ストーリーにまったく関わらないタイプのランク1位(大嘘) 作:ナスの森
その光景は、今でも鮮明に思い出される。
自分達が鬼神の逆鱗に触れたその日を。
大破した同志のACコアを片手に帰還してきた、漆黒のAC。
その光景に、一斉に顔面蒼白となる同志達。
自分も、その中の1人だった。
そのつもりだった。
「・・・・・・アーシル・・・・・・アンタ、なんで・・・・・・
隣で同じく顔を青くしながら震えていたツィイーのそんな言葉に、呆然となる。
ふと、自分の口元に手を当ててみる。
体は恐怖で震えている。口をろくに動かすことすらままらない、そんな重圧の中で。
――確かに、自分の口角は持ち上がっていた。
同志が、それも想い人の大切な人が死にかけているような状況で、なぜ自分はこうも笑っていられる?
そんな疑問が湧いて、そして再び彼女のACを見て、私はようやくその思いを自覚した。
・・・・・・ああ
それでこそ
◇
レッドガン部隊によるガリア多重ダムの襲撃。それに失敗して面子を潰されたベイラム側もそうであったが、その後処理に追われて騒がしかったのは解放戦線も同じであった。
全ての変電施設を破壊されるという事態は防げたとはいえ、それでも2つはレッドガン部隊に混じっていた独立傭兵により壊されてしまった。
多重ダムは今資材運び用のトラックや作業用MTが行き交っており、正に大忙しだった。
「作業は一つ一つ丁寧に進めていけ! 変電施設は多くの同志達の生きる基盤だ、決して手を抜くな!! だがあまり時間をかけすぎるな、壁を守っている同志達の事もある!!」
AC「バーンピカクス」に搭乗し、そんな彼らの作業現場を行き交って直接現場指揮を取っていたのは、解放戦線の幹部の1人こと、インデックス・ダナムだ。
彼は生粋の戦士ではない。解放戦線のAC乗りとして重宝されている存在ではあるが、企業が擁するプロのACパイロット達と比べればパイロットとしての適正は格段に劣る。
だが、事こういう現場においては話は別だ。
彼は元々グリッド建設に携わっていた職工であった。「人とコーラルの共生」、そして「惑星封鎖機構の打倒」を掲げる
だが彼が建設に携わっていたグリッドは、このルビコンの高速輸送ネットワークを形成する巨大メガストラクチャーだ。そんなグリッドの建設に携わっていたダナムであれば破壊された変電所の施設の復旧作業の指揮くらい、朝飯前のモノだった。
あの頃のように潤沢な資材も豊富な人材もいる環境ではないが、それでも広大にそびえ立つグリッド群に比べれば変電所の1つや2つは簡単だった。
今、ダナムが気掛かりにしていたのは、変電所の事よりも、「壁」のことだろう。
(ライフラインは守られた・・・・・・だが、「壁」や「ストライダー」はそれ以上に我が解放戦線の武力抵抗の要だ。あそこを潰されれば・・・・・・)
今までにも企業勢力は幾度も「壁」に部隊を差し向けては、同志達によって撃退されてきた。それくらいに「壁」は強固かつ堅牢な軍事要塞だ。
だが、もしベイラムとアーキバスが本気になって責めてきた場合はどうなるのか? もし今まで差し向けてきた彼らの刺客の規模が威力偵察や小手調べ程度の意図であるとするのならば・・・・・・我々同志達だけでは十全たる守り手と言えない。
仮にベイラムならばレッドガン部隊、アーキバスならばヴェスパー部隊・・・・・・それらの番号付き上位など差し向けてきた場合は、この壁が落とされない保障はどこにもないだろうとダナムは考えていた。
(もし、“彼女”が・・・・・・)
ダナムは、先ほどこのダムの施設を守ってくれた英雄を思い浮かべる。
漆黒のACを駆る傭兵。このルビコンにおいてのトップランカーを。
(彼女が、我々の本当の同志になってくれれば・・・・・・)
企業の略奪者共を差し置いて頂点に君臨する彼女を、ダナムは強く望んだ。
しかしダナムは・・・・・・否、解放戦線ならば誰もが知っていた。彼女が遠回しに解放戦線の同志となることを拒絶した“あの事件”を。
彼女に不手際はなかった。むしろ理に反したのはこちら側だった。
だがあの日以来、同志達は改めて思い知ったのだ。星外企業や封鎖機構が彼女を鬼神と恐れる所以を。
それでも、ダナムは――
時計を見たダナムは、復旧作業に入っている同志達に呼び掛け、休憩に入らせる。
ACのコックピットから顔を出し、外の空気を吸ったダナムは、ある方向を見やる。
MT乗りの同志達が留まる駐屯所――その中では作業で汗を掻いた同志達を労うために調理したミールワームを配る準備がある。
ダナムは、彼女が任務を終えて帰る直前、彼女を引き留めた。
ダムを守ってくれた英雄に何の持てなしもなく帰らせるのは我々としても忍びない。貴女が守ってくれたダム施設を動力にする暖房で暖まっていってくれと、そんな口当たりのいい言葉をダナムは彼女に言った。
勿論、それが方便であることを、彼女ほどの人物が察せられないわけがない。
それでもダナムは、彼女と話がしたかった。
彼女に、真の同志になってほしかった。
「・・・・・・私も行くか」
解放戦線の司令こと帥淑フラットウェルはそのことはもう割り切り、独立傭兵としての彼女とうまく付き合っていくことを決めているようだったが、ダナムは中々それが割り切れなかった。
