大人の責任(ガチ)(notエロ)   作:教頭

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最強

 

 私は、無意識に分かっていたつもりになっていた

 

 強いとは、どういうことか、を

 

 愚かにも、一度として正面から戦ったことなど無いのに

 

 自身の経験を、逃げて騙しただけの経験を過信していたのだ

 

 ───ぶつけた機関車が、裂ける

 

 躱されるわけでも、止められるわけでも無く

 ましてや壊れると形容するのも違うと分かってしまう

 

「なっ、『ゲマトリア各位、こちら───。現在、空崎ヒナと交戦中!このままでは計画が破綻する!至急応援を』、っ!」

 

 巨大コーラ瓶を一斉に彼女に向けながら、私はゲマトリアに応援を求めようと、"した"。

 

 コーラ瓶は文字通り瞬く間に弾け飛び、通信機は"撃ち抜かれた"。

 

「『神秘』が強過ぎて、テクストで中和出来ていないのか!いや、不味い。遠距離攻撃に対する想定は、ひぃん!」

 

 地面に埋め込んだ無数のビックリ箱からネロを飛び出させ、取り囲もうと"した"。

 

 飛び出したのは、バネだけだった。中身のネロは何かの不備で、もしかしたら初めからいなかったのかもしれない、そんな錯覚を覚えてしまうくらい、もう何もかもはちゃめちゃな早技だった。

 

 ……私に、これをどうしろと言うのだ。

 

「手品は品切れ?」

 

 スランピア城のテラスに、彼女は翼をはためかせ、ゆるりと降り立った。

 

 その姿には、最早威容すら感じるほどの存在感と幽玄な美しさが介在している。

 

 私はあっさり、再び王手をかけられたのだ。

 

「いいや、もう少し遊園地を楽しんでもらおう。普段忙しそうだし」

 

 城壁から巨大アイスクリームキャノンを連射し、ジンジャークッキー兵に一斉に射撃させる

 

「……歯磨き粉の味」

 

 チョコミントのみ、ぺちょっと跳ねて空崎さんの頬についた。

 

 代償に500個のジンジャークッキー軍団は小麦粉に戻り、アイスクリーム屋さんはお客様に歯磨き粉を食わせた罪で永久閉店

 

 先程申請した支援は未だに来る気配を見せない。

 

 まさか、各所全てが応戦に手一杯でこちらに回せる戦力が無いのか?テクストで銃火器は確かに封じた筈なんだが───

 

 後退ると、足が何か柔らかいものを踏んだ感触を覚える。

 

「……支援は、確かに送られていたのだな」

 

「何か飛んでいたから、ついでに落としておいた」

 

 踏んだのは、総力戦ボスのクロとシロだった。頭を撃ち砕かれピクリとも動かない。

 

 ───さて、どうする。

 

 過去一の危機を前に凡庸な頭を回転させる。

 

 Rabbit小隊に支援を求めるか?

 

 いや、駄目だ。彼女らを当てる先はFOX小隊、物語の順序を誤るな。

 加えて銃火器を封じられている彼女らと、空崎さんでは悪いが話にならないだろう。

 

 ならばここを引き、別のエリアで他のボス格と一緒に相手取るか?

 

 正直アリだが、そもそも引かせてくれるか、という問題と、行った先に他の戦略級の生徒がいたら今度こそ詰んでしまう。というかグレゴリオとシロクロがこのザマだったため空崎さんを連れて行く先々で全員蜂の巣にされる未来しか見えない。

 

 ……諦めて投降するか?

 

 いや、今回の目的は全主要校に対する私の意思の伝達と、勝利によるある程度の和解、といっても連合を大きく大敗させたのちかなり優しい条件で講和するといった感じだろうか。条件はサンクトゥムタワーの制御権の一時的な再回収とシャーレビルの奪還、そして色彩戦への協力を取り付ける事だ。

 

 ……たとえこの先、ネームド生徒(この言い方はあまり好きでは無い)何人かと事情説明や対話により和解できたとしても、私のクソみたいな風評と罪状のせいで、敗戦して無理矢理従わさせられました、とかでもない限り公的組織と正式に協力する事は難しいのだ。

 

 全六箇所+αにおける同時多発的な大規模戦闘と、最終編をなぞる形になっているのも、諸々絆が足りない為、各校の連携の予行演習というのもある。

 

 兎に角、最終編へのシナリオ進行において重要なキャラクターは、なんとか一人も死なずに済んでいるので、理屈の上では後は原作通り戦うだけなのだ。尤も、本当に死んでいないだけなので、原作通りいく訳無いのだが。

 

 

 

 ───そうやって、考えれば、考える程、ある一つの結論以外の選択肢が消えていく。

 

 

    『私が、タイマンで空崎さんを倒す』

 

 

 馬鹿げた結論だ。愚かな考えだ。死んだ方がマシだ。

 

 でも、相変わらず、それしか凡庸な私には思いつかない。

 

 死んだ方がマシなのは、いつものことである。

 

 

「正気?」

 

「ではないな、少なくとも」

 

 空崎さんの前に堂々と相対する。

 

