ストーリーにまったく関わらないタイプのランク1位(大嘘)   作:ナスの森

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今年最後の投稿です。


汚染市街にて 裏

 

『ルビコンが近い。ソイツを起こしてくれ』

 

 恒星の光と、その光を反射する惑星ルビコンの光、及び封鎖ステーションの連なるソーラーパネルが見える薄暗い空間の中で、壮年の男の通信音声が響く。

 その音源はたった今、この惑星ルビコン3の目前まで迫っていた一本の宇宙航行ロケットだ。

 

『了解です、ハンドラー・ウォルター。脳深部コーラル管理デバイスを起動――』

 

 その通信に応えるように、男性のCOM音声が聞こえると同時――その“存在”の脳にまるで無希釈の麻薬を注ぎ込まれるかのような、そんな衝撃めいた信号が送り込まれる。

 ・・・・・・尤も、その“存在”にソレを衝撃と感じる情動も、感覚も最早無かったが。

 

『強化人間C4-621、覚醒しました』

 

 かくして、その存在は目覚めた。

 脳に送り込まれた信号により、ゆっくりと目を覚ました“ソレ”が始めに認識したのは、いつの間にか自分が乗せられていた機体のコックピットの空間と、それらにコード接続されている自分の体だった。

 その瞬間、ソレは自分が何者であったか要領は得られなかったものの、目覚める直前に送り込まれた信号のおかげか、『自分がどうあるべきか』という疑問には即座に回答を得られた。

 

『“621”――仕事の時間だ』

 

 故に、621と呼ばれた少女が突如聞こえたその男性の通信に戸惑うこともない。

 自分はこの声の主に従うべきなのだと、目覚めた瞬間から理解していた少女は、さっそくその男からの指示を待つ姿勢を示した。

 

『突入カプセルの電源を落とす。後は合図を待て』

 

 621の乗る突入ロケットの後部パーツが切り離されると、そこから顔を出した後部ブースターがオレンジ色の炎を拭かしてルビコン3へと向かう。

 ロケットがルビコン3の重力圏内に入ると、男の通信の通りに電源を落とされたロケットはスラスターの機能を停止させられ、ロケットはそのまま重力に引かれながらルビコンの地へ落ちていく。

 宇宙デブリを掻い潜るコースを落下しながら速度を増していくロケット。同時に機体に衝撃と熱が伝わり、621はその状態を人体の感覚ではなく、脳に流し込まれる数値データの処理によって理解する。

 

『今だ。再起動しろ』

 

 通信越しに語りかける男――ハンドラー・ウォルターの指示と同時、621は機体前方に取り付けられたブースターの火を吹かし、着陸に備えて減速する。それでも尚、落下しゆくロケットはその速度のあまり火を纏いながらルビコンの地へと落下しゆく。

 

 その途中で、その侵入者を感知する存在がいた。

 惑星封鎖機構が配置した封鎖ステーションに設置された衛星砲が展開され、その砲身が621を乗せたロケットの進路上に向けられたのだ。

 

「――――!」

 

 その砲身に充填された光をモニター越しに一瞥し、ようやく人間らしい反応を見せる621。激しい空気圧縮に晒され高温を帯びた機体に追い打ちをかける様に放たれようとしている衛星砲の砲撃は、まともに食らえば自分は撃墜され、その時点でハンドラーから指示された仕事も頓挫してしまう。

 自身の生命の危機ではなく、任務を遂行できない可能性を考慮に入れる621。

 

 衛星砲から迸る閃光を止められる者は、この場にはいない。

 

 砲身より光が放たれる。その光は621の乗る航行ロケットの機体を貫く――ことはなく、既に必要のなくなった突入用の後部ブースターに掠るに留まった。

 

『突入用ブースターを咄嗟に起動して直撃を避けたのか・・・・・・いい判断だ、621』

 

 そんなハンドラーの称賛を聞いている余裕は621にはない。

 自分がいる格納部に誘爆しないように、621は即座に後部ブースターを切り離す。

 背後で爆発するブースターパーツを置き去りに、621の乗る格納カプセルのみがルビコンの地へと突入していく。

 白い雲をつんざきながら落下していくと、ようやくルビコンの白い地表が見えてきた。

 

