大人の責任(ガチ)(notエロ)   作:教頭

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主役の資格

 

 

「───お見事です。本当に、貴方"は"素晴らしい」

 

 見覚えのある黒スーツの怪異の登場に、ほんの一瞬、思考が止まりかける。

 

 いや、優先順位はベアトリーチェだ。引き金を───

 

「……どうにも、星周りが悪いな、私は」

 

「こういう時に運が悪いのは、物語の"主人公"の定めというものですよ」

 

「そういうこったぁ!」

 

 ベアトリーチェを庇うように出てきた木製人形と首無し男の怪物を前に私は完全殺害を諦め、その旨を速やかにスクワッドに伝達。そして撤退方法を模索し始める。

 

「……私、いや私達が本来の主人公では無いと言う事位、貴方方なら分かっていると思いましたが」

 

「いえいえ、そこはキチンと承知しておりますとも。本来呼ばれる筈だった救世主は、無粋な欲望によりこの世界に辿り着く事無く排斥されてしまったと。キヴォトスの神秘を私欲のままに貪りたいという無粋な欲望によってね」

 

 我々はそういう解釈がなされていたのか。確かに我々は異世界転生云々の欲求を持っていたからある種正しくはある。

 

「で、皆様お揃いで私に何の用ですか?」

 

「いえ、用事という程の事は無いのです。強いて言えば、一度貴方に直接会う事が目的でしょうか。賞賛と少々のお節介を伴って」

 

 黒服はそう述べると、再び拍手を贈る。

 

「いやはや、改めて本当によくぞここまでやりましたね。ここまで来れば最早真贋などあまり大きな問題ではありません。貴方は確かにこの物語の主役でありましたし、それを否定する事は誰にも出来ないでしょう。ただ、貴方は必死であり過ぎるあまり些かその自覚が足りていないように思えます」

 

「自覚と言われても、そもそも意識的にそう振る舞った覚えは無いのだが。私の役柄はどちらかと言うと道化や三下悪党に近いものだと考えていた」

 

「物語の中から観測するのであれば、貴方の自覚も間違ってはいないのですが……、神の視点、いや読者の視点とでも言うべきでしょうか。道化を意図的に演じているという貴方の存在を加味するとやはり運命の中心点、"主人公"と評する他無いのです。そんな貴方がこんな中途半端な場面で手を汚しては、物語の行く末にあまり良く無い影響を及ぼします。そもそも主人公という存在に事件の発生阻止など出来ることでは無いのです」

 

 確かに事件の起こらない物語など、三流以下も良いところだ。往々にして予防措置はありとあらゆる例外を駆使してすり抜けられて、事件は無理矢理起こる。

 城の警備をどれだけ厳重にしても姫は攫われるし、どれだけしっかり封印しても魔王は復活するのだ。

 

「あー、TRPGの導入のような物か。事件の発生に関しては抗うだけ無駄と言いたいのだな」

 

「ええ、その辺りはどうも強引なようで。事実として、貴方が懸念している『色彩』ですが既にこちらを発見しているようです。即ち、ここでマダムを仕留めてもあまり意味はございません」

 

 血の気が引くという言葉の意味を身をもって体感しながら、何とか意識を保ち黒服と対話を続ける。

 

「……トリニティで騒ぎを起こしたのは徒労だったか。というか純粋に迷惑をかけただけの形になったな。桐藤さんにはその内頭を下げたいが……下げる頭が残っているかどうかが問題だな」

 

 百合園さんが私を止めようとしていたのも納得だ。確かに、これは無意義だ。

 

「いえいえ、徒労などとんでもない。少なくとも貴方は生徒を得て、『先生』に近づきましたし、我々のような観測者の目にも留まりました。この世界では結果よりも過程が大切なことは貴方も自覚しているように思いますが」

 

