飢えた犬と優しい鳥   作:上条@そぉい!

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誤字報告助かります。どうやっても誤字は出ますから……


第15話

『亡霊』

 

「恐らく本来のマルクトに必要だったのは器だったのでしょう。元からある神秘は邪魔で、排除した……空いた神秘はたまたま入手できたスペアの器に入れて試作機に、動くかどうかのテストをしたのでは、と私は読んでいます。結果、動くことはなく廃棄された」

 

 当然でしょう。神秘を外付けされようが、そこには意志がない。ぬいぐるみのガワを作ったところで骨組みが無ければ立つ事もできないのと同じように、と続ける。

 私はその話を聞いて身の毛がよだつ。AIが弾き出した合理性の結論は、無慈悲なほどに倫理がない。

 

「ですが、何らかのきっかけで動き出した。偶然、いや奇跡でしょうね。新たな人格を獲得しながらも、外付けされた人格も消えずに残っていたのですから」

 

「犠牲になった生徒はまだ生きてる……って事でいいの?」

 

「意識は間違いなくありますよ。なにしろ私との立ち合いの時、私を牽制していましたから」

 

 そう言いながら黒服の脳裏で思い出すのは、あの無表情とは打って変わってこちらを睨む視線と警戒を露わにする表情だ。

 

 ──この子に手を出さないで

 

 まるで子を守る親犬の如きその威容。とても印象深いものだった。しかし、つくづく縁というのは馬鹿に出来ない。まさか、その生徒が、あのアビドスの彼女だとは。

 小鳥遊ホシノにしか興味がなかったが……もしかすると、彼女にも何か特異性があったのかも知れない、と黒服は内心で考える。

 

「ならその子を助ければ生徒も──」

 

「いえ」

 

 そう言いかけた所を黒服が遮る。

 

「先ほども言いましたが、これは奇跡に等しい。とても危ういバランスで保たれているもの。どちらかを選べばどちらかが消える。そういうものなのです」

 

 そして、これを知ればあの小鳥遊ホシノは彼女を選ぶでしょう。しかしそれは、大神リル、と呼ばれる人格の消滅。1人の人間を殺す事と大差がない。先生は大神リルも生徒の1人だと考えるでしょう。

 生徒の味方をする、と公言している先生に、それは看過できないものでは?

 

「──」

 

 絶句、とはこの事だった。何故ホシノがそちらを選ぶ、と確信しているのかは分からないが、もしその通りになれば、必ずホシノは苦しむ。例え望んで選んだとしてもだ。いや、どちらを選ぼうとも。

 優しい彼女に、その重荷を耐えられるわけがない。

 

「そして、本題はここから。その大神リルがどうやら預言者。その使者達に見つかったようで、恐らく接触したでしょう。ここからは調べた上での推測になりますが……大神リルには神秘がない。正確には外付けされた神秘では新たに神秘を生成することができない。本来のものではないですから」

 

「そこで彼女は無意識下で、神秘を求めます。オーパーツに含まれる神秘を喰らう事で誤魔化していたようですが……それも長くは持たない。いずれ暴走して、際限なく喰らい尽くしますよ」

 

 それを大神リルの中にいる彼女が必死に抑えていた。しかし預言者達が接触したという事はそれも限界が近い。預言者達が証明する新たな神が、大神リルが全てを捕食した先に産まれることになるでしょう、全てが終わった後で。

 

「だからこうして、先生に警告をしにきたのです」

 

「……分かった。でも、きっとそうはならないよ」

 

『色彩』を超えたように。私たちは何があっても、前に進んでいくものだから。生徒達の未来がある限り。

 

「ふっふっふ……やはりそうですか。なら再び見せてもらいましょう」

 

 そう言うと、黒服は何処かへと消えていった。私は緊張が抜け、椅子にドカリと座り込んで顔を手で覆う。

 啖呵を切ったはいいものの、実際どうすればいいのか、全く分からない。

 

「どうしたものかな……」

 

 言い方からすると、もう最悪の事態まで猶予はあまり残されていない。せめてもう少し考える暇があれば……

 その時、外に続く扉が開かれる。誰か来たようだ。

 

「ハーッハッハッ!随分と苦い顔をしてるじゃないか先生!」

 

「カスミ?」

 

 入ってきたのは鬼怒川カスミ。温泉開発部の部長にしてゲヘナで今も指名手配を受ける問題児。いつでもシャーレに来ていいとは言っていたけど、今来るとは。

 

「いや、話を盗み聞きするつもりはなかったんだが……聞こえてしまったのでね」

 

 カスミはいつもの如くシャーレの一室を借りて勉強しようと思っていたら、目の前で急いで走る先生が見えたものだから、気になってついてきた結果。扉の向こうで交わされる会話を聞いてしまったのだ。

 

「……それで?先生はどうするつもりなのかな?」

 

 ゆらり、とカスミの尻尾が揺れる。その視線は試すようでもあり、分かり切った答えをあえて聞くようでもあった。

 

「……正直なところ、どうすればいいのか分からなくてね。もちろんただ事態を解決するだけなら、きっと前のように生徒達の協力を求めればいい」

 

 しかし、それは大神リルという生徒を殺す事になる。そんな事生徒達にさせたくない、しかし止めなければならないのも事実。

 

「ふむ、そこまで分かっていながら悩む理由が分からないな。私の知る先生は、もっと強欲だと思っていたが」

 

 心底意外だ、と言わんばかりの表情に私も驚く。普通でいるつもりだったが、彼女の目に映る私は強欲だったらしい。

 

「今先生は一つの岐路にいる。片方を生かし片方を切る。そんな二択だ。トロッコ問題のようなものかな?」

 

 前にもリオに言われた気がする。あの時の私はなんて答えたんだっけ──

 

「だが私はそんな二択をつまらないと断じよう。何故ならそこには夢も希望もありはしない。私は温泉があるかなしではない、もっと大きなものの為に動いている。それは浪漫であり、夢であり、希望だ。もちろんそこに温泉があれば満点だ。さて、先生──この二択に何を見る?」

 

 夢や希望。それは『こうであって欲しい』と願う心であり、目の前の現実を『それでも』と超えていく力だ。『色彩』の時もそうだった。決められた滅びを前に、それを超えて来たじゃないか。

 なら、今こうして二つの選択肢を前に怯むのは道理が通らない。

 私が取るべき選択肢は──

 

「リルも助けて、中にいる生徒も助ける。私が取るべきは決められた選択肢から選ぶ事じゃない。もっと夢があって、希望がある。そんな第三の選択肢を取る事だった」

 

 その答えにカスミは満面の笑みで笑い飛ばす

 

「ハーッハッハッ!そう!やはり先生はそうでなくては!そうなれば後は簡単だ!いつものように進むのみ!私も手を貸そう。なにしろ私の部員でもあるからな!」

 

「え、そうだったの?」




やはりカスミエミュは難しい。これで合っているのか自信がない
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