「まず初顔の者もいるので序言しておこう。かつて我々には諸国の闇に自分達を秘しつつ、各々の武術・知略を伝承し、求める物を巡り、奪い合って来た……イ・ウーの隆盛と共にその争いは休止されたがイ・ウーの崩壊と共に、今また、砲火を開こうとしている」
キンジと一毅は冷や汗をぬぐう。
今から何が始まるのか分からないが少なくとも忘れようにも忘れない名前……イ・ウー……この名が出ると言うことはただ事ではない。
すると、
「皆さん。忌まわしき戦乱の時に戻らない方法は無いでしょうか」
声を出したのは法衣に身を包んだきれいな女性。恐らくシスターだろう。泣きぼくろが可愛らしいそのシスターには不釣り合いな大剣背負った女性は言う。
「バチカンはイ・ウーを必要悪として来ました。誰もがイ・ウー敵に廻す事を畏れ、結果的に休戦し、平和が保たれてきました。これからもその平和を保ちたいと思いませんか?」
成程バチカンか……シスターの聖地だ。等と一毅は考えると、
「良く言うぜこの偽善者は……」
そこに水を指したのは眼帯をつけてカラスを肩に乗せた十四才くらいの少女……
「おめえこの間うちの使い魔襲っただろうがよ。何が休戦だよ。お腹がチョチョ切れるぜ」
「黙りなさいこのウジ虫」
(……ん?)
先程の優しげな雰囲気と打って変わって汚ならしい言葉……
「貴方達魔女は別です。害虫を駆除するのに何の躊躇いがありましょうか。と言うか生かす理由がありませんよね?聖書のどこにありますか?」
何かこの豹変ぶりどっかで見たことあるなぁキンジと一毅は現実逃避した。誰とは言うまい。黒髪の巫女さんで二人の幼馴染みだ。それ以上聞くんじゃない。
「けけけ!おもしれぇ!やるのかオラァ!」
「良いでしょう!積年の恨み晴らしてやります!」
一気に臨戦態勢……
「やめなさいよぅ」
それを止めたのはゴシックロリータ服の金髪少女……一瞬スカートから見えたが吸血鬼・ブラドと同じ模様の刺青……まさか縁者だろうか……しかし止めると言うことは比較的常識人かと思いきや……
「こいつには首を跳ねられた恨みがあるわ。だから私も混ぜなさい」
「おう良いぜ!」
「ふふ、良いでしょう!二人まとめてかかってきなさい!」
所がどっこい寧ろ戦ってやるぜ状態……おとなしく話し合いも出来んのかこの場にいるやつらは……血の気多すぎだろと一毅の頬がひきつる。
「ですがメーヤさん」
そこに口を挟んだのは中華服の男……軍師と思われるタイプの立ち振舞いだが何となくそれだけではない気がした。
「既にそれは不可能でしょう。それが出来るようなら最初からそうしています。この場の全員がそれぞれぶつかり合えば唯で済まないことは重々承知しているのですからね」
笑みが張り付いたような顔で男が言うとジャンヌも頷く。
「私もそう思う。だがイ・ウーが滅んだときからこうなることはわかっていた」
では……とジャンヌは続けた。
「古の時から続く約定に基づき三つの協定を結ぶ」
ジャンヌが掲げたのは三つ……
一、戦いは何時如何なるときでも許される。例え飯を食べていようが寝ていようが遊んでいようが学んでいようが女を抱いていようが許される……よって不意討ち、闇討ち、密偵、奇術、挑発とあらゆる手段が許される。
一、際限無き死を無くすために数だけの雑兵は禁止とし、代表戦士のみとする。これは先述の約定より優先される。
一、戦いは主に【
「以上だ……」
ジャンヌは一息着いた。
言い方は回りくどかったが中身は単純だ。一毅でもすぐに理解できた。
ようは代表戦士間であればどのような手で戦っても良いと言うことだ。
「続いて連盟の宣言だが、私たちイ・ウー
呼ばれた面々は頷く。
「では藍幇は諸葛 静幻名に置いて【
諸葛 静幻と名乗った中華服の男は笑みを顔に張り付けたまま言う。
三国志の子孫ばっかの藍幇で諸葛と名乗ると言うことは諸葛 孔明の子孫だろうか……
そう一毅が考えていると次に腰に刀を帯刀した男が一歩前に出る。
「吉岡一門は【
