「ホームランバスター!」
昼下がり、学校の校庭で一毅がバットを振ると、ボールは空の彼方へ消えていく。
「馬鹿野郎」
スパコーン!っとキンジに叩かれ、一毅は頭を掻いた。
現在一毅達は、GⅢスクールという学校に来ている。名前から分かるように、GⅢが出資している学校らしい。本当は別の名前だが、それもあって名乗っているそうだが、GⅢは若干居心地が悪そうな顔をしていた。
とはいえ、出資しながら支援を行うというのも、アメリカの武偵はよく行うらしく、GⅢも子供たちと遊びながら、
「GⅢさん。いつもいつもありがとうございます」
「あ、いやシスター。気にしないでくれ」
しどろもどろで、兄共々年上の女性というのに弱いのか、眼の前のシスターと話していた。
「……」
そしてそれをガンギマリ眼で見つめるロカがいたのだが、誰も見ないふりをしていたのは、余談である。
そんな事があった日の夜、今度は一毅達はスーツを着せられ、パーティに来ていた。アメリカの武偵はこういうのも良くやるらしい。
「しかしなんでもあるなぁ」
「あぁ」
パーティ会場には様々な食材が並ぶ。国籍問わずというか、何でもありすぎて困る。
「流石アメリカ。なんでもあるってか」
「こんなにあっても食いきれねぇよ」
大盛りでフライを食べる一毅に、キンジは苦笑いを浮かべていると、
「HAI」
『ん?』
覆面をつけた男性が、話しかけてきた。そしてこの覆面には見覚えがあった。
『ヒノバット!?』
二人は固まる。アメリカでもトップクラスの知名度を誇る武偵であり、そして彼は、ライカの父でもある。
とはいえ、今は両親は離婚しており、更に仕事で家を開けることが多かった為か、余り可愛がって貰った記憶はない。とライカは言っていたが、それでも連絡は取っているらしく、武偵として尊敬しているのは読み取れた。そんなヒノバットが、声をかけてきた理由は分かりきっている。
「そんな緊張しなくて良い。娘がお世話になっているから挨拶に来ただけだ」
ヒノバットはそう言いながら、キンジに手を差し出す。
「チームバスカービルのお世話になっているのも聞いている。不出来な娘で、迷惑をかけてばかりだとは思うが、宜しく頼む」
「あ、いやこちらこそお世話になりっぱなしで」
と握手を受けるキンジ。そして今度は一毅と握手なのだが、
「っ!」
一毅の手がミキミキ言うほど握りしめられた。
「本当に君には娘がお世話になっているようだ」
「あ、アハハハハハ」
もう笑うしかない。だが意外とすぐに手を離され、
「だが、君の話をする娘はいつも楽しそうだ。これからもよろしく頼むよ」
「は、はい」
手をプラプラしながら、一毅は答える。すると、
「そういえば、カズアキは元気かな?」
「父を知ってるんですか?」
「昔ちょっとね」
フフっと笑うヒノバット。相当な過去があるんだな……と何となく察したキンジと一毅だが、余り深入りはしない。
「それじゃ、失礼するよ」
ヒノバットはそれだけ言って、去っていく。そしてそれと入れ替わるようにGⅢはやってくると、
「なんだ?ヒノバットか」
「あぁ。娘が世話になってるってな」
そういえば、火野ライカは娘か。とGⅢは言いながら、クイッと顎を外に向けた。
どうやら外に出たいようだ。食べるものは食べたし、別にパーティでしたいことがあるわけでもないので、一毅達は着いていく。
会場を出て、暫し歩く。すると見えてきた。カフェか?と思っていると、キンジは目を輝かせてGⅢを見ていた。多分何かの映画の舞台なんだろう。キンジにしてみれば、聖地巡礼と言うやつだ。
浮かれた足取りのキンジとそれに続くGⅢ。そして一毅が続いて入ると、中は年季の入ったカフェで、客は一人だけで隅っこで伏せっていた。店主に揺すられているが、起きる気配はない。
そしてGⅢはコーヒーを頼み。席に座ると、
「どうだ兄貴登場人物になった気分だろ」
「あぁ。最高だ」
「一体何の話だよ」
あぁここは、とキンジが言い掛けた時、扉が開けられ、入ってくる人影。
「ちっ。コーヒー飲むまで待ってやがれってんだ」
GⅢが悪態を吐く中、その人物はこちらの来て、
「やぁ、GⅢ」
「よう、マッシュ」
知り合い同士なのか、にらみ合う両者。
「知り合いか?」
「昔からのな。俺と同じ、超人研究によって生み出された天才。使われた遺伝子は違うけどな。名前はマッシュ・ルーズベルト。頭が回るやつだ」
「君が頭を使わなすぎるだけだよ。今の時代、腕っぷしなんて役に立たないんだ。少しは頭を使い給え」
何となく、嫌な感じがするタイプである。っていうかだ。
「もしかして、アメリカでずっとつけてきてたのはお前たちか?」
「ほぅ?気づいていたのか。東方の猿にしては意外と勘が鋭い」
「なに?」
一毅は思わず立ち上がるが、その前に立ち塞がる大柄の男。
「どけよ」
「お前こそ、猿風情が何をする気だ」
額がくっつくほどの至近距離で睨み合う、一毅と男。一触触発の空気だが、
