大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
19:00 入場ゲート
『事象の地平線の崩壊を確認!各部隊、内部観測後突入してください!』
七神リンの通信と共に空崎ヒナは、風になった。
地面を割り、空気を割り、加速する。
古び、錆びついた看板を駆け上がり、予定された観測ポイントへ。
「……」
入場門の上から一望する園内は、外縁部の人数過多具合も相まって不気味な程の暗さ・静寂さがあった。
宇宙船や巨大ロボ、未来都市のドリームゾーン
巨大キノコや豆の木の蔓、メルヘンチックなファンタジーゾーン
海賊やカウボーイ、アナーキズム溢れるアドベンチャーゾーン
ストーリー性を除いた絶叫マシンが集合しているエキサイティングゾーン
ジャングルや火山、大自然が意匠のワイルドゾーン
そして中央に城を有するクラシックなスランピア
しかし、そのどれもが錆びついていて、もう二度とこの世界達は動き出さない。
『こちら空崎ヒナ、スランピア広場に人影が一つある以外は見かけ上は何も無いみたい。……スランピア広場を避けて索敵を開始して』
『委員長、私が狙撃しようか?』
『絶対にダメ、多分、この時点で私達は既に術中に落ちている。他校の人達も暫くは判断に迷わざるを得ないし、きっと誰も近づかない。……貧乏くじなら引き慣れてる』
『委員長、羽沼マコトは真っ直ぐスランピアに向かっているようですが。あっ、急速旋回して引き返し始めました、これは……イブキちゃんがこっそり忍び込んでいたみたいですね』
火宮チナツは、そう報告する。
『なら、好都合ね。私が罠にかかる。他は潜んでいる筈のRabbit小隊を……待って、総員一時停止!……天童アリスと、ゲーム開発部各位が『先生』と接触。事態の急変が予想される。周囲の変化に注意して』
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19:02 スランピア広場
「あれ?私達が一番乗りな感じ?」
「今回ばかりは流石に不味いんじゃない、お姉ちゃん」
目指すは魔王城一直線、きっとそんな意気込みでただ全力で直進しただけのゲーム開発部は、幸か不幸か連合部隊の誰よりも早く私の前に姿を表した。明星さんやセミナーの面々が彼女らを極悪非道な私の所に単身かつ最先に送り込むなど、天地がひっくり返ってもあり得ないので、恐らく無断突入。索敵、観測、部隊間の連携という観念をすっ飛ばして突っ込んできた為、このような状況が生まれたのだろう。
「お久しぶりです!『先生』!……ところでその装備品はなんですか?『先生』は王様にジョブチェンジしたのでしょうか」
「久しぶり、天童さん。……これは、必要経費というか、致し方無い犠牲というか……まぁ、そんな所だ。似合っていないのは承知だよ」
ゴテゴテとした王冠と重々しい赤いマントは、いつものスーツを下に着ている事も相まって、私をなんとも間抜けな風貌に変えていた。
「で、君たちは夏休み最終日にこんな所に何をしに来たんだい?宿題が終わっていないのなら今すぐ帰る事をお勧めするよ」
「『先生』を仲間にしに来ました。隠しキャラのリオ先輩とトキも仲間になったので、後は『先生』でコンプリートなのです」
天童さんは、目を輝かせながらそう、こちらに手を差し伸べてくる。どうやら、私を襲撃して以降、ミレニアムでも色々あったようだ。原作のパヴァーヌのストーリーからして、ゲーム開発部の行動力、いや自律的なシナリオ進行力とでもいうべきだろうか、とにかくそういったものがキチンとある子達であるので、正史通り私が介入出来ずとも、こうしてある程度は良い方向に進むのだろう。
「……成る程、単純明快で、君らしい。───じゃあ、話はずっと単純になった。ゲームで敵キャラを仲間にする為には、一回倒さないといけないのは、君たちもよく知っているだろう?」
だからこそ、私も気兼ねなく、彼女らに役を振るよう決めたのだ。
手に持つ錫杖を、天童さんに向けて構える。
「ほ、本気なの?」
「そうです!『先生』の耐久値はスネイル以下なのでサレンダーを強く推奨します。これじゃあ倒した後に起き上がれません」
「私もそうしたいのは山々なのだがね。契約分はしっかり───」
───紫光、稲光、風切音
それは刹那の事だった。会話の間すら縫う必要がない、言葉と言葉の間の刹那の事だった。
瞬く間も無く、顔の寸前まで煌々と輝く
───空崎さんだ。
狙いは王冠やマントなどの胡散臭い装飾物、彼女は有無を言わさない速さで狙うべき所を最速で狙ってくる。成る程、確かに完璧だ。
抵抗など出来る筈も無く、私は無様に地面に叩きつけられ、頭に銃口を突き付けられる。完全に制圧された形だ。
「大人しく投降しなさい。私は手加減の心得はそれなりにあるつもりだけれど、ハンドガン一発で死んでしまう貴方相手だと上手くいく確証は無い」
「……初めましてだね。空崎さん。噂に違わずお強い。君に早いうちから出てこられていたら私はすぐに詰んでいただろうね」
「……」
