「まぁ気を付けなさいよ?」
「お前もな」
そう言ったやり取りをキンジとアリアは成田空港にあるカフェでお茶をしていた。
さて先日の決定から行動はすぐに開始され、アリアは送還命令を受け入れる形であかりを連れてイギリスに帰ることになり、先程銭形にニコニコ顔でやって来たが書類をいただき仕事に戻っていった彼女を見送ったあと搭乗時間まで時間があったためお茶を飲んでいたのだが……
(か、会話が全く続かん)
とキンジは内心頭を抱えていた。
飛行機で別れれば暫く会えなくなるし、少し話したかった。そしてちょっとお茶でもと思ったのだが、想像以上に話が続かない。
なんと言うかこうのんびりとした空気だと緋緋神に体を乗っ取られかける直前のあのやり取りを思い出してしまい照れ臭くて仕方ないのだ。それはアリアも同じらしく耳まで赤くして注文したコーヒーにアホほど砂糖いれてみたりミルクを溢したり熱いのにいきなり口にいれて熱くて吹きそうになったりと落ち着きがない。かくゆう自分もさっきからコーヒーをスプーンでかき混ぜ続けてみたりとあまり冷静とは言えないが……
しかしだ。なんと言うか今までとは違う。今までは普通に話していた筈なのにこうして顔を見るだけで落ち着かない。それに顔をみてみればなんかアリアがかわいく見えると言う謎仕様である。これは俺の目が何かの病気になったんだろうか……等と思っているとアリアが口を開いた。
「ね、ねえキンジ。アメリカは良いとこよ?」
「へ、へぇ?行ったことあるのか?」
ま、まあ仕事でねと錆たブリキのオモチャかなにかかと思ってしまうような喋りにキンジもガチガチになってしまう。
勿論そんなことをしていると、
「あ、時間……」
とアリアが時間を確認するともういかなくてはならないようで、立ち上がる。キンジもそれに会わせて立ち上がると、
「キ、キンジ」
「ん?」
アリアが何か意を決したようにこちらをみてくる。その姿にキンジも思わず背筋を伸ばす。
「ちゃ、ちゃんと全部終わって……緋緋神の心配がなくなったら……今度こそ言うからね!」
そうアリアは一気に捲し立てながらそう言うと背中を向けて砂塵をあげながら爆走していきキンジが声を掛ける間も無く居なくなってしまった。
それにしても今度こそと言うのは、まぁ一昨日のあの事だよな?それはその……うん。なんか顔が熱い。なんか頬が緩みそうだしこのままだとやばそうなのでキンジもGⅢたちと待ち合わせている場所に急ぐ。
なんでもGⅢは自分で飛行機を持っているので、アメリカにもそれで向かうらしい。ホント兄弟なのに色々とスゲェよあいつは……
何て思いながら集合場所に向かうと、既にそこにはGⅢだけではなく、その仲間に一毅やレキも待っていた。
「よう兄貴。別れの挨拶はすんだか?」
「あぁ。問題ない」
何て言い合っていると横からドンッと衝撃が走り、キンジが見てみると頬を膨らませたかなめである。
「お兄ちゃん酷い!可愛い妹が桐生一毅に絞め落とされていたのに無視して他の女のところに行くなんて!」
と、水饅頭みたいな胸をムニムニ押し付けながらかなめは言う。そう、先程アリアに挨拶に行くと行ったときも付いていくと言い出した彼女だが、即刻一毅に首を絞められそのまま気絶……その間にアリアのところに行ったのがお気に召さなかったらしい。
「はいはい。んじゃあ行くか。金三」
「だからその呼び方止めろっつってんだろ!!!」
空港中に響き渡ったんじゃないかとおもうほどの怒声に、周りの人の視線が集まりGⅢは慌てて口を塞ぎ、キンジを睨み付ける。
そんな弟を尻目にキンジはプライベートジェット用のゲートを潜っていくと、それに続くようにGⅢの仲間たちも入っていき、一毅とレキも続く。
「ちっ!」
GⅢもとりあえず諦めたのかキンジの隣まで小走りで走ってくると隣にならんで歩く。
「しかしお前の飛行機で行くにせよ誰が運転するんだ?まさか雇ったのか?」
「んなわけあるか。知らねぇやつなんぞ信用できねぇ。アンガスとアトラスが交代で運転するんだよ」
アトラスは確か今後ろにいるガタイのいい白人の男で、確かアンガスと言うのは……
「お待ちしておりました。GⅢ様」
と、恭しく待っていた初老の男性は此方にお辞儀をする。そうそう、GⅢと戦ったときも居た気がするよ。
しかし……
「なんだこの機体……
「
無茶言うなよ……とキンジは息を吐いているとその間に他の皆は乗り込んでいき、一毅が横に来る。
「なぁ、誰か来るぞ?」
「え?」
一毅にそういわれキンジがその方向を見ると、確かに数名の黒いスーツに身を包んだ男に囲まれてやって来る男が来た。
「ようGⅢ。元気そうじゃないか」
「なんだニシキヤマ。あんたこそこれから外交か?」
ニシキヤマ。そうGⅢが呼んだ男に一毅は首をかしげる。
「何だか金三と知り合いっぽいぞ?」
「お前……マジで分かんないのか?いや、すまん。分かんないだな」
はぁ、とキンジは頭いたいと呟く。その光景に一毅がますます首をかしげていると、レキが口を開いた。
「今の日本で一番偉い人ですよ」
