大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
「こ、こちらRabbit4。コード066を送信します。その、どうすれば?」
丑三つ時の子ウサギ公園。ことの始まりは、そんな報告からだった。
「こちらRabbit1。コード066を受領。対猛獣用麻酔弾の使用を許可。どういう意図があるかは不明ですが、あちらから来てくれたとなれば是非もありません」
「ふぁぁ、こちらRabbit3。こっちでも観測出来たよ〜。周囲1キロ以内に別の敵影なし。厄介ごとを擦り付ける気は無いみたい。……だからこそ隠れもせず歩いてきているのは不気味だね」
「……Rabbit1、了解。ではRabbit4、お願いします」
一瞬の静寂、時間は深夜帯な事も相まって彼女らの緊張は一段と高まる。
理屈の上では、勝つ事は出来なくとも負ける筈が無い。
彼に戦闘能力が無いのは周知の事実であり、彼女らも一度捕縛を試みた際、相手は逃げの一手だった為、事実である事も確認済み。しかし、頭ではそう分かっていながらも不安を払拭し切る事が何故か出来なかった。
───そして、その不安は数瞬後、恐慌に変わる。
「───こ、この距離で、外した?いや、確かに胴体を捉えていた筈。ひっ、こ、ここ、こっちを見ました?!見つかりました、もうお終いです〜」
「Rabbit4、落ち着いて下さい。……Rabbit3、催涙ガス弾の使用を指示します」
「もうやってる。というか、やろうとしたよ。でも、ダメみたい。攻撃用ドローンの制御が落とされている。カメラがついたままの事を考えると完全に掌の上だよ」
「み、ミヤコ。もしかしてあの噂は本当なのか?お化け退治はSRTの業務には含まれていないぞ!やっぱり前の襲撃で恨みを買って……!」
「……こちらRabbit1、第一次防衛線が突破された事を確認。Rabbit2、落ち着いて下さい。キヴォトスの怪異は普通に銃弾が効きます。ですので大丈夫です。こちらにはミレニアムから供与された対ポルターガイスト特殊弾もあります。だから、大丈夫です」
「も、目標、第二次防衛線を突破。わ、私達のキャンプに、に、逃げてください!」
「こうなったら、火力勝負よ!Rabbit1、爆撃の許可を!」
「自陣内を爆撃する部隊があるものですか!不許可です。それよりも特殊弾頭を……」
しかし、何もかもがもう遅く、気付けばそれは夜闇を背に佇んでいた。
見慣れない制服に裾を通したその人物は、武装すらせずただ淡々と彼女達を見定める。
指名手配されてから一ヶ月程、あらゆる勢力を退け、正体を明かす事はなかったナニカが自発的に彼女らの前に現れた。そんな意味不明な事実を前に彼女らの混乱は更に深まっていく。
「り、両手を肩より上に上げて跪いて下さい。さ、さもないと」
ソレは彼女の指示を聞く前から、徐ろに手を動かし始めて
───両手を上げて跪いた。
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最近、いくらなんでも私の扱いがおかしい気がする。
指名手配されているので、危険人物やアナーキー扱いされるのは、まだ理解できるし、こちらも承知の上だ。
無論、前二人がやらかした事も相まって、多少風評被害が付くことも致し方の無いことだろう。
だが、
「ひっ、く、来るなぁ!」
「り、両手を肩より上に上げて跪いて下さい。さ、さもないと」
いくらなんでも幽霊や怪異扱いはどうかと思うのだ。
無論、少し思考すれば原因は結局私にある事が分かったので、何とも言えないが。
簡単に言うと、ちょっと演出が上手く行き過ぎたのだ。
タネはシッテムの箱のバリア機能を使った、ちょっとした錯覚である。
私が動き出した当初、小鳥遊さんの弾丸を権限の混乱で弱体化していたシッテムの箱のバリアが受け止めきれず弾丸が"逸れて"私の脇腹に掠った件から着想を得たこの技術は、私自身のボディパフォーマンスとシッテムの箱のバリアを着弾スレスレで弾丸を逸らす事に特化させて弾を受け流している。そして悲しい事に、キヴォトスにやってきてからの多くの修羅場を経てしまったためこの技術はかなり成熟してしまったのだ。
