大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
私自身にとって、いや、真に良い教師に出会えなかった大半の人にとっては『先生』などというものは抑圧と恐怖、そして未知の大人の象徴である。
親以外で初めて接する事になる大人は、生徒よりも少しだけ多い語彙や生徒よりも高い身長を身に纏い、ある種、教室において王として振る舞っているのだ。
まぁ、無難な治世をする人もいれば、恐怖政治を敷く人もいるし、求心力が足りないが故に国民の統制が満足に出来ない人もいる。
しかし、一つだけ言える共通点は、彼らは私達と同じ土俵、視点に決して降りてこない事だろう。
あちらが上で、こちらが下。立法も、政治も、裁判も全て彼らの思うがまま。
この差は、子供にとってあまりにも遠い。
それ故に、私は現実の教師にあまり良い印象は無いのだ。こんな人間にどうして『先生』が務まろうか。
でも、一つだけ彼らが近くに見えた思い出ならある。
運動会の余興にて、学校の規則の元、彼ら教師は私達と同じ視点まで降ろされて、教師も生徒も無く競う。
それがリレーであれ、綱引きであれ、ドッチボールであれ、生徒は大きく盛り上がり、歓声と普段は言えない野次を飛ばすのだ。
……その時に限れば、どんな教師であれ恐ろしくも煩わしくも情けなくも無く、ただ私達と同じ人間なのだと認識出来た。
私は、自分の知っている事しか出来はしない。だからこそ、今回はこのことを使うのだ。
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記録───8月31日 19:00
UTOPIA入場門前、穿孔・第一突入部隊
〈〈プロトコルATRAHASIS、起動準備〉〉
青と赤の境界、夜明けの空を瞳に宿した少女が厳かに夜の帷へ歩み出る。
「封印された結界を破る、その先に待ち受けるは大ボス。盛り上がって来た〜!」
「お姉ちゃん、ここは現実で、そんなに楽しめるような事じゃないよ、これ。……本当にゲームみたいな事をするなんて、『先生』」
「うぅ、尋常じゃないプレッシャー。か、帰りたい」
ゲーム開発部、総員
才羽モモイ、才羽ミドリ、花岡ユズ、天童アリス/ケイ
"無断"突入準備開始
「委員長、今の所万魔殿にこちらを妨害するような不穏な動きはございません」
「そう、アコ。……総員最終準備!恐らく未曾有の激戦と混沌とした状況の変化が予想される。指揮系統の順守と引き際の判断は徹底して」
「キキッ、覚悟無い奴は今すぐ逃げ出しておけ。地獄に落ちる事も厭わない者はこの万魔殿議長、羽沼マコトに続くが良い!」
空崎ヒナ、羽沼マコト率いる風紀委員・万魔殿混成部隊
第1波突入準備完了
同刻
UTOPIA東外縁部、ドリームゾーン付近 第二部隊
「総員、突撃用意!奴を撃破した暁にはこのオイラの名の元にプリン一年分を保証する。全力でかかれ!」
「敗北主義者にはトイレ掃除を、撤退は断じて許さん」
『……こちらFOX1、FOX小隊、レッドウィンター部隊各部門に潜入完了』
『良くやりました、……この遊園地に突っ込む各校の化け物共の相手をする必要などないです。態々正面から戦うなんて凡人のする事でしょう。隙をついて彼の身柄を拘束しなさい。最悪の場合、『箱』だけでも構いませんが……あれら二人に指揮されるのは幾ら武器とはいえ、貴方達の望むところでは無いでしょう』
『了解』
レッドウィンター大隊、総指導者蓮河チェリノ及び親衛隊、督戦部隊
突入準備完了
UTOPIA北西外縁部、ファンタジーゾーン付近 第三部隊
「ナギちゃんに、セイアちゃんまで中に入るの?やっぱり私は外にいた方が良いとおもうなー」
「……他の学園が陣頭指揮を取る以上、情報の伝達、意思決定のラグが致命的な差になるのは明白です。さらに今回は全てが未知数の戦場、趨勢は現場での判断にかかっています。出来る限り激戦地からは距離を置きますが、『先生』を相手に勝負を始める為には最低限の賭け金は皆、払わなくてはなりません。……まぁ、個人的な感情も含まれている事は、否定できませんが」
「ミカに指揮の心得があれば話は早かったのだがね。……ミネもサクラコも状況判断力や求心力には些か不安が残る。派閥間を横断するようなものなら尚更だ。……ハナコがいれば心置きなく任せられたのだが、生憎補習授業部ごと数日前から行方を眩ませている。彼女が敵方に回っていた場合、私とナギサが居なければ勝ちの目は無い」
