1月は本当に色々ありすぎて更新できませんでした。すみません……
お金がなければ生きていけない。最初にそんな社会構造を作ったのはどこのどいつなんだろう。
一番最初に貨幣を作ったのは誰だ。一番最初に税収を行ったのは誰だ。一番最初に農耕を始めたのは誰だ。
我々を土地に縛り付け、昼夜問わず労働に従事させるきっかけを作った諸悪の根源は、いったい誰なんだ。
誰だ、出てこい。
私の前に姿を現せ。
一言文句を言ってやる。
いや、諸君も言うべきだ。私だけではない、全ての人間が拳を振りかざすべきなんだ。
万国の労働者よ、団結せよ。
共に、この世界を混沌に還そうではないか。
「こんな不当を許してはならない。私たちは団結すべきなんだよ、タロ」
「つまり、BPが尽きたんですね」
学生食堂の隅っこに向かい合う私たちの目の前には、水の入った透明なコップだけが2つ置かれている。水滴がコップの側面を滑り落ちるのと同時に、腹の虫がぐう、と鳴った。
「もしかして、わたしをここに呼び出したのはご飯を奢ってほしいからですか?」
「学食のイカれたメニューは好かないけど、この際、腹を満たせるならなんでもいい。お願いします……」
テーブルの下に潜り込ませるように、深々と頭を下げる。未来の黒幕を更生させると息巻いておきながら、その当人に飯をたかるという卑しさ……屈辱が過ぎるぜ。
もちろん、最初からタロに奢ってもらおうと考えたわけではない。借りを作ると後で怖そうというか、『弱みを握られた後に鎖で洗脳コース』を警戒していたのだ。
だからアカマツ君に頼んだんだけど……なぜか断られたんだよね。チャンピオンもネリネ先輩も首を縦に振ってくれなかったし。
……あれ? もしかして私、嫌われてる?
「ねえ、ネムちゃん。顔を上げてくれますか?」
「う、うん──ぺゃっ」
素直に従って顔を上げると、タロは脈絡もなしに輝かんばかりの笑顔を浮かべていた。こわ。
「何に使ったんです?」
「な、何にって、何が?」
「BPですよ。また何か高いものでも買ったのかなって」
「買ってない買ってない、誓って!」
「ふうん、そうですか」
いつもと違う無感動な相槌のせいか、すっ、と空気が冷え込んだように感じる。タロはにこやかな表情のまま、右手の人差し指でテーブルを2回、ゆっくりと叩いた。
「スマホロトム、出してください」
「え」
「何もやましいところがないなら、電子通帳、見せられますよね?」
そ、そうきたかあ。ええっと、見られるとまずい送金は、あれとこれとそれと……結構あるな。
──よし、抵抗するか!
「は、母親面しないでよ!」
「いいから見せなさい!!」
あっ、こいつ実力行使に出る気だな。くそ、やっぱり未来の黒幕なんかに頼ったのが間違いだったんだ。絶対に振り切ってやるからな!
