プラズマ団という悪を打ち倒し、イッシュ地方のチャンピオンとなった僕に待ち受けていたのはどうしようもなく退屈な日々だった。
燃え尽き症候群ってやつだ。
バトルも超頑張ったし、しばらくはいいかな。て状態だし、だからと言って旅をする程の活力も無い。寧ろ外に出たくない。
これが他の地方に行けるとなったら少しは気が向いたと思うが、残念ながら自分はチャンピオンの身だ。有事に備え、基本的にイッシュ地方への滞在が義務付けられている。
バトルも無い。旅も無い。趣味も無い。仕事が忙しい。
ただただ山も谷も無い平坦な日々を過ごしていた。
そんなある日、僕の元に電話がかかってきた。
『来週の日曜日にさ!観覧車に乗ろうよ!』
相手は幼馴染のベル。しばらく会えていなかったが、相変わらず元気そうで何よりだ。
暇で暇で仕方がなかった僕に指した一筋の光。二つ返事でその提案を了承した。
チャンピオンとして挑戦者をシバキ回す事1週間とちょい。遂に約束の日はやってきた。
なんだかんだ楽しみだったので前日はあまり寝れず、約束の時間は10時なのに7時に集合場所に来てしまった。
さて。どうやって時間を潰そうか。スタジアムやミュージカルはまだやっていないし、バトルサブウェイは…………バトルはやる気が出ん。チャレンジャーとやるのも嫌々なのに進んでやろうとは思わないな。
結局ベンチに座ってライブキャスターを見て時間を潰すことにした。
もっと家にいれば良かったなー。と思いつつお気に入りのストリーマーの動画を開いた瞬間。スマホからアラームが鳴った。
ベルからの電話だ。
「……………」
普段からライブキャスターに張り付いていると思われたくないので2、3コール待ってから電話に出る。
『あ!もしもし?』
「………」
『えーっとね。………ごめんなさい!今日一緒にお出かけ出来なくなっちゃったの!』
目をギューって瞑り手を合わせて謝るベル。
あ。そっかー。残念だね!また今度行こー。理由は聞かずにしょうがないよ。と言い余裕のある僕を作り出す。
彼女がドタキャンするなんてよっぽど重要な用事が出来たのだろう。例えば仕事の事とか。
仕事………仕事、か………
……明日からまた仕事か〜。
「…………」
楽しい日曜になるハズが一転。ダラダラと時間を過ごし迫る月曜に怯えるいつも通りの日曜日になってしまった。
…………折角来たんだし観覧車乗ろ。
運良く客の人数は少ない。10分ちょっとで乗れるだろう。
珍しく空いてるな。と列に並ぶ。すると急激に人が増え後ろには長蛇の列が出来上がった。
一体どこまで列が伸びて行くんだと後ろを見続ける。
家族。友達。恋人……。当たり前だが自分以外に1人で乗ろうとする人はいない。
その事実に自分が恥ずかしくなった。
アイツ一人で観覧車乗ろうとしてるんだけどー。
えーウケるー。
て会話してる奴絶対いるだろ。
ふと前を見ると次が自分の番。しかし乗りたいという気持ちはもうゼロだ。列から抜けよう……「ねぇキミ!」
「…………!?」
突然肩に手を置かれる。
振り返るとそこには同い歳くらいの金髪の少年がいた。
金髪……陽キャだ!!自分とは対極にいる人種。驚きで声が出なくなる……いや声が出ないのは元からだが。
なんてそんな事言ってる場合じゃない。何故!?何故今僕に話しかけたの!?気付かぬうちに靴踏んじゃったりしちゃったかな!?
いやまさか僕がチャンピオンだってバレた?この日の為に用意した完璧な変装が見破られた!?
「もしかしてキミさ!」
あ、バラさないで、人に注目されるの苦手なんです。知らない人の視線とか無理なんですぅ……
「俺の考えがあってれば……」
あ、あぅあうあぅ……
「一人で乗ろうとしてる?」
あぁ違います。僕はチャンピオンなんかじゃ
………へ?……そう、ですね。1人で来てます。
あ!ゴメンなさい。ぼっちで乗ろうとして!迷惑ですよね!今すぐ抜けます!
「良かったら俺と一緒に乗らない?」
え?