 錫杖を掲げ、拳を握りしめ、

 

 ───私は、空崎さんへ向けて駆け出した。

 

 同時に自動販売機から一斉にペットボトルミサイルが飛び出し、空崎さんに迫る。無論、全て当たることなく爆散。

 

 が、背中につけたペットボトルミサイルにより私自身は、空崎さんに接近する事に成功する。

 

「空崎さんは、働き過ぎだ!少し休みなさい!」

 

「私は、それを『先生』に言いにきたの!世界の危機も、私が何とかするから、『先生』は少し休んでて!」

 

 カン、と私の錫杖と空崎さんの槍のような機関銃がかち合う。

 

 交わされるのは、ワーカーホリック同士の仕事の取り合いだとかいうとんでもなく不毛なやり取り

 

 鍔迫り合いは、無論勝てる訳もなく私がぶっ飛ばされるのだが、壁にキノコを生やしてバウンドする要領で再び接近。

 

 つまるところ、私人質作戦。相手の目的が私の非殺傷確保である事を利用して、超近接戦で強制的に気を使わせ、戦力の損耗を防ぐといったいつも通りのゴミみたいな発想である。これは、相手と力が離れていればいる程、加減の難しさから成立しやすい。

 

「私に休みなど、不要だ!どうせ諸事情で死ぬ!」

 

「それも聞いた!私が何とかする!」

 

「いや、何とかするのは世界の危機の方だろう!本当にこのままじゃ終わる!」

 

「両方何とかする!」

 

 ナイフを地面から生やす、吹き飛ばされる、

 巨大キャンドルで炎の渦を作る、吹き飛ばされる

 ジェットコースターを突っ込ませる、吹き飛ばされる

 

 攻撃の応酬は、感情の激動と共に。

 

 正面対決は、こうも容易く心を、内面を湧き立たせるのだ。

 

「そもそも、君と私は今日が初対面だろう。何故そこまで私の生死に拘る!」

 

「自分でも分からない!貴方の起こした事や事情を聞くと、何故か心が騒めくの」

 

 それは、恋だ。なんてアホな事を抜かす気は毛頭無い。

 

 成る程、これが『同族嫌悪』か。

 

 他者を通して、自身の問題点が見えてしまう。我々の場合、取り敢えず自分を薪にくべれば全てが良くなるという、安易で醜い自己犠牲精神。

 

 誰よりも強さがある。誰も知らない事を知っている。

 

 自分なんかに出来る事がある。

 

 それがある上で、動かないのは怠慢だ。

 

 他人から何と言われようと、自分を決して許す事が出来ない欠陥を抱えているのだ。

 

「ッ!」

 

「捕まえた、もういい加減に観念して」

 

 幾ら小細工を弄そうが、所詮は月とすっぽん。私は遂に首根っこを掴まれ動きを止められる。

 

「───いいや、まだだ!」

 

「!」

 

 石垣が揺れる、塔が崩れる。

 

 足場が崩れ、不安定になった瞬間、シッテムバリアで手元を弾き、合気で空崎さんを引き剥がす。

 

 そのまま崩れるに任せて下の階に転がり込み城中へ。

 

 城内にある甲冑や肖像画、調度品が空崎さんに襲い掛かる。

 

「最早、この城を潰してでも止めるしかないか!」

 

 ゲーム開発部には申し訳ないが、ラスダンは魔王城でなく合成樹脂の瓦礫の山になりそうだ。

 

「───本当、なんて強さだ」

 

 頑張って作ったラスダン城を少しずつ崩しながら戦うという作戦は、私の強さへの認識の甘さを再確認する結果になった。

 

 それは、一条の光だった。

 

 城が、文字通り"断たれる"。

 

 粉々に、膾斬りにされる。

 

 崩落の中、空崎さんは落ちながら真っ直ぐに私に迫ってきた。

 

 

「───『終幕』(フィナーレ)

 

 

 

 槍のような機関銃は、シッテムバリアを無いものかのように突き破り私のみぞおちを強打した。

 

「ゴフッ……」

 

「ごめんなさい『先生』。正直、かなり苦しいと思うけど、命に別状は無い筈、後でセナに診て貰えば、十全に回復出来る」

 

 口から嫌な唾液が出る、胃が逆流する。しかし出血や内臓への致死的なダメージは一切無い。……加減まで、一級品とは。

 

 これは、もう立ち上がれない。意思ではなく、人体の構造の問題。

 

 まだ、ここで、倒れる訳にはいかない。まだ、序盤も序盤、生徒との交流という契約条件は、一人・空崎さんとしか為されていない。

 

 

「私の負け───」

 

「いいや、『先生』の勝ちだよ。風紀委員長ちゃん」

 

 

 その子は、いつの間にか私の側に立っていた。

 

 ゆらりと柔らかに、しかし空崎さんと同等の存在感を放ちながら。

 

 

「───小鳥遊ホシノ」

 

 

「うへぇ人違いだよ〜、今のおじさんは覆面水着団1番だよ」

 

 覆面でも、水着でも無い彼女は堂々とそう言い張った。

 

 

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