大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
「───どういうつもり」
「うへぇ、どういうつもりも何も覆面水着団は賞金稼ぎに来ただけだよ」
そう言い、小鳥遊さんは私を指した。不知火さんがかけた私の賞金は確かにかつてのアビドスの借金くらいなら、サクッと返せるくらいまで無責任に膨れがっていた為、建前としてはかなり上等な部類だろう。尤も、かけた本人は本当に支払う事など、微塵も想定していないだろうが。
「建前はいい、これは最後の忠告。これ以上、ふざけた真似をするのなら、アビドスはゲヘナ・及び連邦生徒会と敵対する事になる」
「なんのことか、さっぱりわからないけど。
───そんなこと、とっくに折り込み済みだよ」
殺気が高まり、大怪獣バトルが始まる寸前で私は慌てて両者を制止する。
「……待ってくれ小鳥遊さん、私も別に状況を理解出来ている訳では、無いのだ。というかどうやってここまで来た。そっちには黒服率いるデカグラマトン軍団がいた筈だが」
エキサイティングゾーンには、中央部スランピア寄りに配置されたケセド工場とそこから生産される大量のアニマトロニクス。絶叫マシンやジェットコースターのコースを稼働中に組み替え、動き出したカートをぶつけるホド。あと対戦略級生徒の足止め用にパーク内を周遊しているビナーがそちらに向かったと覚えている。
「大体全部壊したよ。いつも砂漠にいるアレだけは半分くらい削ったあと、可愛い後輩に任せておじさんはこっちに来たって訳さ。いやー黒服の人も公的に一発殴れたからおじさんは大満足だよ」
黒服、南無三。
何が悪かったかと言えば、一番仕事をしないといけない相手に全く仕事をしない遊園地テクストのせいだろう。
そして相変わらず、この人達はボスをちょっと大きめの害虫くらいにしか思っていないようだ。
「さぁ行って、『先生』。貴方を撃った私に、そう呼ぶ資格は無いけど、うちの後輩はいい子揃いだから、どうか見てあげて」
垣間見えるのは、過去への耐え難い後悔と自分自身への乾ききった諦観。過ち続ける自分への壮絶な自己嫌悪。
加えて、この子は誰の差金か私がやろうとしている事を知っているみたいな口ぶりだ。
……私は、『先生』という職業の、生徒を"見る"事の難しさに改めて直面する。
生徒を見る度に、彼女らを通して自分自身の人生・汚点・黒歴史と戦わなくてはならない。
空崎さんは、『同族嫌悪』
安易な自己犠牲同士の喰いあい
では、小鳥遊さんに対しては───
「よくもあの時、右脇腹撃ちやがったな!小鳥遊ホシノ!厳重指導の時間だ!」
私は、徐に"小鳥遊さんに"巨大スプーンを飛ばす。
無論、"空崎さんに向けても同様に攻撃を仕掛ける"。
「うへっ」
「きゃっ」
流石に私の行動があまりにも意味不明だった為、空崎さんも小鳥遊さんもポカンとして、回避する事が叶わずスプーンが土手っ腹にクリーンヒット。そのまま仲良くコーヒーカップに放り込んでぐるぐる回してやる。
そう、小鳥遊さんを通して私が感じたのは
『共感性羞恥』
自分達は取り返しのつかない過ちを犯した。
それは、そうだ。
あの時、ああしていれば、こうしていれば
そう思うのが人の性だ。
私はあの日、キヴォトスの趨勢を握るストーリーを女の子と話すのが恥ずかしいというクソみたいな理由で人任せにした事をこの先も後悔し続けて、苦しみ続けるだろう。
過ちを償いたい。
これも極めて真っ当な、正しい感情だ。
迷惑をかけた人に償いたい、失った人の遺志を継ぎたい
むしろ人として当然の行いだ。
でも───過ちを犯した自分は、たとえ他人が本気で助けようとしても、助からない事で他人が悲しむとしても、絶対に救われるべきでは無いし、進んでその手を払いのけて然るべき。
