タイトルの通り。シオンが学園生活じゃなくてキャンプに目をつけていたらのIF。
【IF】パルデア地方じゃなくてガラル地方だったら
チャンピオンを引退したシオンは、今自分に足りていない物は何か考えた。
正直、外見と口調は完璧だと思う。なんなら天然の陽キャよりも陽キャという自負があった。なら何が足りなかったのか?
それはズバリ経験だ。
考えてみればシオンは知識としては知っていても実際にはやった事は無い。そんな事だらけの人間だった。
広く深く。が肝心なんだと結論づけたシオンであったが具体的に何をすれば良いのかは何日経っても思い付かない。
こうして野生の元チャンピオンが爆誕した訳だが転機は突然訪れた。
それは幼馴染の家に入り浸っていた時の話。やる事もなかったのでふと目に付いた雑誌を手に取ってみると。
「キャンプか………」
シオンに電流走る。
なんかキャンプって陽キャっぽいなー。
これまでの熟考をそんな浅すぎる思考が上塗りし、急遽キャンプの聖地であるワイルドエリアがあるガラル地方に行く事が決まった。
さて、どうせなら誰か誘ってみようかな。そんな考えが脳裏に過ぎる。
「ルリは仕事で忙しそうだし*1
アイリスはチャンピオンだし*2
メイは色々あって気まずいし…………*3」
こうして今回も1人旅になる事が決定した。
いや誘う人はいる。少しだけだがイッシュ地方を旅する中で交友関係を持った人間はいる。だが全員都合が合いそうに無い。それだけだ。
それに初心者とキャンプに行ってもつまらないだろう。こちらから誘うのだから、まずは自分が知識を深めてからではないと失礼だ。
そんな思考が既に陰キャなんだよと言ってくれる人間はこの場におらず、シオンはガラル地方の事を調べていく。
「あれ?エンブオーは入れないんだ。それにシビルドンにゲノセクト………」
いわゆる環境保護の名目で一部のポケモンは入国をお断りされているらしい。そんなポケモン達の名前を淡々と読み上げていくとモンスターボールが1つまた1つと震え出す。
それでもシオンの決心は揺るがなかった。とだけ言っておこう。
数日後。
「えー!!なんで誘ってくれなかったの!?」
そう駄々をこねる幼馴染を何とかあやす。
これは旅行ではなく修行なんだと。そんな長い間パイロットと副業を放置する気かと。そう言えば納得して貰えた。
それからエンブオー達の出禁組をアララギ博士に預け飛行機に搭乗して約半日。
「ここがガラル地方」
ついに到着したシオンはありったけのキャンプ用品を詰め込んだリュックを背負いながら列車に揺られて、遂にワイルドエリアに足を踏み入れた。
そこは見渡す限りの自然。広さはホワイトフォレストの比じゃない。
その光景に当初の思惑は思考の端に追いやられ、ただキャンプをしに来ただけの陰キャとなった。
しかしこれは仕方ない事だ。だって見てご覧?この森は、湖は、平原は、それが誰であろうと受け入れてくれるんだ。あんな汚い計画なんて洗い流されてしまった。
気が赴くままにフラついていたシオンはいつしか…………。
「どこだここ」
道に迷っていた。
それは運が悪かったとしか言い様が無い。元来の方向音痴に急な砂嵐が加わり、電波障害と鳥ポケモンの使用に制限が掛かった。
その状況でシオンはその場で動かず砂嵐が過ぎ去るのを待つか、このまま歩いて砂嵐の範囲外まで出るかの二択を迫られ後者を選択した。
そしたら取り返しがつかなくなった。
テントを立てて避難?初心者がこの荒れ狂う嵐の中テントを?無理だ。風に飛ばされて行くのが目に見えている。
後が無い。故に諦めず歩き回るしかないシオンは最悪の視界の中、ぼんやりとした明かりを見た。
それが希望の光である事を願い、歩みを進める。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
大量の砂がテントにぶつかる音をユウリはただ聞いていた。
たった1つの出来事が彼女の頭をいつまでも悩ませる。
いつからかポケモンバトルが楽しくなくなっていた。まだ自分が弱かった時、実力が同じかそれ以上のトレーナー達とのバトルの感覚が今のユウリには無い。
熱を思い出そうとバトルをしても喪失感だけが募っていく。
