「ギニャアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
遭遇と同時に放たれたヒンメルの斬撃を頭をかち割られる寸前で受け止める。
試製三式義鋼腕は一切のタイムラグ無く動き、且つ斬撃を受け止められるだけの剛性とパワーがあった。
「こっち来んなアアアアアッ!!」
「ぐっ…!」
火事場の馬鹿力でヒンメルを跳ね除け、這いずって逃走を試みるヴィエフーシグ。
「ヒンメル!」
しかしそんなヒンメルの隙を埋めるかのように戦士アイゼンが直上から戦斧で斬り掛かる。
あれが振り下ろされればこのガバガバどころかスカスカの義鋼腕では防げないだろう。
それに脚も速く、這いずるだけの彼では逃げ切れない。
このまま両断されるかと思われたヴィエフーシグだったが、突如逃げるのを止めアイゼンの方を振り向く。
「おりゃあッ!!」
彼は振り向きざまにアイゼンに向かって水の入ったガラス瓶を投げ付けた。
「ッ!?」
反射的にアイゼンはその瓶を戦斧で粉砕し、中の水が撒き散らされる。
それがヴィエフーシグの狙いだった。
「『お湯が直ぐに沸く魔法』!!!」
その時、撒き散らされた水は一瞬で沸騰した。
熱湯はそのままアイゼンの顔面に降りかかる。
「熱ッッ!!?」
「大丈夫ですかアイゼン!?」
熱湯を顔面に浴び、思わず顔を背けるアイゼン。
彼の足が止まった一瞬の内に、ヴィエフーシグは這いずり移動で一気に距離を離す。
飛行魔法で障害物を避けつつ周りの木の枝やら岩やらを義鋼腕で掴み高速移動をしつつ、彼は勇者一行から逃げる算段を立てていた。
―このまま空を飛んだらあのクソビームの的になるし…瞬間移動の魔法とか無いのか!?
そうやって必死に辺りを見渡していると、小さな湖を見つけた。
「…これだ!」
湖を視界に捉えた彼は小さな笑みを浮かべ、全速力で湖に飛び込む。
「湖に飛び込んだぞ!」
「どうする?」
「私が狙い撃つよ」
彼が潜り込んだ湖へと近付く一行。
その内の一人、魔法使いフリーレンは魔力探知に集中し湖を警戒している。
彼女からすれば普通の魔族ならば呼吸ができない以上、水面から顔を出さざるを得ないし例え水中に隠れていても、魔力探知を頼りに攻撃魔法を放てばいいだけ。
そう、誰もが考えていた。
しかし…。
「これは…!?」
「どうしましたかフリーレン!」
「魔力反応が…分裂した」
湖の中にあったたった一つの筈の魔力反応は突如として幾つにも分裂しそこら中に散らばった。
魔力量も全て同じであり、魔力探知だけでは判別が出来ない。
手当たり次第に撃って確かめてみようかとも考えたフリーレンだったが、その直後に今度は湖を中心として真っ白な煙が大量発生した。
白煙は瞬く間に湖とその周辺を覆い尽くし、ヒンメル達も呑み込まれた。
「熱っつ!?」
「これは水蒸気だ!!」
ヴィエフーシグは湖の水を一瞬で沸騰させ、簡易的な煙幕を張ったのだ。
しかも高温な水蒸気である為、防御魔法を持つフリーレンとハイター以外は火傷を恐れて下手に近付けない。
その間に、夥しい数の魔力反応は全方向へ向けて蜘蛛の子を散らすように湖から離れていった。
最早フリーレンですら追跡出来ない規模だった。
◇◆◇◆◇◆
「あ…危なかった…!!」
もしあそこに湖が無いまま逃げ続けていたら、と嫌な想定をしながら汗と水でびしょ濡れの体でヴィエフーシグは近くの大木に背中を預ける。
―『金属を自在に変形させる魔法』の特性のお陰だ…。
あの時、湖の中に大量発生した魔力反応は実は彼が魔法で変形させ遠隔で操作していた金属片だったのだ。
彼の魔法の特性として、変形させた金属類に魔力を封入する事ができるという物がある。
これは普通の使い方をすれば魔法使いでなくとも決められた魔法を行使可能な武器を作ったりできる。
しかし今回は、魔力を封入した金属片をデコイとしてばら撒き攪乱に使った。
一定量の魔力を封入した金属片をばら撒くと同時に自身も魔力制限で魔力量を調整し、デコイの中に紛れ込む。
後はデコイを四方八方へ飛ばし自身もそれに合わせて離脱すれば追跡はできなくなるという訳だ。
「今頃あいつら鉄屑追っかけてんだろうな…ケケッ!」
自身の生還に歓喜しつつ、彼は新たな課題を見つける。
―もっと魔法を極めてかないとこの先生きていけないな…。
そしてもう一つ、自身の致命的な欠点についても気付いていた。
そう、今の彼は………。
―人肉が……食いたい…!
人類の捕食者である。
◇◆◇◆◇◆
彼はずっと人肉に対する飢えに森中をのたうち回り、苦しんでいた。
日時が蓄積される毎にそれは増幅していき、飢えによる苦痛が休み無く彼の精神を蝕み続ける。
それでも人だけは食いたくないという彼の人間としての理性が、どうにか人間としての出会わないようにとその場に彼の体を留めている。
ストレスのあまり頭を皮膚が抉れる程に掻きむしり、血だらけの顔のまま森の中の一定範囲内を徘徊し。
人肉を脳裏から引き剥がそうと何度も岩や周りの木々に頭を打ち付け、更に血塗れになった。
最早どれ程の時が経ったのか分からない。
飢えとそれによるストレスで何百、何千、何万回と倒れては起き上がりを繰り返した。
自らの生死の判別すらつかなくなる程に。
しかし、今この時まで一人の人間とも出会わなかった事は彼にとって幸運と言えた。
何故なら、彼は既に対抗策を完成させていたのだから。
精神魔法、『欲求の対象を入れ替える魔法』。
遂に完成させたこれにより、彼は人肉に対する欲求を、別の食べ物に対する欲求に置き換えた。
それは森の中に住む彼にとって最も身近な植物。
ありふれていて、入手も簡単な食料。
お陰で人肉の飢えは消え失せた。
ただ一つの『副作用』を残して。
「そろそろ林檎を食べないと(ストレスで)死ぬぜ!!!」
そろそろ新しい感想を読まないと(モチベが)死ぬぜ!!