背伸びした奴が本物に分からされる話   作:パレード

14 / 17

そろそろ本筋を進めなくてはと思いながら過去編書いちゃう


過去編【メイ編】

 

 最近ジムバッジを8つ集め終わり、正に絶好調だったシオンだが、人生は山あり谷あり。良い事があれば悪い事が起きるのが人生だ。

 

 この場合良い事とはもちろんバッジを集めポケモンリーグへの挑戦権をゲットした事。

 そして悪い事はというと……ここ最近、シオンに付き纏うトレーナーが現れたのだ。

 

 そのトレーナーはこっちの都合などお構い無しにシオンの事をマルチバトルの相方としてこき使ってくる。それが5日前からずっとだ。

 

 ずっと。という事でシオンたちは敗北を重ねているのが現状。さすがにここまで連敗するとちょっとネガティブな気持ちになる。

 

 本来、拾った落し物を持ち主に返したらすぐにライモンシティを出る予定だった。

 それでもライモンシティを出ずに長い事バトルに付き合っているのはトレーナーの先輩として彼女に大切な事を教えてやりたいと考えているからだった。

 

 

 今日も今日とて地下鉄駅に途中下車をする。つまりポケモンバトルで負けたのだ。

 今はギアステーション行きの電車をホームで待っている所だ。あと20分くらいかな。

 

「今日は11連勝か。昨日は13だったから記録減ったな」

「……………」

 

 バトルで負けた時、よっぽど悔しいのかコイツ、メイは俺の言う事を尽く無視してくる。

 本人は隠しているつもりだろうが少し泣いているのも知っている。

 

 まぁ気持ちは痛い程分かるさ。こういう時は誰とも話したくないからな。1度話しかけ、返事が無いのでそのままそっとしておくのがいつもの流れだ。

 

「シオンさんは楽しいんですか?ポケモンバトル」

 

 自販機に行こうとベンチから立ち上がるとメイが俺の袖を掴む。

 泣きそうな時特有の声でそう問い掛けてくる。

 

 少し意外だった。プライドが高いコイツがこんな状態で話しかけてくるのは完全に予想外だ。

 

「楽しいに決まってるだろ」

「こんなに負けてるのに…」

「勝敗は関係無いぞ」

「手を抜いてたんですか!」

「なんでそうなる。毎回本気でやってるよ」

 

 その上で、毎回勝てない。トレーナー同士の息が合わないなんて次元じゃない、もっと根本的な所が原因だ。

 

「メイ。この際言っとくけどさ、このままじゃ何回やっても制覇なんて夢のまた夢だぞ」

「まるで私だけに問題があるみたいな言い草ですね」

「実際その通りなのは薄々気付いてるんじゃないか?」

「…………」

 

 何も言い返してこない。という事は自覚がある。でいいんだよな?

 後はその問題が何なのかをきちんと理解すれば49連勝なんてあっという間だろう。

 

 まあ俺にも都合って物があるからコイツとの関係はこれでお仕舞いだな。

 

「俺はもうライモンを出る。お前はどうするんだ?」

「私はまたシングルバトルのトレインに挑戦します。と言いたいところですが、そろそろジム巡りを再開しますよ」

「へぇー。…………は?お前バッジ8個持ってないの?」

 

 え?いやいや、え?

 

 ポケモンが強いのと、こんな施設に延々と挑んでるのを見て8個集め終わってるものだと思っていたんだがどうやら勘違いだったらしい。

 

「どうしたんですか、急に黙りこくって」

「なんでジム戦よりこんな場所のバトルを優先したんだ!」

「それは……だってあんな形式ばったバトルよりここでのバトルの方が経験になりますから」

 

 そんな訳ないじゃん。そんな訳ないよね?うん。そんな訳ない。

 こんな施設の野良トレーナーと1000回戦うよりジム戦1回やった方が遥かに有意義だぞ。

 

 あ、いやちょっと待て。分かったぞ。コイツはアレだ。『天才』ってやつだ。最初からそこそこ強いからこそ前半のジムバトルの恩恵が薄かったんだ。

 

 だからこんな勝つ事しか考えてない奴が集うクソ施設に籠った方がいいなんて発想に至ったんだ。

 

 まぁ、コイツの矯正はジムリーダーに丸投げしよう。

 あーあ。もっと早く知ってれば先輩風吹かせずにさっさとジムに放り出してたのに。

 時間無駄にしたわ。あーあ。あーあ!!

 

『終点、ライモンシティです。足下にご注意してお降りください』

 

「ジム戦っていうのはな、バッジを貰うための場所じゃねえんだ」

「やけに詳しそうに語り出しますね」

「実際常人よりは詳しいぞ」

 

 幼馴染の親父さんがジムリーダーだったからな。遊びに行く度にジムリーダーにならないかと誘われたものだ。

 もちろん俺には陽キャになるという使命があるのでお断りした。

 

「よし。次はソウリュウシティに行け。あの人ならバッジ4個でも全力でバトルしてくれるだろ。お前みたいなトレーナー相手なら特にな」

「ここから一番近いのはホドモエシティなんですけど」

「多少の遠回りは我慢しろ。ソッチに行く方がお前のためになる」

 

 ヤーコンさんはなんだかんだで優しいからな。年頃の女の子相手だと手加減しそうな感がある。

 それに対してシャガさんなら何度でも全力でバトルしてくれる。そうやって負け続ければメイもトレーナーとして最も大切な事に気が付くだろう。

 

「じゃあ。これでお別れだ」

「はい。また今度」

 