(今度こそ、彼女を――――)
意を決して、ダナムは駐屯地へと「バーンピカクス」を動かすのだった。
多重ダムの中に建てられた駐屯地――そこには汗を流したMTパイロット達が配給係から配れたパックを手に並べられた長テーブルに座り、ミールワームの肉を口にする。ミールワームは、この惑星ルビコン3において、あのアイビスの火が起こる以前から入植した人類が長らく主食にしてきた原生生物だ。コーラルを栄養源として成長し、その肉は貴重なタンパク源として重宝された。
彼らの表情は明るい。何せ企業が差し向けてきた精鋭部隊、レッドガンを退け、ダム施設が守られたのだから。例えソレが自分達の力によるモノではなかったとしても、生活の基盤が無事守られたことは喜ぶべきことだった。
企業によるルビコン進駐によって少なくないコーラルの井戸が奪われ、ルビコニアン達の生活は貧困に窮している。飢餓で死んでいく子供達の数も絶えることはない。
そんな中で久々の育ったミールワームを目前としてしまっては彼らの目が輝いてしまうのも無理はなかった。
「コーラルよ!! ルビコンと共にあれ!!」
『ルビコンと共にあれ!!』
1人の男が警句を口にすると、周囲もまた同調したように繰り返す。
警句の本当の意味を知っている人間からすれば眉を顰めたくなる光景だったが、生憎とソレを知る人間はこの場には1人もいなかった。
そんな久々の活気に覆われている空気の中、そこから離れた一角にあるベンチにて、1人の女性が座り込んでいた。
赤いラインの入ったパイロットスーツの上に黒いフード付きのジャケットを着込み、口元を黒いスカーフで隠した、緋色の髪の女性。表現として女性という言葉を使っているが、実際は女性と少女の中間くらいの年齢に見えた。
足を組んで、左腕をベンチの背もたれの上に回して座る女性の膝の上には、彼らと同じように配られたミールワーム入りパックの包みが乗せてある。
「・・・・・・」
今回の感謝を伝えるためであろうか、用いられている素材こそは代わらないものの、彼らなりに豪華に見せようと模様なり色遣いなりの工夫が見られる。
そんな包みを、女性は興味もなさげに解く。
パックの蓋を開けると、その中にあったミールワームの肉の量は確かに、解放戦線のメンバーに配られているモノより多めだった。
スカーフを取り、背もたれに回していた手でスカーフを下にずらすと、彼女の素顔が顕わになる。陶磁器のような肌、その緋色の髪はおそらく肩までには掛かっているであろう長さで、刃物のように鋭い目つきと、灼けた空を思わせる赤い瞳が無機質に光る。
「・・・・・・ここにいたんだ?」
女性がミールワームを指掴みしようとしたその時、そんな彼女に話しかけてきた人影があった。女性は手を止め、その影の方を見上げる。
そこには茶髪を後ろに束ねた、十代後半ほどの少女が、何とも読み取れないような表情で女性を見下ろしていた。目をぱっちりとさせた可愛らしい容姿は、アイドルやモデルにも十分に通用するレベルである。事実、この少女は解放戦線の年上達から妹分として可愛がられる存在だった。
「こんな所で食べてたらせっかく暖かいミールワームが台無し、だよ? 主賓がこんな所にいたら、貴女を引き留めたダナムさんの面目が立たないじゃない・・・・・・」
「・・・・・・だったら、安易に独立傭兵を招くのをやめるんだな。レッドガンの襲撃を察知し、作戦を立てた立役者はフラットウェルだ」
「でも、そのレッドガンを実際に退けたのは貴女」
自分の功績じゃないと断りを入れる女性に、否と少女は突き付ける。
「ダム施設・・・・・・守ってくれたんでしょ? 礼を言いに来たの、有り難うって」
「・・・・・・報酬を受け取る以上、依頼をこなすのは当然だ」
「当然、本当にそう? レッドガン2人ともう1人強そうな独立傭兵を相手にして、平然と退けて、アンタ以外の人にソレができるっていうの?」
淡々と答える女性に対し、少女は被せ気味に疑問をぶつける。
暫しの沈黙の内、女性は気怠げに目を細めて少女を一瞥した。何が言いたい、と言いたげに。
端正な顔から向けられる刃物のような冷たい目に、少女は一瞬だけたじろぐも、負けじと女性を真っ直ぐに見て言う。
「このミールワームだって、アンタが企業の狗共から奪い返してくれた井戸で育てたモノなんだ。アンタがいてくれなきゃ、これにありつけることは、私達はできなかった」
「・・・・・・それで?」
「私達はもう・・・・・・この先、アンタが共にいない戦いなんて想像もできないんだよ。それくらいアンタは強い。しかも、企業の狗じゃない。ダナムさんがなんでアンタを引き留めたのか、分かってるでしょう?」
「・・・・・・」
少女の言葉に女性は表情を変えず、彼方の方を見やる。
それくらいお前に言われなくても分かっていると、その態度は語っていた。
「・・・・・・私はあんたが来てくれるとは、勿論思ってない。No.1の傭兵が私達の依頼を受け続けてくれるっていうだけでも、贅沢なことだってことくらい誰だって分かってる」
これでも解放戦線の肩を持つ独立傭兵は増えてきた方なのだ。
トップランカーと会敵するリスクを考慮する者。中には企業と敵対するリスクを承知の上で、トップランカーと共に戦えるかもしれない機会を切望する者。