あたかも弾が私の体をすり抜けていると思える程に。
メリットはその他大勢の襲撃の抑制だ。
私の弱点はハッタリや交渉がしにくい単純な物量作戦であり、すり抜けのブラフを流布する事で襲撃、捕縛を少数精鋭に誘導していたのだ。弾も皆、特殊なモノを使おうとしてくるので必然的に弾数が減り、シッテムの箱のエネルギー温存にも一役買っていた。
無論、その秘密を探ろうとしてきたヴェリタスは、申し訳ないがシッテムのカウンターハッキングで機器を全て破壊させて貰った。アロナのくしゃみの威力は凄まじくミレニアムの全電子機器が壊滅的な損害を受けたらしい。アロナは明らかにやり過ぎである。いや、くしゃみを加減しろというのも無茶な話だが。……そんな事をしているから、怪異だとか亡霊だとか言われてしまっているのだろうなぁ。この一件でC&Cが出てきてしまって大変な事になった。
尤も、最後に出てきた特異現象捜査部、というか明星さんにはたまたま乙花さんが持っていたらしいオフライン機器により撮影されていた(この辺りの経緯は割と長い為割愛する)映像ログを見ただけですり抜けのタネを一発で見破られているので学園上層部の智者達や弾道を目で追えるレベルの歴戦の猛者には一切通じないのだが。
「……こ、降伏?!なんの真似ですか」
さて、それはそれとして降伏だ。彼女らRabbit部隊もこんな大変な時に私という厄ネタに押しかけられて大変そうだが、そこはそれ。必要な事である為、淡々とこなすしか無い。
「この一ヶ月、色々探った結果だが、どうにも
「確かに多自治区に跨る特殊な政治犯の確保はSRTの本分ではあるのだが……その、ほんとにお化けじゃないよな」
空井さんか恐る恐るそう尋ねてくる。うーむ、そんなに怖がる程の事でも無いと思うのだがな。……いや、夜中に大人の男性が自分らの寝床に侵入したとなればこの反応は普通か。少し申し訳ない気もする。
「何を寝ぼけた事を言っているんだ。私はまだギリギリ死んじゃいない。あの噂は襲撃回数を減らす為に私自身が流したブラフだよ。信用出来ないというのなら種を明かしてもいい」
「種を明かされた所で、貴方が自由に動けたらドローンのハックも簡単に出来るよね〜。まずは手錠を掛けさせて。その後に、取り調べという形式で話を聞くよ」
「無論だとも。ああ、加えてこんな状況で無理に押しかけたんだ。捕虜への配慮を要求する気は無い。飢え死にしそうになったら草でも食むさ」
「いや、SRTを舐めて貰っちゃ困る。捕虜への配慮は教範にも載っているからな。人道的に対処させて貰う。第一、草を食むって、お前はうさぎじゃないだろう。いや、私達も別に雑草を食べている訳じゃないが」
「ナイスユーモアだ、空井さん。じゃあ、最後に一つ。───私を突き返すなら今のうちとだけ言っておこう。確かに、この投降は双方の利害が一致しているという判断の元行ったが、正直、私の厄ネタっぷりは半端なレベルでは無い。君たちに出来るだけ火の粉が掛からないように努力はするが、私も人の身。それもどちらかと言うと無能寄りだ。絶対は無い。正直、こんな胡散臭い手段に頼らず、地道に抗議活動を続けるというのも手だろう」
「───いえ、私達はSRT、どんな状況でも揺るがない屈強な正義を持つ善の執行者です。己の進退一つで対応が揺らぐような事は決してありません。貴方という問題であれ、SRTの進退に関わる問題であれ、それは変わりません」
他の三人も、程度の差はあれどそこは同じようで決意に満ちた視線が返された。
「取り繕わない正義、か。嘘と欺瞞に溢れた私には少し眩し過ぎるな。どうかその在り方を損なう事が無いように祈っている。じゃあ、取り調べと行こうか」
人生で初めて着けるハンドカフスの感触は、殊の外悪くないモノになりそうだ。