 俺はホドモエシティ、メイはホワイトフォレストへ行くため真逆の方向へ歩きだす。

 

 そういえばアイツの連絡先聞き忘れてたな。今から聞きに行くか………

 

「ま。もう会う事も無いだろうし、いっか」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「きみはこのままでは真のポケモントレーナーにはなれない」

 

 ジム戦に敗れ、足早にジムを立ち去ろうとするメイはジムリーダーからそう声を投げかけられる。

 

「真のポケモントレーナー。なんですかソレ」

 

 ポケモンを連れていれば、それだけでポケモントレーナーになれる。

 

 それがどんなに悪い人間でも。人からポケモンを奪い取るようなクズでもだ。

 

「今のきみは、真に誇れるトレーナーではない」

「ポケモントレーナーに真も偽もありはしませんよ。大切なのは強いか弱いか。それだけです」

「フム」

 

 メイはポケモンセンターを目指してバトルフィールドを後にした。

 

 

 

 

 また次の日、メイは再度ソウリュウジムに挑戦した。

 

「きみ。自らの問題に気付いているね。その上で問題を解決しようとしていない」

「…それが、何か?」

 

 ジムバッジ4個のトレーナーでは異例である6対6のフルバトルの結果、あえなく完敗するどころか痛い所を突かれてしまった。

 

「えぇ。そうですよ。私はポケモンを()()()()()()。でもそれがどうしたんですか。結局最後にものを言うのはポケモンの性能ですよ」

「いいや。一番大切なのはポケモンとの絆だよ」

「……世代間での考え方の違いですね」

「つい最近、全く同じ言葉を別のトレーナーに言われたよ。名前は確かシオン君、だったか」

「………シオン?」

 

 それはほんの少し前までのマルチバトルの相方をしていた少年と同じ名前だ。まさかこの場でその名前を聞くことになるとは。

 

「その反応、もしかして彼の御友人だったかな?」

「そんなんじゃありませんよ。それに多分、名前が同じだけの別人ですよ」

 

 バトルサブウェイで共に戦ったシオンは、自分のポケモンだけでなく、メイのポケモンをも全身全霊で信じて戦っていた。

 そんな彼が自分と同じセリフを?

 

 天地がひっくり返っても有り得ない。

 

「確か、そうだな。彼は此方を射るような鋭い目をしていた」

「髪の色は?」

「金色だった」

「相棒のポケモンは?」

「エンブオーだったと記憶している」

 

 ……まさか、本当に本人か?

 

 情報を聞く限りは同一人物だと認識せざるを得ない。

 

 だとしたら、一体何があったらメイの様な考え方のトレーナーがあそこまで変貌を遂げるのだろうか。

 

 

 

 

 

「いや、歳をとるといけないな。随分と目が衰えてしまった」

「急にどうしたんですか」

 

 3日目。今日もジムバトルに敗れたメイにシャガがそう話しかける。

 

 勝ったのに自虐するなんて、嫌味だろうか。見た目にそぐわず嫌味爺だったのだろうか。

 

「"信じない"と"信じられない"を見間違えるとは」

「どういう事ですか」

「メイくん。昔にばかり目を向けてはいけないよ」

「……分かった様に言わないでよ、おじさん」

 

 

 プラズマ団。という組織がイッシュ地方には存在する。

 

 口ではポケモンの解放などと宣うが、裏では建物の不法占拠。古代遺跡の盗掘。ポケモンの強奪。その他にもやりたい放題している犯罪者共だ。

 

 そしてメイは1度、プラズマ団にポケモンを奪われている。

 幸い、すぐに奪われたポケモンと再会する事が出来た。再会出来たのだが………

 

「フタチマル!『シェルブレード』!」

「タチマ!!」

「やめてフタチマル!私たちが分からないの!」

 

 自分たちは何よりも固い絆で結ばれていると思っていた。なのに、それは間違いだった。

 フタチマルは瀕死になったポケモンへ容赦無く攻撃を続けた。

 

 それを庇ってメイは……

 

 トレーナーが変われば、それに合わせてポケモンも変化する。それまでの積み重ねなんてまるで意味を成さない。

 それを身をもって思い知ったのだ。あの時負った腕の傷がその証だ。

 

 

「明日は勝ちます」

 

 捨て台詞を吐いてソウリュウジムを立ち去った。

 

 

 

 

 

 4回目の挑戦。相手は残り1体、コッチも残り1体。ようやく1対1に持ち込んだ。

 

「ダイケンキ『れいとうビーム』」

「『ドラゴンダイブ』で押し通れ」

 

 弱点の技をものともせずに真正面から距離を詰めるオノノクス。

 

「『ダブルチョップ』」

「右斜め前に跳んで避けて」

 

 オノノクスの技を指示通りに跳躍して避ける。

 

「左半身を狙って『れいとうビーム』」

「ふむ。コレは受けるしかないか………しかしやはり」

 

 ポケモンへの指示が細かすぎる。そして多すぎる。

 

 ダイケンキが強力な個体なのでバトルが成り立っているが、本来こんなやり方では瞬殺だ。

 

「今日も成果は出ず。さぁ、そろそろ決めるぞオノノクス、連続で『ドラゴンクロー』!」

 

 赤が混じった緑色のオーラで両腕を覆いダイケンキに襲いかかる。

 

「右腕の付け根!頭!右手首!左脇腹!右……いやもう一度左脇腹!次は……!」

 

 ドラゴンクローはあえて避けられる速さで繰り出している。にも関わらずにダイケンキは途中で体勢を崩し、何度も何度もドラゴンクローをその身で受けてしまう。

 