だが、そのトップランカーは未だ正式に解放戦線の同志として加わることはなく、独立傭兵としての己を貫く姿勢を取っている。
メンバーですらない傭兵の存在を軸に、独立傭兵の勧誘を行うということが、どれだけ危ういモノなのかを理解できない少女ではない。
彼女の気分次第で、再び星外企業勢力側の狗に逆戻りすることだってあり得るのだ。そうなれば、せっかく募った独立傭兵たちも離れていくであろうことは自明の理だ。
それでも、そもそも解放戦線に味方をする独立傭兵の比率の少なさから考えれば、トップランカーの独立傭兵が自分達に味方し続けてくれるというのは、贅沢なのだ。
だが、それを贅沢とも思えない一部の
「でも・・・・・・アンタは、六文銭を
声を震わせた少女が、キッと涙が出そうな目で女性を睨み付ける。
あの時のことは、今でも鮮明に思い出せる。
解放戦線の面々に、この女性が刻みつけた恐怖を。
なぜ星外企業の連中が彼女を鬼神と恐れたのかを、敵対者としての彼女と相対してようやく理解した。させられた。
「1度目は、そのおかげで私と六文銭は出会えた。でも、2度目は、2度目はッ・・・・・・」
少女の目から涙が零れる。
六文銭という人物は、大破したACの中で死を待つだけだった所を少女に助けられ、以降は解放戦線に与している“元”独立傭兵だった。裏の殺し屋としても有名であり、このルビコンにおけるオールマインドアリーナにおいても中堅の順位にいた六文銭は、企業からの依頼で当時の標的だった女性に返り討ちにされ、そして少女に拾われた。
そして、六文銭は再び目の前の女性に敗れた。二度目の敗北。再戦においてさえ手も足も出ることがなく敗北した六文銭は、自信を喪失してしまった。
「・・・・・・なんで、なんであんな事に。私が六文銭を無理にでも引き留めていれば、六文銭を向かわせた馬鹿共を黙らすことができてれば・・・・・あんな事にはッ」
分かっている、女性に当たったところで仕方の無いことだ。
どれだけ言い繕ったところで、先に背信を行ったのは解放戦線側だった。
利によりて行えば怨み多し。されど信に背けば相応の報いがあるのは此方も同じだったというのに。
それでも、思わずにはいられない。
自分が弱くなければ。彼らを止めれるくらいの力があれば。もっと、自分が強かったら。
「・・・・・・ハァ」
ため息を吐いて、力なく、女性の隣のベンチに座って項垂れる。
「・・・・・・私も、アンタくらい、強かったらなぁ・・・・・・」
その表情を女性から伺い知ることはできない。影で隠れて表情は見えないが、ポタリと膝に垂れ落ちる液体が目に入った。
「そうすれば・・・・・・アーシルだって、また私を見て・・・・・・」
無力感に苛まれる少女の、儚い恋心がこぼれ落ちる。
「・・・・・・」
そんな彼女を一瞥し終わった緋色の髪の女性は、再び口元をスカーフで覆い隠し、悟ったように目を閉じる。
カポリ、と優しい所作でまだ手を付けていないミールワーム入りのパックに蓋を閉じ、そっと少女の脇に置いておく。
そして――ベンチから立ち上がると同時に、ポン、と少女の頭の上に優しく手を置いた後、そのまま少女の方を一度も見ないまま背を向けて去って行った。
頭に一瞬だけ感じた暖かい感触に呆然となった少女は、既に遠くにいる女性の背中の方を見やる。そして、また悲しげに目を細めた。
その背中に憧れた。
でも同時に嫉妬して、恨みもした。
同じ女性のACパイロットで、歳も近い。頭の中で比べてしまうのは少女ほどの年齢ならば仕方ないと言えた。
それでも、彼女に対して最後に出てくる感情は――
「結局アンタはそうやって、ずっと1人・・・・・・」
彼女が置いていった、ミールワーム入りパックに撫でるように触れながら、掠れた声でそう呟く。
少女自身も、その感情の正体は分からなかった。
「ツィイー!! ここにいたのか!?」
そんな少女の耳に聞き覚えのある男の声が遠くから入ってくる。
その方向を見ると、先ほどまで変電施設の復旧作業の現場指揮に勤しんでいた大柄の男――インデックス・ダナムが何やら焦った様子で駆け寄ってきた。
「すまないツィイー、彼女を・・・・・・“サーティ”を見なかったか? さっき食堂の方を探したんだが見掛けなくてな・・・・・・」
「・・・・・・もう、行っちゃったよ。ダナムさん」
「いない!?」
「行ったばかりだから、格納庫の方に急げばまだ間に合うかも」
「格納庫か・・・・・・ありがとうツィイー」
引き留めておかなかった少女を責めることもなく、ダナムはそのまま一目散に格納庫の方へ走っていった。
少女、リトル・ツィイーは分かっていた。サーティはダナムの頼みに耳を貸すことはないだろうと。ダナムだってサーティが頷いてくれる可能性など低いことは承知の上だろう。
ツィイーはルビコンの凍った空を見上げる。
ツィイーの両親は、このルビコンに娘である自分を連れて密航し、自分をこの惑星に置いたままこの世を去った。
解放戦線に拾われ、ACを揺り籠に育ったツィイーは、「コーラルの戦士」となった。
戦士ならば、泣き言を言わずにみんなのために戦っていくべきなんだと、ツィイーは心を改めた。
(まだだ。今ならまだ、彼女を――!!)