「やめろ桐生。コイツと厄介を起こすとめんどくさいことになる」
「どういうことだ?」
「コイツは政治家の知り合いが多いんだ。俺も多いが、残念ながら野党サイドでね。与党を動かせるコイツとゴタつくと、面倒なことになりかねん」
「そういうことだ。僕に指一本触れたら、そうだな、適当な罪でもくっつけてその場で死刑にしても良いんだぞ?」
成程そういうタイプね。と一毅のコメカミがビキビキ言う。キンジは知っている。こういうタイプは、一毅が最も嫌いなタイプである。
「で?桐生がキレる前にさっさと要件をきかせろ」
「あぁ、これだよ」
マッシュはそう言って、紙を一枚GⅢに投げて渡す。
「なんて書いてあるんだ?」
「まぁざっくり言えば、全員マッシュの下につけって話さ」
キンジの言葉に、GⅢは肩を竦めると、
「俺が言うことを聞くと思うか?」
と紙をビリビリに破った。マッシュはそれを見ても特に動じない。恐らく、分かっていたのだろう。
「まぁそうだろうね、だが僕も君の了承を得たいわけじゃない」
マッシュはそう言って指をパチンと鳴らすと、ガチャンと音を立てながら、少女が入ってくる。
「LOO……」
「ロボットか」
「古いなぁGⅢ。彼女は最新鋭の戦闘用アンドロイドさ」
確か戦役の開幕時にもいた気がするが、良く覚えてない。
「さて、サンダーとルー。これらと君1人。戦力としては、こちらが優勢だけどやるかい?」
サンダーと言うのは、恐らく一毅の前にいる男だろう。って待てとキンジは言い、
「1人じゃねぇ。3人だ」
「ぷふっ!」
キンジの言葉に、マッシュは吹き出す。何がおかしいのかと、キンジは眉を寄せると、
「君は猿を人間と同列に数えるのかい?君達の活躍は見させてもらったよ。随分手品が上手いみたいだが、僕を騙すには腕が足りないね」
「……つまりどういうことだ?」
ズコッと一毅の一言に、全員でズッコケそうになった。
「つまり、バカにされてるってことだ」
「なにぃ!」
キンジの解説に一毅は憤慨し、
「だったら俺が猿じゃねぇってことを教えてやるよ」
「やれるものならな」
バキッと指を鳴らし、一毅とサンダーは再び睨み合う。その時、
「ふわぁあああ。うるせぇなぁ」
『っ!』
店の端の席で寝ていた男が、ムクリと起きてこちらを見てくる。
全身黒の服に、サングラスと帽子。キンジは見覚えがあった。
「亜門 丈鬼っ」
「おぉ!?遠山に……はじめましてだなぁ!桐生!」
ズカズカとこちらに来て、丈鬼は一毅を見る。
「お前が」
名前だけ聞いた亜門 丈鬼。初めて見ると、胸がカァっと熱くなる。
分かる。コイツは敵だと。魂が、コイツは倒すべき相手だと。それは相手も同じらしい。
「よし、殺し合おう。桐生!」
亜門はそう言い、楽しそうに笑って来た。分かる。自分も今笑っている事に。
だが、
「待て!」
キンジが叫び、一毅は我に返る。
「あ、あぁ大丈夫だキンジ」
一毅は首を振り、意識を戻すと、
「悪いが今取り込み中でな」
「ん?あぁコレ?」
亜門はマッシュ達を見ると、
「確かに邪魔だな」
そう言い、マッシュに歩み寄る。
「ルー!」
そこにLOOが飛び込み、亜門を殴るが、
『っ!』
まるで、亜門が突然液体になったような感覚。スライムのような流動体になったような感覚と共に、LOOの拳を受けながらも、何もなかったように立っている。
(原理はライカも使う脱力か!)
「ほい」
そして軽く小突く様な足取りで、テーブルの上にあったナイフを取り、LOOの腕に振り下ろした。
「なっ!」
マッシュが驚愕するのも無理はない。余りにもあっさりとLOOの腕が切り落とされたからだ。
「ばかなっ!特殊合金の体を、テーブルナイフで!」
「その気になれば何ででも切れるさ。まぁ最初から切れ味良いほうが簡単だけどな」
亜門はなんてことないように言っているが、テーブルナイフで斬鉄なんて聞いたことがない。
「まぁこれこそ手品みたいなもんさ。速さと角度をちゃんとやれば子供でもできる」
テーブルナイフをポイッと投げ捨てると、サンダーを見る。
「やるか?」
「ふふ、アンチェインとやるのは契約外だ。悪いが撤退させてもらうよ」
サンダーはそう言い、マッシュを守りながら下がりながら店をでていった。LOOもそれに続く。
「何だあっさり引いていったな」
亜門はつまらなそうに見て、こちらを見る。
「なんか白けちまったな。また今度にするか。刀もないし」
一毅もパーティがあったので、刀は持ってきていない。亜門も今持っていないようだ。
「じゃあな桐生、いつか何処かでまたあったら、今度は殺し合おうぜ」
ニヤリと笑い、亜門は店主にお金を渡して出ていった。
それと同時に、キンジとGⅢは、席にドッカリと腰を落とす。
「やべぇなあの威圧感」
「だな」
GⅢですら、ジットリと冷や汗をかいていた。だが一毅は、
「アレが亜門。か」
その出ていった先を、静かに見つめるのだった、