 やがて猛攻は収まるが、ダイケンキはもう虫の息だ。とてもじゃないが戦闘の継続は不可能。

 

「今のドラゴンクロー。決して避けられない攻撃ではなかった。ただ一言『避けろ』と言う。それだけで充分だった」

「その後はどうするんです?そんな指示ではダイケンキがどんな風に避けるか分かったもんじゃない。咄嗟に指示が出せません。その隙を突かれてどっち道、終わりですよ」

「ダイケンキもそう思ってるからこそ、律儀にきみの指示に従っている。だがそれで倒される程このシャガは甘くないぞ」

 

 確かに、このままじゃ何回やっても勝てないなんて、1回目のバトルでもう分かってる。でも、勝てなくても、少しでも強くなれればそれでいい。

 強くなって、プラズマ団を潰せればジムバッジなんて大した物じゃない。

 

 そりゃ、ポケモンと心を通わせたトレーナーには一生かけても勝てないだろう。でもプラズマ団はポケモンの事を道具としか思っていない連中だ。

 

 そんな奴らに負ける道理は無い。それで充分だ。

 

「本当にそうか?」

「え?」

「このバトルに勝ちたいとは思わないのか?」

「勝ちたい?」

 

 そんな事、思うはずがない。私にそんな事を願う資格なんてない。

 

 だって私はどうしようもない卑怯者なんだから。

 かつてのパートナーに牙を剥かれた悲劇の少女を演じる卑怯者。

 

 私のせいでフタチマルが奪われたのに、あんなトレーナーの元で正気でいられる訳がないのに、それから目を背けてただ裏切られたって喚くだけだった。

 

 あれからフタチマルとは一度もお話してない。拒絶されて自分が傷付くのが怖くて私から話しかけない。君はそのままダイケンキに進化しちゃったんだ。

 

 きっともう、愛想つかされちゃったのかな。でもだったら、なんで君はまだ私の傍にいてくれてるのかな。

 

「メイくん」

 

 ハッとする。シャガさんの声で現実に引き戻された。

 

「私は過去を思い出せとは言っていない。今、このバトルに勝ちたいかどうか聞いているんだ」

「わ、私にそんな資格は……」

「勝ちたいと思う事に資格などいらんよ」

「私、は……」

「きみのダイケンキは答えを決めたようだが」

「え?」

 

 顔を上げると、ボロボロだったダイケンキが立ち上がっており鬼の形相で私を睨み付けていた。

 

 やっぱり怒ってるよね。私の事……。

 

「違う。外面だけで物事を判断するな。内面を見極めるのだ」

「内面……?」

 

 ダイケンキの目を見る。逃げずに、背けずに、真っ直ぐに。

 

『いいから俺を信じて技の指示だけを出せ!!』

「ああそっか。勝ちたいんだね。ダイケンキ」

 

 

「私もだよ」

 

 今この瞬間だけは、私たちの意思は1つになった。それがダイケンキを信じるって事なのかは分からない。

 

「良い目になった。が、負けるつもりは無い。オノノクス、『りゅうのはどう』」

「相手の技ごとぶち抜いてダイケンキ!!『ハイドロカノン』!!」

 

 2つの技がぶつかりあう。が、どう見たって優勢なのはダイケンキの方だった。

 

(手負いの状態でこの威力!いや、手負いだからこそか!)

 

 ダイケンキの特性『げきりゅう』は体力が減るとみずタイプの技の威力が飛躍的に上昇する特性だ。

 

 『りゅうのはどう』は完全に押し負け、オノノクスに攻撃が直撃する。散々威力を削り、いまひとつで半減だったが一撃で戦闘不能となった。

 

 きっと、彼女たちはこれからも壁にぶち当たる。でも、今の彼女とポケモン達なら、きっと大丈夫だ。

 

「若者が発する光は、老いぼれには少し眩し過ぎる」

 

 後は若いジムリーダーたちに任せよう。

 

 

 

 

 

 ソウリュウジムを突破したメイはそのままの勢いでセイガイハジムとホドモエジムを制覇した。

 

「ふん。どんな捻くれ者かと思いきや、拍子抜けだぜ」

「え?」

 

 ジム戦が終わると、ジムリーダーのヤーコンは腕を組んで話しかけてきた。

 

「噂のトレーナーが来て俺様も柄に無く身構えてたが、その様子だとジムリーダーの仕事はバッジを渡すくらいだろうよ。ほら」

「あ、ありがとうございます」

 

 受け取ったバッジをケースに入れる。

 全制覇まであと1つ。その事実がメイに自信をつける。

 

 ポケモンを信じる。最近その感覚を少しずつ思い出してきた。昔のようなポケモンの全てをコントロールする為の指示は無くなり、ポケモンに判断を委ねる場面でもその動きを予想出来る事が増えた。

 そのおかげか最近は気持ち良くポケモンバトルを出来る。

 

 だが、彼女の抱える問題が全て無くなった訳ではない。ポケモンたちと完全に仲直りするにはもう少し時間がいるだろうし、何よりプラズマ団の壊滅という1人では無茶な目標を掲げ続けている。

 

「さて。最後のジムがあるのはフキヨセシティです。道なりに行けば迷わずに着きますね」

 

 早速ホドモエシティを去り、メイは6番道路へと踏み入った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 あれは1週間程前の出来事だった。

 

 シオンのライブキャスターが突如ブルブルと震えだし、次の瞬間には画面に幼馴染の顔を映し出した。

 