「んん?」
と、一毅はますます首をかしげ相手を見ると、
「あぁ!思い出した!」
「ん?あぁ、お前らは金叉さんと一明さんの息子じゃねぇか」
そう言った男は此方にやって来る。そしてその言葉にキンジは眉を寄せた。
「父さんたちを知ってるんですか?」
「まあな。俺は一個下だったがよく無茶するあの二人の後始末を良くやらされたもんさ」
と、男はそこまで言ってからひとつ咳払いをして、
「まあ知ってるかもしれないが一応名乗るか。俺は第100代目日本内閣総理大臣、錦山 京平だ。正確には二期目だから99代目でもあったけどな。丁度切りが良いから覚えやすいだろ?」
そう言いながら男は……いや、錦山総理はニッと笑みを浮かべたのだった。
錦山 京平。元武装検事と言う異色の経歴をもつ現在の日本と言う国のトップ、内閣総理大臣。
そいつがまさか父や一明さんと知り合いだったとは……いや、まあ武装検事と言うのも狭い世界なので知り合いでもおかしくはないのだが……
「よう兄貴。ニシキヤマのことを考えてるのか?」
「ん?あぁ、と言うかお前知り合いだったんだな」
と、アンガスが運転する
「これでもRランク武偵だぜ?顔は広いのさ」
「みたいだな。しかし父さんたちとも知り合いだってのは驚いたぜ」
何て言って溜め息を吐くキンジに、GⅢは少し真面目な目をしてから、
「気を付けろよ兄貴」
「なにをだ?」
突然謎の忠告をしてくる弟にキンジは驚きながら見返す。
「アイツは気さくな顔してるが油断ならねぇ奴だ。未だに表沙汰にはなってねぇがかなり危ない手も使うって噂だし、元武装検事だ。いざとなりゃ何でもする。引き金が歴代の総理大臣に比べて軽すぎるくらいでな。良く総理大臣になれたもんだぜ」
そう言えば聞いたことはある。あくまでワイドショーレベルではあるが裏じゃ何でもやってて票集めに脅しを使ってるとか色々黒い噂も絶えない。まぁ武装検事や公安0課何て未だに人殺しの集団かなんかと思ってるやつも多くて廃止運動が起きることもある。まぁ流石にそれをやったら日本の国防的に危ないため通ることはないが……
いや、今は関係ない話だった。とにかく錦山総理のことだ。
「分かった。まぁ態々総理直々に目をつけられるようなことは……うん。してないな。だから心配すんな」
「なに言ってやがんだよ。
「あ?」
あいや、何でもねぇ……そう言い残し、GⅢは立ち上がると席を移った。
他の皆もそれぞれのやり方で時間を潰しているし、こっちはどうするかなぁ。と思いながら天井を仰ぐ。しかし今何かGⅢは言いかけたが一体なんだ?まあ問いただしても答えやしないだろうが……
しかしアリアのやつはちゃんと飛行機に乗れたのだろうか……と言うか辰正のやつアリアとあかりに振り回されて苦労するだろうが大変そうだな……
等と同情紛いの思いに思わず苦笑いが漏れていると今度は後ろから一毅が声をかけてくる。
「よぅ。キンジ。ずいぶん静かだけどそんなにアリアとの暫しのお別れは寂しいのか?」
「そんなんじゃねぇよ。さっきの錦山総理について考えていただけだ」
あぁ、あの人かと一毅は頭を掻く。
「いやぁ、なんかみたことあると思ったんだけど総理大臣だったんだな」
「お前自分の国のトップ位覚えておけよ……」
そうキンジが言うと、一毅はあははと笑う。するとそこにレキがやって来た。
「しかしレキからみてどう思う?あの総理は」
「油断なりません」
一毅がそう聞くと、レキは間髪いれずにそう答え、それから続けて。
「友好的に見えますが先程キンジさんにちょっかいをかけようとした素振りもしてきましたし余りお近づきにはなりたくないですね」
「はぁ!?」
今さらっとすごいこと言わなかったか?とキンジは目を見開くと、
「キンジさん気づいてなかったんですか?
「マジかよ……」
「えぇ、一毅さんやGⅢさんが警戒してましたのでなにもしてきませんでしたが……」
つうかいまGⅢが言いかけたのはそれか?と言うか何で自分が総理直々に攻撃されかけなければならんのだ……
「またお前なんか面倒なことに巻き込まれてんじゃねぇか?」
「やめろ……フラグをたてんじゃねぇ」
キンジは頭が痛いと自分の頭を抑える。なんだってアメリカいったりアリアの緋緋神騒動があるってのに総理大臣にまで目をつけられるんだよ……
「キンジさん……」
するとレキがいつもの感情のない声音ではなく、珍しく優しげなトーンで話し掛けてくると、
「フラグはもう立ってます。遅いです」
「やかましぃわぁあああああああ!」
こうして大空にキンジの悲痛の叫び声が響き渡って行ったのだが、余りの煩さにGⅢからうるせぇ!と怒声が飛んだのは余談である。
一方その頃、防弾処理を施された車に揺られながら錦山総理は書類に目を通していた。
そんな中でも思い出すのは先程出会った遠山金叉と桐生一明の息子……まだまだ確かに聞いていたように甘いが中々将来有望そうじゃないか。
「さて、毒となるか薬となるか……楽しみにさせてもらうよ」
そう呟いた錦山総理は口端をあげ、小さく笑ったのだった……