インデックス・ダナムは格納庫の方へと走る。
あそこには解放戦線のパイロット達が搭乗するMTやAC、そして彼女が一時的に納めている愛機があった筈だ。
彼女が帰るつもりならば、真っ先に向かうのは己の足となるACの方だろう。
彼女が傭兵として頭角を現し始めた時、彼女は今のように解放戦線やBAWS社といったルビコニアン側の依頼だけでなく星外企業の依頼も受けていた。
それでも解放戦線にとっては、自分達ルビコニアン側の依頼も引き受けてくれる貴重な独立傭兵だった。
やがて彼女が自分達ルビコニアン側の依頼のみを受けるようになり、トップランカーという地位にまで上り詰めたとき、解放戦線内には2つの意見が二分化していた。
――彼女がその気ならば、彼女をコーラルの戦士として迎え入れよう。
――時には企業の狗だった独立傭兵なんて信用ならない。彼女を同志として迎え入れるならば、信用できるだけの材料が欲しい。
どちらにせよ、身勝手な話ではあった。
彼女に話を通す前から、そのような話が勝手に進んでいたのだから。
だが、それくらい当時の同志達は浮かれていた。
何せ本格的に自分達に肩入れし始めた名在りの傭兵が、いつの間にか企業の傭兵たちすら差し置いて、トップランカーとして君臨したのだから。
同志達の間で、彼女を旗印にしようという意見が出始めるのも無理はなかった。
ルビコン解放戦線において、誰もが敬い、尊敬する最高指導者が存在する。
その名はサム・ドルマヤン。
彼の警句「コーラルよ、ルビコンと共に在れ」は瞬く間に同志達の間に浸透し、自分達を奮い立たせる力となった。
ドルマヤンは前線における戦闘においても部類の強さを発揮し、正に解放戦線における最強の戦士だった。そして同時に、指導者としての頭脳も並外れていた。
彼の駆るAC「アストヒク」は、地球にあるアルメニア神話に登場する神の名を付けられた機体だ。その機体を持って前線でこのルビコンの脅威を蹴散らしてくれる姿は、正に戦神と言って差し支えないだろう。
だが、むべなるかな。
何が彼をそうさせてしまったのか、最近の彼はすっかりその気勢を削がれてしまった。
神として崇められている帥父ドルマヤンであったが、今ではただ警句の象徴としてだけの存在へと成り果ててしまった。
それでも、頭脳としての指導者の後継ならば、ミドル・フラットウェルが既にいた。ならばこそ帥父ドルマヤンはより一層、戦神として戦場に立つことを切望されたが、その気勢すら今の彼にはない。
そもそも、「アストヒク」とは本来、戦いの神ではなく愛と豊穣の神である。
だからこそ同志達は強く求めてしまった。
解放戦線の頭脳としての帥父の代わりが
戦神としての帥父に代わる、新たな戦神も必要であると。
そして、とうとうソレは現れたのだ。
「マーウォルス」――アストヒクのような豊穣の女神ではない、正真正銘の戦神の名を持つACが。そのパイロットである独立傭兵はその名に違わぬ強さを持ち、自分達ルビコニアンの側に立って戦いながらトップランカーにまで君臨した。
その事実に、同志達が浮き足立たない訳がなかっただろう。
ダナムもソレは同じだった。ツィイーも、アーシルも同じ気持ちだった。
同志達の間で、彼女とそのACを偶像として祭り上げようとする動きが出始めるのに、そう時間は掛からなかった。
彼女に懐疑的であった一派でさえ、信用できる材料さえあれば、彼女を軍神として崇めるのを憚らなかっただろう。
故に、“あの事件”が起こった。
彼女に懐疑的であった一部の同志達もまた彼女を同志として迎え入れたかったのは同じだった。ソレにたり得る最後の信用と確信を欲したがために――自分達は彼女の逆鱗に触れた。
あの時、彼女が同志たりうる存在かどうかを見極めるために、依頼で雇った彼女の動向を監視するために同志の1人を監視に着かせた。
それが、AC「シノビ」を駆る六文銭だった。
結果――彼女は見事に自分達の信用に応えて見せた。
敵指揮官の誘惑など一蹴し、寝返る素振りも見せず依頼を完遂して見せたのだ。
ただ1つ――彼女のACマーウォルスが、
「・・・・・・ッ」
当時の光景を思い出し、身震いするダナム。
まるで晒し首を持ち帰ってくる武士を連想させるようなマーウォルスの姿に、同志達が一斉に顔面蒼白になったのは今でも鮮明に思い出される。
我々は浮かれていたのだ。浮かれすぎるあまり、いつの間にか上から目線で、彼女を都合のいい偶像と見做していた。
故に、監視役を付けるという、彼女との契約事項に含まれない愚行を犯した。
彼女は軍神ではない、鬼神だったのだ。
気付かれないと思われていた監視はあっさりと看破されていて、任務を完遂して此方の反論材料を徹底的に潰した上で、監視役の六文銭を撃破し、持ち帰ってきた。
『独立傭兵を、継続的に信用し過ぎるなとは言った』
『だが・・・・・・契約中も信用できないなら、それまでだ』
瀕死の六文銭を突き出しながら、淡々とそう語る彼女の言葉が、未だに頭から離れることはない。
あの後、彼女の目線にいるメンバーの中でこの問題に対処できる者はおらず、騒ぎを聞きつけたミドル・フラットウェルが彼女との交渉の席に着いた。
提示した報酬の3倍の額と彼女が使用した弾薬費を受け持つことで、事態はなんとか収まった。噂ではフラットウェルは今後このようなことがないよう、見せしめに監視役を付けさせた同志達を粛正することも持ちかけたようだが、詳細は分からない。フラットウェル自身がソレを取り下げたのか、鬼神が掛けたせめてもの情けだったのか、ソレは不明のままだった。
だが、フラットウェルがそのような条件を持ちかけてもおかしないくらいには、トップランカーとの縁が切れるというのは回避したい事態であったのは確かだった。
(そんな愚行を犯した我々の都合のいい言葉など、今更彼女が聞き入れてくれるわけではないという事くらい・・・・・・私だって分かっている)
彼女は、おそらく今後も独立傭兵という立場を貫くだろう。
それでも我々に味方をし続けてくれるというのならば、過ぎた贅沢だ。それは分かっている。
だが今のままで、我々解放戦線は果たして持つのか?