「お前が電話なんて珍しいな。どうしたんだフウロ」

「あはは。実はね風邪引いちゃって」

「うん。それは見りゃ分かるけど」

 

 フウロの顔はよく見なくても真っ赤で、声も少し鼻声気味だ。オマケにしきりに咳をしている。

 

「それでね、治るまでシオンにジムリーダーを代わってほしいの!」

 

 結果、フウロの体調が回復するまでジムリーダー代理を務める事になってしまった。

 

 当初は2、3日で終わると思っていたが、フウロの風邪が思ったより深刻そうだったのでベッドに押し戻し、今もこうして俺がジムリーダーをやっている。

 

 ジム戦を受けたり、その後チャレンジャーの情報を纏めてリーグに送ったり、ジムリーダーの集会に出席したり………

 

 普段のフウロがちょっとアレなので忘れていたが、ジムリーダーって滅茶苦茶忙しい仕事なのを思い出した。

 

「えーと、彼とポケモンとの絆には目を見張るものがあり、特にピカチュウとの信頼関係は………」

「すいませ〜ん!ジム戦お願いします〜!!」

 

 資料を整理していると外から声が聞こえてくる。

 

「よし、行くか」

 

 

◆◇◆

 

 

「なんだ、チャレンジャーはお前だったかメイ」

「シオン、さん?」

 

 ジムの外に出るとそこで待ち構えていたチャレンジャーは見知った少女だった。

 

「どうしてあなたがここに?もしかしてここのジムトレーナーだったんですか?」

「いいや、このジムではそういうの雇ってないよ。ここにいるトレーナーはジムリーダーただ1人。つまり俺だ」

 

 そういうとメイは顎に手を当て、俺の爪先から頭のてっぺんまでを舐める様に眺め、最終的にある1点に視線が集中する。

 

 えっと。なんでコイツは俺の胸を睨み付けているのだろうか。

 

「フキヨセシティのジムリーダーはフウロという女性の方だと聞いたんですが……」

「そうだな」

「もしかして……シオンさんって女の子だったんですか!?確かにお顔も女の子っぽいし、よく見れば胸もちょっと膨らんでるような……」

 

 …嘘だろ?

 

 自分の胸を揉んでみる。当然膨らみは無く真っ平らな胸だ。安心した。

 

「違う違う!俺が女な訳ないだろ。訳あって、少しの間フウロに代わってジムリーダーやってんだよ」

「シオンさんが?本当に?」

「疑ってるな?こう見えて免許も持ってるんだぜ」

 

 財布から取り出したジムリーダーの免許証をメイの目前に突き出す。

 

「って、立ち話する為に来たんじゃないんです。ジム戦お願いします!」

「……へぇ」

 

 コイツ、随分マシな目になったな。

 

「付いてきな。バトルフィールドに案内してやるよ」

 

 

◆◇◆

 

 

「さてと、始める前に、お前今バッジは何個持ってる?」

「7個です!」

「……よし!俺が使用するポケモンは3体だ。お前は6体まで使っていいぞ!」

「それって不公平なのでは?」

「ん?2体の方がいいか?」

「なっ……ふん。あんまり舐めてると痛い目見ますよ!行ってイワパレス!」

 

 何が気に障ったのか、怒り出したメイは早速ポケモンを繰り出してしまった。

 

 ジムバトルではジムリーダーが最初にポケモンを出すって決まっているんだが、言っても無駄な時の目をしている。

 

「先攻はチャレンジャーが!バトル中の交代はチャレンジャーにのみ認められる!」

「そういうのいいから早くポケモンを出してくださいよ!」

「なんでそんなに怒ってんだよ。まぁいい、出番だシンボラー!」

「フューーー!!」

「砂漠で見たのと同じポケモン……」

 

 メイはポケモン図鑑を取り出すと俺のシンボラーに向けた。

 

『シンボラー。とりもどきポケモン。エスパー、ひこうタイプ。古代都市の守り神。いつも同じルートを巡回し侵入者を見張っていた』

 

「あまり素早いポケモンじゃなかったハズです。イワパレス『ロックブラスト』を散らして撃って!」

 

 イワパレスは周囲に無数の岩を作り四方八方に撃ち放った。

 

「これを避け続けるのは流石に厳しいな。シンボラー、岩が届かない場所まで上昇しろ!」

「だったら今のうちに『からをやぶる』!」

「なるほど。隙の大きい『からをやぶる』もこのタイミングなら反撃は受けない。けどその技は使った後にもリスクが付き纏うぞ」

 

 『からをやぶる』は使ったポケモンの攻撃力と素早さの両方をアップする代わりに防御力は低下してしまうハイリスクハイリターンの技だ。

 この状態のイワパレスの岩技を受ければただでは済まない。最悪一撃で戦闘不能だ。

 

 それなら、ヤツの攻撃が届かない上空から遠距離技で一方的に削りきるだけだ。

 

「シンボラー、その場所から『ねっぷう』!」

 

 『ねっぷう』はその名の通り前方に熱風を起こす炎技。その攻撃範囲は絶大で今のシンボラーの距離から撃てばフィールド全体を覆い尽くす。

 

 イワパレスの攻撃はシンボラーに届かないので折角上げた攻撃力は意味を成さない。フィールドのどこにも逃げ場が無いので素早さも無意味。残ったのは下がった防御力だけ。

 

 距離が距離なので『ねっぷう』の威力は減衰しているが、かえってそれが時間をかけじっくりとイワパレスを追い詰める残酷な展開を演出している。

 

 相手の技が届かない空から一方的に攻撃を浴びせる。フキヨセジムのみならず、ひこうタイプのジムではよく見る光景だ。弱点タイプのポケモンを用意する程度の対策じゃこうなってしまう。

 

「どうするメイ。これでお前は1匹失ったぞ!」

「いいえまだイワパレスはやれます。イワパレス!背負った岩から飛び出して、地面に向かって『がんせきほう』!」

「なに!?」

 

 生身のイワパレス初めて見た!