椅子から立ち上がり、食堂から逃げるために走り出す。タロの私を呼び止める声を背に出口に差し掛かり──カチッ、とポーチから小さな音が聞こえた。
そして、私の体の自由は奪われた。
「おい、チャーレム」
空中に浮き上がってじたばたしている私の目の前で、ボールから勝手に出てきたチャーレムが両手をかざしている。
「君の今の主人は私だぞ! なぜいつも邪魔ばかりするんだ!」
「偉いですね、チャーレム。そのままでお願いします」
ゆっくりと歩いて追いついたタロが、もがく私のポケットをまさぐってスマホロトムを取り出す。
〈認証者トハ異ナル人物ノ使用ヲ確認。パスワードヲ入力シテクダサイ〉
「えっと、確か『H146shingyo』でしたよね?」
「なんで知ってるんだよ。誰にも教えたことないんですけど?」
ロックを解除したタロは、慣れた手つきでブルーベリー学園の専用アプリから通帳のデータを開いた。
「直近で科学部に6000BP、ね……」
「そ、それは道具プリンターの出資だから! タロだってこの前『これはすごい発明ですね』って言ってたじゃないか!」
「それは、まあ、言いましたけど……でも、食費を削ってまでつぎ込むものじゃないと思います」
「いやでもほら、道具は換金できるじゃん!」
「円にはできてもBPにはできないでしょう」
宙にぶら下がったまま言い訳を重ねる私を、タロは呆れたような目で見てくる。
そのうち「ネムちゃんのBPはわたしが管理します!」とか言い出したらどうしよう……毒の鎖を受けたわけでもないのに実質的に支配されるなんて、笑い話にもならない。
タロはさらに詰め寄ってくる。
「いつもこんなに使ってるなら、今頃部屋が道具で溢れかえってそうなものですけど……どこに保管してるんですか?」
「えっと、実家に送ったりとか……?」
圧に負けてなぜか疑問形になってしまったが、私だって使いもしない道具で部屋をパンパンにするほど愚かではない。いらないものは全部実家に押し付……
そもそも、ガチなんだかゆるいんだか分からないリーグ部よりも、道具プリンターとかいうとんでもない発明をしている科学部の方が報われるべきではないか。ブルーベリー学園には「ポケモンバトルに特化」なんて謳い文句もあるそうだが、今すぐその看板を撤回した方がいいと思う。テラリウムドーム内では、外部からほとんど切り離された生態系のモデルとして、宇宙開発に関する研究も行われているみたいだし、「科学技術に特化」の方がふさわしいに違いない。つまり、私は『BPの支援』という形でこの世界の趨勢を握る研究分野に投資しているのであって、断じて無駄遣いをしているわけではないのだ。まあ確かに、今回はちょっと使い過ぎちゃったかもという思いもなくはないけれど──
「チャーレム、降ろしてあげてください」
宙にぶら下がったまま必死に言い訳を考えていた私を、タロは解放してくれるらしかった。どういうわけか神妙な顔をしている彼女から、先ほどまでの尋問の気配は消えていた。
これは……許されたか?
「ネムちゃん、今の話は本当ですか?」
「えっと、ごめん。どの話?」
「道具を実家に送ってるって話です」
「それは本当だけど……」
私の困惑混じりの返事に、タロは少し考え込むような仕草を見せて、それからチャーレムを横目に見た。
チャーレムはこくり、と頷いた。
「そう、ですか……」
もしかして今、私じゃなくてチャーレムに確認をとった? 私ってそんなに信用ないかなあ?
「その、言いにくいことだったらごめんなさい。ネムちゃんの実家は……なんて言えばいいかな。えっと……お金に、困ってるんですか?」
……ん? ああ、そういう事か!
全くの勘違いなわけだけど、タロの沈痛な表情を見ていると、なんだか逆に申し訳なくなってくる。
「いや、別に貧乏とかじゃないよ。ただ邪魔だから送ってるだけ!」
そもそも貧乏だったらイッシュの学園なんかに通えるわけがない。ちゃんと食べさせてくれたし、ちゃんと育ててくれた。進学したいって言ったらめちゃくちゃ喜んで応援してくれたし、どちらかと言えば裕福な部類なのではなかろうか。
タロは再びちらとチャーレムを見やった。チャーレムはタロを見つめたまま、うんともすんとも言わずに突っ立っている。
いや、お前は事実を知ってんだから頷けや。
「……ごめんなさい。無神経なことを聞きました」
絶対に誤解している。私はもうなんだか面倒になってきていた。お腹は空いたし、タロはよく分からない早とちりをするし、チャーレムは私の意に反することばかりするし……
ふと、居心地が悪くなって視線を彷徨わせていると、食堂の壁に掲示された鮮やかなチラシに目が止まった。
『第2回ブルーベリー学園スカイレース開催!
優勝賞金は、なんと10万BP!!』
「──これだ!!」
ネムちゃんのチャーレムは人から譲り受けたポケモンだから、あまり言うことを聞いてくれません。