今我々が厳重な防衛戦を引いている「壁」でさえ、星外企業たちが本気になればどうなってしまうか分からない。
もし彼女が独立傭兵ではなく、我々の本当の同志となってくれれば、いつでも彼女を「壁」に向かわせることができる。
態々オールマインドを介した依頼を通さずとも、鬼神の守り手を得ることができる。何より、同志達の士気の向上にだって繋がるだろう。
常に苦境に立たされている我々には、それでも新たな戦神が必要なのだ!
格納庫エリアまでたどり着くと、起動停止中のマーウォルスが見上げられた。
そのマーウォルスの足下には、搭乗リフトに片足を踏み込んでいた彼女の後ろ姿と、ソレを見送る数人の同志達の姿があった。
「待ってくれ!! サーティ」
引き留めようと声を挙げるダナム。
これが彼女を引き込む最後のチャンスと、ダナムは意気込んだ。
『彼女は・・・・・・まるで戦場で燃えさかる炎そのものだ』
ふと、ダナムに心中を吐露してきたアーシルの言葉が思い浮かんだ。
『炎は、私達にとって忌避すべきモノだ。我々の故郷を焼き、半世紀経った今ですら我々を苦境に追い込んでいるというのに・・・・・・』
『だというのに、いつからだったか・・・・・・私は、彼女の全てを燃やすような炎から、目が離せなくなってしまったんだ。ハハハッ、これでは・・・・・・ツィイーに幻滅されても当然だな・・・・・・』
薄く、空虚に微笑むアーシルの表情が忘れられない。
畏怖と崇拝、そして自嘲の入り混じった彼の笑みを見て、ダナムはソレに何と言えば良いのか分からなかった。
だが、彼女の炎は他の誰かを狂わせてしまう類いのモノであるという事実は、彼女の出現に浮き足立っていた同志達を見てきたダナムでも分かった。
だが、その炎は我々という余塵に再び火を付けるモノにだってなり得る筈だ。
彼女の乗る搭乗リフトが作動する。
手すりに寄り掛かりながら背中を見せるサーティに、ダナムは彼女に対する懇願を口にしようとした。
「頼む! どうか我々の・・・・・・ッ!!?」
口にしようとして、止まった。
搭乗リフトが既にマーウォルスの膝元にまで昇っていたタイミングで、彼女は背中を見せたまま、此方に一瞥してみせた。
その目に見下ろされたダナムは、その圧に口を噤み、立ち止まるしかなかった。
刃物のような鋭く、冷たく、無機質な赤い目。……その奥に、今尚燃えさかっている炎をダナムは幻視した。
やがてその炎は周囲の空気すら燃やし尽くさんと広がり、ダナムの目前にまで迫ってくる。炎はダナムの体に回り、そのまま焼き尽くそうとして――
「・・・・・・あ、が・・・・・・」
ダナムの目に現実の風景が戻ってくる。そのまま、力なくへたり込んでしまう。
拒絶の意を込めて睨み付けてきた彼女の圧は、それだけでダナムの心を挫いた。
(ああ・・・・・・)
そして、ダナムは悟った。
(同志アーシルは、あの炎に目を灼かれたのか)
アーシルは気付いたのだろう。
彼女を抱き込んだが最後、その炎は敵だけではなく此方すら燃やし尽くし兼ねないモノだということに。
火が着く前に、我々という余塵は燃え尽きてしまうだろう。
それでも、その炎に惹かれてしまったアーシルは彼女を抱き込むのではなく、遠くから目を灼かれ続けることを選んだのだ。
彼女のオペレーターとなり、特等席からその炎を見続けるために。
そう悟った頃には、彼女の乗るリフトは既にマーウォルスのコックピットの高さにまでたどり着いていた。
既に彼女の目線は此方にはなく、此方に振り返ることもないまま彼女はコックピットの中に入り、ハッチを閉じてしまった。
既に、ダナムの中に、彼女を同志として迎え入れようという気持ちは微塵もない。
結局、彼らは一度も彼女の心を掴めないまま、帰還するマーウォルスの背中を見送ることしかできなかった。
◇
やあ皆、ミールワームの味は意外と嫌いじゃなかったりするサーティだよ。
多重ダムでの生のレイヴンとの遭遇は、嫌な事件でしたね(遠い目)。
あのレイヴンが主人公なのかは分からないけれど、もしそうだとしたら私の目論むトップランカーライフはご破算だよォ。
嫌だよぉ、ストーリーに関わりたくないよォ。
孤高な求道者系トップランカーのキャラが崩れちゃうよぉ~(泣)。