「幼馴染と乗るつもりが仕事で来れなくなってさ!折角なら乗ろうと思ったけど気まずくて!」
あ。僕と同じ状況だ……
「キミさえ良ければだけど、どうかな?」
なんだこの人。陰キャに優しい陽キャかよ。
でも流石に知らない人と密閉空間で二人きりはちょっと………
「いつ乗ってもこの景色を見ると気分が洗われるよ」
「……………」
乗ってしまった。
あ、コレは観覧車に乗ったのと誘いに乗ったっていうダブルミーニングで、
「キミはこの観覧車は初めて?」
あ、初めてじゃないです。
ベルでしょ。チェレンでしょ。Nでしょ。あとは…………………えへへ
「そっか。友達いっぱいいるんだね!」
この人優しすぎる。神かよ……
全身に優しさが染み渡り涙が出てくる。お父さん……
「俺はお父さんじゃないけど……えっと、悩みがあるなら聞くよ!」
包容力がエグい。
他人だから悩みを話せるとかフィクションの中だけの現象だと思ってたけど、嘘のようにペラペラ話してしまった。勢いで自分がチャンピオンだって事も話した。
僕が一方的に喋ってるだけなのに、陽キャさんは嫌な顔をせず最後まで話を聞いてくれた。
「チャンピオンになってから何かをする気力が湧かない。成程ね」
陽キャさんは顎に手を当てて考え込む。
「別にバトルがつまらなくなったって訳じゃないんだね?」
そうだ。バトルは今だって最高に楽しい。けどバトルをしようってやる気が起きないのだ。
「それ以外にもいまいち身が入らないと………」
その通りだ。バトルだけじゃなくて、全ての事に全くやる気が起きない。始めさえすれば普通に出来るのだが………
「それって多分さ。なんか不安な事があるんじゃないかな」
不安な事?
「そう。将来の不安」
将来の不安か。思い当たる節はある。
それは強者への挑戦だ。ジムリーダー、四天王、チャンピオン。自分が何者でもない状態で、強者を打ち倒す。その感覚が堪らなく好きだった。それがあるから旅の途中、どんなに辛い事があっても次も頑張ろうと思えた。
あの時の僕は燃えていたんだ。
でもチャンピオンになってその炎はフッと消えた。
挑戦する側からされる側になったのだ。僕がチャンピオンである限りその事実は覆らない。そして僕は強い、イッシュ地方の誰よりもだ。少なくとも数年、もしかすれば何十年もこれが続く。
その将来への不安が僕の問題の原因だ。
「………よし!じゃあチャンピオン辞めよう!それで他の地方に行ってみろよ」
うん。やっぱりチャンピオンを辞めるしか………てええ!?
ダメダメダメダメ!負けた訳でもないのにそんな無責任な事は出来ませんよ!
「なんでさ。アデクさんにやっぱり代わってって言うだけだろ?」
確かに!そうだけど!
それだとチャンピオンとしての責任が!
「そんなの考えるなって!子供なんだから我儘に生きてみろ!」
いやいや、そもそもね。他の地方に僕より強いトレーナーがいるなんて保証は無いですよ。
「なんでそんなネガティブな考え方するんだよ。もっと熱くなれって」
そう言われて熱くなれたら今苦労してない。
「だったら!!!俺が強くなってやる!お前がチャンピオンを辞めるって言うならな!」
……え?えー?どういう事?
「だから!お前が旅に出てる間に俺がチャンピオンを超えるトレーナーになってやるって言ってんだよ!そうすればイッシュの外にお前より上の相手がいなかったとしても安心だろ!」
熱く叫ぶ陽キャさんを見て、昔の自分自身を思い出す。
だからじゃないけど、ついYesと答えてしまった。
観覧車を降りた後、陽キャさんが話しかけてきた。
「シオン。イッシュ地方で一番のトレーナーになる名前だ」
シオン。その名前を心の中で繰り返す。特に意味は無い。
「お前は?」
僕は、僕の名前は……
「
期待はしていない。ちょっとした観光になればそれで十分だ。
その後、チャンピオンの座を返上した僕は約束通り色々な地方を旅して回った。
当初は観光目的の旅であったが、予想とは裏腹に僕を超えるトレーナーは山ほど存在した。それはもう数え切れないくらい。
特にカントー地方とジョウト地方は凄かった。一見普通のトレーナーでも次々と強力なポケモンを繰り出してくる。一部のジムリーダーには敗北を喫したりもした。
イッシュ地方なんて狭い場所で絶望するには、世界は広すぎた。
すっかり気分も晴れ全てを忘れてバトルに明け暮れていた。
………いや、たった1つだけどんな時も忘れなかった事があった。それはあの時シオンという少年と
もうあれから3年以上は経つ。
微塵も期待していなかった別地方のトレーナーがこれ程の強者揃いだった。
だったら絶対に強くなると約束したシオンはそれ以上に強くなっているに決まっている。
期待に胸を膨らませ、僕はイッシュ行きの飛行機に乗り込んだ。
『シオン』
一番陽キャだった時のシオンくん。
まだバッジ3個でそこまで強くない。
因みに既にパルデアに旅立った後なのでイッシュ地方にはいません。
『トウコ』
僕っ娘無口。しかし謎に会話は成立する謎の生き物。
シオンくんとは将来(バトルするの)を誓い合った仲だと周りに豪語している。
決して他意は無い。
帰ったらシオンがいないんだけど……。
フーン。パルデア地方にいるんだ。