大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
「帰って下さい、浦和ハナコさん。夜遅くに女性が男性の部屋を訪れては行けません。私がなんという組織から来た人間か忘れ───いえ、だからこそですか」
補習授業部合宿の夜、部屋に一人の侵入者が現れた。流石に誰か分からない程、私は鈍く無い。加えて、浦和さんに私如きの演技が通じるとも思っていないので、決定的な事を起こされないように真摯に向き合う。
「はい♡貴方がペラッペラの大根演技で何を隠し、何を企んでいるかは知りませんし、興味もありませんが……手っ取り早くスケープゴートになって頂こうと思いまして。性犯罪ともなれば、貴方を任命したティーパーティに責任が生じ、あの子達に多少の情状酌量をせざるを得ないでしょう。……あの子猫ちゃんも、何処かこの展開を狙っていたのかもしれませんね」
……うーん、どうにも星の巡りが悪い。聖園さんより先に浦和さんが来てしまった。補習授業部の皆が無事、仲良くなった事は好ましいが、浦和さんが彼女らに情が芽生えた場合、私をダシに桐藤さんの横暴を抑制する手段を取るのか。
桐藤さんがこの展開を狙っていたというのは……あぁ、阿慈谷さんに対する躊躇による無意識的なものか。自分が止まらざるを得ない口実となるルートをわざと残していたようだ。……深層心理下のSOSとも取れるか、彼女の精神状態が心配されるな。彼女らが非トリニティの組織であるヴァルキューレの取り調べを受けている間は彼女自身も裏切り者候補の心配を緩和出来るし、いい事尽くめだ。
───で、そんな皆の不幸の捌け口としてうってつけなやられ役三流悪党な私はどうすれば良いか。ここはきっと正念場だ。
「あぁ、それ程までに……桐藤さんも大変ですね」
「はぁ、貴方はまず自分の心配をした方が良いと思いますけど……」
「いやはや、こればっかりは運ですので。まぁ、私はブタ箱にぶち込まれた方が楽な境遇にいるとだけ言っておきましょう」
とりあえず嘘では無いが重要でも無い事を言ってアイスブレイクをしつつ、なけなしの脳味噌をフル回転させる。
───素直にハナコに土下座して、事件の解決を依頼するか?
エデン条約編のテーマは他人を信じ、赦す事。
私のような人間がいても尚、この主題が機能しているのなら私だって他者に泣きつき赦しを請えば、ある程度良い方に進むかもしれない。
……否、それは自分にとってあまりに都合の良い解釈だ。
私のそれは他者を誘導し、負債を子供に押し付ける行為であり、純粋な信仰や赦しからは程遠い物だ。
そも、友情から生まれる信頼と部外者の無責任な期待を履き違えてはならない。
浦和ハナコの心を蝕んだのは、信頼に見せかけた無責任な期待であり、私がここで泣きつく事もそれと同義。彼女の心が動く事は無いだろう。
───ならば、どうすれば良いか
「……ならば、こういうのはどうでしょう。私が今から『トリニティの裏切り者』になります。一通り事件を起こして、最後は無様にやられますのでその後にスケープゴートにして頂ければ。流石に同僚と同じく、セクハラで捕まるのは御免被りたい。そちらとしても贄は脂が乗っていた方が好ましいでしょう」
「……貴方が色々知っている事については特に驚きませんが、『裏切り者』になるとは、また珍妙な発想ですね。居もしない裏切り者を探す為の部活であるならば、誰かがとっとと本物になってしまえばいいという逆説的な考えですね」
「私の目的は『裏切り者』を勝手に名乗った際に釣り出される者と交渉する事ですので……まぁ、浦和さん達に迷惑はかけませんよ。捕まる気は無いですが、そこはまぁ、犯罪者と認定されるだけで同様の効果は得られると思いますので、ご容赦を」
「……本物の『裏切り者』を知ってると?」
「うーん、彼女は厳密に言えば『裏切り者』という訳でも無いんですけどね。どちらかと言うとそう"名乗りたい"人です。だから先に名乗りを上げれば100%食いつきます」
過失による人殺しの罪を自分の過ちとして受け止めきれず、その死に何か壮大な大義を求めて暴走してしまったといった具合だったな。まぁ、無理もない。
「───やはり、そんな胡散臭い話、信じる事は……いえ、他者を理解する事を諦め、失意と共に拒絶する事が愚かな事であると、私はこの補習授業部で学びました。ですので、どうか補習授業部の顧問の『先生』として答えて下さい。『先生』は、私達を何処に導き、何を成そうとしているのですか?」