とまあ、せっかくダナムさんが誘ってくれた憩いの場ですし、気持ちの整理も含めて、ベンチに座って感傷に浸っていたわけですよ。
1人で感傷に浸りたかった私は解放戦線の皆さんの輪から外れて、こうして1人寂しく片隅にあったベンチでミールワームを摘まもうとしていたのでした。・・・・・・おいこらそこ、ぼっちっていうな。
ACの新作を待ち続けながらずっと部屋に籠もって過去作を延々とシリーズ通しでプレイし直し続けていた私のコミュ能力は、この世界に来た頃には既に死んでいたんだよォ(泣)。
おかしいな、元の世界での昔の私はこんなキャラじゃなかった筈なのに・・・・・・(自業自得)。
というわけで、星外企業から縁を切られて路頭に迷っていたこんなコミュ障の私に仕事をくれるフラットウェルさんは聖人だって、はっきり分かんだね。
・・・・・・正直今回の件についてだけは罵倒雑言しか思い浮かばないがな!
けれどまあいつまでも根に持ってる訳にも行かんし、気分転換にミールワームを摘まもうとしていた私に水を差す存在がいたのだ。
人の楽しみを邪魔しやがってその面拝んでやる、と見上げてみればそこには見覚えのある女の子がいた。
ツィイーちゃん!! リトル・ツィイーちゃんではないか!!
相変わらず可愛いなぁ。お持ち帰りしたい。
でも、何か元気がなさそうだったんで、ちょっとお話でも聞いてあげようかなあって思ってツィイーちゃんの言葉を待った。
お礼? いやいらない、いらないって。そもそもベイラムの襲撃を察知して作戦を立てたのはフラットウェルさんですし? 私はそのオマケに預からせてお駄賃をもらっただけですから。
・・・・・・変電施設施設2つ破壊されちゃったけれど、特別減算の話も出てないしね(ボソリ)。
レイヴンが出てくる情報を事前に掴めていなかった件を除けば、私としちゃあもう要求するもんはないっすよ!!
・・・・・・え? 他の人にできるのかって? 割と出来る人いるんじゃないのかな~。
ほら、特に私のすぐ下にいるV.Iフロイトとか。
あの人、真人間とかマジ? この人絶対SLの霧影先生みたいなポジションだろー、実はトップランカーである私よりも強い疑惑が濃厚な人じゃないですかー。
とにかくその人ならできるんじゃね、とか言おうとしたけれど、ソレを言ってしまったら私のトップランカーとしての威厳に傷が付く気がしたので、ツィイーちゃんを無言で見つめながら誤魔化す私であった(お前もうトップランカー降りろ)。
・・・・・・あっ!? ごめんツィイーちゃんそんな怯えた目で見ないで。決してやましい気持ちで見てはいないから!!(必死な弁明)
内心で必死に弁明する私を余所に、ツィイーちゃんの言葉は続く。
・・・・・・え? ダナムさんが私を引き留めた理由? 皆目見当も着きませんね。
もしかしてこれ、察していて当然の内容だったりする? 察せていない私は超絶鈍感女ってコトォッ!?
気まずくなった私は何も答えることなくツィイーちゃんから目線を外し、前方のダムの景色を眺めた。あー今日もルビコンの空は綺麗だナー(棒)。
・・・・・・いやいや無言で誤魔化すのもいい加減にしろ私ぃ!! ツィイーちゃんも困ってるじゃないか!!
そんなこんな困ってたら、またツィイーちゃんの話が代わった。
え、六文銭さんのこと? あの、ごめんねツィイーちゃん。できれば君の前で彼の話はしたくないんだよ。
罪悪感で死んじゃうよ私の胃が。
うん、アレも嫌な事件だったね(遠い目)。
『敵勢力の殲滅を確認。独立傭兵サーティ、協力に感謝する』
『・・・・・・了解、任務完了。その前に、アーシル』
『どうかしたのか、サーティ?』
『お前、私に隠している事は無いか?』
『・・・・・・いや、そんなことは・・・・・・』
『・・・・・・そうか。なら――さっきから私の跡を付けている野良犬、始末しても構わないな?』
『ッ!? 待ってくれ、独立傭兵サーティッ!!』
さすがに黙って契約外のことをさせられたら、私だって釘を刺さない訳には行かない。相手が、私がまだトップランカーでなかった頃に1度差し向けられたあの六文銭さんだったことには驚いたけれど、それはそれ、これはこれ。
・・・・・・あの時はごめんよアーシル君。あの時の君は色々とどこか余所余所しかったし、私を騙していることに罪悪感を感じていてくれたんだよね?