そんな自分を見兼ねて色んな人達が予定を空けて自分とバトルをしてくれたのに、無意識にため息が出た。
「最悪だな……」
あんな態度を取った自分も、急な砂嵐も、本当に最悪だ。
皆いなくなってしまった。こんな強いだけの自分とそれぞれの道を見つけた皆を見比べる度、自分だけが置いて行かれてしまったのだと自然に涙が頬を伝う。
こんな事になるのだったら、ポケモンバトルなんてやらなきゃ良かった。
「お願いだから……私を1人にしないで………」
握り締めてシワシワのスカートを濡らす。
その時、テントのファスナーが少しだけ開いた。咄嗟にその方を見ると小さな隙間から誰かが中を覗き込んでいた。
「助けてください………」
その言葉を聞きボールにかけていた手を引っ込める。
ワイルドエリアでは急な天候の変化で人間が遭難するなんてざらにある。きっとその類だろう。それに、いざとなったら自分のポケモンで対処可能だ。
何故ならユウリはガラル地方最強のチャンピオンだから。
「いやー助かったよ!」
燦然と光り輝く髪を掻きむしってそういう彼の名前はシオンというらしい。
イッシュ地方という遠い土地から態々キャンプをしにガラル地方までやって来たとの事だ。
それなのにこんな砂嵐に巻き込まれて可哀想だと思ったが当の本人は特段気にした様子は無い。むしろその逆で明るすぎる。
きっとホップと気が合うんだろうなと思っているとシオンは助けてくれたお礼がしたいと言い出した。
当然のことをしたまでです。なんて言えれば格好がついたが、残念な事にユウリの馬鹿な口はとんでもない事を口走った。
「私とバトル……して?」
もちろんすぐに取り消そうとしたが、シオンは二つ返事で外に出ていった。そこでようやく砂嵐が止んでいた事に気付く。
本当に最悪だ。もっと吹き荒れていてくれれば良かったのに。
また1つ自分の気持ちは沈んでいく。
そう思った。そう思ったのに。
「デンチュラ、『10まんボルト』!」
ピシャン。と、空を殴ったのかと錯覚する様な音と共に視界が白黒になった。
ようやっと世界が元に戻ったかと思えば、ユウリのポケモンは倒れていた。
『10まんボルト』?コレが?『かみなり』の間違いじゃないのか?そんな疑る感情とは裏腹に、ユウリは腹の底から湧き上がる"ナニカ"を感じた。
あと少しの所にある自分が探し求めていた物を掴むために次のボールを手に取った。
「エースバーン!『かえんボール』」
ボールから飛び出した瞬間、エースバーンが凄まじい速度で蹴り出したその技は、ある時期を境に避けられた事が無かった。単純に早すぎるから相手のポケモンが反応出来ないのだ。
「避けろ!」
だから難なく避けて見せた彼のポケモンが、ユウリの気持ちを昂らせる。
そしてやっとの思いで命中させても……。
「まだ行けるよなデンチュラ!『シグナルビーム』!!」
「(耐えちゃうんだ!!全力なのに!!弱点なのに!!!!)」
当たれば効果がいまひとつでもタダでは済まないハズなのに、むしタイプのデンチュラは当然のように立っている。
いい。とてもいい。
「『かえんボール』!」
「『エレキボール』!」
技がぶつかればちゃんと競り合ってくれる。抗ってくれる。
「(なんだろうこの感じ。あーいい。とってもいい。なんか好きだな。あ、これヤバイ。この感覚凄く愛おしい。一生こうしてたい)」
エースバーンの特性『もうか』のおかげで技の競り合いには打ち勝てたがそれが無ければ………、その思考が更にユウリの鼓動を加速させる。
服を脱ぎ捨ててしまいたいくらい身体中が熱くなる。
「………なんか体調悪そうだけど、大丈夫?」
「え?あ!大丈夫です。全然お構いなく!」
試しに両頬に触れてみる。
「(あ、コレ。絶対赤くなってる。あふふ、えへへへ♡)」
既にユウリはバトルの事以外は頭に無かった。
でもこれはユウリが悪いのでは無い。シオンが悪いのだ。傷心中の少女をその気にさせるなんて全く悪い男だ。
「ボスゴドラ!!」
着地と同時に地面に積もった砂が舞い上がる。
巨体から放たれる鋭い眼光はエースバーンを見下ろし、まるでどこからでもかかって来いと言っているみたいだ。
だったらその誘いに乗ってやる。
「『とびひざげり』!!」
ノーガードでの特攻。的が大きいので外しはしない。どう対処する?
