大人の責任(ガチ)(notエロ) 作:教頭
ブルーアーカイブの戦闘は戦術指揮と呼ばれ(原作プロローグにて早瀬さんがそう呼称していた)、プレイヤーである『先生』により四人の前線要員と二人の後方支援要員を含む述べ六人の生徒を率いて、暴徒の鎮圧から世界を滅ぼす古代兵器との戦闘まで熟すものである。
ストーリーを読む限り、作中においてその能力は異質とも思える程強力な事が読み取れる。代表的な例を挙げるなら、『先生』の指揮下に入った戦闘向きではない生活安全局の生徒が連邦生徒会長の特務部隊であるSRTのRabbit小隊を打ち破った事例が分かりやすいだろう。
曰く、『先生』とはプレイヤーの生き写しであると言われているので、原作のキャラ設定として卓越した指揮能力や状況判断能力があるとは考え難い。
即ち、何かタネがある筈である。
まぁ、実のところ答え自体はあの二人が戦術指揮を行った時に示してくれているのだが。
その答えは「シッテムの箱」による予知じみた未来予測と閉所だろうが何だろうが無条件に映し出される戦場の俯瞰映像。加えて生命力の可視化、生徒の神秘を活性化させ限定的に各々の特技に準じたもので良い効果を発動させる「スキル」と呼ばれる現象。恐らくこれらの情報を生徒各員にリアルタイムで共有する機能もある。
無論、あまりに力の差がある場合は指揮者の判断能力も多少は必要になってくるが、あくまでも「多少」。二人の言葉に依れば、まんまブルアカのゲームのストーリーを行う程度の難易度らしく、順当に進めれば一切苦戦する事は無いと断言していた。……私が彼らにストーリー周りを任せたのも既プレイと未プレイの経験の差があったのかもしれない。まぁ、この辺りが最大の判断ミスであったのかもしれないが後悔しても特に意味は無いので一度思考を流す。
「錠前さん。今、遺物により一時的にマダムとの通信を遮断し、こちらの通信パスを繋げさせて貰った。済まないが一時的に私の指揮に入ってくれ」
「……信用できるのか?」
「私は信用出来なくとも、遺物の力が本当である事は現在進行形で分かっている筈だ。兎に角、捕まらず生き延びなければならないという点に於いて、我々の利害は一致している」
「確かに戦場の情報が次々と入ってくる。知覚の拡張の類か。……分かった、私の独断で我々は貴方の指揮下に入ろう」
───兎に角、今の私にも『先生の指揮』を行う必要条件が揃った。
指揮下の生徒───アリウススクワッド四人
シッテムの箱───万全。幸運にもアロナの反抗などのイレギュラーは起こっていない。
私の意識───デコピンが効いてるが、まぁ問題ない。
さて、戦闘のチュートリアルだ。
相手は聖園ミカ。しかも今宵の彼女はひと味違う。
「ミネ、私をミカの所に。……ミカ、今から私は意識を落とし、君の意識と接続。1〜5秒先の未来視を断続的に行い右目の視覚情報として共有する。その間、私は無防備状態になるから意識のパスの安定の関係も考慮して君が抱えてくれると助かる。……まぁ、君の強さだけは一度たりとも疑った事はない。派手にやってくれたまえ」
「では私は後方にて俯瞰視点から戦術指揮、火力支援、今呼び出した援軍の指揮を行います。ミカさん、通信機を左耳に。言っても無駄かもしれませんが、出来るだけ建造物の破壊は避けるように。……あと、ご武運を」
「ナギちゃん、セイアちゃん……!」
百合園セイアの未来視、桐藤ナギサの状況判断能力と指揮下の援軍。
……シッテムの箱によるアドバンテージをほぼ全て打ち消されてしまった。
数は無論、あちらが有利。さて、チュートリアルから大ボスだとかバランス崩壊なんてレベルじゃないが、やらなきゃ詰むからやるしか無い。
ある種、私のブルアカデビュー戦だ。ははっ、これでエアプ卒業だな。
「"私が指揮する、任せて"」
最後に『先生』としての言葉を唱え、シッテムの箱と接続する。
────戦いの火蓋は、錠前さんと聖園さんの超近距離戦により切られた。
───錠前さんのスキルとやらを聖園さんに向けてみる。
未来視により当たり前のように全て読まれて躱された。
───槌永さんのスキルにて、桐藤さんの撃破を試みる。
こちらも想定済みのようで、援軍として現れた正実の剣先さんに弾かれた。
───戒野さんのスキルにて、爆風による観測の撹乱、援軍の殲滅を狙う。
蒼森さんが一人で全て受け切った。
───秤さんのスキルにて、回復によりこちら側の立て直しを図る。
桐藤さんがすかさず榴弾の掃射を指示し、立て直しを許さない。
……成る程、あの二人め、何がスキルポチポチするだけ、だ!