 最早、621のルビコンへの密航を妨げる障害は現時点で全て突破された。

 格納庫の外装を固定していた金具が解放され、パージ。直後、621を乗せた格納庫カプセルが開かれ、その中から姿を現した一機の機体がグリッドの屋根の上へと落下していった。

 

 

 

 

 無数の配管やケーブルが走った壁や床に囲まれた真っ暗な建物内に、片膝を着いている621のAC「LOADER4」の姿があった。

 周辺にある光源は、広大な通路の脇に点在してある小規模の照明と、つい先ほど621のACが突き破ってできあがった屋根穴から通る日差しくらいのもので、それ以外は人影や熱源が一つも見当たらない――そんなグリッドの閑散とした場所に、621のACは床に小規模なクレーターを作りながら着地していた。

 

『ISB2262 惑星ルビコン3に着陸』

 

 COM音声と共に、LOADER4のモノアイカメラを始めとした各デバイスに光が灯る。

 駆動音を鳴らしながらLOADER4は立ち上がる。大気圏突入により高温を帯びた機体を急速に冷却せんと、ラジエーターによる排熱が機体後部から息を吹いた。

 

『現在そちらの座標はグリッド135・・・・・・誤差はあるが許容範囲内だ』

 

 621の生体反応が健在であることを確認したウォルターが、621に座標データを送りながら現在位置を淡々と示す。誤差、とウォルターは言うが、621の視点では作戦領域までの距離は相当な数値を示しており、とうてい誤差の一言で片付けられる距離ではなかった。

 

『この先のカタパルトを使え。それで帳尻が合う』

 

 言われて、直後に送られたグリッド内のマップデータに示されたカタパルトの座標を示され、621は納得する。

 

 

『メインシステム――戦闘モード起動』

 

 

 機体カメラを前方に向けた621は、グリッドの屋外にあるカタパルトを目指して行動を開始した。

 

『道中のガードメカは排除しろ。機体の動作確認にもなる』

 

 進んだ先に、貨物車両を走らせるための線路が連なって並んでいるただ広いエリアへと出る。ウォルターの指示通り、621はLOADER4のブースターを起動しながら、そのエリアに配置されていた逆関節型のガードメカ部隊に躍り出た。

 ガードメカの攻撃はACの装甲にとっては屁でも無いが、それでも621は無駄な被弾は避けんと銃弾やミサイルを回避して死角へ回り込み、ブレードやライフルで一体ずつ撃破していく。時には既に破棄されてある線路上の貨物車両などに隠れて攻撃をやり過ごし、再び反撃していく。ミサイルのマルチロック機能による複数攻撃を用いれば一気に殲滅することは可能であったが、621はウォルターに言われた「機体の動作確認」という言葉を頭の中で反芻させ、射撃、近接、機動性、姿勢制御――機体のあらゆる機能に問題がないかを一つずつチェックしていった。

 全ての機能に問題は見られず、作戦遂行に支障はない判断した621は、LOADER4の右肩に装備した4連装ポッドの射出口からミサイルを4発発射。内蔵されたFCSによるマルチロックによりそれぞれのミサイルが各ガードメカに命中する。

 ガードメカの殲滅を終えた621は目標地点へと続くゲート――の前に立ち塞がっていたMTにアサルトブーストで急接近して――左腕のパルスブレードを展開して薙ぎ払った。

 緑色のパルス光刃に真っ二つにされ爆炎を上げるMTを背後に、621はゲートにアクセスし、開く。

 ゲートが開くと、その通路の先にあった同型のゲートも連動して開き、LOADER4の機体カメラ映像に屋外の光が差し込んできた。

 

 その光を目指してアサルトブーストで突き進み屋外に出ると、途中のポイント切り替えで枝分かれした通路上の線路の先に、目標のカタパルトがあるのを621は確認した。

 

『見えるか。お前にはあの汚染市街に降下してもらう』

 

 メガストラクチャーたるグリッドから見下ろして見える、雪の積もった白い山々と各グリッドの建造物を支える巨大な柱が並んでいる風景は、見る人によっては絶景と称えるだろうが、そんな機能は621にはない。