一毅が知ってるか?キンジに聞くが首を横に降られた。
「LOO……」
機械少女は先程からLOOしか言っていないため全員が黙殺せざるを得なかった。
「眷属……なる!」
そう言って元気に宣言したのは子供……だがその額には角がある。人間じゃないだろう。
「リバティーメイソンは【
男か女かわからない中性的な人物はそう宣言した。
「カナはどうするのぢゃ?」
パトラは聞きながらも必死に
「同じ夜に私達はそれぞれ夢を見たが、そのどちらにも意味が隠されていた……そうね、【
何かの言葉を暗唱したカナはリバティーメイソンとか言うところと同じ立場らしい。パトラがガックシと肩を落とした。
「では玉藻は?」
ゴスロリ少女が一毅とキンジの足元にいる幼女に聞く。全員がその動向を気にしてるところを考えると意外と大物なのだろうか……
「今回は思うところがあるんでの。【
玉藻と呼ばれた狐耳の幼女はそういった。
「ではGサード……お前は?」
ジャンヌは派手な服の男に聞く。
「はん!興味ねえなぁ」
そう言ってGサードと呼ばれた男は背を向ける。
「このままでは【
「かまいやしねえよ。俺がここに来たのは強そうなやつらが集まりそうだったのと……」
「?」
キンジと目が合う。と言うかキンジを見ていたのだ。
「少し顔を見てみたい奴がいただけだ。好きなように殺り合ってろよ」
そう言い残すとGサードの体がジジ……と音を発てると消えた……科学迷彩と言うやつだろう。
「次に……」
ジャンヌはプロペラの上に居た銀灰色の髪の狙撃銃を肩に担いだ少女に声を掛けようと向く。
だがその直前に一瞬一毅の方を向いて気遣うのような顔をした。
「?」
一毅が疑問符を浮かべたがジャンヌは続けた。
「ウルスは……どうする」
「っ!」
一毅は驚愕した。更に血も冷たくなった。あの少女はウルスの関係者……と言うことだったらしい。どうりでさっきから睨まれるわけだと納得した。
「ウルスの代理大使として宣言するわ。今だ戦況がはっきりしないし、まだ【
そう言って一瞬一毅を一瞥した後瞳を閉じた。
「じゃあ最後にチームバスカービルはどうする遠山」
「…………」
キンジの頭がスゥっと冷えて冷静になっていく。
「言っておくが拒否権は「分かってる」…そ、そうか」
無論こんな場からさっさと去りたいと思うしこんな意味の良くわからない戦いに巻き込まれたくないと言う気持ちは無いとは言わない。だがイ・ウーの壊滅には自分が関わっているのは事実であり否定しようもない。別段否定する気もないが……この場から逃げ出せる状況じゃないのはわかる。
「フフ……決まってるじゃない。遠山……貴方は我が父のブラドの敵……であれば【
あの少女はブラドの娘だったのか……等とキンジは思いつつも拳を握る。
「良いぜ、自分の父親の仇と共同戦線なんざ張りにくいだろうからな。チームバスカービルは【
一応建前みたいに言ったが一応同じ武偵高校のジャンヌがいて更に結構大物と思われる玉藻もいる。
そう考えれば
「ではこれより解散して……」
「もういいんじゃないかしら」
ゴスロリ少女が口を開く。
「血を見なかった開戦は無かったと言うしねぇ」
「なっ!」
次の瞬間降り注ぐ雷光……
『っ!』
全員が身構えた。
「ケケケ!良いぜそっちの方がおもしれぇ!」
そういったカツェが手を振るうと水が集まっていき……
「良いなぁ島国ってのは……あたしの武器が幾らでも集まる!!!!」
次の瞬間水礫……様々なものを穿ち貫き殺到する。
「ちぃ!」
ジャンヌがキンジと一毅の前に現れると地面に剣を刺し氷が壁となる。
「一旦撤退だ!」
キンジと一毅はその指示を聞くと撤退しようと背を向ける。
「くひひ!あーそーぼ!」
『っ!』
身の丈を遥かに凌駕した戦斧を木切れ見たいにブン回しながら角を生やした幼女が来る。
「くっ!」
一毅は刀を抜いて応戦……だが、
「っ!」
一毅を軽々と吹っ飛ばし今度はキンジを狙う。
(一毅を軽くってどういう腕力してんだこいつは!)