「───本来ある筈だった、健やかな日々と希望溢れる未来へと。私はただ罪を償い続ける為に進み続けるだけです」
そう、彼女に私を信じさせるしか、この場を正しく切り抜ける方法は存在しない。
だが、きっと、今の彼女なら信じてくれる。
これは無責任な期待では無く、補習授業部、その絆に対する信頼だ。
「……はぁ、分かりました。『先生』のあまりに胡散臭い善意とやらを一度だけ信じてみる事にします。信じた所で、やる事自体はあまり変わりませんしね」
「───本当に、ありがとうございます。この恩は、必ず結果で」
私はそう言って、彼女に深く頭を下げる。こんな胡散臭い男の誠意に何の意味があるのかは疑問だが、それでも通すべき筋がある。
私は、計画の第二段階へ移行する為、再び命をベットする準備を始めた。
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「あっ!貴方がナギちゃんにみっともなく泣きついたとかいう大人の人?探したんだよ〜、良かったら今から私とちょっと"お話"しない?私ならナギちゃんよりいい条件出しちゃうかも」
「その、銃を突きつけながら言われましても……」
無事、聖園ミカとの接触を果たした私は鈍いふりをしつつ、相手の出方を伺う。
後方にはアリウス生と思われる配下が二人。よし、考えてきた中で一番の当たりパターンだ
「今からナギちゃんを襲撃する所だったんだけど、超法規権限?だっけ。それは貴方の身柄がないと使えないらしいんだよね〜。だから、アリウスをトリニティの正規部隊にする為には貴方の身柄も必要なの⭐︎大丈夫!ちょっとお外を歩けなくなるぐらいだから」
超法規権限の"擬似的"譲渡の狙いが正しく機能している事に内心安堵する。桐藤さんと私が交わした契約は、超法規権限を持った"私を"契約で縛る事による擬似的な行使権。これは一見すると、自身に手出しをさせない為のみっともない保身のための条件だが、その実、私さえ物理的に抑えればどうとでもなる事を意味し、色々な勢力からかえって狙われ易くなるのだ。……恐らく、桐藤さんも時と場合によっては、安全保障の名目で私を軟禁状態にする策を実行してきただろうな。
まぁ、それ故に桐藤さんは私の事を愚か者と評し、聖園さんはこうして私を直接押さえにきてくれた。襲われる事が目的の人間なんてそうそういない事を利用した陳腐な作戦である。
「───そこのアリウス生。マダムに伝えろ。私は貴女が知覚不能なレベルの未来視の神秘を持っている。その能力を担保にある交渉がしたいとな」
さて、次に切るのは私に残された最後にして最大の切り札。原作知識だ。
色々考えたが、タイミングは今しかない。
「無能の譫言かと思うか?よろしい、ならば見せ札を一枚開示しよう。それは"百合園セイアの生存"だ。現在は救護騎士団団長の蒼森ミネと共にトリニティ自治区外に逃れている。……くくっ、あのヘイロー破壊爆弾とやらはどうやら失敗作だったようだな。相手にも未来視が残っている以上、これからの計画を確実に遂行する為には同様のm、むっ?」
「セイアちゃんが……生きてる?」
目の前に莫大な力が渦巻き始めた。……無論、聖園さんのそれである。
私が未来視を持っているという証拠など、彼女視点からすると一ミリも無いのだが、人間は信じたい事を信じる生き物だ。
それが、自身の悩みの大半を吹き飛ばすような事なら、尚のこと抗い難い。
「いや、だから今からどうやって彼女を消s」
私の言葉は、最後まで紡がれる事は無く、後方のアリウス生がぶっ飛ばされる。
「ゴメンね⭐︎そうと分かったら話は別だよ。貴方達全員、お縄についてね。あっ、ナギちゃんにも手出し無用だよ」
……相変わらず、判断が早い。
「なっ、百合園セイアへの攻撃を指示したのは他ならぬお前自身だろうが!何故今更我々を裏切り、彼女を庇う!」
とりあえずアリウス側に立つため、ゲマトリアモドキロールを継続する。
「ん〜なんていうか、気分が変わった、的な?あはは、変に見えちゃう分余計混乱しちゃってるね」
よし、聖園さんをトリニティ側に裏切り返させる事に成功した。後は私がアリウスに逃れるだけだ。
…………聖園さん相手に?どうやって?
まぁ、なるようになるさ。
「────いいだろう。かかって来い!聖園ミカ!私が相手だ!」