大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
要塞都市エリドゥの最上階にて、戦況を注視する影が二つ。
「───第256次干渉、失敗。無様ね、ヒマリ。……約束は約束よ、ここからは私のやり方でやらせてもらうわ」
片や、セミナーの長、ミレニアムの生徒会長、ビックシスター・調月リオ。
「業腹ですが、仕方ありませんね。これは負け犬の遠吠え、いえ、超絶天才美少女の御告げですが、"彼"を殺す事に本質的な意味は万に一もありません。寧ろ、その様な行いをしようとした事実が貴女にとって消えない瑕疵になってしまいますよ、リオ」
片や、特異現象調査部の部長にして、『全知』の学位を持つ稀代の天才・明星ヒマリ。
双方の話し合いは、今、ある種の分水嶺に立っていた。
「今更よ、私は私がミレニアムの為に成さなければならないと思った事を成すだけ。天童さんの一件も、神聖十文字の件も、今回の"彼"の事だってそれは同じ」
この瞬間、指揮権が明星ヒマリから調月リオに移譲されたのだ。
「……処置無しですね。愚か者につける薬は無いですし、今の私に出来る事は最早、期待することだけです」
「期待?」
「えぇ、この天才美少女ハッカーである私を彼……いえ、『先生』は幾度となく退けているんですもの。貴女の神経質な割に杜撰な計画なんて、『先生』が難なく退けてくださる事への期待です」
明星ヒマリは、今回の一件を通して師を仰ぐという感覚を初めて知った。
そもそも彼女は始めから完成されていた自我を持つ為、他者の影響で自我を変えることが無い。
自身の才が他の追随を許さない程、偉大な物であると理解しながら、他者の能力や感情を重んじる事が出来る協調性を持つ、即ち精神の二律性、相補作用によるある種の普遍性を彼女の心は有しているのだ。
そんな彼女は、一人で背負い込んでも何も成せない事を理解しているが故に、調月リオを否定し、同様に話題の"彼"にも何処か冷笑的な視線を向けていた。
そしていつも通り、自身の才と信頼に足る仲間の力を振い、事に対処しようとした。
───が、結果は何をしても"彼"に敵う事は無かった。
能力の底は見えている、すり抜けのタネも暴いた。
自身にも、仲間にも不備は無い。
聡明な彼女は、すぐに何が負けているのかに気づいた。
───それは『意志の強さ』だ。
死やその恐怖を理解すらしていない自身らと違い、彼はそれを飲み干しても一片の揺らぎ無く成すべきことを見据えている。文字通り身を投げ打ってでも事を成すのだ。
それ故に、彼女は"彼"に学び、習うべき事を見出した。
「───この私が、一度でも師と仰いだのです。ええ、負ける事はありませんとも」
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「こ、こちらRabbit4。依頼されたミレニアム部隊の装備についての確認が終わりました」
「いいタイミングだ。が、済まないが時間が無い。要点だけ急ぎで報告してくれ。細部はこちらから補完、もしくは問い返す。Rabbit2、私を放棄してスランピア方面に撤退しろ」
レッドウィンターを撃退し、やっとの思いで撤退出来ると思っていた所に更なる災難が降りかかってきた。
一貫して私の捕縛を目論んでいたミレニアムが急に方針を転換し、私の抹殺へと動き出したのだ。……この感じ、まぁ指揮権が調月さんに移行したとかそんな所だろう。
その証拠に、D.U.市街地である事も厭わず無名の司祭関連技術を使用した巡航ミサイルを四方から叩き込んできた。レッドウィンター対処直後であったため、少し焦ってしまったが、既にシッテムハックによって安全な着弾位置に逸らしている。……だがまぁ、これは織り込み済みだろうな。私とアロナを消耗させる事が狙いだろう。
「り、了解です。確認された装備は、調月リオさんが操る主兵装"AMAS"、それらとは別の意匠で作られた火力重視のメカ群……ええっと、教えて頂いたエンジニア部の装備傾向と一致しました。加えて、ハッキングされた電子機器やロボット群、Rabbit3からの報告によるとヴェリタスのIPアドレスで間違いないようです。そして、最後……あまり見ない意匠の薄紫色の光を発する機械群、───共有された情報の無名の守護者シリーズと特徴が一致しました」
……ふむ、ケイ……いや、"アリス"か。
ケイの権限はシッテムによる封印処置を施してあり、守護者一体を動かすだけで精一杯の筈。となると、天童さんとケイが何らかの同意に至り、天童さんの権限で動いていると考えるしか無くなる。
であるなら、ゲーム開発部はケイを絆す事に失敗したのか……いや、絆された上で私の捕縛の必要性を訴えた可能性が高いな。ケイが世界を滅ぼさなくなったとしても彼女にとって私が胡散臭い存在である事に変わりは無い。
そう仮定すると、ミレニアムの一件の裏が見えてくる。
恐らくはケイと調月さんの間で取引があったのだろうな。仲介したのが恐らく、先程までミレニアムの一団を指揮していたであろう明星さんといった所か。内容は天童さんを抹殺対象から外す、とかだろうか。確かにケイに封印処置を施したシッテムの箱を手に出来ればそのプランは現実的になる。封印処置をしたのはもしかしたら飛んだ大ヘマかもしれないな。
「Rabbit4、正確な報告感謝する、では総員速やかに───」
「こちらRabbit1、対ミレニアム戦闘も引き続き支援します。『先生』、指示を」
「Rabbit2、了解した」
「Rabbit3、了解だよ」
「Rabbit4、了解です」
「……分かった。済まないね、こんな事に付き合わせて」
兎に角、今はUTOPIAへの撤退とマエストロとの合流が最優先だ。
Rabbit小隊の成長具合は度重なる戦闘にてカルバノグ前編位には達している上、ある程度はこちらに対しても中立的なので編の目的は最低限の達成を見た。
そもそも、カルバノグ前編はあまり強い達成目標が無いため(強いて言うならヴァルキューレの不正を暴く事)、引き際は彼女らの成長や絆、感情ラインを観察しつつ任意で決定する予定であったのだ。まぁ、技能の成長は兎も角として精神の成長を読み取るには特別な才が必要なためある種、一番切り上げの判断が難しい編でもあるのだが。
加えて、"我々"という異分子のせいで不知火さんの撃破を前倒しにせざるを得なくなってしまった事も考慮しなければならない。曰く、拘束した二人に何か言い含ませてシャーレ職員としての権限(キヴォトス全土で生死を問わず指名手配されている私の社会信用度はもはや性犯罪者の彼ら以下なので、権限復帰の目はあちらに軍配が上がる)や異世界からの来訪者という特異性を利用する算段なのだ。
閑話休題、今はまず対ミレニアム戦だ。……少しでも思考の基点を現実から離すと先の事ばかり考えてしまうのは私の悪癖だな。
敵は……ああ、そりゃ、天童さんを抑える必要が無くなったらソレが出てくるよな。
偽物の空中浮遊を戒めるように、夜明けの空に、一条の星が流れ落ちる。
「"先生"、ご挨拶申し上げます。そして、さようならです」
都市エリドゥを用いたアトラ・ハシースの限定顕現。それを更に用いた成層圏からの戦力投入。最初のミサイルも今までの散発的なbotによる波状攻撃も全てはシッテムの箱にこれへの対応をさせない為の布石。
それは最早威容すら感じさせるガトリングに、ロマンを載せた主砲のレーザー、未来予測と自動反撃によるある種の攻勢防御を持つミレニアムの技術の結晶
───秘匿されし5番目のエージェント、飛鳥馬トキがアビ・エシュフを伴って私の前に立ち塞がった。