだ。

 

 サクッとチャンピオンを辞退した後に実家に帰り、そこで新たなる計画を練っていた。

 

 家に帰ったら周りの皆は歓迎してくれた。よくやったとかおめでとうとか、その日は町の皆が盛大にお祝いしてくれた。

 

 故郷での生活は兎に角心地よかった。自分を追い込む事も無く、周囲からの評価に踊らせられる事も無く、のびのびと暮らしていた。

 

「エンブオー」

 

 窓から外で遊ぶ子供達を見ていた相棒に声をかける。返事はなかったが俺の方を振り向いたので話を続ける。

 

「次の予定が決まった。俺、ある学校に入学する事にしたんだ」

 

 俺の次なる計画は学校で青春を過ごす計画だ。

 

 ここから1番近い所はブルーベリー学園だが近すぎて殿堂入りしたばかりの俺の名前は通り過ぎていると考えて却下。

 

 だったら折角だし世界でも最大規模の学校であるグレープアカデミーに入学する事にした。幸い旅の途中で稼いだお金は腐る程余ってる。これだけあればパルデア地方に移住するのも楽勝だろう。

 

「お前はどうしたい?ここにいたいって言うなら無理には連れてかない。もちろん夢の為にはお前がいた方がいいけど、お前の意思を尊重してやりたいんだ」

 

 真っ直ぐとエンブオーを見つめると、言葉を発するでもなく、ただ1度だけエンブオーは頷いた。相変わらず無口な奴だ。でも嬉しい。

 

「出発は明日だ!早速みんなに挨拶しに行かないとな!」

「ブオ!?」

「なぁーに、行動は何事も早いのが1番さ!!」

 

 こうして俺達はパルデアに旅立った。

 

 パルデア地方では出来るだけ現地で捕まえたポケモンをバトルで使う様にしている。これは陽キャがどうとかではなく、単純に殿堂入りしたポケモン達で子供をボコしてイキリ散らかすのは人として終わってるからだ。

 

 おかげでアカデミーでは特に避けられる事無く、編入生の俺もすぐにクラスの輪に馴染むことが出来た。

 

 カラオケに行ったり、野外授業で友達と弁当を食べたり、正に俺が思い描いた陽キャを演じることが出来た。

 

 謎のヘルメット集団の仲間入りを脅迫されたり、バトル中毒者に執拗に絡まれたりするハプニングは起きたが、概ねアカデミーで青春を過ごしていた。

 

 そんなある日、終わりが始まった。初めはアオイという少女がアカデミーに転入したあの日。

 

 陽キャになりきっている俺にとってそのイベントを見逃す選択肢は無く、1年生の教室に赴いた。

 

「あ!シオン先輩だ!バトルしましょう!」

 

 教室に入るや否や、戦闘狂ネモがまとわりついて来たが軽くいなして話題のアオイちゃんに話しかけた。

 

「君がアオイちゃん?」

「あ、えっと…はい」

「俺は2年生のシオン。分からない事があったら先輩の俺になんでも聞いてね!」

 

 それからも至って順調に俺の学校生活は過ぎていった。アオイとの仲も深まり、一緒にピクニックに行ったり珍しいポケモンと出会った砂浜に案内してもらったりした。

 

 そしてついにグレープアカデミー名物の課外授業の時が来た。去年は確かクラスメイトと美味しいサンドウィッチを作った。

 

 今年はジム巡りでもしてみるか。アオイもバトルに興味あるみたいだし、仮にもイッシュでチャンピオンになった経験があるのでアドバイスとかは出来る。

 

 行き詰まる後輩に的確なアドバイスする。うん。気のいい陽キャな先輩っぽい。そんな打算もあって俺はジムを巡った。

 

 同行する仲間はいなかったが、旅の途中で出会うアオイやネモとワイワイやって、ゆるくジム戦をした。何度か負けたりはしたが工夫と努力を重ねジムを勝ち抜いた。

 

 同行する仲間こそいなかったが、道中では頻繁にアオイやネモと遭遇して充実した旅だったと思っていた。

 

 でもある日、アオイから聞いた話がキッカケで俺はこれまでの全ての行いに疑問を抱くようになった。

 

 曰く、ペパーと一緒にスパイスを探し、巨大なポケモンと戦った末に手に入れたスパイスで傷を負ったポケモンを癒したり。曰く、校長先生とボタンと一緒にあのスター団を壊滅させたら実はボタンがスター団のボスでアカデミーには暗い過去があったり。

 

 その他にも話してくれた内容は正にアオイが陽キャである証明になった。

 

 普段ならそんな事はしないけど、その時だけ何故か俺は彼女と自分を比べた。比べてしまった。

 

 演技をしてまでやったにも関わらず、特にイベントも起きず旅先で友人に会っても少し話しただけで別れまた1人旅に戻る。

 

 それに比べてアオイは素で友達を沢山作って、俺なんかより遥かに濃い経験をして、バトルの強さも俺より上。

 

 格の違いを分からされた。

 

 長い期間自分の部屋に引きこもる生活が続いた。

 

 土台無理な話だったんだ。俺が陽キャになるなんて。人には向き不向きがあるってバトルを通じて知っていたのに、惨めにも目を背け続けた結果が今の俺だ。

 

 憧れだけで、実力が伴っていない哀れな陰キャ。必死に努力していた俺を見たアオイ達はさぞかし俺を哀れんでいただろう。

 

 コイツ無理に背伸びしてんなぁ。と。

 

 俺は決めた。髪も口調も表情も全部元の俺に戻そうと。

 

 そして今に至る。

 

 ちょっとしたハプニングがあり、髪の染料を落とすのに時間がかかってしまった。

 

 砂浜に来ると既にアオイは立っていた。

 

 俺の目を覚ましてくれた彼女には俺のこの後の事を話しておこうと思ったのだ。

 

 正直、今の俺は高校デビューを盛大に失敗した陰キャ。このままアカデミーに居座るのは地獄すぎる。だけど家族に学校に通うと宣言した手前、帰るのも気が引ける。

 

 その事を校長に相談したらブルーベリー学園に転入させてくれる事になった。

 

 そういえば最後にアオイと交わした全力でバトルする約束忘れてたな。まずはバトルをやってから話を始めよう。

 

 夢が無くなった今ポケモンバトルに本腰を入れるのもいいかもしれない。

 





???
「よう待たせたな 〇〇〇」

???
「誰ですかって そりゃないぜ シオンだよシオン」

シオン
「雰囲気変わったなって お前のおかげだからな」

シオン
「お前のおかげで目が覚めたんだ 今までのやり方が 間違えてた」

シオン
「さぁ 始めようぜ」


勝利後
「やっぱり お前こそ 俺の憧れそのものだ」


シオン
「俺は俺のやり方で生きていく これから会う事は無いと思うが もしも会った時 今度は負けないぜ」

シオン
「前の方が良かった? そりゃ皮肉か?」

シオン
「………バカにするなよ そのやり方がダメだって気付かせたのはお前だろうが」
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