 どちらにせよ、621がたどり着くべき場所はその絶景の更なる奥にある――汚染市街という名の薄汚れた戦場なのだから。

 

『カタパルトにアクセスして汚染市街へ降下しろ。そこからが本格的な仕事となる』

 

 カタパルト前の昇降リフトの上に機体をセットし、指示通りに機体をカタパルトにアクセスする。すると昇降リフトが作動し、発射台と昇降リフト双方のレールが繋ぎ合わさると、カタパルト全体が駆動音を上げる。621のLOADER4もそれに合わせるように機体を前屈みにし、背部のブースターのバーニヤを拭かして射出準備を行う。

 

 カタパルト射出まで・・・・・・3、2、1――

 

 ――発射。

 

 カタパルトのレールから高速で射出されたLOADER4は、瞬く間に幾つもの山やグリッドの柱とすれ違いながら汚染市街を目指して飛んでいく。

 

(・・・・・・一先ず、出だしは好調か)

 

 そんなLOADER4の様子を映したモニターを眺めながら、ハンドラー・ウォルターは手元のフィーカを一口啜って息を吐いた。突入時の咄嗟の判断力、自分の命令を的確に聞き入れて実行してみせる遂行力、何より旧世代型とはいえ強化人間の恩恵を生かしたACの操縦テク。今の所どれを取ってもウォルターが言うことは特になかった。目覚めたてでこれならば、自分の目的のためにも十分な貢献をしてくれるだろう。何より、強化人間といえど人間だ。成長しない訳でもない。これからの伸び代にも期待はできる。そこは621のハンドラーたるウォルターの手腕にも掛かってはいたが。

 

『・・・・・・この惑星(ほし)でコーラルを手にすれば、お前のような脳を焼かれた独立傭兵でも、人生を買い戻せるだけの大金を得られる筈だ』

 

 通信でそう語りかけるウォルターの言葉に対し、621の反応はない。モニターのバイタル値にもさしたる変化を示さなかった。

 まあ当然か、とウォルターは自嘲する。相変わらずこうして自分は、世間に置き去りにされ旧世代型と蔑まれた強化人間たちに、何かの反応を期待してこのような言葉をかけてしまう。・・・・・・今まで何人も使い潰してきた老害の分際で、今更何を善人ぶってるんだろうか、とウォルターは自分を嘲笑った。

 

 実際の所、今の言葉に噓はない。だがそれは自分と621が無事に仕事を成し遂げられればの話であり、今の段階では気の早い妄言に過ぎないのだ。そのためにも、この仕事をやり遂げなければならないと、ウォルターは己が帯びる使命を改める。

 

『着いたな、仕事を続けるぞ』

 

 山々を通り過ぎたLOADER4が作戦領域内まで到達し、作戦領域端の森林地帯に着陸するのをモニターで確認したウォルターは引き続き621に指示を出す。

 

『ACの残骸を漁り、生きている傭兵ライセンスを探せ。密航者には身分証が必要だ』

 

 別に密航者だからといって傭兵ライセンスを獲得できないなんていう道理はない。むしろこの星にいるルビコニアンや惑星封鎖機構の面々以外のほとんどは今の自分や621のような不法密航者だ。この惑星(ほし)で活動する数ある独立傭兵たちもその例からは漏れない。それでもウォルターが既存のライセンスを欲するのは、一から実績を積み上げていく時間がないかもしれないからだ。

 

 ウォルターの指示に従い、621は動き出す。

 

『AC!? 一体どこから・・・・・・』

『所属不明・・・・・・独立傭兵か!? 応戦しろ!』

 

 森林地帯を抜ける直前に、先ほどのグリッドでも遭遇したモノと同型のMTが3機展開しており、彼らは621を見つけるや否やマシンガンやミサイルをLOADER4に向けてばらまいてきた。

 

『解放戦線の武装ゲリラか。仕事の障害になるようなら排除しておけ』

 

 621は丘にいる一機をミサイルで撃墜し、残る2機をパルスブレードによる横薙ぎでまとめて一閃、瞬く間に3機片付ける。

 少し進むと、崖下にある汚染市街の全景が見える位置にまでたどり着いた。

 