「『ラスターカノン』!」
シオンが指示したのは意外な事に特殊技。しかし、やはり威力は凄まじい。見た限りキバナのジュラルドンの『てっていこうせん』よりも上だ。
だが、だからといってエースバーンは負けない。『ラスターカノン』を掻き分けて『とびひざげり』はボスゴドラの顔面に命中する。
取った。
「『たたきつける』」
しかし現実はどうだろう。『とびひざげり』を耐えたボスゴドラの反撃でエースバーンは地面に叩きつけられていた。
どういう事だ。さっきのとは訳が違う。4倍弱点だぞ。
「いや、『がんじょう』」
瞬時にそれが特性の効果であると見抜く。
恐らく、双方あと1つでも技を喰らえば戦闘不能になる状態だ。そして、エースバーンの方が動き出しが早い。
「『けたぐり』!早く!」
ユウリの予想通りエースバーンの方が技を繰り出すのが早かった。こればかりは実力ではなくポケモンの性質の差だ。
勝ちを確信して、一体次はどんなポケモンを見せてくれるのかと思いを馳せる。
だがボスゴドラは倒れなかった。耐えられたのでは無い、技が失敗したからだ。
どうしてだ。いくらボスゴドラが重いとは言え、そんなやわな育て方はしていない。ならば何が原因か、やがて1つの答えを出した。
「『ヘヴィメタル』?」
ボスゴドラの特性が『がんじょう』ではなく『ヘヴィメタル』である可能性。それだったら重すぎて『けたぐり』で転ばせられなかった事に納得がいく。むしろそれ以外考えられない。
でも、そうだとしたらボスゴドラは『がんじょう』無しで『とびひざげり』を耐えたという事だ。
「(何それ。凄い。一体どれだけ鍛えればそうなれるの?それって私よりも鍛えてるの?もっとあなたの事を教えて!)」
シオンに自分を置いていかないどころか、ずっと傍に居てくれる可能性を見い出したユウリはこの時点でシオンに依存していた。
心地よい気分に包まれたユウリは遂には封印していたポケモンを繰り出す。
「ザシアン!!!!」
気品を纏うポケモンはユウリの方を向くと頷いた。やっとか。そう言っている様に感じた。
思えばザシアンを使うのはいつぶりだろうか。随分長い間放ったらかしにしてしまった。でもバトルに出していてもきっとザシアンは退屈を感じていたと思う。
「でもねザシアン。シオンってば凄いんだよ。絶対退屈なんてしない。本気でやらないと負けちゃうから。本気でね」
言い終わってから『本気』という言葉を何度も心の中で復唱する。
「(本気…………。本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気本気!本気出していいんだ!!!)」
幸福感に満たされる。
相手のボスゴドラを見ると、ボロボロなのに勝負はコレからだ。と闘争心を剥き出しにしている。
伝説のポケモンを前にその傷で大したポケモンだ。
ザシアンも自分に臆することないポケモンに口角を上げる。
とりあえずは目の前のボスゴドラを倒し3体目を引き出す。話はそれからだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一体どのくらいがたったのか。一生にも感じるし、一瞬にも感じる。
それだけユウリにとってシオンとの勝負は楽しい物だった。叶う事ならこのまま死ぬまで、シオンとだけ勝負をしていたい。
だけどこんなに楽しいバトルにも終わりは来る。それも迫ってくるのは自身の敗北だ。
けれどその焦りすら心地よかった。このまま終わっても多方は満足。ただ不満があるとすればシオンのポケモンを全員見れていない事。
後ろに控えている二体のポケモンを見たい。そう思うと何がなんでもそうしたくなる。
そして遂にはムゲンダイナを使う判断をした。
相手が耐えられるかなんて心配なんて無い。その逆にコレでも最後のポケモンを見れるのか、コッチ側の心配をしている。
それでも何とかユウリはシオンの六体目を引きずり出した。
「ウォーグル!!」
何の変哲もない普通のポケモン。でも圧倒的に強い。
「『ブレイブバード』!」
一直線の突進。多くの傷を負ったムゲンダイナを落とすには充分過ぎた。
バトルが終わった後もしばらく余韻に浸り、思い出しては口をぐにゃぐにゃさせてニヤける。こんなに楽しい勝負は初めてだった。
次にユウリが考えたのはどうやってシオンを手に入れるか。
確かにバトルには満足したが一回でいいなんて思っていない。なんなら死ぬまでバトルし続けたい。
ここでシオンを逃せば自分はまた闇の中に後戻りだ。そんなのは嫌だ。ふざけるな。許されてたまるか。1度釣った魚は責任を持って持ち帰るのが道理だ。
それなのに何故この男は「またね」なんていってどこかに行こうとしているのか。考えられない暴挙だ。行かせる訳が無いだろう。
咄嗟に手を掴んで引き止める。
「(希望を見せるだけ見せて捨てるなんて許さない。私をこんなにした責任はちゃんと取ってもらうから)」
頭でそう思っても決して口には出さない。何とかそれが判断出来る位には冷静さを保っていた。
完全に正気を失う前にシオンを自分と結び付ける口実を考えなければ。
「あの、お腹すいてない?」
じっくりだ。じっくり行こう。
『シオン』
実は本編時空が1番マシだった。他の地方だと軒並み面倒な女にロックオンされる。
1度しかない人生でメイとアオイというSSRを引き当てた豪運の持ち主。その代わりに陽キャ力が犠牲になった。
異性のタイプは真面目な人・頑張ってる人
主人公≧シオン≧主人公>>>>>チャンピオン
くらいの強さ。
『ユウリ』
強すぎて孤独死寸前だった少女。
絶望という暗闇の中差し込んだ光を掴もうと狂ってしまった。
異性のタイプは一生一緒に居てくれる人
次回『ムゲンダイナVSホワイトキュレムVSダークライ』
乞うご期待!!
ちなみに単発なので続編は一生出ません。