「なにも返さないか。じゃあ、こちらから一言だけ。私を殺さないでくれて、ありがとう」
───灯るはずの無い電灯に、光が灯った
遥か遠く、捨てられた過去から懐かしいパレードの音色がやってくる
灯る、点る、燈る
死んでいたモノが一時だけ息を吹き返す。
動き出すマスコット達、空を飛ぶのは円盤やドラゴン、火山は活動を再開し、宇宙船は飛び立った。
「───っ!!」
空崎さんが覚悟を決めて私の左腕を撃つが、銃から吐き出されたのはキャラメル味のポップコーン。
その動揺をついて、地面から生えた豆の木に乗り、私は高らかに宣言する。
「夏休み最終日に夜遊びしている不良淑女の諸君!生活指導の時間だ!一人残らずお縄に就くといい!」
今時の高校生は、19時に出歩いた位で怒られないだろう。というツッコミは野暮である。
要は、そういう体の遊び、ゲーム、レクリエーションなのだ。
目的は無論、生徒との関係の初めの一歩……そして最後の一歩である。
逃亡及び『色彩』対処におけるゲマトリアとの契約条件は、……神秘だの、崇高だのテクストだのなんだかんだ言っていたが、要約すると、私が『先生』である事を演技でも良いので受け入れて生徒と仲良く触れ合う事である。
───的確に、私が嫌がる事を押し付けてくるのが実に彼等らしいと言えるだろう。要は罪だとか寿命だとか、それらしい理由つけて孤高を気取っていないで、『大人』として少しは普遍的に人に好かれる努力をしろ、と同じ大人としてお叱りを受けた形なのだ。無論、彼らは自身の事を棚に上げている。
まぁ幸い、レクリエーションに選んだ題材がナンセンスすぎるので、好きな『先生』とはならず、"変な"『先生』という評価に落ち着かせるようにすれば良いだろう。変人が変なことをして、訳の分からない変死を遂げる、くらいだったら「なんかそんな馬鹿な人もいたな」位に落ち着くかも、しれない。
……いや、無理か。
まぁ、後の事は、後になってから考えよう。
───かくして、物語のジャンルは学園モノ×銃からパニックホラー・アクションへ
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遊園地のテクストによって、生徒達は傷つくことこそなけれど気を抜いたら行方不明。
閉園後の遊園地に残った人の末路は、都市伝説でも定番ネタ。
無粋な大人のミサイルは、シャンメリーのシャワーになり、銃は最早ポップコーンしか吐き出さない。爆弾は、爆音だけそのままに、リボンと紙屑を吐き出すだけのおめでたい品に。
高みの見物を決め込んでいた管制機は、なんの脈絡も無く上空に発生したサメが泳ぐ竜巻に飲み込まれ、無事入園。
エリアそれぞれのテーマに沿った御輿が、配下のパペットと共に練り歩き、閉園後まで残った悪い子供を、永遠のパレードに加えようと追いかけ回す。
「た、助けて」 「なんで銃から弾が出ないの!」
「通信機から、遊園地のアナウンスが」
「来るんじゃ無かった、こんな場所」
「怖い、怖い」
銃を失ったキヴォトスの人は、最早唯のか弱い少女と変わりなく。
5分程で、どの学園も指揮系統が崩壊。
内輪で喧嘩を始めた者は、アンドロイドの警備員にバックヤードに連れ去られる。
そう、私がとった作戦は、ゲマトリアの力を借りた連合軍との真っ向勝負。
逃げる事も、騙くらかすことも、もう打ち止めだ。
正面から、対等にぶつかり、私は私の意思を示すのだ。
尤も、次は肝心の生徒側が私から逃げてしまうため、中々パワーバランス・ゲームバランスの調整というのは難しいものである。
しかしまた、この状況でも動ける子も存在する。
「『先生』はギミックボスですね。通常攻撃ではダメージが入りません」
「問題はそのギミックが何か、だけど……鉄板だけど何処かにコアがあるとかかな?お姉ちゃんはどう思う?」
「私がこのシナリオの作者だったら、なんやかんや理由をつけて遊園地全エリアを回らせるよ。全てのエリアに一個ずつフラグを散りばめて、なんやかんやでラスボスが倒せるようになるのは鉄板だよ。折角作ったイベントやグラ、マップやボスを全て見てほしいのは製作者の性!」
「……で、でもこういうのは、ギミックを無視してラスボスを倒す事もきっと出来る。最近はプレイヤースキルでそれが許されているゲームも多いし、許されていなくても、誰かは最速や面白さを求めて無理矢理やる」
「RTAですね!では、よーい、スタートです。ケイ!」
〈〈タイマーをスタートさせました。……先ずは仕様確認からですね。バグを見つける為には、何が正しいかを理解しないと行けませんから〉〉
軍事作戦の空気感を纏っていなかった為に、誰よりも早く起こっている事の本質を理解したゲーム開発部。
彼女らの活躍が、連合軍側の、否、この夜の趨勢を握ることは最早疑いようが無い。
尤も───
「今すぐ、投降して。私に捕まらないと、『先生』は殺されてしまうかもしれない」
「……オープニングマーチを演奏するグレゴリオを、足止めとして配置した筈なんだがな」
「倒した。抵抗は無駄」
私が、ちゃんとラスボスをする前に空崎さんに斃されなければの話だが。