植え付ける魔族のヒメ 作:蠢雷
気づいたときには勝手に、体が、盗賊に針を刺していた。刺し癖がついたのかもしれない。這い出る虫さんたち。理性では気持ち悪い生き物だと思っているのに、生理的には拒否感がないばかりか、逆にかわいらし、って、それは流石に女の子としてはいただけない。
ところで、この体の顔、なかなかかわいいのではないだろうか。盗賊が落とした鏡を見て、そう思った。これなら、メイクをしなくてもかわいらしいと思ってもらえるだろう(まあ、子供だし…)。
さらに進むと、他の村の櫓が見えてきた。この世界は暗黒時代なのだろうか?そうして私が人間の建造物を見上げていると、突然、森の中から冒険者のような装いの男が出てきた。腰に佩刀、鎧に、手には獣の死骸。
「わぁっ!」
「こんなところに、ガキが一人?見ない顔の嬢ちゃん、やけに身綺麗だな?」
「は、はい、えっと…」
「街道は獣の領域。お前、本当に人間か?魔族か?」
「…はい」
「魔族には身体的特徴がある。少し、見てもいいか?」
汚くて怪しい中年男性が服の中を覗こうとしたのだから、その手に私が尻尾を突き刺したのは正当防衛だろう。さて、また幼虫が生まれてくるのだろうか。
「…そんな鈍い針じゃ、俺の肌は貫けないぜ」
「え」
しかし、そうはならなかった。見ると、私の針がわずかに窪んだ肌の上で震え、血の一滴すら流れていない。
「そんな、嘘、うそ!」
あの簡単に与えられるはずの快感が、来ない。そのことに耐えられず、私は何度も何度も肌に針を突き刺すが、効果はない。
「やっぱり魔族だったな」
その後、剣を抜いた男から、私は死に物狂いで森の中に逃げた。最初は何度も、いろいろな部位に針を刺そうとしたが、肌に当てさせてもらえず、すべて装備で防がれた。魔族の身体能力と、男が重装備だったのもあり、逃げようと思えば可能ではあった。しかし、途中で投げナイフを肩に喰らってしまった。慣れない痛みに苦しんだ。苦しみながら引き抜く。
それから私は、先ほどから見えていた村の中に逃げ込んだ。痛みで頭が働いていない。男よりは先に到着しただろう。反省を生かして、転生したときに着ていた服を土で汚している。前世の境遇を思い出して泣き真似をしていると、畑を耕している農民たちが集まってきた。老人から子供までいる。おばあちゃんが私に声をかける。
「あらあらお嬢ちゃん、こんな村に一人でどうしたんだい?」
「うっ…うっ…森で、こわいのに襲われたの…」
第一印象は大事、なんていう少しずれたことを考えながら、私は今まであったことを脚色して伝えた。天涯孤独の身で、気がついたら街の外に放り出されており、この世界のことが何もわからない。私をおばあちゃんは優しく抱きしめてくれた。「落ち着いたかい?」少し、心が痛む。
心配そうに私を見つめる村人の中から、声を上げた少女がいた。彼女は私よりも背が高く、年上に見えた。
「じゃあ、ひとまず、うちにおいで!体を綺麗にしてあげなきゃ!」
私は啜り泣いたまま、少女に連れて行かれた。裕福そうではないのに、無償の善意をこんな私に…。感動と申し訳なさが私の脳内に渦巻いていた。
少女は、アーチェと名乗った。黒髪を後ろで縛り、活発で健気。もう十五歳だと言っていた。対して、私はまだ十歳くらいなのだろうか。私はネウモと名乗った。「珍しい名前…」彼女との会話の中で、私は少しずつ笑顔を増やしていく。アーチェは、私が受けたかもしれない心の傷に配慮して会話してくれた。優しさについ甘えたくなってしまう。しかし、前世では働いていた人間が、そんなことはできないと、少し距離をとって接していると、さらに心配させてしまったらしく、しきりに私のことをかまってくるから、なおさら申し訳なかった。
「あれ、この背中の傷跡…」
男が村に帰ってくると、自分が殺し損ねた魔族の子供が、村の中を平然と歩いているではないか!
「おい!そのガキは人間じゃないぞ!」
しかし、村人たちはいぶかしげに彼を見つめるだけ。
「またゼファーさんの陰謀論か。そんなに必死で言われたって相手しきれないよ」
「それに、こんなかわいい娘っ子が、魔族なわけないだろう」
彼は闇との戦いに身を投じすぎたあげく、実際に精神に異常を来すことがあった。その怪しげな見た目もあり、周囲の態度は冷たかった。
「ほら、泣き出したじゃないか」
ゼファーは宿に引き下がりながら考えた。隙を見て殺すか、相手が尻尾を現したところを殺せればよいが、そうでなければただの子供殺しだ。あの尻尾の能力は毒か何かだろうが、死人が出てからでは遅い。
「他の街の”仲間”にも連絡をとらなければ…」