『汚染市街に到着したな。ACの残骸反応をいくつか検出した。マーカー情報を送信しておいた、その地点を巡れ』

 

 マップ情報にマーカーが更新され、621はまずは汚染市街の端の方から順に巡っていく事に決めた。

 まずは汚染市街の端にある、崩落したグリッドの残骸の上にある地点だ。

 

『いたぞ! 報告のあった機体だ!』

『所属を吐かせるぞ!』

 

 やはりというべきか、そこにも解放戦線のMTが二機配置されていた。しかも機体を覆うほどの大きさの鉄盾を装備しているせいか、生半可な銃弾は全て弾かれてしまう。

 LOADER4の現在の武装は右手にライフル、左手にブレード、そして左肩に4連装ミサイル。この中でMTの盾を破れる火力を持つ武装はブレードの他にはない。

 故に、621の行動も早く、そして迅速だった。ブレードの1撃目で盾を破壊し、2撃目で止め。残る一機は盾の死角に回り込んでライフルの銃弾をお見舞いし、仕留めてみせた。

 邪魔者を排除した621は、さっそく目標のACの残骸の前までたどり着く。

 

『BAWS製のACか。その機体にアクセスしてみろ』

 

 ウォルターの指示通りに目の前の機体にアクセスする621だが、出てきたのは空っぽのデータのみだった。

 

『これは・・・・・・パイロット情報が既に抜き取られている。パイロットは既に救出されているようだな』

 

 つまりこの残骸となったACのパイロットは存命中であり、抜き取られたライセンスコードはそのパイロットに新しく拵えられた機体の中にあるのだろうとウォルターは推測する。

 

『アテが外れたな、621。残る2つのマーカー地点を巡ってみろ』

 

 もう用はないと言わんばかりに、621のLOADER4はACの残骸から踵を返し、次のマーカー地点へと向かう。

 目標の地点が見えてくると同時に、先に見たことのない機影がそこに接近しつつあったのを621は捉えた。

 それは、全高約90メートルはあろう巨大な武装ヘリだった。

 

『SG!? サブジェクト・ガードが来たぞ!』

『よせ!構うな! 退避しろ――うわああぁぁっ!!』

 

 その目下に展開していた解放戦線のMTパイロット達の悲鳴が響き渡る。巨大な武装ヘリから放たれる爆撃ミサイルに解放戦線のMTたちはなすすべも無く、武装ヘリは進路上にいる解放戦線の部隊を殲滅しながら飛び去っていく。

 

『あれは・・・・・・封鎖機構の巡回だと? 余計な手出しはするな。目を付けられるとまずい』

 

 だがおかげでマーカー地点周辺の敵を排除する手間がなくなった621は、さっそくもう一機のACの残骸の前にたどり着く。

 すごい勢いで衝突したのか、瓦礫に埋もれたまま大破しているAC。621は構わずその機体にアクセスした。

 

『登録番号:Rb29

 識別名:G7ハークラー

 ランク:22/D

 

 所属:ベイラム・インダストリー

 

 ライセンス失効まで12時間』

 

 ランクもそこそこで、ライセンスもまだ失効していない。

 ウォルターが探し求める条件のライセンスに当てはまると思われるが、ある一点において、その条件には当てはまらなかった。

 

『企業所属では足がつく、避けるぞ。それにしても・・・・・・』

 

 ウォルターは考える。

 ――G7ハークラー、所属はベイラム・インダストリー。

 識別名の先頭についている「G7」というコールサインナンバーと、そして何より所属があのベイラムであること。

 

(ミシガンの手解きを受けたパイロットか。あのレッドガン部隊の番号付きならばそう簡単にやられる筈がない。一体誰が・・・・・・?)