正直、これは唯の見栄である。救われない自分に酔っているのである。
やっている事は、不幸自慢以上の何事でも無い。
私も無数に覚えがある。
何故、アリウスの子達を置いていった。
何故、浦和さんの提案を拒み、トリニティの支援を拒む。
何故、自分の命が助かる方法を探そうとする他者を拒む。
論理的な理由はあったが、その陰にこうした仄暗い感情がある事は"今は"どうしたって否定できない。
「何で私まで、攻撃されるのよ」
「それはこっちのセリフだよ、風紀委員長ちゃん」
だって、目の前に、映り続けるから。
私が彼女らを、責任を持って見続けるから。
「……『大人』を舐めてもらっちゃ困る。小鳥遊さんに空崎さん。こっちはキヴォトス連合軍相手にラスボスを張るつもりで来てるんだ」
そうして私は、本当に心の底から言いたく無いセリフを吐く。
「二人纏めて、相手をしてやる!」
本当に、『先生』とは大変な仕事である。
▲
無理ゲーが二倍増しになった戦いは、あいも変わらず私がサンドバッグになっていた。
「行け!サメ竜巻!大人を舐め腐った餓鬼どもを胃袋に叩き込め!」
「うへぇ〜、正気じゃ無いよ〜、『先生』」
「心底同意するわ、小鳥遊ホシノ」
メカだったり、幽霊だったり、蛸足が生えていたり、吸血鬼だったり、頭が沢山生えているサメは、彼女らの目にも止まらぬ高速機動で全て叩き落とされる。
途中、ミレニアムの全知の人が吐き出された気もするが、まぁ後でいいだろう。というか残念ながら他所ごとに気を使う余裕は一ミクロンだってありはしない。
「鮫のほうは兎も角、何で竜巻まで倒されるんだよ!」
小鳥遊さんが、竜巻と反対方向にくるくる回っただけで、竜巻は霧散してしまった。もう、彼女ら二人に関しては何をされても驚かない。
「いや、何が『先生』をそこまでさせるのさ」
「過ちを犯した『生徒』は、キチンと厳しめに指導するのが『先生』の仕事だからだ!本当に私を撃ったことが過ちと言い切れるかは残念ながら分からないので、私怨も混じっていることになるが。ショットガンは撃たれた事無いヒョロガリには痛過ぎる!せめて拳銃にしろ!」
これは、アレだ。やらかした、迷惑をかけた相手が『いいよいいよ、気にしないで』と顔色ひとつ変えないのと、普通にキレ散らかして一発ぶん殴ってそれでおしまいにすること、どちらが楽かという話でもある。
普通は前者だ。そりゃ、怒られない方がいいに決まっているし、怒らない事は昨今の美徳である。
だがしかし、メンタルが変な拗れ方をして結構病み気味な人にとっては、かなり限定的な条件付きで圧倒的に後者の方が精神衛生上良い。ある程度は怒っていると分かる方が楽になるのだ。
「それに関しては、ホントに言い訳のしようがないよ。ごめんなさい、『先生』───」
「よし、許す!」
謝罪の後に続けて何か言おうとしたが、間髪入れずそれを防ぐ。大体、こういう時、私ならなんかグチグチとやり過ぎな位の好条件(自分の身をかなり削ったもの)をつける為だ。空崎さんに対してもそうだったが、人は自分のダメなところに関しては自覚さえしてしまえばとても敏感だ。
「私は、怒られ損なんだけど」
「空崎さんはさっき、私のみぞおちに一発叩き込んだだろ!竜巻の中で普通に気持ち悪くなって吐きそうになったんだぞ!あと、夏休みをかけて丹精込めて作った魔王城の仇!」
無論、空崎さんとのお話も、まだ済んでいない。というか、そんな簡単に解決してたまるか。不毛な意地の張り合いは、まだ終わっていないのだ。