「その理屈を振り翳しすぎてもいつか痛い目を見そうだからな。何でもかんでも努力賞で良いなら世の中に苦しみは存在しない。結果も大切だ。私は厄災が来る事が分かっていながら防ぐ事が出来なかった。この『責任』は取らねばならない」

 

「本当に貴方は骨の髄まで『大人』ですね。貴方のその姿勢が崩れない限りきっとこの物語は続きます。それで、これからはどうされるおつもりで?」

 

「自分が引っ掻き回したアリウス関連の後処理はまず急務として……SRT周りの騒動に介入するのと、……『色彩』が来るならシャーレビルの奪還が当面の目標だろうな。あとは各学園との最低限のパスを手に作らなければならないか」

 

 これだけの事を起こしたんだ。どのみちキヴォトス全土で指名手配されるだろうし、当面はホームレス生活だな。今のところ「所確幸」に潜伏して、そこからSRTに干渉するプランが脳内にあるが、『色彩』が来るとなれば少し巻きで事を進める必要があるかもしれない。

 

「ふむ、ではこちらからいくつかアドバイス出来る事がありそうですね。我々からの施しは信用ならないかもしれませんが……、良い劇を見せていただいたおひねりのような物です。善意とは往々にして押し売りされるものですよ」

 

 そう前置きした黒服が述べた情報は、どれも値千金の物だった。

 

 シャーレビルは売却直後、狐坂さんによって不法占拠され現在も実効支配が続いている。曰く、誰かを待っているそうで交渉の余地があるかもしれない。

 

 アリウス分校の処遇は重くならない可能性が高いとの事。親アリウス派の聖園さんが失脚していない上にエデン条約の調印式を控えた今、不穏分子を増やすような措置には及ばない可能性が高いとの事。

 

 エデン条約はやはり破談するという情報。トリニティ側の問題を全て解決したとしてもゲヘナ側の風紀委員会と万魔殿の政治問題が解決していない以上、確実に上手く行かないとの事。

 

 調月さんが天童さんの抹殺計画を進めているが、恐らく返り討ちに遭うという情報。アロナに話を聞いた所、ケイはセミナー・ヴェリタス双方の動きを常に掌握しているらしく、機能が多少封印されている今でも赤子の手を捻るようにハッキングする事が可能らしい。

 

 SRT、Rabbit小隊の抗議活動はまだ続いているという事。場所はD.U.地区子ウサギ公園で変わりないらしい。

 

 不知火さんが捕まっている二人を利用して、何か企んでいるという情報。連邦生徒会長により与えられた超法規権限をある程度制限出来るのは、私と連邦生徒会だけなので理論上は可能とのこと。

 

 最後に、───色彩を呼んだのはゲマトリアでは無いという事。

 

「……と、こんなところでしょうか。そろそろ、シスターフッドがここまで到達する頃合いです。我々は引かせてもらいましょうか。あぁ、よければ貴方もトリニティ地区の外までお送りしましょうか?」

 

「いや、浦和さんに後処理に関する話と、諸々の謝罪をしておきたい。スクワッドの皆に最低限の引き継ぎもしておきたいしな。……ゲートだけ残しといてくれると有り難い」

 

 カッコ良く断りたい所だったが、現実は現実。使える物は何でも使わないといけない程、私には余裕が無い。

 

「……そうですか。ではお達者で。物語が続いたのなら、次は読者としてでは無く登場人物として相対したいものです」

 

「いや、こんな三文芝居に貴方方の出る幕はない。そもそも、ギャラが高すぎて支払えないからな」

 

「クックック……、成る程、あくまでも子供達の舞台であり物語を暗くする空気の読めない大人の俳優はお呼びでは無いと」

 

「そういう事だ。……私も出来るだけ速やかにやる事をやって舞台袖に捌けなければなぁ」

 

 その言葉に返事は無く、いつの間にか彼らは何処かに消えていった。

 

 同時に、至聖場の扉が蹴破られシスターフッドが突入して来る。

 

「先生?貴方のお仕事とやらは無事終わりましたか?」

 