 

 あのACの残骸にこれといった弾痕は存在しなかった。ただ1つ、コアにあった大きな弾痕と、それを中心に広がっていた焦げ痕。さらにはそのコアの弾痕を鋭い何かで貫かれたような跡があった。

 このような戦闘の形跡から、ウォルターはこのACを仕留めたのは1人の手練れのパイロットであると推測したのだ。それも、一瞬の内に勝負が着いたことは想像に難くない。仮にその相手が同じAC乗りならば、最低でもランク圏内の傭兵であることは確実か。

 

『・・・・・・警戒が必要だな。次を当たれ、621』

 

 再びLOADER4は踵を返し、最後のマーカー地点へと向かう。

 しばらく進むとソレを阻むように、マーカー地点周辺には敵が展開していた。先に巡った2つの地点よりも数は多めで、脅威になりはしないが、MTの他にも大量の武装ヘリコプターの部隊が展開していたのだ。

 少し面倒だ、と621は暫定的に思考する。ミサイルのマルチロックをしても1度に落とせる数は4機が限界だ。それでもやるだけだ。

 ヘリコプターをミサイルで落とし、MTをブレードで切り伏せる。

 マーカー地点周辺の敵の掃討を終えたLOADER4は3機目のACの残骸の前に立つ。

 

 だが、そこに見える光景は少々異様だった。

 

『これは・・・・・・どういう事だ』

 

 状況判断に困ったのか、ウォルターが困惑したような声をあげる。621もその異様さを感じ取ったのか、暫く動かずにその光景を見つめた。

 目の前にはACの残骸が1機。・・・・・・ここまではいい。

 まず目に付くのは、すぐ近くにあった、先ほど見掛けた封鎖機構の大型武装ヘリと同型の機体と思しきヘリの残骸が墜落していたのだ。

 そして・・・・・・目標である目の前のACの残骸もよくよく見れば異様だった。

 フレームには多少の損傷こそ見られるものの、大破に至るような損傷にはとうてい見えない。

 そのACは・・・・・・左腕パーツと、コアパーツ、脚部パーツだけが綺麗に泣き別れにされた状態で撃墜されていたのだ。コアパーツに見える唯一の損傷は、鋭い何かに貫かれたと思しき跡だけ。

 その跡に、ウォルターは見覚えがあった。先ほどのマーカー地点で息絶えていたハークラーのACのコアにも同じような刺し跡が見受けられたのだ。同一犯の可能性が濃厚である。

 

(少なくとも封鎖機構のヘリと相打ちになったという線は考え辛い。それならば、このACの周辺に激しい爆撃の跡が残る筈だ。だが、このACのフレームの損傷具合からしてもそれはあり得ない。・・・・・・となると、この武装ヘリを落としたのも・・・・・・)

 

 見れば見るほど妙な状況であったが、ウォルターはすぐに思考を中断し、621に指示を出す。

 

『・・・・・・今は仕事が優先だ、621。その機体にアクセスしろ』

 

 ウォルターの指示から暫しの間の後、621は目の前に機体へのアクセスを開始した。

 そして、ライセンス情報と同時に、もうひとつの情報ログがウォルターの元へ流れてきた。

 

『登録番号:Rb37

 識別名:モンキー・ゴード

 ランク:--/—

 

 所属:独立

 

 ライセンス失効まで12時間』

 

 ランク圏外のパイロットだ。これでは話しにならない。

 ウォルターはついでに抜き取った情報ログも確認した。

 

『残骸から抜き取った映像記録

 この独立傭兵は死亡する直前

 会敵したレッドガン部隊から通信を受け取っていたようだ

 

………………

 

 ふ、封鎖機構のSGがあっという間に・・・・・・

 く、くそ!

 なんでこんな所に“鬼神”がいやがる!

 先ほど戦っていたレッドガンから通信が来た。

 「手を組め」だと? ああ、いい提案だ。

 俺も丁度そう考えて・・・・・・あれ、オレの、AC・・・・・・

 どうして・・・・・・バラ・・・・・・バラ・・・・・・に・・・・・・

 

 記録はそこで途切れていた               』

 

 断片的だが、ここで何が起こったのか推測するには十分すぎる程の情報だった。

 先のレッドガンのACと共通しているコアの刺し跡。そしてライセンス失効までの残り時間からして撃墜された日時はあのレッドガンのACと同時刻だろう。

 つまり、この封鎖機構の大型武装ヘリを落とし、この独立傭兵を瞬殺し、さらにはあのレッドガンのACを瞬時に仕留めた下手人は、同一人物であるということだ。

 そして、この独立傭兵の機体から抜き取った情報ログに書いてあった“鬼神”という単語。

 

(鬼神・・・・・・まさか、「マーウォルス」のことか・・・・・・!?)