閑話休題、戦闘に関しては瓦礫の山をドカドカと撃ち出したり、瓦礫でゴーレム擬きを作ってみたり工夫はしてみるが、彼女らはそれらを丁寧に細かく砕いてくれる。お陰様で魔王城跡は、もはや瓦礫すらなくなりつつある。
……何故か、彼女らから私の直接鎮圧に出る姿勢がなくなっている。『先生』暦が短い私では、私の選択の結果、彼女らの内面で何が起こっているかはさっぱり分からない。取り敢えず、当初の計画の延命の為にはかなりプラスになっている為、このまま続行する事にする。ただし───
「こうなったら、仕方ない。本当は対色彩用だったが、もう知らん。このまま手を抜かれてたまるか!いでよ!自称カイテンジャーとかいうテロリストから黒服がぶん取って、マエストロが弄り回した闇堕ちロボ!MAWARAN FX MK i」
子供の寿司が回る回転寿司なので、敵は大人の回らない寿司。
黒服とマエストロと共に適当に作った胡乱なロボットである。
因みに型番まで勝手に埋めるのは可哀想なのでi(虚数単位)にしておいた。
「うへぇ、私を見てくれた『先生』の話を最後まで聞きたいって気持ちもキチンとあったけどさ、おじさんは正直、放っておいたらどのくらい暴れてくれるか、っていう興味本位の気持ちもあった訳さ。まさかここまでとはね。風紀委員長、いやヒナちゃんも同じ気持ちでしょ」
「……結構楽しそうに暴れてるから、もうちょっとくらいストレス発散に付き合ってあげてもいいかなって。キヴォトスに来てからずっと抑圧されっぱなしだっただろうし。疲れてるのよ、彼」
「またまたぁ、口角が上がってるのを隠しきれてないよ、ヒナちゃん」
「……遊園地とか、小学生の時に来て以来だから」
空崎さんにとって、私の死闘はアトラクション感覚だったらしい。
『舐めやがって。その余裕、いつまで保つかな!』
クソ、何言ってもやられる側のセリフになってしまう。
正義の剣・鯖スラッシャーを闇堕ちさせたアンチカイテンチェーンソーをブンブンと振るう。
普通に素手で回転刃ごと止められた。やっぱり回らない方がいいよね。
大人なので、ウニ自立機雷やタラバアーム、イクラキャノンと兵装もネタも高級にグレードアップしたもので先ずは軽くならし運転。カリフォルニアロールだとかいう邪道兵装は唾棄、放棄、スクラップにしてやった。
鰹ホーミングミサイルを飛ばし、剣先イカビットを展開。シャコパイルをチャージして奴らをぶっ飛ばす用意をする。どんな敵でも、パイルバンカー当てれば何とかなるだろ。
ウニとイカは、空崎さんの機関銃で全てはたき落とされる。ついでにトロ装甲が中トロまで溶解、残るは第三層の赤身装甲のみに。
小鳥遊さんは、タラバアームをへし折り、接近。狙いは空崎さんの攻撃で装甲が薄くなったコックピット。
私は、桜エビフレアを焚き応戦し、何とか彼女を僅かに引き剥がしパイルの間合いに捉える事に成功する。
『おらっ、ショットガンの分じゃ!吹っ飛びな!』
的の大きさが大きさなので、芯を捉えるのは相当難しいが、擦りでもすれば人間大のサイズなら遊園地の外までぶっ飛ばす威力がある。
───そう思っていた時期が、私にもありました。
「いや〜、面白いね。これ」
シャコパイルの鉄針が、何故か後ろに飛び出した。
その勢いで左腕の兵装が、全損、爆散する。
空中で、盾で、防がれた。
「───!」
流石におかしい、と口に出しかけた所で慌てて口を噤む。
あれは、"梔子さんの"盾だった筈。
で、ここは夜の遊園地。"ホラースポット"のテクストが貼られた"死んだもの、止まってしまった栄光の過去"が勝手に動き出す、夢の跡地
───冷や汗が流れる。
それは、つまり
「モ ウ チ ョ ッ ト タ エ テ ホ シ イ ナ」
……小鳥遊さんの背後霊は、そう私にしか聞こえない声で圧をかけた。