「残念ながら、二つの案件のうち片方に計画段階から想定外のミスがあってな。あれだけ啖呵を切っておいてこのザマとは、言い訳のしようも無い。私は君の信頼を裏切ったも同義だ。本当に申し訳ない、浦和さん」

 

「いえ、先生も難儀なものですね。あれだけの大立ち回りを成功させて、結果が前提条件に不備があったから不可とは理不尽にも程がありますよ。貴方程の人が前提で犯す過ちは、多分どうしようもない類の事ですし。……これは純粋な善意なのですが、少し休んで行かれてはどうですか?トリニティの監獄のベッドはふかふかですよ?暫くすれば、アリウスの子たちの話から情状酌量の余地ありとなって釈放されそうですし」

 

 浦和さんはそう言って、油断なく構えているスクワッドの面々を一瞥した。

 

「いや、遠慮しておこう。時間が足りないからな。桐藤さんと百合園さんには迷惑をかけたと伝えておいてくれ。いや、アリウスの後処理の事もあるから"迷惑をかける"の方が正しいか。エデン条約前という時期につけ込むようで少々据わりは悪いが、今だったらアリウスの子らの処遇も甘くなりそうだしな。第一、彼女らを殲滅する程の余力も無いだろうし」

 

「えぇ、誰かさんのお陰で正実と救護騎士団はほぼ機能停止。加えて、ティーパーティの三名がそれぞれの視点からアリウス、というかそちら側に立つ貴方と事を構えるのに及び腰になっています。それを踏まえた上での先程の提案だったのですがね」

 

 確かにそれだったら監獄のベッドもふかふかになるというものだ。

 

「……という訳だから、後は頼んだ。秤さん、錠前さん、そしてスクワッドの皆。君たちの端末に資料を送付しておいたから、それを参考に自治区を回してくれ。トリニティとの交渉は私の存在がある限り、そんなに致命的な事態にはならない筈だ。あまり気負わずに臨んでくれ」

 

 こうなる事を想定していた今は寝ている誰かさんによって作られたであろうソレがあれば、私なんかがサポートするより余程上手く行くだろう。

 

「……分かった、先生。やってみるね」

 

「ま、待ってくれ、姫、先生。その、先生とはどうしても一緒に行動する事は出来ないのか?」

 

 秤さんの決意の籠った即答を他所に、錠前さんはそう疑問を呈する。

 

 その幼さを孕んだ声は妙に痛々しくて、残りたい気持ちを増幅させる。色彩さえ来なければ、ある程度の自立までの面倒を見れていたかもしれないと思うと自己嫌悪で死にたくなってくる。

 

 ───しかし、私の私情で立ち止まる訳には行かない。

 

「……いいか?私が君たちに施した措置は、ベアトリーチェがしたソレと本質的には大して変わらない。勝手に感情を植え付けて、思うように動かしただけだ。君たちは一度、大人の呪縛から離れる必要がある。そうやって初めて、見えて来る物もあるだろう。自分達の進路を自分たちで決めなければならない。それがこの世界で生き抜く為に私から君たちに教えられる事だ」

 

「先生……」

 

 そう適当なことを言って私は彼女らを拒絶する。浦和さんから視線だけで、詭弁だ、と言われた気もするがそれ以上は特に何もしてこなかったので努めて無視する。というのも、Rabbit小隊と接触する際にどうしてもノイズになってしまうから致し方無い事ではあるのだ。

 

 というのも、原作先生も徹底していたように、新たに人間関係を構築する際は既存の人間関係を見せびらかさない、即ち常設的に誰かを連れ回すような事はあまりしない方が良い可能性が高いのだ。この中立性を崩せば、きっと碌な事が無いだろう。

 

 まぁ、これも私の罪だ。全てが終わったら、フォローしなければ。

 

 こうして、余りにも格好のつかない形ではあったがトリニティ・アリウス周りへの介入は一先ず終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

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