それは分かっていたけれど、ブリーフィングやオペレートで話してくれることが多いアーシル君は謂わば、私にとっては解放戦線の顔と言っても差し支えない人だ。だから私は瀕死の六文銭さんを突きつけて、徹底的に君たちの心を追い詰めた。特に私が六文銭さんをボコる光景をモニターで直接見せられていたアーシル君は一番肝を冷やしてくれたことだろう。
正直な所、アーシル君に問いかけた時点では私はまだ追手がいるという確信がなかった。マーウォルスのレーダーにも反応はなかったし、いるとしてもそれくらい距離は離れていたということだ。
でも、私が傭兵になる前のルビコン放浪生活で培った勘が
特に、アーシル君はその誠実な人柄なせいか、中々噓を付くのが下手な人物だ。彼自身も隠し事は嫌うタイプで、彼の仲介で依頼を受けた独立傭兵からも彼の人柄に対する評価は高いと聞いていた。
だから、任務を完了させて安心させた段階で、急な鎌かけをアーシル君にするのは心苦しかったんだけど、一瞬言い淀んだアーシル君の反応でついに確信に至ったわけだ。
とにかく勘に従って周辺を飛び回ってスキャンしたら・・・・・・六文銭さんのAC「シノビ」が影から私を尾けていたのが分かったという訳だ。
うん、監視役を寄越してくるだけならばまだしも、殺し屋稼業の人を差し向けてくるのはさすがに殺意高すぎませんかね?(困惑)
・・・・・・これはもう、誰がどう見たって“ダウト”だ。
だから私は、六文銭さんを瀕死に追い込んで、アーシル君たちの前に突きつけたんだ。
そんな当時の嫌な思い出を振り返っていたら、急にツィイーちゃんが泣きそうな顔でこっちを睨んでいた。
・・・・・・うん、本当に、ごめんなさい。多分ツィイーちゃんは六文銭さんが私を尾けるって事を知らされていなかっただろうし、知らされていたであろうアーシル君でさえ反対の立場を取っていたんだろうことは想像に難くない。
それでも決行に踏み切った以上は、私はアレが君たちの総意だと受け取るしかなかったんだ。六文銭さんに対する悪意はないし、君たち個人を責める気は微塵もないってことだけはどうか信じて欲しい。
そんな私の思いが伝わったのか、ツィイーちゃんは此方を睨むことをやめ、私の隣のベンチに座った。
もっと自分に力があればとか、そんな事をブツブツと言っている。
・・・・・・この子にも、きっと色々あるんだろう。解放戦線の戦士として戦う彼女の背中にのしかかる重圧は、悠々と独立傭兵を続けている私には想像も付くまい。そう思った私は、そっとミールワーム入りパックをツィイーちゃんの脇に置いて、ちょっとだけ頭を撫でてその場を後にした。
なんだか、ここにい続けているのが一気に気まずくなってしまった。
私は警備員の人に声をかけて、「そろそろ帰る」と伝えると、警備員さんの案内の元、格納庫で眠っているマーウォルスの元へ行った。
数人の解放戦線の見送る中で、コックピットの元まで上昇していくリフトの手すりに片手を掴みながら、自身の失態を思い出していた。
あぁ、この任務受けるんじゃなかったかもな・・・・・・。
フラットウェルさんの依頼を断るのはのは心苦しいから受けたけれど、なんで任務達成した後にこんな気まずい思いをしなくちゃいかんのと、何よりあのレイヴンと会敵してしまった。
自業自得だっていうのが分かっていても、自己嫌悪が抑えられん。
そんなことを考えていたら、リフトの下から此方を呼び止めるダナムさんの声が聞こえたから、其方に目を向ける。
あっ、やっべ(再度の失態)。
イライラしていた所為で、つい此方を呼び止めていたダナムさんを上からガン付けてしまった。自分の失態に気付いた私はすぐに目線をマーウォルスの方へ戻す。
ダナムさんの声が聞こえなくなったが、一体ダナムさんがどうなってしまったのか・・・・・・気まずさのあまりに私は振り返ることすらできない。
あぁ、気まずい。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ
イラつくなぁ
・・・・・・正直に白状する。
解放戦線の人達が私をどんな風に見ているのか、自覚はちゃんとある。
最初こそ相手が星外企業だろうとルビコニアンだろうと、平等に依頼主を選んで傭兵生活を送っていた。
でもアーキバスとの悶着で星外企業からの依頼が来なくなり、端から見れば私は完全にルビコニアン側に寄ったと見られてもおかしくはない。
それは私の自業自得だし、言い訳のしようもない。
解放戦線の人達には感謝している。
こんな私に依頼をしてくれて、私はそれで食って行けてるんだ。
六文銭さんの件だって、私が見て見ぬフリをしていさえいれば無難に片付いていただろう。
それでも、許せなかった。
独立傭兵を信用できないのは分かる。どれだけ言い繕った所で、私は金で動く傭兵でしかなくて、ルビコニアン達のようにルビコンを企業の搾取から守ろうなんていう意思は微塵も持ち合わせちゃいない。
契約外の監視役を付けたことだって、別に私はそこまで怒ってはいない。依頼主でありながら平然と一部の敵情報を隠して此方を始末しようとしてきたアーキバスなんかと比べれば、可愛いものだ。
でも、解放戦線の人達が六文銭を監視役に寄越した理由に察しが付いてしまった時、私は例え解放戦線との縁が切れることになろうとも、釘を刺しておかねばと決心した。