 

 驚愕するウォルターの声が621の耳に入る。

 このルビコンで鬼神と呼ばれる存在と言えば、それはもう1つしかいない

 つまる所は、自分達は今まで最初に見つけた残骸を除き、このルビコンにおける最強の傭兵の殺害現場を見回っていたということなのだ。

 ただのライセンス漁りの筈が、とんだ現場に遭遇したものである。

 

『・・・・・・ここで何が起きたのかは大凡推測できた。手にしたライセンスだが、ランク圏外のパイロットだった。目当てのモノではない・・・・・・』

 

 どうしたものか、と顎に手を当て思案するウォルターだが、直後、モニター画面のマップ情報にもう一つ反応が検知されるのを確認した。

 

「待て、残骸反応をもう1つ検出した。マーカー情報を送る。当たってみろ」

 

 今度こそは当たりであってくれと、マーカー地点へ向かい始めたLOADERをモニターしながらウォルターは心中でそう祈る。

 最悪の場合はいちから新規登録するか、先のモンキー・ゴードのラインセンスを使うことも保険として視野に入れなければならない。

 

 ウォルターの指示を聞いた621は崖沿いにある建物の屋上を目指し、高所への移動装置である垂直カタパルトを用いて機体を跳躍させ、アサルトブーストでそのマーカー地点へと向かう。

 

 見えてきたのは、巨大な建造物の広い屋上と・・・・・・その中心に輸送機と共に墜落していた1機のACだった。

 

『あれだな。あの残骸にアクセスしろ』

 

 目標の残骸の前に降り立ったLOADER4が、ウォルターの指示通りに残骸へのアクセスを開始した。

 その情報はモニターしていたハンドラーの元へ送られる。

 

『登録番号:Rb23、傭兵ランク圏内、識別名は・・・・・・むっ!?』

 

 送信されてきたライセンス情報を読み上げるウォルターだが、突如としてソレは遮られる。

 LOADER4の死角から飛んできた爆撃。

 間一髪でそれを躱した621が見上げると、そこには先ほど解放戦線の部隊を一掃していた封鎖機構の大型ヘリが、ライトを照らしながら621のLOADER4を睨み付けていた。

 

『・・・・・・やはり、目を付けられていたか』

 

 額に手を当て、ウォルターはため息をはく。ここで封鎖機構に目を付けられるのはよくない。だが、いずれ衝突することは避けられない相手でもある。ならばやむを得まい。

 

『迎撃しろ、621。トップランカーが落として見せた相手だ。お前が落とせない道理はない』

 

 ・・・・・・励ましにもなっていない無茶ぶりを言っている自覚は、ウォルターにはあったが、それは後の祭りだった。

 ここで落とすか、落とせないかで、自分と621の命運は決まる。

 ならばウォルターは、唯一手元に残った駒である621を信じるより他になかった。

 

『今ならお前が特定されることはない。やれ、621』

 

 ローターを回して突風をまき散らす巨大な怪物に、1機のACが躍りかかった。

 

 

 

 

 

 暫くして、屋上には1機の墜落した大型武装ヘリと、1機のACがいた。

 ACの機体は既に中破状態にまで陥っており、フレームの所々の塗装が剥がれ、いくつかの内部機構が剥き出しになっている。

 それでも、そのACは見事、ハンドラーの目論見通りにジャイアントキリングを達成して見せた。

 

『・・・・・・惑星封鎖機構SG、大型武装ヘリの撃墜を確認した。・・・・・・621、今日の仕事は終わりだ』

 

 通信でそう締めくくりながら、ウォルターは椅子にもたれ掛かって一息ついた。

 とりあえず、スタート地点に立つことは叶った。

 

(・・・・・・それにしても、まさかトップランカーが暴れた後の現場に遭遇するとはな・・・・・・)

 

 ルビコンに現れた鬼神と畏怖される漆黒のAC「マーウォルス」・・・・・・ソレを駆るこのルビコンでのトップランカー「サーティ」。

621は何とか封鎖機構のSGを落として見せた。只のAC乗りとして見るならばこの時点で大快挙だ。ウォルターが過去に従えていた強化人間部隊「ハウンズ」のメンバーでも、1対1ならばやられていただろう。

