大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
トリニティにて起こった大規模テロの話は瞬く間に、キヴォトス全土に広まった。
と言っても、かなり複雑な政治利権を孕んだ話題なので情報統制も厳しく、背景までは中々窺い知る事が出来ない。
───故に、語られるのはもっぱら"彼"の話題だ。
曰く、他二人以上の滑稽な道化師にして最低な大人
曰く、設立と同時に
曰く、キヴォトス外から来た異質な神秘を持つナニカ
曰く、曰く、曰く
こうであれば面白い、こういう陰謀があるんじゃないか
子供だけの世界は、どうにもこの手の話題に弱い
加えて、連邦生徒会が彼に七囚人を超える法外な懸賞金を懸けたこともこの話題に油を注いだのだ。
噂は自治区を越えて広がりを見せ、"彼"はたちまちちょっとした有名人になった。
無論、名が売れればちょっかいを出す輩も多くなる。
不良から、そこそこ大きな部活、果ては学園の公的組織や有名犯罪者まで彼に手を出したが、驚く事にその正体を暴くまでは至っていない。
しかし、各学園の上層部の人間は各々、自身らの解釈を下し終えていたり何か知っていたりするようだ。
ある車椅子に座った天才少女はこう評した。
「そうですね……、彼は"敗戦処理"の天才です。撤退、ダメージコントロール、損切り、その手の類の能力に関しては癪ですがこの私をも上回ると言わざるを得ないでしょう。しかし、同時に少し哀れな才者だと感じます。なぜなら彼が十全にその才を発揮出来るときは既に決定的に負けてしまっている時ですから」
数多の悪党を制圧してきた風紀委員長はこう語る。
「……私の部下が独断で手を出したからね、少しは知っている。とは言っても直接対面した訳じゃないから、戦闘詳報を見た所感だけど……これはダメ。多分、意思というか、感情というか、そういった人としての根っこの部分の格が違う。相手は銃弾一つが致命傷になる中、動けるだけの心の力がある。気合いや気迫だけで戦いに勝てるようになる訳が無いのだけど、ここまで違えば決定打になり得る事もきっとある」
そして、最後に彼と相対した事がある、とある人物の話を記そう。
「おじさんのトコは色々あったからね、特に彼とやらが今の彼になる前のシャーレの影響を多大に受けてたからあんまり正しく見られていないと思うけど。私達の所では、普通の、……いや、ちょっと心配性な大人の人だったよ〜。行動指針も噂されてるような異質なモノじゃないし、能力の底も簡単に見えた。案外、唯の不運な人なのかも。だとしたら、彼には悪い事をしちゃったな」
クロノススクール出版・『月刊キヴォトス』7月号より
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食べられる雑草、比較的美味しい雑草の目利きが出来るようになってきた今日この頃、私は慎ましくキヴォトス放浪生活を送っていた。
何せ文無し、というかトリニティに於ける一連の事件とそれをダシにした"もう一つの政治的な案件"によりキヴォトス全土で指名手配されているので金があったところで使う場所が無い。
ブラックマーケットなら何とかなりそうな物だが、トリニティでやらかした事による懸賞金関連の事情によりそれもままならない。
戦闘力がほぼ無いのに、懸賞金はべらぼうに高い。謂わば今の私はメタルスライムだ。律儀に金銭取引するより殴って狩った方が何倍も儲かるのである。
加えて、それなりに有名な首になってしまったため取って名をあげようとする勢力もダース単位で湧く。
そんな感じな為、幸か不幸かネームドキャラともぽんぽん出くわした。