キンジは横凪ぎをとっさに伏せて躱す。
「おぉ!」
悪いと思いながらもキンジは伏せたまま蹴りを放つ……が、
「っ!」
キンジの蹴りが完全に決まったのにも関わらず鬼の少女はにっこり笑ったまま微動だにしない。
「キャハ!」
「っ!」
キンジに戦斧が迫る……だが次の瞬間銃声と共に逸れた。
「何やってんのよキンジ!」
「アリア!?」
ガバメント両手にボートからアリアは跳躍し戦いの場に乱入……
「何でお前が居るんだよ」
「晴れてんのに急に雷なんか落ちるからレキが怪しんで調べたのよ。そしたらあんた達がヤバイじゃない」
クルクルアリアは銃をしまう。
「とにかくやばそうね。さっさと逃げるわよ」
「ああ、おい一毅起きろ」
「ん……ああ」
一毅はまだ少し頭が揺れているようだがなんとか立ち上がる。
「っ!アリア!!!!後ろだ!」
一毅は叫ぶ。
「え?」
突然アリアの背後にゴスロリ少女が現れる。
「飛んで火に入る夏の虫……だったかしら?」
そう呟いた次の瞬間アリアの首に噛みつく。
『っ!』
驚きも束の間アリアの体から緋色の閃光……
「てんめぇ!」
キンジはそれをものともせずに跳躍……飛び蹴りを叩き込もうとしたがそれより前にアリアから離れる。
アリアは意識がなくキンジは追撃よりもアリアを支えることを優先した。
「ふふ……美しいわ」
ゴスロリ少女の手には宝石のようなものがある。
「まさか……」
玉藻が驚愕する。
「アハハハハハ!素晴らしいわ!
一頻り笑うとゴスロリ少女がその宝石を投げた。
「独り占めは良くないわよね」
『っ!』
バラバラに投げられた宝石は瞬時に玉藻、メーヤ、静幻、鬼の少女、カツェ、パトラがキャッチする。
「あらあら、少し検討違いの奴にも渡ったけどまあいいわ……丁度良いし貴方達にがっ!」
ゴスロリ少女の頭を撃ち抜かれる。射手はレキだ。だが案の定すぐさま修復される。
「良いわ……今回はここまでにしましょう」
そう言い残すとゴスロリ少女は影に溶け込んで消えた。
「ふむ、想像以上の収益ですね。すぐに解析しましょう」
「こいつは良いぜ。あばよメーヤ!!!!」
「ふむ、ここは引いておくか」
「キャハ!」
鬼の少女が宝石を飲み込むとそれを合図とばかりに
「寄せ追うな!」
メーヤとジャンヌは追おうとしたが玉藻の声で止まる……
「慌てるな遠山侍……アリアはまだ大丈夫じゃ」
「どういうことだよ……」
「ちゃんと話す……とにかくどこか雨露を凌げる場所に案内せい……それからじゃ」
キンジはアリアを抱きかけたまま玉藻を見ていた……