 

 じゃなくて、『がんせきほう』を地面に撃った反動でイワパレスが飛び上がり、上を取られてしまった。

 

「狙いを定めて『シザークロス』!」

 

 避けるのは間に合わない。

 

 『ねっぷう』や『エアスラッシュ』で撃ち落とし、地面に叩き付けるのが理想的だが、今のイワパレスじゃ突っ切って無理矢理技を当ててくるかもしれない。そうなればこっちが一方的にダメージを喰らう。

 

 一方的なバトルが一気に面白くなってきやがった。

 

「正面から捩じ伏せるぞシンボラー!『ギガインパクト』で迎え撃て!」

 

 空中で両者のポケモンが交差する。

 

 結果は………

 

「イワパレス!」

 

 空中で力尽きたイワパレスはなんの抵抗も無いまま地面に叩き付けられる。当然戦闘不能だ。

 

「よくやったぞシンボラー」

「フュュ」

「さぁメイ。次のポケモンを出すんだ」

「言われなくても!出ておいで、フライゴン!『しんくうは』!」

 

 かくとうタイプの技だ。わざわざ避けるまでもない。

 

「怯むなシンボラー。『ギガインパクト』!」

 

 眩い光を全身に宿しフライゴンに突進する。途中『しんくうは』に激突するがエスパー、ひこうタイプのシンボラーへのダメージは0に等しい。

 

「フライゴン『ほのおのうず』です!」

 

 次にメイのフライゴンが繰り出したのは『ほのおのうず』だ。

 

「なるほどな。それがフライゴンを出した理由か」

 

 『ほのおのうず』は一般的には相手を拘束する技だが、ひこうタイプに対しては効果バツグン以上の役割を果たす技でもある。

 ひこうタイプがこの種の技を喰らうと、翼を上手く動かせなくなり墜落してしまうのだ。

 

「裏技だな。でもそれは極限まで鍛えて初めて成立する戦法だ」

 

 シンボラーのバランスを崩すには密度が足りな過ぎる。急いで覚えさせたのが丸わかりだぜ!

 

「『ほのおのうず』を突き抜けろ!シンボラー!!」

 

 迷うこと無く『ほのおのうず』の中に飛び込み、突き抜けた。

 

 思った通り『ほのおのうず』では『ギガインパクト』を食い止めるには至らなかったようだ。勢いそのままに『ギガインパクト』でフライゴンをぶち抜いた。

 

「体勢を立て直して『ドラゴンクロー』!」

「『ダブルウィング』で弾き落とせ!」

 

 フライゴンは何とか体勢を立て直せたみたいだが、『ギガインパクト』で体力は限界に近い。その証拠に繰り出した『ドラゴンクロー』には力強さの「ち」の字も無い。

 

 『ダブルウィング』の初弾で『ドラゴンクロー』を弾き、フライゴンが大きく仰け反った所に続く二発目を命中させる。

 

「フライゴン!」

 

 墜落した衝撃で砂埃が舞う。少し経ち視界が晴れると案の定そこには戦闘不能になったフライゴンの姿があった。

 

「くっ、ごめんなさいフライゴン。次はあなたです」

「シュワッ!」

「スターミーか!」

 

 バトルサブウェイじゃ使ってなかったポケモンだ。サザナミタウン辺りで捕まえたのか。

 

 覚える技が多彩で型が読めない。油断ならないポケモンだ。

 

「シンボラーに接近して!」

「早い!」

 

 指示を出す間も無く、スターミーはシンボラーの目前に跳び上がった。

 

「この子スピードが自慢なんです!おかげでゲットするのに丸1日かかりましたけど。『ふぶき』です!」

 

 その距離で『ふぶき』は不味いぞ!

 

「耐えろ!耐えてくれシンボラー!」

 

 シンボラーは次第に氷結していき、ついには全身が氷に覆われた。

 

 当然そんな状態では空を飛ぶことは出来ず重力に従って落下した。

 

 氷が砕け散り、キラキラした白い霧が墜落地点に広がる。その霧の中から黒い影が飛び上がった。

 

「フュァ!!」

「よく耐えたぞシンボラー、力を振り絞って『ギガインパクト』!」

「っ!『でんじは』!」

「ヘア!」

 

 メイは真っ向から迎え撃つより、後のポケモンで確実に倒す方を選択したようだ。

 

 無事に『ギガインパクト』を命中させたが痺れに侵されたシンボラーはもう戦える状態に無い。

 

「……意外だな。お前が攻撃技以外を使うなんて」

「最初はポケモンの捕獲の為でしたが、バトルでも使ってみたらイイもんですよ」

 

 そう言ったメイはとても悪い笑みを浮かべる。意地悪に拍車がかかったな。

 

「相手は弱ってますよアーケオス!」

「グシャァァ!」

 

 けたたましい鳴き声と共にボールから飛び出したのはメイの4体目であるアーケオス。いわ、ひこうタイプのポケモンだ。

 

 とても強力なポケモンで知られているが、それは体力が十分にある時の話。

 