これは、尋常ならざる駆け引きが必要不可欠だ。
しかし私にはそんな大層な頭脳は無い。
ならば、人の道を外れた手段を取るしかないのだろう。
『ヘイロー破壊爆弾』によるハッタリを……否、否!
私がやるならまだしも、子供にフリとは言え殺人の片棒を強要し、手を汚させるなど言語道断。
行った時点で、私もあの二人と同格の存在に堕ちる。
いや、私の立場なんぞ今更どうでも良いが、世界を救う事を口実に何でもやっていい訳では無いと改めて意識せねばならない。
キヴォトス……否、「ブルーアーカイブ」の世界は結果より過程、道筋に多くの意味がある事が多い。一章では借金、二章ではアリスとケイの問題、三章ではベアトリーチェ。確かに結果だけを求めるのであれば手段を問わず、勘所だけ抑えれば問題を解消する事は叶うが、必ず破綻する事は連邦生徒会長周りから想像出来る。
今の私には、道中のフラグを拾う事は出来ないが、禁忌を避ける事は叶う。
という訳で、別の策だ。
「アロナ、操作時間が惜しい。私の脳内に直接情報を流してくれ」
権限の違和感や前任者の関係で何とも言えない関係性のアロナに久方ぶりに話しかける。
「……双方の同意があれば可能ではあります。……ですが、死にますよ?」
「別に何もしなくても多分すぐ死ぬから誤差だよ。……いや、君に私を殺させる事も先程と同様に充分問題か。立派な殺人幇助依r「今、接続します」……君ねぇ」
瞬間、脳が焼き切れる程のあらゆる情報が流し込まれ、足元が覚束なくなる。しかし、どういう訳か耐えられない程では無い。
「貴方……いえ、『先生』は死ぬ程悪運が強いですから。一回死んだぐらいじゃ死にませんよ。それに、これは『私』のミスですから」
「───そうかい、『連邦生徒会長』。貴女の身に何があったかは知らないが、取り返しのつかない過ちなど存在しない。子供ならば特にな」
「……ありがとうございます。そうですね、私も罪の償い方なら最近までこれ以上ないくらい学ぶ機会がありましたから。あまり長くはこの人格を顕現出来ませんが、せめて今だけは、───私が『先生』をサポートします」
妙に知性のある話し方と微妙な人間味の薄さから、もしかしたらと思って言ってみたが正解だったな。……この子が出てこられる辺り、この世界は相当なイレギュラーが起こっている事に間違い無いがそこはそれ。今は目の前の状況だ。こちらは脳味噌溶かしながら戦っているのだから、少しは勝ちの目が見えてくれると良いのだが。
───そんな心配は、戦況の変化と共に切って捨てられた。
銃弾一つ一つを全て演算、予想し、まるで弾の方が避けているかのように一切当たらなくなる。
通信網は遮断され、意味を為さなくなるどころか高度なブラフ情報を幾つも流されて、一秒にして指揮系統は崩壊する。
それでも尚、猛者達は果敢にこちらを倒そうと立ち上がるが、スクワッドの弾丸が全て、武器などの発射機構を打ち砕くように狙いを指定され、立ち向かう資格すら剥奪していく。
……私も拙いながらも、標的の指示や、かろうじてまだ使えそうな退路の確保、スキルの使用指示などを基礎に基づいて行うが、多分今回の戦闘に勝利するだけなら私が動かす必要など皆無だろう。
「いえいえ、『先生』の指揮は必須ですよ。シッテムの箱における戦闘は、『生徒』という神秘と契約する事が大前提です。ですので、契約対象の『先生』では無い私ではサポートは出来てもメインの指示を熟す事は叶いません」
ナチュラルに思考を読まないで欲しい。
「それに今、『先生』に彼女らの記憶が流れ込んでいるのと同様に、彼女らにも貴方の狂っているほどの諦めの悪さが流れ込んでいます。お陰様で、士気の高さは異常ですよ?」
えぇ……なんか洗脳みたいで申し訳ないのだけれど。確かに、スクワッドの子らの抱える悲惨な過去や世界への絶望が断片的に頭に流れ込んで来ているが、逆もまた然りなのか。やはりこの子、微妙に倫理観が無いな。それくらいでなければキヴォトス統治なぞ出来ないのかもしれないが。
カタコンベへの退路を完全に確保した私は、ただそう確信したのだった。
追記 チュートリアル関連部分の誤りを修正
シャーレ奪還→シッテムの箱入手の順でした。
とは言え、チュートリアルはほぼリンの言いなりなので幸い大筋の設定にはあまり影響はありません。