今のところ襲われたネームド勢力だと、ヘルメット団やスケバン(名をあげる為)、カイザーPMC(表向きは金目的、上層部は私の保有情報も狙っていると思われる)、便利屋68(金目的、明日の食費になってくれと涙ながらに言われた)、トリニティ自警団(トリニティの公的組織が一切私を追わない事に反発したため)、覆面水着団(当面の資金繰りの為)、シラトリ支部生活安全局(中務さんの出世の為)、C&C(情報確保の為)、ゲーム開発部(部費の足し、新作ハードの購入資金)、風紀委員会(天雨さんの独断専行、空崎さんがいたら詰んでいた)、ヴェリタス(シッテムの箱にハッキングを試みた、南無三)、忍術研究部(隠密技術の勝負の為らしい、正直なんだかよくわからない)
そして、Rabbit小隊
その目的は連邦生徒会との交渉材料兼SRTの本懐を遂げるため。
取り入るべきグループと必ず敵対してしまうのは最早そういう類の呪いなのだろうか。
兎に角、彼女らを何とかいなし、共倒れさせ、逃げ続ける日々である。本来なら相当縁を作る事が難しい生徒ともポコジャカ出会えるので一概に悪い状況とも言えないが、あまりに綱渡りがすぎるな。
カッコつけずにスクワッドに護衛してもらうべきだったと後悔するも全ては後の祭りである。
「そろそろ貴方も疲れたでしょう。いい加減、取引を呑んで楽になる事をお勧めします。無論、待遇も他二人よりも遥かに良いモノにするという条件もお付けしましょうか」
「それは出来ない相談だ、不知火さん。私には為さなければならない事がある上、拘束されている時間も無い」
最早、何度目か分からない取引をそう拒絶する。そう、私が指名手配されたもう一つの政治的要因とは不知火カヤによるシャーレ私物化の交渉である。
「こちらが割高な懸賞金を懸けてから一ヶ月あまり……一ヶ月も耐えられる事は想定外でしたが、そろそろ出てくる勢力も洒落にならなくなって来ます。超人でも無い貴方には耐えられる筈が無い。───そうそう、これは善意でお伝えするのですが、風紀委員会の空崎さんが貴方の直接鎮圧に出るという情報をこちらは得ています。多くの勢力に狙われている事を逆手に取って勢力同士を鉢合わせて共倒れにさせるその手腕はお見事ですが、少々やり過ぎましたね。貴方は彼女の仕事を増やしすぎたのですよ」
……それは、何というか空崎さんには本当に申し訳ない事をしたな。風紀委員会を筆頭に、温泉開発部や美食研究会などのゲヘナのアナーキー共を他勢力の擦り付け先として便利に使い過ぎた感がある。あとちょっと天雨さんをおちょくり過ぎた。指揮する立場の人間の冷静さを欠かせること程、集団を弱体化させるのに効率的な手段は無い。
「こんな木っ端賞金首に対して贅沢極まりないな。だがこちらはC&Cのダブルオーも正実の剣先さんも退けている身。今更大して変わらんさ」
「……これ以上抵抗するなら、こちらも奥の手を使わざるを得なくなります。こちらとしてもこの方法はあまりスマートではありませんので早いうちに諦めて───」
「お抱えのFOX小隊の事だろう?こう言っちゃ悪いが空崎さんを引き合いに出した後にそう脅されても、あまり意味は……。いや、空崎さんを引き合いに出した後に未知の奥の手をチラつかせる事でこちらを諦めさせる算段だったのか。だとしたらご愁傷様だ。この通り、その手のブラフはこちらには通用しない。相手の手札をキチンと調べるとこ───切られたか。少し煽り過ぎたかな」
さて、不知火さんの対処は一度隅に置いて、空崎さんが来た場合の対処も考えないとな。恐らく生半可な他勢力をけしかけた所で全員殲滅して追いつかれるのがオチだろう。で、エデン条約の調印式までには私を潰しに来ると思われるので……私もあと二週間の命か。それまでにシッテムの箱で指揮可能な戦力を手に入れなければ、ゲヘナの監獄の硬い床(偏見)を寝床にする事になるだろう。それだったらトリニティで捕まった方が何倍もマシだ。
情報を伝えてくれた不知火さんには本当に感謝しないとな。指名手配された事だって、割と深刻な軋轢があった対策委員会やゲーム開発部との関係を他の勢力と同じ普通の敵対関係にまで引き戻す、謂わばシリアス抜きをしてくれた事も考慮するとトータルの影響はプラスになるかもしれないな。
……何というか、前世の世界で不知火さんが何とも言えない感じの悪役と評されていた理由の一端に触れた気がする。