 アーケオスの特性である『よわき』は体力が減ると攻撃力が著しく低下するというポケモンでは珍しいデメリットがある特性だ。

 

「その威勢すぐに引っ込めてやるよ!『エアスラッシュ』!」

「『でんこうせっか』でとどめを刺してください!」

 

 アーケオスは襲いかかる風の刃の隙間を縫い、瞬く間にシンボラーに激突した。

 

「ありがとうシンボラー。ゆっくり休んでくれ。次のポケモンはコイツだ!」

「ガァァァァ!」

「初めて見るポケモン…」

 

『プテラ。かせきポケモン。いわ、ひこうタイプ。恐竜時代の大空を飛び回っていたポケモン。ノコギリのようなキバを持つ』

 

「向こうも化石ポケモン。負けられませんね。アーケオス」

「ジャァァ!」

「空は誰の物かを教えてやれプテラ」

「ガッッ!」

「上昇して!」

「追え!プテラ!」

 

 凄まじい速度でグングンと高度を高めるアーケオスとそれを追うプテラ。スピードは全くの互角でいつまで経っても距離は縮まらない。

 

 このままでは埒が明かない。仕掛けるとするか。

 

「『りゅうのはどう』!」

「ふふん。『つばめがえし』!」

「消えた!?」

 

 『りゅうのはどう』が命中する直前、アーケオスがその姿を消した。

 

 一気に旋回して、逆にプテラが後ろを取られてしまった。

 

「っ、後ろだプテラ!」

「もう遅いですよ!」

 

 プテラは後方を攻撃する技を持っていない。方向転換しようにもスピードを出しすぎて急には出来ない。

 

 この攻撃は受けるしかないか。

 

 幸いひこう技の『つばめがえし』はいわタイプのプテラに効果はいまひとつだ。安く受けられる。

 

「さぁお返しだ。『ひみつのちから』!」

 

 ヤーコンロードで知り合った山男に貰ったわざマシンで覚えさせた技だ。ちなみにプテラの元となった『ひみつのコハク』。それと使い道の分からない螺旋模様の石も同じ山男から貰った物だ。

 

「なんですかこの技は!」

「『ひみつのちから』は使う場所で効果が変わるんだ!フィールドが空中の時は……」

 

 どこからともなく発生した煙幕がアーケオスを覆い隠した。

 

「相手を麻痺させる!」

「アーケオス!」

 

 アーケオスの全身に電気が走る。元々飛び方が不安定だったアーケオスは麻痺により完全に制空権を失った。

 

「言っただろ。お返しってな」

「大丈夫ですかアーケオス!」

「クァ……」

 

 まだ弱気になる程ダメージは喰らっていない。しかし空を飛べなくなったアーケオスはショックで完全に弱気になっている。

 

「空を失えばこんなものか。案外呆気なかったな」

「言われてますよアーケオス!このままじゃ引き下がれないですよね!ね!?」

「さぁ相手の羽は捥いだぞ『じしん』!」

「いやいやいや、ひこうタイプが地面技で仕留められるなんて認めませんよ!ちょこっとでいいから飛ぶんですアーケオス!」

 

 『じしん』を起こす為に地面に急降下するプテラ。その間メイは諦めずにアーケオスへ声をかけ続ける。

 

「……成長したなメイ。以前までのお前なら、アーケオスが麻痺した時点で勝負を捨てていただろう」

 

 でも今のお前は、諦めずこうやってアーケオスを信じ続けている。

 

 3人のジムリーダーたちが、お前を良い方向へ導いてくれたのだろう。

 

 代理とはいえ俺もジムリーダーだ。最後の時まで君の学びになるよう努めよう。

 

「アーケオス。メイはお前が本気を出せばこのピンチを切り抜けられるって本気で思ってる。盲目的に肯定して出来ない事をやれって言ってるんじゃねぇ。信じてみろよ、そんな自分のトレーナーを」

「クシャ………アギャァァァ」

 

 プテラが『じしん』を起こす直前、アーケオスは再び空中に舞い上がった。

 

「マジか……麻痺まで治しやがった」

 

 飛び上がるのは予想の範囲内だったが、まさか気合いで麻痺まで治してしまうなんて、そんな現象中々お目にかかれない。良いものを見せてもらった。

 

「でも負けるつもりは無いさ。プテラ、煙の中に身を潜めるんだ」

 

 プテラは超低空で飛び回り『じしん』によって舞い上がった砂煙の中で姿をくらませる。

 

「奇襲を仕掛けるぞ、身を隠しながら『りゅうのまい』で力を蓄えろ」

 

 プテラの羽ばたく風圧で砂煙がどんどん吹き飛んでいく。あまり悠長にやってる時間は無いな。

 

 奇襲が成立するギリギリまで速度を高めていく。

 

「アーケオス、上からなら影が見えるはずです。取り返しがつかなくなる前にプテラの姿を捉えるんです!」

 

 無駄だ。もう目で追えるスピードじゃない。

 

 でも、まだだ。まだいける。もっとスピードを上げられる。

 

 この勝負は貰った。そう思った瞬間、予想外の事態が起こる。

 

 プテラの身体が突如発光を始めたのだ。これじゃ居場所が丸分かりである。

 

「そこです!『もろはのずつき』!!」

「チッ!仕方ねぇか、『すてみタックル』!」

 

 アーケオスを正面から迎え撃つ為にプテラは煙の中から飛び出した。

 

「プテラの姿が……!」

「変わってる。進化したのか!?」

 

