友達が闇堕ちしてあたふたするシオン君。可愛いね。
トウコとの電話を終え、俺は一息つく。
キミとの勝負が今から待ち遠しいよ。トウコ。
「おーす!チャンピオン!嬉しそうな顔して何か良い事あったのか?」
「……カキツバタ」
マズったな。ニヤついてる所をよりによってカキツバタに見られてしまった。少し興奮し過ぎたな。
実を言えば、俺はこのカキツバタという男が苦手だ。理由はやめろと言ってもずっとチャンピオン呼びだし、やたらチャンピオンを引退した理由を聞いてくるから。
「誰かと電話か?」
「ライバルと、ちょっとな」
「へー!チャンピオンのライバル。さぞ強いトレーナーなんだろうなー!」
「ああ。強いよ」
戦った事無いけど………。
戦った事無いといえば、最近は1人の修行ばっかりでトレーナーとのバトルはやってないな。
これは随分バトルの勘が鈍ってるかもしれない。
どこかにいい感じに強くて肩慣らし出来るポケモントレーナーはいないものか………
「どうしたー?いきなり黙って」
いた。目の前にいた。強いトレーナーが。
「カキツバタ」
「お?」
「今からバトルしようぜ」
「おー!?」
◆◇◆
「ブリジュラス『エレクトロビーム』!」
「マニューラ。ビームに『つじぎり』からの『こごえるかぜ』」
放たれた『エレクトロビーム』をマニューラが切り裂いた。多くの挑戦者のポケモンを沈めてきた技がいとも簡単に裂かれ、霧散していく光景にカキツバタは一瞬思考が停止した。そして気付いた頃には『こごえるかぜ』でブリジュラスの足を奪われている。
「コジョンド『インファイト』」
一度瞬きをすると、バトルコートの向こう側にいたコジョンドがブリジュラスに飛び蹴りを浴びせている。
そこからは、その場にいた全員が本物の『インファイト』を見せつけられた。
従来の物とは比べる事すら烏滸がましい怒涛の連撃。自分たちが今まで見てきた『インファイト』は子供のお遊戯レベルの物だったと分からせられた。
連撃は緩まず、遂にほぼ満タンだったブリジュラスの体力は全て削り取られてしまった。
「はは……マジかよ」
これには常に飄々としているカキツバタも苦笑いを浮かべる他無かった。
が、すぐさま取り繕いポケモンをボールに戻しシオンに歩み寄る。
「かーっ。やっぱ本家本元のチャンピオンは違うねい!」
「いや、カキツバタも強かったよ」
嘘じゃない。実際今までバトルしたトレーナーの中でも上位の方だ。思ったよりは強かった。シオンは完全に勝つ気でバトルしたがアギルダーが倒されてしまった。
バトルの勘が鈍っているのもあるが、学生が元チャンピオンのポケモンを戦闘不能に追い込んだのは凄い事だ。
「あーあ。カキツバタ負けちゃったよ」
「1匹しか倒せないなんて、情けねーよな」
それなのに負けという結果だけを見てカキツバタをバカにする奴等がいる。
「……お前はもうちょっと厳しくした方がいいと思う」
「オイラもそう思ってるんだけどよー。一部のヤツに合わせて、多くの楽しくワイワイしてるヤツが息苦しい思いをするのも違うと思うぜい」
「そこまで考えてたのか……」
思わず感心する。マナーが悪い奴を見過ごしていたのはいつものちゃらんぽらんだと思ったが、全体で見た時にデメリットの方が大きいと見通して判断していたからか。
少し見直した。
「こんな難しい話してねーで。ささ!早くポケモン回復させようぜい!」
「そうだな」
2人はポケモンを回復させるためコートの出口の方を向く。
「ん?」
「おー?もう来たのかい。スグリ」
そこにはシオンの友人である少年。スグリの姿があった。
「四天王は、全員蹴散らした。後はアンタだけだ。カキツバタ」
「そうしてやりてーのは山々なんだが、見ての通りシオンに畳まれたばっかでさ。今戦える状態じゃねえのよ。ちーと待ってくれい」
「……………だったら、その間にシオンが相手してくれ」
「チャンピオンバトルの直前にか?それに、俺も倒れたポケモンを回復させなきゃなんだが」
「ポケモンが、倒れた?シオンのポケモンが?」
スグリが目を細める。
「らしくないよ………カキツバタなんかにポケモン倒されるなんて」
「おい。スグリ……!」
「本気でやってたんなら、そんな事あるハズがない。手抜いてたんじゃねえのか?」
その一言で、シオンは思わず俯いた。自分が今どんな顔をしてるのか分からなかったから。
バトルで手を抜くなんて言われたのは、メイ以来だった。あの時は特に何とも思わなかったのに……
「俺、その言い方はちょっと……嫌だな」
