大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
ソシャゲの主人公は、ご都合主義の塊である。
人格が殆ど出ない玉虫色の人間なのに、救世主のように皆から慕われている。
これはプレイヤー側が自己投影し易くする為の措置であり、様々な性格のキャラを無難にデレさせる為の仕組みでもある。
ソシャゲが嫌いな私のような一部の捻くれ者は、そう言った側面をネチネチと突き続け、自身は彼ら大多数とは違うと優越感に浸る。
私も本質的にはソシャゲを素直に楽しんでいる彼らと同じく、自分自身が何か特別な物になっていると錯覚したいだけであると気付く事が出来たのは、馬鹿にしていたゲームの中の彼らの立場を身を以て実感してからだろう。
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私は、いわゆる異世界転生とやらを果たした一般日本人男性である。
転生先の世界はソーシャルゲーム「ブルーアーカイブ」の舞台であるキヴォトス。無論、立場は先生としてだ。ある意味、清々しいまでにテンプレートに当てはまった二次元作品への異世界転生と言えるだろう。
しかし、こう言ったテンプレートから外れている部分もあった。
それは「先生」の人数である。
「じゃあ、俺はアビドス行って対策委員会編をクリアしてくるわ。生シロコ、生おじさん、楽しみだわぁ」
恐らくライトゲーマーだった先生。
「俺は今からクソゲー開発部じゃ!アリスに淫夢インプットさせて、ケイをバグらせるぜ。あぁ、怪文書のasmr開発部ルートもいいな」
ミームしか言わない先生。
そしてブルアカエアプの私も含めて、合計三人。
きっと我々を転生させた上位存在は、こういったジャンルのお話に関して余り詳しく無いに違いない。
異世界転生やソシャゲにおける一番大切な部分が損なわれているのだ。
それは、「競合存在の排除」である。
これは我々現代人にとって、なぜ創作物の世界が居心地が良いかという理由にも繋がっている。
そも、綺麗事を除けば、世の中の大多数の人間が規格品であり代替可能なのだ。それ故に現代人は自身が自身である必要性、自分だけのナニカを現実、空想問わず常に求めている。
ブルアカの「先生」もいい例で、学園都市という舞台におけるこの役割の唯一無二性程、我々の心を満たす物は無いだろう。
……それ故に、私はこの物語にプレナパテス「先生」という存在が出てきた時にある種の感動を覚えたのだろう。このお話に対する認識をありふれたソシャゲのシナリオから登場人物の行く末が気になる物語に変えたのだ。
兎に角、この世界において「先生」、「大人」という立場は極めて競合しにくい特別な立場である筈なのだが、作法の分かっていない神とやらはそれを三人とはいえ量産し、陳腐化した。
その事が、この世界、この物語に悪い影響を及ぼさない事を願っておこう。
……さて、思考するのも程々にして私も現実に向き合わねばなるまい。
ゲームの中の世界が現実になってしまったら、私は何に逃避すれば良いのか?という疑問を努めて無視し、自身の為すべき事を再確認する。
メインストーリーの確実な進行。これに関しては、他二人が楽しみながら行ってくれるだろうから余り心配しなくて良いだろう。寧ろ、手出し無用とそれぞれに釘を刺された位だ。身を守る為の品であるシッテムの箱と大人のカードは人数分ある訳では無かったので、安全面を考慮しても私が出る幕は無いだろう。
イベントストーリーの回収。私の出る幕があるとすればこちらだ。
メインの方が原作通りのスケジュールで進行しなかった場合、その皺寄せで消失しかねないのは、これらの物語群であり、そう言った取りこぼしの中に致命的な物が含まれているのは連邦生徒会長の描写からしてほぼ間違いない。
直近の出動候補としては、「桜花爛漫お祭り騒ぎ!」、「革命のイワン・クパーラ」、「ネバーランドでつかまえて」である。
これらは百鬼夜行、レッドウィンター、山海経のシャーレ初接触イベントであり、最終編に向けて確実に起こしておきたい所だ。
しかし、予定とズレるかは、今仕事に向かった残り二人の手腕にかかっているので、今のところ予定は未定である。まぁ、原作より一人多いから何とかなるだろう。
という訳で、今の私のやる事は──────書類仕事である。
雑多な決裁、遺物関連の報告書、D.U.地区の治安維持関連の書類……まぁ、ぶっちゃけ原作通り連邦生徒会の仕事を押し付けられているだけである。
早瀬さんがいてくれたら助かったのだが、今はパヴァーヌ編の進行中。バタフライエフェクトが怖いので辞めておく。加えて彼女とのフラグを立てたのは今、パヴァーヌ編に行っている先生なので後から何を言われるか分かったもんじゃ無い。
生徒と言えば、ちょっとした自虐ネタがある。転生初日関連の話だ。
私は、女性、それもかなりの美少女達を前にコミュ障を発動し、他二人より人間関係構築がかなり出遅れたのだ。(余談だが、狐坂ワカモのフラグが誰に建ったかは誰も判定出来なかった)
お陰様で私のモモトークは今日も閑古鳥である。
ブルアカの世界観的にも転生特典とかがある訳では無いのでこうなるのは必然だったのかもしれない。
尤も、特典があったとしても私ごときが上手くやれるとは思えないが。
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仕事を始めてから二週間程が経った。私は一人ボッチのデスクワークが続いている。即ち、概ね順調であるという事だ。バッファーが出ないといけないような状況は望ましく無いからな。
他二人との連絡は彼らがシャーレを出て以降途絶えているが、まぁ命懸けの仕事を引き受けている事を考慮すれば、連絡を怠ったくらいで小言を言う気にもなれない。少し怖いが現状、無干渉を貫いている。だが経過時間的には対策委員会編2章もパヴァーヌ編1章もそろそろ山場を迎えている筈だ。
ええっと、小鳥遊ホシノの救出とG.Bibleの確保だったか。
どちらも私には荷が重すぎる。所詮、私は「先生」の器では無いのだ。自分の事も碌に出来ないのに人を助け、心を救い、善へ導くことがどうしてできようか?
プルプルル、プルプルル
そんなふうに、キヴォトスの書類処理マシーンに成り果てる未来を幻視していたところに一本の電話が届く。
防衛室からの小言か、交通室からの仕事の丸投げか、と憂鬱になりながら受話器に耳を当てるが、聞こえてきた声色は聞き覚えの無いモノだった。
「───突然の連絡失礼します、こちらヴァルキューレ警察学校です。シャーレ職員の身柄を二名確保しています。諸々の政治的事情を鑑みて其方に引き渡ししますので、手続きの程をよろしくお願いします」
…………は?
「えっと、その、確保理由だとかを……」
「不同意わいせつ罪。有り体に言えば、セクハラです」
はぁぁぁぁぁぁ?!
待て待て待て!メインストーリーはどうなった。諸々のフラグは?というか、小鳥遊さんは無事なんだろうな?!
何で許されないセクハラしてんだよ!それは最早悪い大人ですら無く、分別のつかない屑なんよ。
……待て、他人を責める前にまず人として最低限やる事がある筈だ。
「───本当に申し訳ございません。すぐに伺います。まず被害者生徒への速やかな謝罪と十分な補填を───」
煩わしさから連絡を怠り、居心地の悪さから物語から逃げ、よく知らない人に多くの人間の運命を全て委ねた事、その全ての責任を取る事である。
そうしなければ、私はきっと大人ですらなくなってしまうだろう。
凡人にだって、責任をとって石を投げられる的になる位は出来るのだ。
私は、取り敢えず磔の刑に処される覚悟でシャーレから歩み出した。