 さっきの発光の正体はコレだったのか。プテラは身体の至る箇所から岩が生えた姿に変貌を遂げていた。

 

 こっちの驚愕を他所に2体のポケモンは空中で激突する。

 

 凄まじい衝撃が発生し思わず目を瞑った。

 

 風が収まったので目を開けると、2体共地面に倒れ伏していた。

 

「プテラの姿が、元に戻っている……」

 

 進化したポケモンが元に戻る。ポケモンにはそこそこ詳しいつもりだが、こんな現象聞いた事ないぞ。

 

 でも、これを引き起こした物なら分かる。山男から貰った不思議な柄の石だ。プテラが光ったのと同じタイミングでこの石も発光していた。

 

 俺はその石をメイに投げ渡した。

 

「おっと……なんですかコレ!」

「俺も分からない。でもソレはお前が持っとけ、その方がいい気がする!」

「気がするって、まぁくれるって言うなら貰いますけど」

 

 メイは石をバッグに突っ込んだ。

 

 うん。正直気味が悪い石だったから押し付け………ゲフン。

 

「よし!俺の3体目はコイツだ」

「グライ!」

「その子が最後のポケモン!ついに追い詰めましたよシオンさん!」

 

『グライオン。キバさそりポケモン。じめん、ひこうタイプ。音をたてずに空を舞い獲物に近づくと一瞬で急所を一突きするぞ!』

 

「じめんタイプ。だったらアナタですダイケンキ!!」

「キュオォォォォ!!」

「グライオン『ハサミギロチン』!」

「なっ避けてください!」

 

 一撃必殺を狙ってみるがやはり避けられてしまった。

 

「戻ってダイケンキ。出番ですよエアームド!」

 

 メイはポケモンを交代させエアームドを繰り出した。

 

 『ハサミギロチン』を嫌って一撃必殺が効かない『がんじょう』のエアームドへの交換。素早い判断だが、エアームドの特性は『がんじょう』だけじゃない。

 

 メイのエアームドが本当に『がんじょう』なのか確かめさせてもらう。

 

「気にせず『ハサミギロチン』!」

 

 もし本当に『がんじょう』だったなら莫大な隙を晒す事になるが、違ったなら一撃必殺。オマケに攻撃力の低いエアームドじゃお仕置きも安く済むだろう。

 

 つまり狙う価値の方が大きい!

 

「くっ、避けてエアームド!」

 

 エアームドは身を翻し間一髪で『ハサミギロチン』を避ける。

 

 という事は特性は『するどいめ』か『くだけるよろい』か、今のがフェイントで本当に『がんじょう』の可能性もあるにはあるが、そんな事をする理由が無い。

 

「エアームド、『ステルスロック』」

 

 フィールドに透明な石を撒き散らす。

 

「そんな技、空を飛ぶグライオンには効かないよ!『ハサミギロチン』だ!」

「逃げてエアームド!」

 

 逃げるエアームドとそれを追いかけるグライオン。

 

 スピードはグライオンが勝っており、2体の距離は着実に縮まっている。『ハサミギロチン』が命中するのは時間の問題だ。

 

「エアームド、『まきびし』!」

「だからグライオンには効かないって!」

「エアームド、もう1度『まきびし』!」

「また『まきびし』、一体何が狙いなんだ?」

 

 ひこうタイプのグライオンには効果が無い。そんなのメイも分かってるハズだ。それでもやってくるのなら何か狙いがあるハズだ。

 

 考えろ。今『まきびし』や『ステルスロック』を撒いて効果があるのはダイケンキだ。自分のポケモンにダメージを負わせて何になる?

 

 ………いや。そういう事か。コイツ、『まきびし』と『ステルスロック』のダメージで無理矢理『げきりゅう』を発動させる気だ。

 

「もう一度『まきびし』です!」

「ッシャッ!」

「これ以上好きにさせるな!グライオン!」

「ラァイ!!」

 

 最後にもう1回『まきびし』を撒かれてしまったが何とかエアームドは落とせた。やはり『がんじょう』ではなかったか。

 

「さぁ踏ん張りどころです。ダイケンキ!」

「キュオ………ギュュー……!!」

 

 再びフィールドに降り立ったダイケンキの足元には数多くの設置技。岩が足に食い込み、罠が爆発を起こす。

 

「やっぱり『げきりゅう』だよな!」

 

 ダイケンキが前足を叩き付けると、プテラの『じしん』で出来た罅割れから水が吹き出した。雨の時程じゃないが、コレでもみず技の威力はそこそこ上がる。

 

 こうなってしまってはもう『ハサミギロチン』をぶち当てるしか他に無い。

 

「まずは機動力を奪う。『すなあらし』!」

 

 ダイケンキの足元に風を呼び、一気に砂を巻き上げる。

 

 これではマトモに動けまい。目を開けるのもままならないハズだ。

 

「『ハサミギロチン』!」

「その技を待ってましたよ。地面に向かって『みずのはどう』!」

「そう来たか!」

 

 撃ち出された『みずのはどう』は地面にぶつかり弾ける。その際に飛び散った水滴が砂を吸い取り、ダイケンキを閉じ込めていた『すなあらし』は一瞬にして晴れ、ついでにグライオンも衝撃で吹き飛ばした。

 

「空に逃げろグライオン!」

「もう遅い!『シェルブレード』だよダイケンキ!!」

 

 『ハサミギロチン』を当てるためダイケンキに接近していたグライオンはダイケンキの射程圏内に入ってしまっていた。

 