 そう考えれば、ウォルターは見事に当たりを引いて見せたといえよう。

 それでも・・・・・・。

 

(勝てるのか・・・・・・今の621で。あの“鬼神”に)

 

 カーラからの情報提供で、あのV.Iフロイトすら上回るランクの傭兵が出現したと聞いたときは、自分の耳を疑ったモノだ。

 だが、あの汚染市街の状況からして、AC2機と、封鎖機構のSGを同時に相手にして圧倒してみせた実力。カーラの情報に噓はないのだろう。

 

 誰が予想できようか。

 ・・・・・・このルビコンでの戦果のみで、星外で活躍した怪物たちを押し抜いてトップランカーにのし上がるなど。

 誰が予測できようか。

 ・・・・・・封鎖機構の衛星管理区域で、衛星砲の絶え間ない爆撃に晒されながら、特務機体による大部隊を相手にして生き残り、かつ殲滅して帰ってくるなど。

 

 単純戦力で換算するならば、ウォルターが今まで失ってきたハウンズの強化人間たちが束になっても勝てまい。

 ウォルターが最初に購入した、“彼女”も含めて。

 9人が総出でかかっても、おそらく敵うかどうか、ウォルターには自信がなかった。

 

(9人・・・・・・9人か。随分な数を使い捨ててきたものだ)

 

 なるべく、失わないようにしてきたつもりだった。

 目的のために死地へ送らざるを得ない状況は連続してあったものの、それでも彼ら彼女らが生き残れるように、ウォルターは自分ができる範囲で最善を尽くしてきた。

 だが、それで達成できる程、ウォルターの背負う使命は甘くはない。

 それでもウォルターは彼らの死から目を逸らさなかった。だが・・・・・・。

 

(“彼女”に関しては、その死を見届けることすら、オレは・・・・・・してやれなかった・・・・・・)

 

 生死すら確認できず手放してしまった“あの娘”。

 おそらくは、もう・・・・・・。

 

(今は、よそう)

 

 後悔は後でいくらでもできる。

 今は、621のことだ。

 

『手に入れたライセンスの識別名を伝える』

 

『“レイヴン”・・・・・・これがお前の、ルビコンでの名義だ』

 

 こうして、強化人間C4-621こと「レイヴン」と、そのハンドラー「ウォルター」のルビコンでの仕事が始まる。

 

(頼んだぞ、621)

 

 オレの猟犬はお前で最後にしてくれと、ウォルターはこれからの大仕事を思いながら、621に心中でそう懇願した。

 

 

     ◇

 

 

 やあみんな。AC界隈では稀少種のAC女子ことサーティだよ。

 解放戦線からの依頼は無事終えられてよかったよかった・・・・・・って言いたい所なんだけどさ、帰る前に最後に寄って見たACの残骸を見てもうそれどころじゃなくなってしまったわけよ。

 

 あのさぁ・・・・・・「レイヴン」さんなんで死んでるん?

 

 お前の物語はここから始まるんだろうが!?

 ようやくランク圏内までたどり着いて、実績を積み上げて、企業からも注目され初めて、終いにはイレギュラー認定されて企業から「騙して悪いが」されたり、最終的にはこのルビコンの最終局面を左右するドミナントになるんだろうが!?

 それがなんであんな所でおっ()んでるんだよ!?

 

 そんなこんなを心中で叫んでからだろうか。

 もう一週間くらいは喉に食事が通らなかったね。もうそれくらいショックだった。

 

 あぁ・・・・・・憂鬱だ。

 その間も解放戦線やBWAS社からの依頼でこの鬱憤を晴らそうとしたけれど、うん、晴れるわけがなかった。

 

 あぁ・・・・・・誰かもう私を殺してくれないかなぁ。

 いつぞやのアーキバスみたいに私に意図的に敵の情報を隠しながら依頼してくれて、とびっきりの強敵を私にぶつけて死なせてくれないかなぁ。

 あ、その後の契約違反の発覚で私と本格的に敵対して殺すでもいいよ。

 というわけでアーキバスさんまた私に「騙して悪いが」してくれないかなぁ。

 正直、報復として再教育センターとファクトリーを襲撃して壊滅させた時の戦力じゃ到底私を殺し得なかったし・・・・・・。いや、当時はすっごい腹立ってたけれど今はそんな状況が再び来ることは切実に望んでしまっている。

 

 

 あぁ・・・・・・憂鬱だなぁ!!