私とマーウォルスを新しい偶像として祭り上げようという意見があったのは、嫌でも知っている。私の名を使って独立傭兵たちを募っているのだって、フラットウェルさんらしい上手いやり方だって思った。フラットウェルさんは私の不興を買うギリギリのラインを見極めている節があって、そんな強かさも含めて私はあの人の事を慕っている。
でも、生憎と私はアナタ達の偶像たり得る炎じゃないんだ。
画面越しで過去作をプレイしながら
『俺たちはジャングルを焼き払う炎だ。多くの命を奪い、多くの地を焼き尽くす。だがそれは新たな時代のためには必要なことだ。生き残った方が新たな時代を築く炎となる。それを忘れるな!!』
元の世界にあった公式AC小説――その中に登場していた彼の台詞がふと思い出される。
本物のサーティ。本物のマーウォルスの搭乗者。
地獄から蘇らされ、望まぬ生を強制されていた彼は、追ってきた娘たちの前にそう言い放ち、自らを超えるべき壁として立ちはだかった。
自分達傭兵の存在によって奪われる多くの命を憂いながらも、それが次の時代に繋がると信じて戦い続けてきた彼。
その信念を、娘と弟子に託して彼は死んでいった。
当然だが、私のような女が彼のようになれる訳もない。
私のような中途半端な炎が、解放戦線の人達が求めるソレになれるわけがない。
もし、あの人らの求める「ルビコンの解放者」が現れるのだとしたら、彼の言う「新しい時代を築く炎」を持つ者こそがそうなんだろう。その炎が、きっとルビコニアンという余塵に火を付けるに違いない。
この世界において、あの
それでも借り物には変わりない
パイロット名も、機体の名前も借り物だ。借り物の翼で飛び続けていてもいずれ地に墜ちるだけだろう。
それでも、この子だけは私のモノだ。
この子は私がマーウォルスと名付ける前から、この世界で目覚めて、あの再教育センターから脱出した時から、ずっと一緒だった。
例え借り物の名前だったとしても、今ここにいる「マーウォルス」だけは私だけのモノだ。
この子を、あんな奴らの都合のいい偶像にさせてたまるか
ふざけるのも大概にしろよ、私はずっとこの子と一緒だったんだ。
ドーザー共に身ぐるみ剥がされそうになっても、寒さで凍え死にそうになっても、この子はずっと私を守ってくれたんだ。
私をどう祭り上げようが構わない。でもこの子が他の誰かにいいようにされるのだけは、耐えられない。
あの事件の落とし前でフラットウェルさんが交渉の席に着いてくれたとき、あの人は六文銭さんを寄越した一派を粛正することを持ちかけてくれた。
例え少なくない同志を切り捨ててでも私との縁を断ち切らない方を選択してくれたのは嬉しかったけれど、正直彼らはどうでもいいんだ。
私がイラついたのは、むしろ彼らの逆の立場にいた人間。
もしこの子を偶像として祭り上げようと最初に言い出した人間がいるのなら・・・・・・ソイツを火にくべてジワジワと焼き殺したいくらいだよ。
この子は誰にも渡さない。
私自身はどうなったっていい。
本当に重要なのは、この体の本来の持ち主である“この
今までたんまりとCOAMを稼いできた。
その金を使って、この
この娘のAC乗りとしての腕が私以上なのか、以下なのかは分からないけれど、辺境の星とはいえトップランカーであるという肩書きは確実にこの娘の人生の足を引っ張るだろう。だから、
問題はソレを安心して託せる人物が見つかるかどうかだが、ソレは後でじっくり考えてもいいだろう。
ようするに、私はいつでも消えられる準備はしている。
私という存在がこの
だから、私は消えられる準備はしているが、いずれ目覚めるかもしれないこの
そんな“この娘”であっても、私のマーウォルスをあげる気は毛頭ない。
私はこの子と共に飛び、この子と共に墜ちる。
そう決めたんだ。
だから、これからも時間が許す限りは君と共に飛び続けるよ。
例えソレが借り物の翼なんだとしても、私は私の中の炎を消化しきるまで、飛び続けるんだ。誰のためでもなく。
だから、私は最期までこの”歓び”を噛み締めたまま消えてみせよう。
君と共に、戦い続ける歓びを
・主人公「サーティ」
と う と う 本 性 を 現 し た ね
この女一体どういう心境で解放者ルートの621に同行するんだか・・・・・・正直作者にもワカラナイ。
・ツィイーちゃん
主人公に対して憧れ、嫉妬、恨み、その他よくワカラナイ感情を抱いている娘。
そのよく分からない気持ちは本当に純粋で尊いものなのだが、上述した感情が邪魔してそれを自覚できない。
・アーシル君
弁明するならば、今作でもちゃんとツィイーちゃんとはすれ違い気味だが両想いである。
ただ少し、別の女の厄介ファンになってしまっただけである。
・インデックス・ダナム
主人公の勧誘を諦め切れてなかった人。あえなく撃沈。
・ミドル・フラットウェル
主人公とは互いに高く評価し合っている関係。しかし六文銭の事件の時はさすがに冷や汗を流していた模様。
暴走した一部の末端の尻拭いも行わなければいけない中間管理職は大変である。
・六文銭
主人公に2度も敗れて自信喪失した忍者。
ツィイーちゃんの献身のおかげで今は立ち直れている模様。