 逃げるグライオンに追い付いたダイケンキはその背中を貝殻で切りつけた。

 

「グライオン!……くっ、戦闘不能だ」

「ぃよっ……しゃあ!!やりましたよダイケンキ!」

「キュ…」

 

 体全体で喜びを表現するメイと、当然だ。なんて風に頷くダイケンキ。

 

「お疲れグライオン。ゆっくり休んでくれ」

 

 グライオンをボールに戻し、俺はこのバトルの勝者に向かって歩いていく。

 

「おめでとうメイ。これが勝者の証、ジェットバッジだ」

「コレが最後のバッジ!うぅぅやったあ!」

 

 メイはバッジをそれはもう大事にケースにはめた。

 

「やっぱ壮観だな。8個集まると」

「ええ………」

「……?どうした、メイ」

「シオンさん。私、お話ししたい事があるんです」

 

 

◆◇◆

 

 

 私がマルチトレインの相方にシオンさんを選んだのは、本当にただの偶然だった。

 

 たまたま周辺にいるトレーナーの中で一番強そうだったから選んだのが彼だっただけの話。当然そこには特別な感情は一欠片も無い。最低限足を引っ張らない数合わせ程度の認識しか無かった。

 

 しかし一緒にバトルしてみるとその認識は覆された。

 

 その時のバトルは私たちが手も足も出ずに押されていた。そういう時ペアを組んだトレーナーは決まって汚い言葉を吐くのだがシオンさんにはそれが無かった。

 

 ふと気になって横を見ればシオンさんは笑っていたのだ。

 

 あぁ、この人は私なんかが関わっていい人じゃないんだ。

 

 心の底からそう思った。こんな状況で笑えるのは、まだ勝てるってポケモンたちを信じている証拠だ。

 

 強くなりたいとは口では言うけど、ポケモンを信じるという初歩的な事も出来ない私とは住む世界が違うんだ。

 

 その輝きに少しでも陰を混ぜてしまうのが怖くて、バトルが終わると私は逃げる様にその場を去った。その日の夜はどうしてか涙が溢れ出たのを覚えている。

 

 次の日、もう実家に帰ろうとポケモンセンターを出たハズなのに、気付けば私は再びシオンさんとマルチトレインに乗り込んでいた。

 

 結果は2連勝。多いとは言えない記録だが、勝てただけでも奇跡だった。

 

 同時に私は勝利の味を知ってしまい、その甘美な蜜を求めシオンさんに集り続けた。

 

 そんな醜い私にシオンさんはいつまでも一緒にいてくれて、気付けば勝利では無くシオンさんの虜になっていた。

 

 そんなアナタを見たから、ポケモンを信じるのに資格なんて要らないって思えた。

 

 今の私があるのは、紛れも無くシオンさんのおかげなんだ。

 

「私、誰に対しても胸を張れるトレーナーになれました」

「うん」

「これもシオンさんのおかげなんです。アナタがいたから頑張れたんです」

「………」

「それでですね、今日再会して分かった事がありまして、やっぱり私、シオンさんのことが……」

「事が?」

「す……………すk「『シャドーボール』!」へ?」

「危ない!」

 

 一世一代の告白の瞬間、何者かの『シャドーボール』が飛んできた。

 

 急な事に反応出来ずにいるとシオンさんが私を抱き寄せてくれて被弾はしなかったが、当たっていれば無事では無かっただろう。

 

「誰だ!!」

 

 シオンさんの言葉に答えるように、出入口からプラズマ団たちが入り込んでくる。

 

 ワラワラまるで虫のようだ。圧倒的な数で瞬く間に全方を囲まれた。

 

「プラズマ団!ここに何の用だ!」

「ポケモンを利用し私欲を貪る悪人からポケモンを解放しに来たんだよ!」

「なに!」

「仮に貴様がポケモンを想っているなら、大人しくポケモンを寄越せ!正義は我々にある」

「何が正義ですか!貴方たちこそ私欲の為にポケモンを利用してるじゃないですか!」

「黙れぇ!レパルダス『シャドボール』!」

 

 また『シャドーボール』が飛んでくる。さっきのバトルで私のポケモンはみんな戦闘不能。防ぐ術は無い。

 

 衝撃に備えて身を固めぎゅっと目を瞑る。

 

 しかしいつまで経っても痛みは襲ってこない。恐る恐る目を開けると、見知らぬポケモンが飛んできた攻撃を全て受け止めていた。

 

「ありがとうボルトロス!『でんげきは』!」

「ボルトロス……」

 

『ボルトロス。らいげきポケモン。でんき、ひこうタイプ。大空を飛び回りながらあちこちに雷を落として山火事を起こすので嫌われる』

 

 あまりにあんまりな説明文だが、強力なポケモンである事は間違いないだろう。既にプラズマ団のポケモンの3割は削れている。

 

「お前らも出てこい!!」

 

 シオンさんはモンスターボールを宙に投げ、新たに5体のポケモンが姿を現した。

 

「グルルオー!!」

「キュウウン!!」

「ザ・ジ・ズ!!」

「ルナーーン!!」

「ロメロート!!」

 

 どれもこれも見た事が無いポケモン。全員が普通では出しえない風格を漂わせ、プラズマ団のポケモンをただ蹂躙していった。

 





『シオン』
実はジムリーダー経験者だった男。イッシュ地方に生息する最終進化系のポケモンは大体持ってる。

『メイ』
1番最初にシオンを好きになった。
と思ってる人。

『シオンくんのポケモンたち』
鳴き声で何のポケモンなのか予想してみよう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。