 

 

 そういえば、衛星管理区画で封鎖機構の大部隊を相手にしたあのミッション・・・・・・あんなミッションがまた来ないかなぁ。

 あのサイレントラインのオープニングと「資源地区開発」ミッションを組み合わせて難易度を何十倍にもしたようなあのミッション・・・・・・正直死ぬかと思ったけれど、また来てくれないかなぁ。

 ・・・・・・まあ実際の所、「この体の持ち主が目覚めるまでは」まだ死なないと心に決めてるから、そんなことはしないんだけどさ。

 そんな日がいつ来るかは、分からないとしても。

 

 

 ・・・・・・とか、そんな考えが巡る日々が続いたある日。

 

 

 気まぐれでまたオールマインドのアリーナランクを眺めていたら・・・・・・あの日と同じように、ランクの最下位にある名前が目に止まってしまった。

 

『登録番号:Rb23 識別名:レイヴン』

 

 ・・・・・・うん? あれ?

 夢から幻かと思い、目を逸らしてからもう1度見つめてみる。

 

『登録番号:Rb23 識別名:レイヴン

 

 

レイヴン!? まさかレイヴン!? どうしてアリーナに!? 逃げたのか? まさか自力で脱出を!?

 

 

 自力で脱出・・・・・・いや、できるわけがない。

 同じように機体を大破に追い込まれても生きていたトーマス・カーク君も解放戦線の救護班の助けでようやく搬送されていったんだ。

 あの状況で助けもなく生き残れるなんて・・・・・・いや待てよ?

 

 この状況、どこかで見たことあるような気がする。

 ・・・・・・撃墜された伝説の傭兵「レイヴン」。死んだと思われていた彼は生きていた。機体の状態からして自力で脱出できるわけでもない。おそらく誰かに助け出されたと思われる。

 助け出されたレイヴンは自分を助けてくれた恩人のため、再び戦火に投じるだろう。

 

 

 あぁ、ようやく分かったぞ(確信)。

 

 

 

 

 

 つまり、この世界はアーマード・コア4のリメイク作品だったんだよ(暴論)

 

 

 

 ならばランク1位たる私の役目は・・・・・・ベルリオーズか!

 

『無謀だったなレイヴン・・・・・・他の奴らと同じだと思ったか?』

 

 ・・・・・・うん、声にしてる自分を想像をしたけれど、ないわ。

 そもそもレイレナード所属のベルリオーズに対し、私は独立傭兵だし。

 そもそもあんな渋声、女の自分じゃ逆立ちしても出せないわ! 却下だ、却下!

 

 そうなると、やはり塩梅は「ストーリーにまったく関わらないタイプのランク1位」か・・・・・・。オールマインド式アリーナで相手をするACってデータ上で再現されたものだから本人達同士は戦えないし、完全に彼らのような求道者系のトップランカーと同じようになれないのが不満点だけどね・・・・・・。

 

 

 とりま、「レイヴン」さんも生きていた事ですし、また心機一転して頑張るゾイ!!

 




・主人公「サーティ」
色々と残念な子。実態はルビコンでの立ち回り方を盛大に間違えてるすぐ死ぬタイプの独立傭兵なのだが、なまじそれらをはね除ける実力があっただけに無駄に戦果を重ねてランク1位になってしまった子。表向きは寡黙な女性でなまじ風格もあるせいでソレを見抜ける人物はいない。

・原作主人公ことC4-621
密航したてのウォルターの猟犬。これからG13だったり、レイヴンだったり、ルビコンの解放者だったりと、色々な呼ばれ方をする。

・ハンドラー・ウォルター
作者が何をしなくても曇る男。この男が幸せに終われるEDがなぜないんですか!?

・ウォルターが言う”彼女”
ウォルターが最初に買った猟犬。ウォルターは彼女を含めて9人の猟犬を失っている。
621から9を引くと・・・・・・あとは分かるな?
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