「ふーん、ハナコが……。というかコハルちゃんがこんな危ない事に関わっているのはいただけないかなぁ。『先生』になにかされる事は無いだろうけど、殺気だったゲヘナもいるし」
ティーパーティ直属トリニティ正規部隊、正義実現委員会
及び桐藤ナギサ、百合園セイア、聖園ミカ、突入準備完了
UTOPIA上空、事象の地平線近傍空域、ミレニアム早期警戒管制機
「部長、気圧・気温・風速・重力値共に安定。レーダーに敵影なし。生命探知機の最終動作確認も完了しました」
「ありがとうございます、チーちゃん。……この体は病弱美少女故、『先生』に直接手解きを受ける事が出来ない事は何とも歯痒いですが……まぁ、これはこれである種の特等席、教室の最前列に座れたようなものです。意地を張って前線に行ったあの女の醜態を見られると思えば、ギリギリ溜飲も下ります」
「『先生』って、そんなに強いの?部長」
「……いいえ、スペック的な強さでいったら、最弱もいいところでしょう。不良の方は疎か、普段全く運動をしないような子にも真っ向勝負では劣っています。しかし、だからこそ、私達には無い視点を持っているのです。何事も、突き抜ければ力になります。"弱さ"であってもそれは同じなのです」
ヴェリタス・特異現象捜査部共同司令部
総指揮 明星ヒマリ 待機
UTOPIA西外縁部、アドベンチャーゾーン付近 第四部隊
「おおっ、見よ、我が社の無双の軍勢を。ガキ共のおままごととは訳が違う。……して、ジェネラル。───建前では無い方の準備は出来ているだろうな」
「無論です。サーモバリックミサイル3発、管制機向けの対空ミサイル1発。極秘サイロよりいつでも発射可能です。廃遊園地丸ごと吹き飛ばすには十分過ぎる威力でしょう」
「くくっ、政治ごっこをしている各校のお山の大将や力を持ちすぎた化け物共には、全員ヘイローごと消えてもらおう。本当の大人は最後の最後まで舞台に上がって律儀に政治や駆け引きなどしないのだよ」
「しかし、協力者の不知火カヤの手駒もいるという話ですが」
「……理事、君もまだまだ青いな。協力者の手駒"だからこそだよ"。あの小娘の事だ。『偉大な人間は失った者を惜しまない』だとか言えば納得して引き下がるだろう。全く、彼女は傀儡としても金蔓としても稀代の優秀さだ」
「その後は首脳部を失った各校の政治的空白に付け入り、我が社の傀儡の生徒会長を擁立させる。全く、首脳部が一箇所に集まり陣頭指揮などと、やはり子供は子供ですね」
カイザーPMC部隊、待機。
UTOPIA南東外縁部、エキサイティングゾーン付近 第五部隊
「うへぇ、皆んなして
「まぁまぁ♡そう堅いこと仰らずに。便利屋の皆さんも、お仕事よろしくお願いしますね」
「わ、分かっているわよ。……こんな大仕事、便利屋の悪名を轟かすまたと無い機会だわ、皆、行くわよ!」
「……ハナコさん、シスターフッド、突入準備整いました。アリウスの方々との連携も問題ありません」
「ああ、サクラコさん情報封鎖の節はど……サクラコさん?!なんなんですかその格好は」
浦和ハナコ総指揮、アビドス・シスターフッド・アリウス、その他アナーキー混成部隊
覚悟完了
UTOPIA南西外縁部、ワイルドゾーン付近 第六部隊
「会長、アリスちゃんの所に行かなくてよかったのですか?」
「……不要でしょう。こんな事をさせている私が行っても空気が悪くなるだけよ。……ノア」
「はい、定刻通りミレニアム機械化機甲師団、及びAMASドローン軍配置完了です」
「C&C各位、……その、再三言うようだけど、彼の殺害は極力避けるように。これ程の戦力ならば、もう一度位は捕縛を狙うのも……決して非合理的ではないわ」
「了解。ったく、『先生』はあのチビのお陰で命拾いしたな」
「それと、トキ。……貴方の手を汚させようとしてしまって、本当にごめんなさい。それと、その」
「分かっていますよ、リオ様。貴女様へ贖罪の機会を提供する、任務は必ず成功させますとも」
「そう。なら、───お願いするわ、トキ」
セミナー指揮下C&C、突入準備完了
───以上をもって、役者は出揃った。
夏の終わりの一夜の劇は、こうして開演するのだ。
追記 一部の用語を修正いたしました。