とても人と話す気分じゃ無くなったシオンはその場から走り去り、そこにはカキツバタとスグリだけが残った。
「…………」
「シオンのヤツ行っちまったな。……ま、そう焦んなさんなって。すぐポケモン回復させてくっからさ。先にエントランスに行っててくれい」
「……俺はシオンみたいに優しくはしねえから」
「へいへい」
◆◇◆
スグリの様子がおかしくなったのは、林間学校から帰ってきてからだ。
前は、わやじゃー、負けちまったけど、楽しければOK!だったのに、
今では、勝利こそが全て。強くなる事が正義!ってなっている。髪型も変になってるし、たった数日の林間学校でお前に何があったんだよ、スグリ。
最近。アイツとの関係は上手くいってない。原因は分かってる。俺がアイツを鍛えてやるって約束を破ってしまったから。
最初は約束通りに俺はスグリの特訓に付き合ってた。しばらくは暴走するアイツの事をすぐに元に戻るなんて思考を放棄してた。
そんな俺の考えとは裏腹に、どんどんアイツの渇望は肥大化して修行の内容はエスカレートしていった。
ポケモンも、自分自身もボロボロなのに全然休もうとしない。そんなもんだからスグリの顔色は悪くなって、それが見てられなくて俺も意地になって、つい強く言いすぎてしまった。そしたら……
「うるさいなぁ!俺にはそんな時間ねぇんだよ!俺は才能ねぇからその分頑張んねぇといけねえんだ!シオンみたいな天才には分かんねぇかな!!」
天才。確かにそういうヤツは何人も見てきた。でも少なくとも俺はそんなんじゃない。それに、天才に分類されるヤツだってその強さは一朝一夕で身に付いた物じゃない、期間に差はあれど、努力を重ねて積み上げてきた物だ。
それを一言で片付けられる事を俺は許容出来なかった。だからついカッとなってしまった。
「……そうやって、自分より強い奴ら全員を天才で片付けるつもりか?…違う!みんな努力してるんだ!寝て起きたらバトルが強くなるヤツなんて存在しない!努力してるのが自分だけだと思ってテメェに酔ってんじゃねぇぞ!!!」
「え、あ……ごめ、そんなつもりじゃ…」
「そんなんで強くなれる訳ない。前の方がまだ………」
そこまで言いかけて、ハッとした。
変わり始めた人間に、一番言っちゃったら駄目なセリフだってついこの前身を持って思い知ったのに。感情に任せて言ってしまった。
あの時の俺はただ受け入れてほしかった。どんな姿でもキミはキミだって、どんなキミだって良いんだよって。なのに俺はそれをスグリにしてやれなかった。
「………ごめん。……言い過ぎた」
「お、俺も後先考えずに怒鳴っちまって……ごめん」
結局、その日から俺がスグリの特訓に付き合う事は無くなり、俺達は疎遠状態になってしまった。
こういう時はどうすればいいんだろうか。まずは林間学校で何があったのか聞くべきなんだろうけど、勇気が出ず話しかけるのを躊躇ってしまっている。
なんで俺はただ友達に話しかけるだけの事を躊躇ってるんだ。ゼイユやアカマツ、タロにネリネといった他の奴らは根気強くスグリに話しかけてるのに。
友達が迷って悩んで苦しんでるのに、俺は自分が傷付くのを恐れてるだけか………?
やっぱり俺は友達なんて、作っていい人間じゃないんじゃないか?
こんな時、アイツなら、アオイだったら、どうした?
俺は、どうすればいいんだ?
『シオン』
スグリと喧嘩……とまではいかないがどう接すればいいか分からない。
こういう時、友達の俺が何とかしなくちゃという『友達』の理想が高いがため友達の自分が何も出来ていない現実とのギャップに苦しみ、自分は友達を作っていい人間じゃないんじゃないかと思い始めた。
アオイ?間接的にキミが曇らせたんやで?
ところでスグリに珍しく感情を爆発させていたがあれはれっきとした『友達』だから遠慮なく吐き出せたからで、これがアオイだったら優しく諭すだけに留まっていた。
何故ならアオイは『後輩』だから。
『スグリ』
暗闇の中でただ藻掻くだけだった。
しかしシオンの言葉により、自分以外の人間も努力しているという事実を受け入れた事で、努力すれば憧れに届くかもしれない。という希望を見出したので心に余裕が出来た。その結果ゲームよりも強くなっている。
しかしアオイやオーガポンに対する執着は変わっていない。今だに吐くほど特訓してるし、ゲームよりマシだが周りに高圧的な態度を取っている。
闇堕ち継続中。
『カキツバタ』
頻繁にチャンピオン戦の事を聞いてくる三浪の先輩
シオン「嘘偽り無く、覚えてないって言っといたぜ!」